目標を立てるにあたって、全く実現不可能なものであっても意味がないですし、簡単に達成できそうなものであっても目標になりません。達成可能な目標の立て方として注目を集めているのが、SMARTの法則と呼ばれるものです。
SMARTの法則とは、目標設定において非常に効果的で重要な考え方といわれています。SMARTの法則を活用した目標設定や管理ができれば、企業の将来や業績も大きく変わるでしょう。
ここでは、
- SMARTの法則について
- 法則に則った目標の立て方
- 具体例
について詳しく解説します。
目次
1.SMARTの法則とは?
SMARTの法則とは、目標の作り方のこと。SMARTとは、
- Specific:「具体的、分かりやすい」を意味
- Measurable:「計測可能、数字になっている」を意味
- Achievable:「同意して、達成可能な」を意味
- Relevant:「関連性」を意味
- Time-bound:「期限が明確、今日やる」を意味
それぞれの頭文字を取った言葉で、これら5つの要素は、目標を達成し成功をつかむための5因子とされているのです。
SMARTの法則は、目標達成の精度を格段に高めてくれる力を持っています。SMARTの法則を知っておくと、目標設定や目標達成に活用できるでしょう。
SMARTの法則(目標設定)の重要性と効果
これまで、SMARTの法則の効果について、さまざまな研究がなされてきました。それらの研究によると、SMARTの法則を用いて目標を定めて取り組んだ場合、従業員のパフォーマンスが大幅に上がると分かっています。
また、難易度を上げてより高いレベルの目標を明確に設定すると、その難しい目標に向かって従業員が自らエンゲージメントを高めながら業務に取り組むそうです。これらから、SMARTの法則は企業目標の達成に大きな役割を果たすことが分かります。
目標設定とは?【設定のコツを一覧で】重要な理由、具体例
目標設定は、経営目標達成や個人のレベルアップのために重要なもの。適切な目標設定ができないと、最終的なゴールが達成されないだけでなく、達成のためにやるべきことも洗い出せなくなってしまうでしょう。
今回は...
2.SMARTの法則による目標の立て方
SMARTの法則を用いて目標を設定する際、いくつかの注意点があります。ここでは、SMARTの法則による目標の立て方について、5つのポイントから見ていきましょう。
①Specific(具体性)
SMARTの法則による目標は、「Specific」すなわち具体性を持ったものでなければなりません。目標が抽象的では、目標を達成する具体的な行動も抽象的になりかねません。そうなれば、目標達成から程遠くなるでしょう。
Specificな目標の具体例
たとえば、「優秀な部下を育てる上司になる」といった目標を立てたとします。しかし、「優秀な部下」について具体的な定義がなければ、どのような側面が優秀なのか漠然としてしまいますし、具体的なアクションプランを生み出すこともできません。
このような場合には、
- 得意先のニーズを汲み取った企画立案や効果的なプレゼンテーションができる顧客満足度の高い部下
- 目標よりも訪問件数を多くすることで、新規契約数を増やせる部下
など具体的な定義を設けましょう。目標設定が具体的であればあるほど、アクションプランにブレイクダウンしやすくなります。SMARTの法則においてSpecificな目標の設定は必須です。
目標管理の際、アクションプランをどのように決めればいい?
アクションプランは、目標に基づく具体的で細かな情報をもとに、決めていきましょう。
たとえば、
目的やニーズ
内容
担当者や人数
期限や時間
場所
手段や方法
費用や数
など。どこかが曖昧になると、...
②Measurable(計量性)
SMARTの法則による目標は、「Measurable」つまり、計量性を持ったものでなければなりません。効率的で有効性の高い目標管理を実施するためには、計量できる目標であることが必要です。
Measurableな目標の具体例
管理職の目標からMeasurableな目標の具体例を考えてみましょう。
たとえば、
- 「部下とより多くのコミュニケーションを図る」
- 「部下と週1回、最低30分の面談を実施して、部下とコミュニケーションを図る」
それぞれの目標設定を比較してみましょう。同じ部下とのコミュニケーション向上を目指した目標でも、前者は計量化できる目標設定になっていないため、どのようなアクションで目標とのギャップを埋めていくのか明確にできません。
PDCAのサイクルを回すためにも、計量化できる目標を設定して、
- 目標に向けて実際に実行できたか
- 目標に対して効果があったか
を検証できるようにしましょう。
PDCAとは?【意味を簡単に】サイクルの回し方、OODAとの違い
PDCAは、多くの企業で採用されているセルフマネジメントメソッドです。
改めてPDCAがどのようなメソッドなのかを考えるとともに、メリットや問題点、PDCAが失敗する要因や効果的に回していくポイントな...
③Achievable(達成可能性)
SMARTの法則による目標設定は、「Achievable」であるべきです。「Achievable」とは、達成可能性を意味する言葉。より高い成果を求めて、非現実な目標を設定してしまうとうまくいかないので注意が必要です。
Achievableな目標の具体例
通信教育による資格の取得を例に考えてみましょう。通信教育には、1日2時間程度の勉強で3~4カ月、遅くても半年前後で資格取得のための勉強期間が終了するものが多くあります。
たとえばそこで「能力開発の一環として年2つか3つの新規資格取得」を目標に設定したとすると、学習は通常業務の合間や就業後に行うことになります。しかし人間は機械ではないため、勉強時間を単純計算通りに確保することは難しいでしょう。
モチベーションの低下によって業務効率も悪くなれば、目標設定自体の意味を失いかねません。達成可能な目標の設定を意識しましょう。
④Relevant(関連性)
SMARTの法則による目標は、「Relevant」、つまり関連性があることもポイントとなります。
- 目標を達成した先には何があるのか
- 何のために目標を達成するのか
という両者の関係性が明確になることで、モチベーションの向上と維持が叶うからです。
Relevantな目標の具体例
「新規顧客を増やす」という目標設定を例に考えてみましょう。
新規顧客は件数や人数で計量できますので、一見すると目標設定として正しいように見えます。しかし、新規顧客を増やしただけでは、その先にある目標との関連性は明確になりません。
このような場合は、新規顧客獲得の先に何があるのかを考えます。「売り上げ2,000万円アップの達成」といった数値目標がある場合、「1件当たり400万円売り上げられる新規顧客を5件獲得」といった関連性を持つかたちで目標を設定するとよいでしょう。
そうすれば、ターゲットの規模や提案内容などを絞れるため、より効率的な目標達成につながります。
⑤Time-bound(期限)
「Time-bound」すなわち期限の設定も必要です。
いくら目標が、
- 具体的で計量化できるもの
- 目標の先にある達成すべき課題との関連性が明確になっているもの
でも期限を定めていなければ、モチベーションを高く維持しながら目標達成に取り組むことは難しいでしょう。
Time-boundな目標の具体例
人は期限を設定するからこそ、モチベーションを高く維持して物事に取り組めます。その例を新製品の開発で考えてみましょう。
ある企業では、社運をかけて新製品を開発しており、目標設定を「他社との差別化ができる新製品を開発する」と定めました。しかし、この目標には期限がありません。
新製品の研究開発に携わる従業員は、自分の仕事に期限が設けられていないため、毎日淡々と製品開発をし続けると考えられます。しかしその間に、他社に追い越されてしまっては、企業の存続自体に赤信号がともるでしょう。
期限があるからこそ、従業員は集中して業務に取り組めますし、企業も期限を活用して事業計画を考案できるのです。期限の存在は企業と従業員双方にとって有意義といえます。
3.SMARTの法則に則った目標設定の方法とは?(人事の目標設定具体例)
SMARTの法則に則った目標の設定方法には、どのようなものが考えられるのでしょう。人事に関連した目標設定に関して、SMARTの法則を応用した具体例を考察してみます。
採用(新卒採用、中途採用)に関する目標例
人事関連業務の中でも、企業の将来を担う人材の採用に関して考えてみましょう。
採用方法には、
- 新卒採用
- 中途採用
の両方があり、どちらの採用業務に関しても、
- 実際に採用する人員計画の策定
- 面接などの採用活動の実施
- 採用後の人事評価
などが関連業務となります。この採用関連業務にSMARTの法則を用いる場合、具体的で計量化でき現実的な目標として想定できる項目には、何があるでしょう。
たとえば人員計画では、
- 採用人員数や応募者数など
実際の採用活動では、
- 面接回数
- 内定辞退数
- 紹介経由採用率
など。
採用後の目標では、
- 採用者本人の入社後の満足度
- 採用者配属先の上司の満足度
- 採用者の人事評価の結果や平均在職期間
などが考えられます。
人事(配置・異動、評価など)に関する目標例
配置・異動、人事評価といった人事の要とされる業務について、SMARTの法則を当てはめてみましょう。配置・異動では、計画の策定で目標設定が要求されます。
たとえば、
- 配置に関する従業員満足度
- 配置先上司の満足度
- 異動希望者数
が計量化できる具体的な目標として挙げられ、人事評価の側面では、
- システム構築や必要に応じた改変作業
- 人事評価の結果集計や分析
などで目標を設定する必要があるでしょう。
人事評価は公平性も求められるため、誰が見ても納得できるように数値的比較ができる目標であることが望まれます。
- 部門別目標達成率
- 部門別KPI達成率
- 部門別残業時間数
- 部門別離職率
- 部門別有給休暇取得率
といったものがよいでしょう。
人材育成・キャリア開発に関する目標例
従業員の成長を促すプログラムを計画、実行することが目標の人材育成やキャリア開発に関しても、SMARTの法則を当てはめることができます。
成長を具体的な数値で管理するには、
- 研修実施数
- 研修参加率
- 一人当たりの平均研修時間数
- 研修満足度
などが効果的でしょう。
その他、
- 実際に研修を受講した結果取得した新規資格取得数
- 資格保有者数
- TOEICなど特定試験での平均スコア
- 外部の講座受講や通学などの特定プログラム参加者の人事評価結果
なども有効です。
人材育成やキャリア開発はOJTで実施されることも多いため、
- OJT計画実行率
- OJT満足度
などもよいでしょう。
4.SMARTの法則の発展型3例
SMARTの法則は、企業におけるあらゆる目標設定に大きな効果を生み出しますが、その法則をさらに進化させ、発展させたものがあるのです。進化したSMARTの法則とは、どのようなものでしょう。
- SMARTER
- SMARTTA
- SMARRT
①SMARTER
SMARTの法則は提唱者によって、どの頭文字を使うかが微妙に異なります。またSMARTプラスアルファの法則を提唱する人も存在するのです。たとえばSMARTERという法則では、「SMART」に「ER」が追加されました。
このERは、
- Evaluated:評価されるという意味だが、ビジネスの世界では主に上司に評価されるという意味合いを持つ
- Recognized(Rewardingという人も存在):Recognizedは承認された、Rewardingは報酬を与える
意味します。このように上司の評価・承認を得られたかどうかを対象に含めるという考え方もあるのです。
②SMARTTA
SMARTにTAを加えたSMARTTAという価値観もあるのです。
TAは、
- Trackable
- Agreed
を意味しています。
Trackableとは目標に対する取り組みの経過を把握できるかという意味で、
- 自分が今どのレベルに達しているのか
- 次のステップに踏み出すにはどうすればよいか
などを確認するものです。Agreedは、当事者間の合意があるかどうかとなります。
メンバーが勝手に目標設定しても、周囲はついてきません。万人が納得できる・取り組める目標を立てましょう。
③SMARRT
SMARRTというSMARTにRがもう一つ付いた法則を提唱している人もいます。
もう一つ新たに付けられたRの意味合いは、Realistic=現実的かどうか。SMARTのAchievable・達成可能かどうかと同じような意味と捉えてよいでしょう。SMARTプラスアルファの法則を用いることで、より具体的・合理的な経営目標を立案できます。
5.目標設定のメリット
どうして、企業は目標を設定するのでしょうか。目標が、計画の成功を判断する指標になるからです。
計画の成功は、「何となく事業を推し進めたら売り上げがアップした、もしくはダウンした」といった偶然の産物ではなく、綿密に練られた事業計画に則って行った企業活動のもと得られるものなのです。目標設定は、その計画が正しかったかを検証する指標として大きな力を発揮します。
目標設定の効果
- 業務を遂行する際に、効率が向上する
- 人事評価がしやすくなる
- 従業員それぞれのモチベーションがアップ
①業務遂行の効率が向上する
明確なゴールの設定により、
- 自分のやるべき課題が鮮明になる
- 行動力も大幅にアップ
します。その結果、個人やチームの業務遂行能力は大幅に高まるのです。
②人事評価がしやすくなる
人事評価とは、一人ひとりの従業員が一定の評価期間において、どのくらいチームや企業に貢献し、実績をあげたかを評価するもの。目標によって、実際の業務や実績は誰の目にも分かりやすく可視化されます。当然、人事評価はやりやすくなるでしょう。
③従業員のモチベーションがアップ
目標を設定すると、そこに向かって確実にレベルアップしているという満足感や達成感が従業員の中に芽生えます。それは、自分の成長を実感することに他なりません。目標に向かって頑張ろう!という気持ちこそ、モチベーションそのものなのです。
6.提唱者:ジョージ・T・ドラン(George T. Doran)の考え
SMARTの法則という目標設定への考え方の始まりは、ジョージ・T・ドラン(George T. Doran)の提唱にあるとされています。
ジョージ・T・ドランはWashington Water Power Companyのコンサルタントと同時に元企業計画担当ディレクターでもありました。
『There’s a S.M.A.R.T. way to write management’s goals and objectives』
ジョージ・T・ドランは、1981年に発表した『Management Review』に掲載された『There’s a S.M.A.R.T. way to write management’s goals and objectives』という論文の中で初めて「SMART」という言葉を用いました。
ジョージ・T・ドランが提唱した当時のSMARTの法則は、経営者を対象としたもので、「SMART」の5因子すべてが必ずしも揃っている必要はないといわれていたのです。
その後、数多くの著名人が提唱
しかし、その後多くの著名人がSMARTの法則について、
- 柔軟性が欠如している
- 長期的な目標には不向き
と、ジョージ・T・ドランとは異なる成功因子を提唱しました。
SMARTの法則に異議を唱える著名人たちは、
- 目標を追求した行動のみを望むのか
- 慣性を生み出すことで創造性を阻害しないか
といった観点から、法則に対して疑問点を示唆しています。
そんな指摘を受けながらも、SMARTの法則は、今なお組織が目標を達成し成功をつかむための重要な要素として支持され続けているのです。