職務給とは? 職能給との違いやメリット・デメリットを簡単に

職務給とは、従事する仕事内容を評価基準とした報酬制度です。ジョブ型雇用や同一労働同一賃金が導入されている動きに伴い、職務給を適用する企業も増えつつあります。

今回は職務給について、その仕組みや職能給との違い、従業員・企業へのメリット・デメリットや導入の手順などを詳しく解説します。

1.職務給とは?

職務給とは、仕事内容、成果に基づいて給与が決まる報酬制度です。従業員の年齢や勤続年数に関係なく、従事した仕事内容に応じて給与が決まります。つまり、同じ仕事内容についていれば、年齢や勤続年数、スキルの差に関係なく給与は同水準です。

たとえば、経験年数10年で事務職に転職した場合で、転職先の同部署の従業員が経験年数3年だとしても、仕事内容は同じであることから月給も同じです。なお、将来的に事務だけでなく、営業のサポートを兼任するなど仕事内容が変わると給与も上がります。

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2.職務給が注目される理由

職務給が注目される主な理由は、働き方の多様化や経済のグローバル化など、時代の変化に対応するためです。ここでは、職務給が注目される理由として関連深い2つの背景をみていきましょう。

ジョブ型雇用への移行

ジョブ型雇用とは、従事する職務に必要なスキルや経験、資格を持つ人材を採用する雇用方法です。欧米型の企業では主流となっている雇用方法であり、日本は採用後に職務を割り当てる「メンバーシップ雇用」が主流となります。

職務給は、ジョブ型雇用と相性が良い賃金制度です。最近ではリモートワークの普及や専門性の高い職種が増えたことからも、国内では大企業を中心にジョブ型雇用の導入が進み、同時に職務給も導入されつつあります。

なお、政府も日本企業にジョブ型の職務給中心の給与体系への移行を促すことについて言及しています。

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同一労働同一賃金

職務給が注目を集めた大きな理由に「同一労働同一賃金」の施行が挙げられます。大企業では2020年4月より、中小企業では2021年4月より同一労働同一賃金を定めた改正法が施行されました。同一労働同一賃金の目的は、雇用形態の差で生まれる不合理な格差の解消です。

近年は外国人労働者や高齢者など、多様な人材の雇用が進んでいます。少子高齢化により労働人口が不足している中で労働力の確保は第一課題であり、労働力を確保する観点から職務給が注目されています。

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3.職務給と基本給、職能給との違い

職務給への理解を深めるため、基本給や職能給との違いを押さえましょう。

職務給と基本給の違い

職務給は賃金体系のことであり、基本給は給与を構成する要素の一つです。基本給は、規定の労働時間を満たすことで必ず支給される給与です。給与は基本給に各種手当が加わり、保険料などが控除された額が支払われます。

基本給は基本的に在籍年数に応じて上昇するものであり、職務給は在籍年数にかかわらず成果によって給与が変動するため、性質が異なります。また、一般的に職務給は基本給に含めて考えられ、成果に応じて基本給に職務給がプラスされていく仕組みです。

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職務給と職能給の違い

職務給と職能給の違いは、評価対象にあります。職務給は「仕事に評価がつく」のに対し、職能給は「人に評価がつく」賃金体系です。

  • 職務給の評価対象:従事する仕事内容、実績
  • 職能給の評価対象:年齢、勤続年数、職務遂行能力

職務遂行能力は経験数を通じて身につくものであるとの考えから、役職や勤続年数で評価されます。そのため、終身雇用制度や年功序列を前提とした性質を持つ点が特徴です。

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4.職務給のメリット

職務給のメリットを従業員側・企業側からそれぞれみていきます。

従業員側のメリット

職務給は、従業員側に以下のようなメリットがあります。

  1. スキルアップや難しい仕事に挑戦する意欲が高まる
  2. 成果や実績が給与に反映される
  3. 評価基準が明確で、納得しやすい

①スキルアップや難しい仕事に挑戦する意欲が高まる

システム上、良い評価を得るにはスキルアップや難しい仕事に対応することが必要です。専門性の高い職種ほど、スキルを高めてできる仕事が増えるにつれて給与が上がるため、明確な目標を持ちやすいでしょう。

スキルアップや難しい仕事に挑戦する意欲も高まりやすくなり、従業員全体がそうした姿勢になることで、組織全体の生産性やスキルレベルの向上に期待できます。

②成果や実績が給与に反映される

若手や出産・育児などでブランクのある従業員でも、スキルや成果次第で年齢やブランクによる差を埋めることができるため、誰にでもチャンスのある平等な制度といえます。

成果や実績を上げるほど、難しい仕事を成功させるほど給与がアップするシンプルなシステムであるため、給与の増減にも納得しやすい点はメリットです。

③評価基準が明確で、納得しやすい

年齢や在籍年数に関係なく、成果や従事する仕事内容に応じて給与アップする明確な評価対象のもと、モチベーションを高めて業務やスキルアップに取り組めるでしょう。

評価基準がシンプルかつ明確であれば、評価者も評価しやすく、評価される側もその結果に納得しやすくなります。

ただし、納得できる評価を下すには、評価者の評価スキルがしっかりと備わっていることが前提です。

企業側

企業側には、以下のようなメリットがあります。

  1. 従業員のモチベーションが向上する
  2. スペシャリストの育成が進む
  3. 優秀な人材を獲得しやすい

①従業員のモチベーションが向上する

明確な評価基準のもと、従業員が良い成果を出すために意欲やモチベーションを向上させられるでしょう。生産性の向上につながり、結果企業の利益創出に期待できます。

②スペシャリストの育成が進む

専門性の高い職種と相性の良い賃金制度であることから、スペシャリストの育成・活用が進む点もメリットです。

専門性を高め、より難しい仕事に対応できるようになるほど給与が上がるため、従業員も給与アップを目的に自身の専門性を高めようというモチベーションになりやすいでしょう。

③優秀な人材を獲得しやすい

業務内容に見合う高水準な職務給が提示できれば、優秀人材も獲得しやすく、企業力の強化を図れます。優秀な人材に限らず、同一労働同一賃金が実現されることから多様な人材の獲得につながりやすい点もメリットです。

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5.職務給のデメリット

魅力的なメリットが多い一方で、職務給にはデメリットもあります。職務給を導入する際は、デメリットも理解しておくことが必要です。

従業員側

従業員側には、以下のようなデメリットが考えられます。

  1. 仕事内容が変わらない限り給与が増えない
  2. ベテランになるほどモチベーション維持が難しい
  3. 仕事を通して成長しにくい

①仕事内容が変わらない限り給与が増えない

システム上、新しいスキルを得ても仕事内容が変わらない限りは給与が増えません。人によっては向上心が失われ、一定の業務を卒なくこなせば良いという考えになってしまいモチベーションが上がらなくなる恐れがあります。

そのため、従業員のスキルレベルをしっかりと把握し、適材適所への配置や見合った業務への割り振りが必要です。

②ベテランになるほどモチベーション維持が難しい

ベテランになると、それ以上スキルを高められない域に到達することもあるでしょう。つまり、そこで給与も頭打ちになってしまうのです。

評価基準は企業によって異なることから、他社では今より多い給与がもらえる可能性があり、ベテランの離職につながる恐れがあります。

③仕事を通して成長しにくい

業務内でスキルや経験を身につけても規定の範囲を超えた仕事を任されることはないため、仕事を通した成長が頭打ちになりやすい点もデメリットです。

向上心の高い人だとそうした環境に満足できず、より活躍できる場所を求めて離職してしまう恐れもあるでしょう。評価ごとに業務内容を変更するなど、スキルレベルに合わせて段階的に業務レベルも高めていくことが必要です。

企業側

一方、企業側には以下のようなデメリットがあります。

  1. 従業員のモチベーションやエンゲージメントが下がりやすい
  2. 賃金制度の運用が複雑
  3. 組織の硬直化のリスク

①従業員のモチベーションやエンゲージメントが下がりやすい

成果に応じて給与を上げやすい一方、成果が出にくい従業員は長く働いても給与が変わらないため、企業への帰属意識や愛着が下がりやすくなる恐れがあります。

また、スキルを上げてもそれに見合う仕事を任せてもらえないと給与には反映されないため、より良い条件を提示する企業へと流動するリスクも考えられるでしょう。

②賃金制度の運用が複雑になる

一人ひとりの職務内容を細かく把握して評価する必要があるため、適正に評価するための人的コストが高い点はデメリットです。それゆえに、制度の導入・運用にはかなりの手間がかかってしまうでしょう。

また、適正に評価できないと従業員のモチベーションが低下し、最悪のケースでは離職に発展する恐れもあります。導入後もしっかりと運用できる体制を整えることが重要です。

③組織の硬直化のリスクがある

ジョブローテーションとの相性が悪く、配置転換も難しくなるため組織の硬直化リスクがあります。組織が硬直化すると新しい状況や変化に迅速に対応しにくくなったり、長い間に形成されたルールや慣習、価値観などが固定化され、柔軟性が失われてしまったりする恐れがあるでしょう。

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6.職務給制度の評価基準

職務給の評価基準は仕事の専門性や難易度がメインであり、「人」でなく「仕事」に評価がつきます。職務給の具体的な評価基準には、以下のような項目があります。

  • 職種
  • 業務の難易度・複雑性・専門性
  • 対応する業務範囲
  • 責任の大きさ

業務内容は職種によって大きく変わるため、評価基準のベースは職種ごとに変わります。その上で、業務の難易度や複雑性、専門性や対応範囲などから評価し、評価が高いほど給与水準が上がっていく仕組みです。

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7.職務給制度の導入手順

職務給制度は、事前準備のもと従業員にしっかりと説明してから導入する必要があります。基本的な導入手順は、以下のとおりです。職務給制度の導入について、手順ごとに詳しく解説していきます。

  1. 役割評価表を作成
  2. 職務給を導入する方向性の検討
  3. 具体的な職務給の設計
  4. 従業員に説明
  5. 制度の導入・運用

①役割評価表を作成

まずは、職務給を設計する上でのベースとなる役割評価表を作成します。社内にある役割や仕事内容を棚卸しし、すべてに評価をつけましょう。

まずは職種を分類してグレードを設け、職種内で部長や課長などの役職グレードも組み入れます。グレードは「1、2、3…」や「A、B、C…」など独自に設定して問題ありません。

役割評価表の作成方法

厚生労働省では、役割評価表の作成例を公表しています。

役割の大きさは各項目の「ウェイト」×「スケール」で計算され、すべてのポイントを総計して算出します。定義については、社内で協議して自社独自の定義を設定しましょう。

出典:厚生労働省「職務評価を用いた基本給の点検・検討マニュアル

②職務給を導入する方向性の検討

次に、職務給制度を導入して何を実現したいかを明確にし、制度導入の方向性を定めます。

たとえば、カゴメ株式会社ではジョブ型人事制度の導入に伴い、年功型から職務型等級制度へと移行しています。その狙いは、性別や年齢、国籍に関係なく、誰が仕事に携わっても同じ報酬にすることにより、エンゲージメント向上を図ることです。

なぜ職務給制度にするか、その目的と方向性を明確にすることで給与設計の方向性も定まり、従業員にも導入理由を納得してもらいやすくなります。

③具体的な職務給の設計

作成した役割評価表にもとづき、一つひとつの役割ごとに給与を定めます。この時、職種や等級間のバランス調整も行うことがポイントです。

方向性に沿って設計し、客観的にみて評価の偏りがないか、企業と従業員双方が納得できる給与設計になっているかをしっかりと確認しましょう。

調整してもバランスが悪くなってしまう場合には、等級を増減することも一つ方法です。必要に応じて、競合他社の待遇も調査して参考にしてみてください。

④従業員に説明

いきなり運用を開始するのではなく、まずは従業員に説明する必要があります。給与は従業員のモチベーションや生活に大きくかかわるものです。職務給制度を導入する目的や現行の制度との変更点、従業員への影響などをしっかりと説明し、導入に納得してもらうことが大切です。

十分な説明なく運用してしまうと従業員の不満が高まり、導入に失敗してしまう恐れがあります。

⑤制度の導入・運用

実際に導入し、運用を開始します。職務給制度によって給与に大幅な変動が出てしまう場合は、猶予期間を設けたり、役員や新規採用者だけに適用したりと段階的に運用することがポイントです。

導入後は従業員の声を集めるなどして、制度の効果検証・改善を行いましょう。

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8.職務給制度の導入ポイント

職務給制度を導入する際は、以下ポイントを押さえましょう。

一般的には基本給に含める

職務給は一般的に基本給に含めて考えられるものであり、残業代や賞与、退職金などの算出に関わります。

一方、基本給は勤続年数に応じて職能給に基づいて決定し、手当として職務給を支給することも可能です。どのような形態で基本給に含めるかは、企業の方針に基づきます。

人件費が激増しないようにする

なるべく人件費の総額を変えずに職務給制度を導入することがポイントです。現行の給与制度に応じて一人ひとりの人件費に増減があっても、総額ではなるべく0に近づけるよう調整が必要です。

そのためにも、基本給から職務給に充てる割合など大まかな方針を決めておくとよいでしょう。また、賃金の引き上げが必要な従業員がいる場合にも増額は段階的に行い、一気に人件費が増えないよう工夫することもポイントです。

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9.職務給を導入する際の注意点

職務給を導入する際は、以下のポイントに注意しましょう。

減給の可能性も説明する

職務給では評価対象が「仕事内容」であるため、仕事内容が変わると減給する可能性があります。

この点は事前に従業員に説明し、就業規則の賃金規定欄にも記載が必要です。また、仕事内容の変更が賃金にも影響することから、配置転換は合理的な判断のもと慎重に実施しなければなりません。

状況によって職能給も適用する

職務給では、能力と実績に応じて給与水準が決まるため、新人や経験歴の浅い中途社員でも一般より高い給与が得られる可能性があります。

しかし、試用期間や新入社員研修など、状況に応じて難易度の低い業務に対応する期間も出てくるでしょう。この場合は一時的に職能給を適用するなどして、臨機応変に対応することが必要です。