近年、働き方の多様化により、仕事や職種を複数持つ「スラッシャー」と呼ばれる人が増えています。ここではスラッシャーの意味やメリット・デメリットについて見ていきましょう。
目次
1.スラッシャーとは?
スラッシャーとは、仕事としていることが複数ある人のこと。副業と似ているため混同される場合もあるようです。ここではスラッシャーの意味と副業との違いについてご説明していきます。
スラッシャーの意味
スラッシャーの語源は、英文表記の「/(スラッシュ)」で、「スラッシュワーカー」と呼ばれるン場合もあるようです。たとえば「税理士/プログラマー」のように、仕事が複数ある場合、「/(スラッシュ)で内容を区切ります。
仕事を兼業する人が増えてきた現代だからこそ生まれた言葉だといえるでしょう。表記の始まりはアメリカのコラムニスト「マーシー・アルボアー」氏にあるとされています。
副業との違い
スラッシャーと副業に、明確な違いはありません。ただし使う際は、ニュアンスの違いが含まれます。
- 副業:本業のほかにアルバイトや日雇いの仕事を行うこと。そのため収入を得るつまり「本業以外でお金を得る」ことが主となっている際に使うケースがほとんど
- スラッシャー:本業のほかでさまざまなスキルを身に付けて、自身のキャリア形成につなげる、という意味合いで使われる場合が多い
スラッシャーに似た言葉
スラッシャーと似た言葉にゼネラリストがあります。ゼネラリストとは、自社内部で実力を発揮するために知識やスキルを有している人のこと。そのため本業以外の仕事を持つスラッシャーとは明確に異なるのです。
2.スラッシャーが増えた背景
スラッシャーが増加した背景にあるのは何でしょうか。ここでは5つの要因について解説します。
- 副業・兼業の増加
- 働き方改革
- 残業時間の削減
- リモートワーク・テレワークの普及
- ミレニアル世代
①副業・兼業の増加
1992年のデータでは「副業や兼業をしたい」という人は雇用者全体の45%でした。しかし2017年のデータでは65%まで増加するなど、年々増えているという結果が出ているのです。
②働き方改革
働き方改革とは、「一億総活躍社会を作るための改革」。これにより政府は、副業・兼業の解禁を推奨しているのです。そのため今まで副業を認めていなかった企業も認めるようになり、多様な就業体系が実現されつつあります。
③残業時間の削減
残業時間が減るよう取り組んだ結果、定時で退勤できる人も増えました。それによって社員に時間的余裕が生まれ、仕事が終わってからの時間で新たな肩書きとしての仕事をする人が増えたのです。
④リモートワーク・テレワークの普及
リモートワーク・テレワークが進んだ結果、通勤時間がなくなり、時間を有効に使えるようになりました。仕事が効率化して時間に余裕ができたため、空いた時間をスラッシャーとしての副業や兼業にあてられるのです。
⑤ミレニアル世代
スラッシャーが増えている背景には「ミレニアル世代」の影響も見られます。ミレニアル世代とは、2000年以降に成人や就業した人たちの世代のこと。この世代には「仕事への執着心が少ない」という特徴があるのです。
世界29か国を対象にした調査では、ミレニアル世代の44%が「待遇が良くなるなら2年以内に転職してもいい」と回答しています。この世代がひとつの仕事に執着せずさまざまな職種や業種に挑戦した結果、スラッシャー増加に影響しているとも考えられるのです。
3.企業側におけるスラッシャーのメリット
スラッシャーは副業や兼業で2つ以上の仕事をしています。このようなスラッシャーは、企業にとってどのようなメリットがあるのでしょうか。
- 自社のイメージアップにつながる
- 優秀な人材が確保できる
- 外部の知識や技術を活用する機会が増える
①自社のイメージアップにつながる
「企業として副業を認めている」点が一種のステータスとなりイメージアップにつながるのです。働き方改革によって「柔軟な働き方をしたい」と思う人が多くなるほど、そのような働き方ができる企業を選びたいと思う人の割合も増えるでしょう。
そうした人に向けて、「自社は働き方に多種多様な寛容な考え方を持っている」とアピールできるのです。
②優秀な人材が確保できる
企業としてスラッシャーを認めると、外部から優秀な人材を確保しやすくなります。スラッシャーの肩書きを持っている人の多くは、ひとつの仕事しかしていない人よりもスキルを多く持っているでしょう。
スラッシャーを認めて雇用すると、特定の分野に関して専門知識を持つ人材や即戦力となる人材を手に入れられる可能性が高まるのです。
③外部の知識や技術を活用する機会が増える
副業や兼業を通して自社の社員は、新しい知識や技術を手に入れられます。そのため知識や技術を自社に流用できるのです。また新しい人脈を得るきっかけになるでしょう。
経営戦略や成長戦略として「オープンイノベーション」を掲げているならスラッシャーの存在は有用といえます。
4.企業側におけるスラッシャーのデメリット
企業がスラッシャーを容認・雇用する場合、当然デメリットもあります。ここでは3つのデメリットについて、解説しましょう。
- 人材の流出
- 生産性が落ちる可能性も
- 情報漏えいのリスクがある
①人材の流出
スラッシャーは2つ以上の肩書きを持っているため、いつでもそのうちのひとつを選べます。企業には、「いつか自社から離れていってしまうのでは」という懸念が付きまとうでしょう。人材流出を防ぐためには、働きやすい職場環境や、社員満足度を向上させる体制の整備が不可欠です。
②生産性が落ちる可能性も
本来であれば自社の業務に使う時間を別の仕事に使うため、本業の生産性が低下する危険性は否めません。すべての人がそうなるわけではありませんが、本業に支障が出ないよう整備しておくことは必要です。
就業規則などで副業の範囲についてのガイドラインを整備するのもよいでしょう。
③情報漏えいのリスクがある
2つ以上の仕事を掛け持つと当然ながら「複数企業の社外秘情報を得られる」状態になります。情報漏えいの原因は悪意によるものも多いですが、本人が意図していないミスなどによっても起こるもの。
「メールの宛先を間違えた」「他社ファイルを共有した」などから情報漏えいにつながる場合もあるようです。
5.社員側におけるスラッシャーのメリット
ここまでは企業側のメリット・デメリットについて解説しましたが、もちろん社員側にもメリットとデメリットが存在するのです。まず社員側の視点からスラッシャーになることのメリットについて説明しましょう。
- 新たなキャリアを形成できる
- 収入が増える
- 人脈が広がる
①新たなキャリアを形成できる
2つの企業で働くと異なる経験や知識が習得できるため、2つのキャリアを積めます。これらは本業にて活用するだけでなく、また別の企業でも生かせるでしょう。スラッシャーでさまざまなキャリアを形成すると、自身の活躍の場をより広げられるのです。
②収入が増える
単純に収入を増やす意味と、収入を確保する保険としての意味が含まれます。たとえばもしスラッシャーとして働いている企業のひとつが倒産しても、もうひとつの企業で働き続けていれば収入が絶たれる危険はなくなります。
③人脈が広がる
スラッシャー社員は活躍する企業が増えるため、関わる人間つまり人脈が増えるのです。その人脈をもう一方の企業で活用できるでしょう。
またスラッシャーはウェブサイトやSNSを使って仕事を受注するケースも多いです。離れた地域の企業や国外の企業など、直接顔を合わせなくても新たな人脈が形成できます。
6.社員側におけるスラッシャーのデメリット
複数の仕事を掛け持つと、スラッシャー側にもデメリットが生じます。なぜなら労働時間を確保しなければならず、個人が負う責任や負担が倍に増えるからです。具体的にどのようなものがあるのか、それぞれ詳しく見てみましょう。
- スキルを習得する必要がある
- ワークライフバランスの確保が難しくなる
- 税金関連の手間が増える
①スキルを習得する必要がある
スラッシャーとして仕事を新たに抱える際、その企業に必要な人材になる必要が生じます。そのためにも企業に合うスキルを習得していなければなりません。
現場に求められる人材が変化する場合もあるため、どのようなスキルを習得すべきかを考えた計画的なスキルアップが必要となるでしょう。
②ワークライフバランスの確保が難しくなる
仕事を複数持つと、労働時間が長時間になりやすいです。企業が他社での勤務時間まで把握するのは難しく、知らない間に長時間の労働が続いている、というケースも少なくありません。
また「休息や睡眠が不足して体調を崩す」「プライベートの時間が減ってストレスが増加する」可能性も高いでしょう。
③税金関連の手間が増える
ひとつの企業のみで働いている場合、その企業で年末調整が行われれば、自分で確定申告をする必要はありません。しかし副業で得た給与所得があり、かつ副業での収入が年間で20万円以上の場合、自身で税金の申告を行う必要があるのです。
7.スラッシャーになる前に検討すべきこと
コロナ禍により副業の需要は増えたものの、これからスラッシャーを目指す場合、いくつか検討しなければならないことがあります。最後に検討すべき事柄について解説しましょう。
- 副業が認められているかどうか
- 個々の事情によって実現可能性は異なる
①副業が認められているかどうか
まず知っておきたいのは、「すべての企業や業種が副業を認めているわけではない」という点。たとえばいくら副業がしたくとも、公務員は副業が禁止されているので副業は行えません。
まずは「自身が働いている企業では副業を認めているか」「次にスラッシャーとして従事したいと思っている企業は副業を認めているか」2点について調べておきましょう。
②個々の事情によって実現可能性は異なる
スラッシャーになるには、自身の希望と企業側の希望がマッチしていなければなりません。企業が副業を認めていても、兼業したいと思っている企業が自分のことを必要としてくれなくては、当然スラッシャーとして働くことは叶わないでしょう。
業務によっては専門知識やスキルだけでなく、実務経験を求められる場合も。「企業がどのような能力を必要としているか」「自分はその能力を有しているのか」「不足していればどのように習得するか」などについて検討しておきましょう。