失業手当(失業保険)とは、労働者が失業した際に、生活を支え、再就職活動を行うための経済的支援を提供するための制度です。この制度は、雇用保険に基づいて運営され、労働者が働いていた期間と収入に基づいて、一定期間、給付金が支払われるものです。
失業手当を受給するためには受給条件を満たし、申請手続きを行う必要があります。
本記事では、失業手当の概要や、受給の条件、手当をもらえる期間や具体的な金額、申請手続き方法について詳しく解説します。
目次
1.失業手当(失業保険)とは?
失業手当とは、雇用保険の被保険者が失業した際に、その生活を支援し、新たな職を見つけるまでの間の経済的援助を行う制度です。労働者の失業による生活の不安を軽減し、再就職活動に専念できるようにすることを目的に給付金が支払われます。給付金額は、被保険者が働いていた期間や収入に基づいて決定されます。
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2.失業手当の受給条件
失業保険は、雇用保険の被保険者が離職して、次の条件にあてはまるときに受給の対象となります。
- 失業の状態にあること
- 一定以上の被保険者期間があること
失業の状態とは、ハローワークで休職の申し込みを行い、就職する積極的な意思やいつでも就職できる能力があるにも関わらず、就職できていない状態を指します。
そのため怪我や病気、出産といった理由からすぐに就職できないなどの場合は、失業手当は支給されません。
また、必要な被保険者期間は退職理由や状況によって異なります。ここでは次の場合の受給に必要な条件をそれぞれ解説します。
- 自己都合退職:一般被保険者
- 自己都合退職:特定理由離職者
- 会社都合退職:特定受給資格者
自己都合退職:一般被保険者
自己都合での退職には寿退社やキャリアアップのための転職、起業が当てはまります。自己都合で退職した一般被保険者が失業手当を受給するためには、以下の条件を満たす必要があります。
- 離職の日以前の2年間に雇用保険の被保険者期間が通算して12カ月以上ある
自己都合退職:特定理由離職者
自己都合退職であっても、以下に示すように正当な理由のある自己都合退職の場合は、特定理由離職者に該当します。
- 期間の定めのある労働契約の期間が満了し、かつ更新がなく離職した
- 健康上の問題で離職した
- 妊娠、出産、育児等により離職し、受給期間の延長措置を受けた
- 家族の扶養や介護などで、離職を余儀なくされた
- 特定の理由で通勤が困難となり離職した
- 人員整理などによる希望退職者の募集に応じ離職した
この場合の受給条件は以下の通りです。
- 離職の日以前の1年間に雇用保険の被保険者期間が通算6ヶ月以上ある
会社都合退職:特定受給資格者
会社都合で退職した場合は、特定受給資格者に該当します。主に会社の倒産や解雇などを理由に離職した方が該当します。この場合の受給条件は以下の通りです。
- 退職理由が倒産や解雇といった会社都合である
- 離職の日以前の1年間に雇用保険の被保険者期間が通算6ヶ月以上ある
3.失業手当の受給期間|いつからいつまで貰える?
失業手当の支給開始の時期と受給期間は、離職の理由や被保険者の状況によって異なります。
出典:厚生労働省「離職された皆様へ ⑧支給開始と期間」をもとに作成
支給開始と期間
自己都合退職や懲戒解雇といった理由で離職する場合は、7日間待機期間の後に2~3ヶ月の給付制限期間を経てから失業手当が支給されます。
一方で、解雇や契約期間満了といった会社都合退職の場合は、7日間待機期間の経過後から失業手当の支給が始まります。ただし、失業手当が振り込まれるのは、説明会や手続きの関係で申請から約1ヶ月程かかります。
雇用保険の受給期間は、原則、離職の翌日から1年間です。支給期限が過ぎてしまうと、給付日数が残っていても、手当をもらうことができないため、早めに準備し、申請を行いましょう。
ここからは、自己都合退職と会社都合退職の場合について、それぞれの受給期間を詳しく見ていきましょう。
自己都合退職の場合の給付日数
自己都合で退職した場合、受給できる失業手当の日数は、雇用保険の被保険者期間によって90日~150日で変化します。
出典:厚生労働省「離職されたみなさまへ」をもとに作成
例えば、加入期間が短い場合や若年労働者の場合は、受給できる期間も短くなりがちです。一方で、長期間にわたって雇用保険に加入していた労働者や、一定の年齢を超える労働者は、より長い期間給付を受けることが可能です。
会社都合退職(特定受給資格者)・一部の特定理由離職者の場合の給付日数
会社都合退職の場合、受給できる給付日数は自己都合退職の場合よりも一般的に長くなります。これは、労働者が自身の意志とは無関係に職を失った場合に、より強力な経済的サポートを提供するためです。
給付日数は、「雇用保険の被保険者期間」と「離職時の年齢」の掛け合わせで設定されています。
出典:厚生労働省「離職されたみなさまへ」をもとに作成
4.失業手当の給付金額の計算方法|いくら貰える?
失業手当の受給金額は、「基本手当日額」×「給付日数」で算出されます。基本手当日額とは、失業手当で受給できる1日当たりの金額で、離職者の賃金日額をもとに算出します。
基本手当日額 = 賃金日額(離職以前6カ月の賃金の合計÷180日)× 給付率(45~80%)
なお、基本手当日額と賃金日額は、上限額と下限額が設定されているので、具体的には下記の表で確認してください。計算した基本手当日額が下記に定められた上限額を超える場合は、上限額で計算をします。
出典:厚生労働省「雇用保険の基本手当日額が変更になります ~令和5年8月1日から~」
<失業手当の給付金額の計算例>
例えば、30歳で月給30万円の会社員が12年間勤務し、自己都合で離職したケースで失業手当の受給額を計算してみましょう。
- 賃金日額 = 30万円 × 6カ月÷180 = 10,000円
- 基本手当日額 = 賃金日額 × 給付率(45~80%) = 約6,036円
- 受給額 = 基本手当日額 × 給付日数 = 6,036円 × 120日 = 724,320円
上記のケースでは、自己都合による離職のため、受給資格認定後7日間の待期期間+2~3カ月の給付制限を経て、約72万円の失業手当をもらえるという計算になります。
5.失業手当の受給に必要な書類
失業手当を受給するためには、下記の書類や証明書を準備し、提出する必要があります。
- 離職票-1
- 離職票-2
- マイナンバーカード
- 写真2枚(6カ月以内の写真、縦3cm×横2.4cm)
- 本人名義の預金通帳
これらの書類は、受給資格の確認や給付金の振込みに必要となるため、手続きを始める前に準備を整えておくことが大切です。また、再就職活動を証明するための書類や、特定の条件下で追加が求められる場合もあるため、ハローワークでの指示に従うことが重要です。
参照:厚生労働省「離職されたみなさまへ」
マイナンバーカードがない場合の代替書類
マイナンバーカードが手元にない場合は下記2つの書類が必要です。
- 個人番号確認書類:通知カードや個人番号の記載のある住民票(住民票記載事項証明書)
- 身元確認書類:免許証や保険証など
船員だった場合に必要な書類
船員だった場合は上記書類に加えて、次の書類が必要になります。
- 船員保険失業保険証および船員手帳
6.失業手当の受給の流れ
失業手当の受給の流れは下記のとおりです。
- 必要書類を準備する
- ハローワークで手続きを行う
- 雇用保険受給者初回説明会に参加する
- 失業認定日にハローワークへ行く
- 失業手当を受給する
①必要書類を準備する
まずは、前項に記載の必要書類の準備をします。
雇用保険被保険者証離職票-1,2の発行は、会社に申請して発行してもらいます。退職後に失業手当を受け取りたい場合は、忘れずに会社に申し出ておきましょう。
なお、離職票は一般的に離職日の翌々日から10日以内に発行されます。10日経っても届かない場合は、以前の職場に問い合わせましょう。
②ハローワークで手続きを行う
書類が揃ったら、管轄のハローワークへ行き、失業手当の申請手続きを行います。失業手当を受けるには、再就職の意思を示すため求職の申し込みが必須です。この際、職員が書類を確認し、受給資格についての説明を行うことがあります。受給資格があるとみなされた場合は、雇用保険受給者初回説明会の日時を決めます。
なお、ハローワークへ離職票を提出し、仕事探しの申込み手続きを開始した日を「受給資格決定日」と言い、この日から7日間は「待期期間」で失業手当は受給できません。
③雇用保険受給者初回説明会に参加する
申請手続き後、雇用保険受給者初回説明会に参加します。この説明会では、失業手当の受給条件や再就職に向けたサポートについての情報が提供されます。この日に「雇用保険受給資格者証」、「失業認定申告書」を受け取り、第一回目の「失業認定日」が知らされます。
④失業認定日にハローワークへ行く
失業認定日は必ずハローワークへ行き、失業認定申告書を提出して失業認定を受けます。なお、失業認定を受けるためには、原則月2回以上の求職活動を行い、失業認定申告書に実績を記載する必要があります。そのため、失業認定日までに求職活動を行っておく必要があります。
求職活動実績として認められる主なものは次のとおりです。
- 求人への応募
- 再就職に関わる各種国家試験、資格試験の受験等
- 下記団体における職業相談、職業紹介、各種講習・セミナーの受講等
- ハローワーク
- 許可のある民間事業者
- 公的機関
参照:厚生労働省「求職活動について」
⑤失業手当を受給する
上記の手続きを経て、失業手当の給付が開始されます。失業の認定を行った日から通常5営業日後(給付制限がある場合は2~3カ月経過後)に、指定した金融機関の預金口座に基本手当が振り込まれます。
受給期間中は、再就職活動を継続し、原則4週間に1度の認定日にハローワークで失業の認定を行う必要があります。
7.失業保険の再就職手当とは?
失業手当の失業手当の受給期間中に再就職した場合、再就職手当がもらえます。この手当の目的は、失業者が一日も早く再就職することを奨励し、経済的なインセンティブを提供することにあります。
再就職手当の受給要件
再就職手当を受け取るためには、以下の8つの要件すべてを満たす必要があります。
- 受給手続き後、7日間の待期期間満了後に就職または事業を開始した
- 就職日の前日までの失業認定があり、基本手当の支給残日数が給付日数全体の3分の1以上ある
- 離職前の事業主が関わる企業に再び再就職したものでない
- 離職理由による給付制限を受けた場合、求職申込みをしてから、待期期間後1カ月は、ハローワークまたは職業紹介事業者の紹介で就職したものであること
- 1年を超えて勤務することが確実である
- 雇用保険の被保険者になっている
- 過去3年以内に、再就職手当や常用就職支度手当の支給を受けていない
- 失業手当の受給資格決定前から内定していた再就職先でない
具体的な再就職手当の対象は、下記も参考にしてください。
参照・出典:厚生労働省「再就職手当のご案内」
再就職手当の受給額
再就職手当の受給額は、失業手当の支給残日数により給付率が異なります。
<失業手当の支給残日数が所定給付日数の3分の2以上の場合>
再就職手当受給額 = 基本手当日額 × 所定給付日数の支給残日数 × 70%
<失業手当の支給残日数が所定給付日数の3分の1以上の場合>
再就職手当受給額 = 基本手当日額 × 所定給付日数の支給残日数 × 60%
なお、基本手当日額の上限は、6,290円(60歳以上65歳未満は5,085円)となります。またこの上限に関しては毎年8月1日以降に変更される場合があります。
再就職手当を受け取るためには、再就職が決定した日から一定期間内にハローワークに再就職の報告を行い、必要な手続きを完了させる必要があります。再就職が決まったら、ハローワークに報告しましょう。
参照:厚生労働省「再就職手当のご案内」
参照:ハローワーク インターネットサービス「就職促進給付」
8.失業手当受給中にアルバイトはできる?
失業手当を受給中のアルバイトについては、一定の条件の下で許可されていますが、アルバイトから得られる収入が一定額を超えると、その週の失業手当が減額されるか、または支給されないことがあります。減額または不支給となる条件は次の通りです。
- 1日4時間以上働いた場合:働いた日は不支給
- 1日4時間未満働いた場合:賃金に応じて減額される場合がある
アルバイトをする場合は、必ずハローワークに報告し、指導を受けることが重要です。これにより、受給資格を失うことなく、適切にアルバイトを行うことができます。
参照:厚生労働省「基本手当受給中のパート、アルバイトについて」
9.失業手当受給中の健康保険や年金の支払いはどうなる?
失業手当を受給している間も、健康保険や年金などの支払いは継続する必要があり、支払いが滞ると保険の利用に影響が出る場合があります。国民健康保険や国民年金の場合は、所得に応じて保険料が調整されるため、収入が減少したことを申告することで、保険料の軽減措置を受けることが可能です。
退職後に加入する健康保険の支払いについては、3つの選択肢があります。
任意継続制度を利用する
前職での健康保険組合の保険に引き続き加入することが可能です。ただし、その場合の保険料は会社負担がなくなるため全額自己負担になります。
離職日から20日以内にお住まいの都道府県の協会健保支部に加入手続きが必要です。加入期間は最長2年間となっています。
国民健康保険に加入する
前職での健康保険を脱退し、国民健康保険に加入することもできます。
手続きはお住まいの市町村役場で行います。倒産・解雇等の会社都合による離職の場合、保険料が減免される可能性があります。
また、国民健康保険や国民年金の場合、所得に応じて保険料が調整されるため、収入が減少したことを申告することで、保険料の軽減措置を受けられる可能もあります。
配偶者の扶養家族になる
配偶者が加入している健康保険の扶養家族になる選択肢もあります。加入条件等の詳細は、ご家族の勤務先の社会保険事務担当者に問い合わせる必要があります。ただし、失業手当は収入と見なされるため、扶養家族の収入制限内か条件は確認しておきましょう。
保険料などを比較し、加入条件を確認のうえ、選択した健康保険への加入手続きをしましょう。