「省人化(しょうじんか)」とは、機械やロボットなどに作業を任せて作業にあたる「人数」を減らすこと。「省力化(しょうりょくか)」とは、作業者にかかる「労力」を減らして業務効率を向上させること。
本記事では、省人化と省力化の概要や実現方法、メリット・デメリットなどについて解説します。
目次
1.省人化・省力化とは?
まず、省人化と省力化の定義について解説します。それぞれ似た言葉ですが、それぞれの目的や意味は異なるため、区別して理解しましょう。
省人化とは?
省人化とは、機械やロボット等に作業を任せて作業にあたる「人数」を減らすこと。たとえば、人間が対応する必要がない作業を機械やロボットで自動化させることで、人間は重要な業務に集中できるようになります。
省力化とは?
省力化とは、作業者にかかる「労力」を減らして業務効率を向上させること。同じ成果をより少ない努力で達成することでコスト削減につながります。目的は、人員削減ではなく、手間や労力の削減です。
少人化との違い
省人化や省力化と似た言葉として「少人化(しょうにんか)」があります。少人化とは、つねに「最小限」の人員で作業を行うこと。非定員化や助け合い作業などの手法を導入し、最終的には適切な人員での作業を目指します。
2.省人化・省力化の実現方法・具体例
次に、省人化や省力化を実際に導入するまでの方法と具体例について解説します。
実現方法
省人化や省力化の実現方法は以下の通りです。それぞれの手順について詳しく解説します。
- 作業の無理や無駄を排除
- 作業を標準化
- 作業量と業務配置の見直し
- システムやツールを導入
- 従業員のスキルアップ
①作業の無理や無駄を排除
いったん業務内容を整理し、負担の大きな作業や不要な作業などを特定して、改善方法を考えます。その際は、工程を細分化し、負荷や業務時間、人員などを把握することがポイントです。
②作業を標準化
省力化を促進するために作業の標準化は必要です。
たとえば、特定のノウハウが共有されていなかったり、個々が独自の方法で作業していたりする場合は、標準化が必要だと言えます。作業の標準化が完了したら、さらなる業務改善の機会を模索する段階に入れます。
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③作業量と業務配置の見直し
特定の従業員に作業が偏らない作業配分、かつ、より効率が上がる人員配置を設定します。
特定の従業員に作業が偏っている場合や業務配置が適切ではない場合、業務の停滞や業務のブラックボックス化など、さまざまなリスクを招く可能性があります。
なお、ブラックボックス化とは、ある業務プロセスを限られた人間しか理解および対応しておらず、その実態がわからなくなること。もし、その従業員が休職や離職すると、現場が混乱するかもしれません。
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④システムやツールを導入
標準化された業務プロセスに、機械やロボット、ITツールなどの導入を検討します。
こういったシステムやツールは、単独で課題を解決するものではないものの、標準化された業務プロセスを遵守したうえで適切に活用するとよい効果を得られます。システムやツールの導入により、作業の効率化や自動化が進み、省人化が促進されます。
⑤従業員のスキルアップ
省人化を進める際には、従業員のスキルアップや再教育が必要です。企業は適切な研修や教育プログラムを提供し、目標と現状とのギャップを埋める努力をしなければいけません。
具体例
省人化や省力化を実現させるための具体例を紹介します。それぞれについて詳しく解説します。
- 無人販売所の設置
- 産業用ロボットの導入
- チャットボットの活用
- 音声認識システムの活用
- 画像認識システムの活用
①無人販売所の設置
セルフレジやセルフ給油など、接客を必要としない販売形態も省人化の取り組みに含まれます。近年では、無人の餃子販売所やコンビニ、レンタルスペースなどが増えてきました。これらの取り組みは、人件費を削減する省人化にあたります。
②産業用ロボットの導入
産業用ロボットを活用し、人間の作業を代わって行うことで省人化を実現できます。たとえば、ロボットアームと画像センサーで収納作業を自動化したり、溶接工程にロボットを導入したりして作業者数を削減できたという事例があります。
③チャットボットの活用
チャットボットの導入により、社内外からの問い合わせ対応時間を削減できます。
なお、チャットボットとは、「チャット」と「ボット」を組み合わせた言葉で、人工知能を活用した「自動会話プログラム」のことです。
チャットボットは、パソコンが使えない状況でもスマートフォンから簡単にアクセスでき、迅速な回答を得られる利便性が評価されています。外出先から問い合わせることもでき、知りたい情報をすぐに回答してもらえるのが魅力です。
④音声認識システムの活用
音声認識システムも省人化や省力化に役立ちます。
たとえば、ピッキング作業では、読み取り端末を使う際に手がふさがり、手書き情報の手入力も手間がかかりますが、音声認識入力システムを導入することによりハンズフリーで作業ができ、リストと製品の照合も目視せずにおこなえて、作業効率が上がります。
さらに、音声認識システムは、ピッキング作業だけではなく、コールセンターやバックオフィスでも活用できます。
⑤画像認識システムの活用
画像認識システムとは、画像認識AIのことで、省人化や省力化の手助けになります。たとえば、顔認証による勤怠管理や顧客分析、会議の議事録作成自動化などが可能で、少ない人員で生産性を向上させられます。
3.省人化・省力化のメリット
省人化や省力化を進めるメリットは以下の通りです。それぞれについて詳しく解説します。
- 生産性の向上
- 人手不足の解消
- 品質の安定化
- 効果的な人員配置が可能
①生産性の向上
省人化や省力化を進めると、生産性が向上します。
たとえば、機械やロボットを導入すると、入力ミスや誤解といった失敗するリスクを下げつつ、一定のスピードで作業し続けることができるようになります。さらに、機械やロボットは休む必要がなく、24時間365日稼働可能です。
その結果、多くの生産量と品質の担保が確実なものとなります。
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②人手不足の解消
機械やロボットの導入による自動化は、人間がおこなっていた業務量を減らし、人材不足を解消する手助けのひとつになります。
日本では、少子高齢化が進み、さらに働き方改革によって労働力不足が加速化するとされています。それら人手不足への対策として、省人化や省力化が必要です。
③品質の安定化
機械やロボット、ITツールを活用することで、熟練した従業員でなくても品質の安定化が期待できます。また、システムにログを残してデータを分析することでさらなる品質向上を目指せます。
④効果的な人員配置が可能
従業員がおこっていた諸作業を機械やロボット、ITツールに任せることで、従業員は本来の能力やスキルを生かせる業務に集中して従事することが可能です。
たとえば、受付業務を自動化すれば、受付を担当している従業員をより有益な業務へ回せます。省人化は、業務を縮小するだけではなく、従業員の個性や能力に合わせた人員配置を可能にする取り組みでもあるといえます。
4.省人化・省力化のデメリット
省人化や省力化は、さまざまなメリットがある一方で、デメリットもあります。具体的には以下の通りです。それぞれについて詳しく解説します。
- 一定のコストが必要
- 従業員のモチベーションが低下する恐れ
- 専門の人材が必要
①一定のコストが必要
機械やロボット、ITツールなどを導入する場合は、導入コストやランニングコストが必要です。さらに、作業を標準化するときは人件費が、従業員のスキルアップを図るときは教育コストがアップします。
それと同時にこれらに費やす時間もかかるため、計画的に進めなければいけません。無計画な取り組みでは予想外の出費が生じる可能も考えられます。
②従業員のモチベーションが低下する恐れ
省人化や省力化は、従業員から人員削減のための施策であると誤解されがちで、給与減や仕事減につながると感じることもあり、従業員のモチベーションが低下する恐れもあります。
また、少人化や省力化への取り組みにおいて、従業員へ負担が生じる可能性もあるため、あらかじめ省人化や省力化のメリットや必要性などをきちんと説明したうえで実施しなければいけません。
省人化や省力化は、必ずしもポジティブに受け取られないことも考慮しましょう。
③専門の人材が必要
機械やロボット、AIを用いたシステムなどの導入および運用には、専門的な知識が必要です。
たとえば、故障が発生した場合は、専門的な知識を有する人間が対応しなければいけないことを念頭に置いておきましょう。現状、社内に適切な人材がいない場合は、新規で採用するか外注するかなどの対応をとる必要があります。
5.省人化・省力化推進の注意点
省人化や省力化を進めていくためには、事前に把握しておいたほうがよい注意点があります。それは、「目的を明確にすること」と「試験期間が必要である」こと。それぞれについて詳しく解説します。
目的を明確化
どの業務に存在する無駄や非効率を把握し、どのような方法で省人化および省力化するように努めるかなど目的を明確にしなければいけません。
目的が明確になっていないと、省人化や省力化をおこなう範囲や度合いが曖昧で、ゴールが見えなくなってしまうでしょう。
目標を数値的に明確に掲げることで、どのような対応が必要か見えてきます。直面する課題に適したソリューションを選択することが重要です。
試験期間が必要
省人化は単純な業務置き換えではなく、組織全体の生産性を考慮する必要があります。そのため、試験期間を設けて、組織全体のバランスが乱れていないか確認しましょう。
もし試験期間を設けずに導入すると、混乱や生産性低下のリスクがあります。
たとえば、省人化の対象となった従業員に問い合わせや苦情が集中してしまったり急に業務の処理スピードが変わることで前後の業務担当者が対応できなくなってしまったりするかもしれません。
従業員に対する共有期間と試験期間を確保し、混乱や生産性低下のリスクを回避する必要があるでしょう。
6.省人化・省力化の企業事例
さまざまな業界で、省人化や省力化が進められています。省人化や省力化を進めて、成功した事例を紹介します。
株式会社クボタ
株式会社クボタは、3Dモデル・ARを活用した故障診断アプリ「Kubota Diagnostics」を開発しました。
スマートフォンをかざすことで、迅速に故障箇所の特定ができるようになっています。これにより、故障箇所を人間が確認する手間が省かれ、効率的な修理が可能になりました。
トヨタ自動車九州株式会社
トヨタ自動車九州株式会社では、年4回の上司面談や360度評価のヒアリングとフィードバック、従業員アンケートを実施しています。
これらを実施するために1万人を超える従業員情報をExcelや紙で管理しており、人材情報の管理に大きな手間が生じていました。
そこで、カオナビを導入し、評価機能「スマートレビュー」とアンケート集計機能「ボイスノート」を活用しています。情報を一元化し、詳細な分析が可能になりました。
現場においてとくに混乱が生じることはなく、人材情報管理の負担を大きく軽減させることに成功しました。
参考 カオナビの積極活用で人材育成の高度化と効率化を実現カオナビ7.中小企業省力化投資補助金とは?
省力化を進めるうえで知っておきたい補助金に「中小企業省力化投資補助金(人手不足に悩む中小企業向けの支援策であり、IoTやロボットなどの設備導入を支援する補助金制度)」があります。
企業は、カタログから製品を選択して導入することで製品本体価格と導入経費の一部を補助してもらえ、生産性向上を図れます。ここでは、2024年度版の中小企業省力化設備補助金について詳しく解説します。
目的
中小企業省力化投資補助金の目的は、IoTやロボットなどの導入経費を一部補助することで省力化投資を促進し、付加価値や生産性を向上させて賃上げにつなげること。
そのため、要件には「労働生産性の年平均成長率の向上」「最低賃金または給与支給総額の増加」が含まれています。また、人手不足の解消にも効果的とされています。
補助される金額と補助率
補助される上限金額は、従業員規模によって200万円から1000万円まで設定されており、補助率は2分の1です。なお、賃上げ要件を満たすと補助される上限金額が引き上げられます。
具体的な補助の上限金額は、以下の通りです。
- 従業員が5人以下:200万円(300万円)
- 従業員が6~20人:500万円(750万円)
- 従業員が21人以上:1000万円(1500万円)
※賃上げ要件を達成した場合、()内の値に引き上げられる
申請の手続き方法
申請の手続き方法は以下の通りです。
- カタログから製品を選び、販売事業者に連絡する
- 電子申請システムにより販売事業者と共同申請する(gBizIDが必要)
- 審査で採択されると交付が決定される
なお、「gBizID」とは、中小企業省力化投資補助金の申請に必要なアカウントのこと。ID取得には一定期間を要するため、早めに手続きすることが推奨されています。最新情報は、中小企業基盤整備機構のホームページに掲載されているため、確認してください。