Society 5.0とは、最新のテクノロジーを駆使して実現する未来社会の形です。Society 5.0の主な技術や具体的な取り組み、求められる人材について解説しましょう。
目次
1.Society 5.0とは?
Society 5.0(読み方:ソサエティゴーテンゼロ)とは、「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)」のこと。内閣府の第五期科学技術基本計画にて、定義されています。
Society5.0は、IoTやAI、ビッグデータなどの最新技術をあらゆる社会や産業に取り入れて実現する未来社会の形です。
- Society 1.0(狩猟社会)
- Society 2.0(農耕社会)
- Society 3.0(工業社会)
- Society 4.0(情報社会)
上記の人類社会の発展に続く、新しい5番目の形といえるでしょう。
参考 Society 5.0内閣府目指すは超スマート社会
従来のSociety 4.0(情報社会)では、情報や知識の共有が不十分なため、ほか分野にとの連携がうまく図れないという課題がありました。
人だけの能力には限界があります。そのため膨大な情報から必要な情報を抽出して分析する作業に大きな負担があったり、年齢などによって労働力が制限されたりしていたのです。
これら課題解決のため、超スマート社会としてSociety5.0が提唱されました。
超スマート社会とは?
超スマート社会とは、さまざまなニーズに対応しながらすべての人に質の高いサービスを提供して、年齢や性別、地域や言語といった障壁を乗り越えて誰もが活躍できる社会のことです。
DX(デジタルトランスフォーメーション)
AIやIoT、ブロックチェーンといったデジタル技術を活用することから、Society 5.0は、DX(デジタルトランスフォーメーション)とも深く関連しています。DXとは簡単に説明すると、デジタル技術を活用して、生活やビジネスに変革をもたらすことを意味する言葉です。
経団連はこのDXによって明るい未来をつくり上げることがSociety 5.0のコンセプトであると提言し、またSociety 5.0を次のように定義しました。
「デジタル革新(DX)と多様な人々の想像力・創造力の融合によって価値創造と課題解決を図り、自ら創造していく社会」
一般社団法人 日本経済団体連合会『Digital Transformation (DX) ~価値の協創で未来をひらく~』より引用
その上でSociety 5.0は、人間と自然が共生の道を探ることで、持続可能な発展を遂げていく可能性があり、SDGsの達成にも貢献できる概念としています。
SDGs
SDGsとは、Sustainable Development Goalsの略で、持続可能な開発目標のこと。国連が定めたもので、2030年までに達成すべき目標を17に分類し、目標値を設定しています。
Society5.0では、最新のテクノロジーを活用して、SDGsが掲げている「誰一人取り残されない社会」の実現を目指しています。
2.Society 5.0を支える技術
Society 5.0を実現するに当たって、IoTやAI、ビッグデータなどの技術の活用は必要不可欠。高度に発展した技術により、人の能力が補完され、生産性の向上などにつながるのです。ではSociety5.0を支える技術について、解説しましょう。
IoT
IoTとは、InternetofThingsの略で、モノをインターネット経由で通信すること。インターネットには、従来までパソコンといったIT関連機器が接続されていました。現在ではスマートフォンやテレビ、スマートスピーカーなども接続されています。
インターネットは今、あらゆるモノが行き来するコミュニケーションツールになっているのです。
AI
AIとは、ArtificialIntelligenceの略で、人工知能を意味します。人工知能の種類は、特化型AIと汎用型AI、強いAIと弱いAIに分かれます。
- 特化型AI:限定された領域の自動学習(画像認識や音声認識)
- 汎用型AI:人間と同じようにさまざまな課題を処理する人工知能
- 強いAI:人間のような自意識を持ち、認知能力をも備えた人工知能
- 弱いAI:特定のタスクだけを処理する人工知能
ビッグデータ
ビッグデータとは、さまざまな形態や特徴を持ち、多種多様なデータのことで、「データの大きさ(Volume)」「データの種類(Variety)」「入出力や処理の速度(Velocity)」3つから成り立っています。
膨大なデータ群を記録・保管してリアルタイムに解析すると、ビジネスに役立つ知見を得たり、新たなシステムづくりの可能性を生み出したりできるのです。
ロボット
Society5.0では、人とロボットは共生する社会になるとされています。
たとえば、「産業用ロボット:工場などで生産を行うロボット」「家庭用ロボット:掃除をしたり、話し相手となったりするロボット」「スマートロボット:AIが搭載されているロボット」「サービスロボット:人間のように手足を持ったロボット」などです。
5G
5Gとは、第5世代移動通信システムのこと。従来の4Gと比較して通信速度が速く、携帯電話ユーザーだけでなく、さまざまなデバイスの接続性も向上させます。
5Gの普及によって、実現が困難だった遠隔医療などが行えたり、自然環境の防災管理に役立てたりと、社会基盤の発展に関する期待も高まっているのです。
3.Society 5.0実現に向けた具体的な取り組み
現在、Society5.0の実現に向けた最新技術の活用が、多岐の分野にわたり横断的に行われています。たとえば、ロボットトラクターによる農作業の自動化といったものです。それでは具体例を見ていきましょう。
スマート農業
農業においては、担い手の高齢化が進むとともに、新たに農業に就く若い人材も不足しています。農業従事者が減少の一途をたどるなか、期待されているのがIoTやAIの活用。農林水産省は、ICTやロボット技術を活用した「スマート農業」を推進しているのです。
現在、ビニールハウス管理や農作業記録などのツールが開発され、導入されています。さらには、生産者と消費者を結ぶシステムのデジタル化も促進されているのです。
AIを活用したヘルスケア
従来、医療は病気やケガなどを「治す」ものでしたが、近年求められているのが「治した後も支える医療」。この医療の根幹となるのが、Society5.0におけるAIの活用です。
AIやIoTなどの情報技術を駆使すれば、未病ケアや予防への転換、ヘルスケアの個別化や個人の主体的な健康管理が実現します。
スマートシティの実現
スマートシティとは、都市の課題解決のために、IoTなどの最新技術を活用し、計画や整備・運用を行って最適化を図っている持続可能な都市や地区のこと。国内での事例には、下記のようなものがあります。
- けいはんなエコシティ(京都府相良郡):エネルギーマネージメントシステムの設置による省エネルギー化
- 柏の葉キャンパスシティ(千葉県柏市):東京大学や千葉大学が連携し、環境をテーマにして進めるまちづくり
ドローン i-Land プロジェクト
長崎県五島市で2018年5月より行われている「ドローン i-Landプロジェクト」。5カ年事業として、ドローンによる海岸の見守りが実施されています。
そのほかドローンを活用する取り組みとして、「離島間無人物流」「海洋ごみの調査」「風力発電点検」「農地の作付け確認」などが行われています。このプロジェクトは、海岸ごみ量の数値化を、日本で初めて成功させました。
4.Society5.0実現に向けた企業の取り組み
政府が提唱しているSociety 5.0の実現に向けて、企業も積極的に取り組みを進めています。Society5.0に必要不可欠な新技術の創出を目的として、大学と民間企業が連携を図ることもその一例です。では企業の取り組みについて、見ていきましょう。
産学連携
産学連携とは、新たな技術や新事業の創出を目指して、大学などの教育機関が民間企業と連携すること。発端となったのは、1995年の科学技術基本法の制定です。
さらに1998年の大学等技術移転促進法の制定が、産学連携本格化の大きなきっかけとなりました。2020年6月には科学技術・イノベーション基本法が国会で成立し、科学技術基本法の改正が決定。日本における産学連携に大きな転機をもたらすとされています。
量子イノベーションイニシアティブ協議会(QII協議会)
Society5.0実現に向けた産学連携の例として、東京大学が2020年に設置した「量子イノベーションイニシアティブ協議会(QII協議会)」が挙げられます。
東京大学といった教育機関のほか、トヨタ自動車や日立製作所など9社が参加。協議会の目的は、量子コンピュータを含む量子技術の実装です。
第四次産業革命
第四次産業革命とは、IoTやAI、ビッグデータなど最新技術を活用して起こる製造業のイノベーションのこと。第四次産業革命で掲げられている技術革新に注目し、それを産業に取り込むと、Society 5.0における課題解決が実現するとされています。
ただしSociety5.0は社会の変革を意味しているのに対し、第四次産業革命は製造業に焦点を当てているため、その目的は異なるのです。
5.Society 5.0に求められる人材とその教育方法
Society5.0の実現のため求められる人材について、内閣府や文部科学省、経団連は次のように述べています。
- 内閣府:AIに使われるのではなく、AIを使いこなすクリエイティブな人材
- 文部科学省:技術革新や価値創造の源となる飛躍知を発見・創造する人材
- 経団連:自ら課題を見つけ、AIを活用して課題を解決できる人材
しかしAIを使いこなせる人材とはどのような人材なのでしょうか。教育方法とあわせて解説します。
AIを使いこなせるリーダー
Society5.0の実現に当たって、必要不可欠なのはAIを使いこなせるリーダーです。多様なチームのなかでリーダーシップを発揮するには、深い洞察力を持って課題解決に当たる能力が必要です。またリーダーには、新たな価値を創出する能力も求められます。
教育方法
AIを使いこなせるリーダーの育成には、STEAM教育やICT機器を用いたデジタル教育などが必要です。また文理を分断する教育からの脱却も必要でしょう。では教育方法について、見ていきます。
小学校からプログラミングを必修化
2020年より、小学校でのプログラミング教育が必修化されました。これにより、コンピュータの原理原則を学ぶ教育が基礎教養となったのです。
また「Science(科学)」「Technology(技術)」「Engineering(工学)」「Mathematics(数学)」を総合的に学習するSTEM教育にArt(芸術)の要素を加えたSTEAM教育も、AI時代に必要な教育として注目されています。
文理分断からの脱却
Society5.0の実現に向けた教育では、自然科学と人文・社会科学を連携させた新たな領域の開発が必要です。
文部科学省では、2018年の報告書で「文理分断からの脱却」を掲げています。このような動きを受けて今後大学では、文理を融合させた学部の創設や文理の枠にとらわれない入試の出題が増えるでしょう。
公正に個別最適化された学び
AIを使いこなせる人材育成のため、学校教育にて他者と協働しつつ自ら考え抜く自立した学びを実現する必要があります。
学びの実現には、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカー、部活動指導教員の連携が必要不可欠。またICT機器を使ったデジタル学習によって、一人ひとりの生徒に適した学習に転換することも大切です。