SOGIとは性的指向や性自認などの概念を表す言葉のことです。ここではLGBTとの違いやSOGIに関するハラスメントについて解説します。
目次
1.SOGIとは?
SOGIとは、Sexual Orientation(性的指向)とGender Identity(性自認)の頭文字を取った単語で「ソギ」あるいは「ソジ」と読みます。
性的指向(好きになる性)と性自認(心の性)を表した言葉で、性的マイノリティに限らずすべての人にかかわる概念として、2011年頃から、国際社会で使われるようになりました。
2.SOGIの意味とSOGIEとの違い
SOGIの「SO」と「GI」には下記のような意味があります。
- 「SO」:「Sexual Orientation」つまり自分はどういう性別の人を好きになるか、という性的指向のこと。異性愛や同性愛、無性愛などが含まれる
- 「GI」:「Gender Identity」自分自身のことをどういう性だと認識しているかという性自認のこと。トランスジェンダーやXジェンダーなどが含まれる
SOGIに似たSOGIEとは
「SOGIE(ソジ)」は「Sexual Orientation(性的指向)」と「Gender Identity(性自認)」に「Gender Expression(性表現)」をくわえたものです。
在り方は人それぞれ
SOGIEは、「好きになる性(性的指向)や心の性(性自認)、見た目の性(性表現)は誰もが持ち得る構成要素である」「誰もが当事者であり性の多様性を認め合ううえで重要な概念である」ことを表しています。
日本にはまだなじみの薄い言葉でしょう。しかしすでに国連の正式文書にて、LGBTではなくSOGIあるいはSOGIEが使われています。
3.SOGIとLGBTは何が違うのか?
SOGIとLGBTは非常に混同されやすい概念です。ここではLGBTの意味とふたつの違いについて説明します。
LGBTの意味
LGBTとはさまざまな性的マイノリティのうち以下4つの頭文字を取った総称です。
- Lesbian(レズビアン):女性同性愛者
- Gay(ゲイ):男性同性愛者
- Bisexual(バイセクシュアル):両性愛者
- Transgender(トランスジェンダー):性自認が性別と異なる人
近年、上記4つにQueer(クイア)やQuestioning(クエスチョニング)という自らの性が特定の枠に属さない、わからない人をくわえた「LGBTQ」という言葉も使用されています。
概念が違う
SOGIはどのような性指向なのか、自分をどのような性と自認しているのかなどの「状態」を指します。対してLGBTはセクシャルマイノリティの中でも認知度の高い「人のカテゴリ」を指しているのです。
たとえば心も身体も男性で好きになる性が女性という人は「LGBT」には該当しませんが、「SOGI」で考えると同性愛者と同じ、数あるセクシャリティのひとつであるとする考えです。
人口は増加傾向
日本におけるLGBTの割合は人口の5%から8%といわれています。電通ダイバーシティ・ラボの研究によると、2012年に5.2%だったLGBT層が2015年には7.6%、2018年には8.9%と増加傾向にあると判明しているのです。
ただし実数として増えているというより、LGBTに対する理解や認知が進んだことによるものという見方もあります。
4.SOGIハラスメント(SOGIハラ)とは?
SOGIやLGBTに対する認知が広がるのと同時に、彼らに対するハラスメントも注目されるようになりました。SOGIハラスメント(SOGIハラ)とは性的指向や性自認に関する言動で人を傷つける行為のこと。
「ホモ」や「レズ」といった言葉で相手を侮辱するのはもちろん、「まるでホモ(レズ)だな」「仕草がオネエみたい」など冗談めかした言葉も、受け取り手の気持ちによってはハラスメントになります。
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厚生労働省の取り組み
厚生労働省が発表した「パワーハラスメント防止対策を義務付ける指針」により、2020年以降SOGIハラスメントやアウティングを含むハラスメントの防止対策が各企業や自治体、各種団体で義務化されました。具体的な措置義務は次の4つです。
- ハラスメントの禁止と発生時の懲戒規定を就業規則に明記、周知する
- 相談窓口を設置して適切な対応を行う
- 相談者や行為者のプライバシー保護措置を講ずる
- ハラスメントが発生してしまった際の対策を検討する
多数の人が経験
「SOGIハラスメントなんて他人事」「自社では起きていない」と考える人も多いでしょう。
しかし厚生労働省の調査によれば、職場で同性愛やトランスジェンダーに関する冗談やからかいを受けた、見聞きしたと答えた人はLGBで19.2%、Tで24.8%。このようにSOGIハラは他人事ではなく、身近な問題としてとらえる必要があるのです。
5.SOGIハラのデメリット
SOGIハラスメントは企業に次のようなデメリットをもたらします。それぞれについて解説しましょう。
- 仕事の意欲が低下
- 離職率の増加
- 企業のイメージが悪化
- 経済リスクの拡大
①仕事の意欲が低下
ハラスメントは被害者に精神的苦痛を与え、仕事に対するモチベーションを低下させます。仕事に対する意欲が低下すれば当然労働者の能率は低下し、やがて組織全体の生産性にも影響するでしょう。
精神的に深く傷ついた状態が長期化した結果、鬱病や休職に追い込まれたというケースも存在します。
②離職率の増加
被害者当人がメンタルヘルスに不調をきたして休職したり、退職したりすることもあれば、問題解決を担当した管理職が疲れ果てて離職するというケースもあります。最悪、被害者が所属していた部署で連鎖退職が発生してしまう可能性もあるでしょう。
離職理由の多くは労働環境や人間関係に対する不満です。ハラスメントが常態化している会社はそれだけで離職の危険を高めていることになります。
③企業のイメージが悪化
SOGIハラスメントを受けた従業員が損害賠償を請求したり、裁判所に訴えたりする可能性もあります。事実、仕事が原因で精神障害を発症し労災認定を受けた人は年々増加傾向にあります。
そのうちの多くはパワーハラスメントやセクシャルハラスメントなどの各種ハラスメントです。
「この会社はハラスメントが起きた会社」という情報は、企業イメージを低下させます。顧客が離れていったり、新規人材採用が難しくなったりと、取り返しのつかないダメージを負う可能性があるのです。
④経済リスクの拡大
SOGIハラスメントは受ける側だけの問題ではありません。社内の法務部門やコンプライアンス部門、マネージャーなどのモチベーションがダウン、社内不振や職場雰囲気の悪化などを引き起こし、被害者や行為者以外の第三者が離職する可能性もあります。
職場全体での信頼関係損失は経済リスクの拡大につながるものですし、ハラスメントに対する問題は経営課題のひとつです。自社の経営課題とあわせて、すべての会社が取り組まなくてはなりません。
6.SOGIハラスメントの事例
どのような言動がSOGIハラスメントにあたるのでしょうか。ここでは厚生労働省の指針で示されたSOGIハラスメントの例について説明します。
- 差別的な発言
- 生活の強要
- 無視や暴力
- 理不尽な異動や解雇
- 本人の意思を無視した行動
①差別的な発言
SOGIハラスメントの事例としてとくにわかりやすいのが、差別的な発言です。「ひょっとしてホモ?」「レズなんて気持ち悪い」のように、相手の性的指向や性自認に関する侮辱的な言動、人格を否定する言動はSOGIハラスメントの代表的な事例といえます。
②生活の強要
「女だからちゃんとメイクしろ」「男なら泣くな」など、望まない性別での生活を強要するのもSOGIハラスメントにあたります。最近では身体的性を基準とした制服の強要に疑問を抱いて、制服を選択制にする学校も増えてきました。
③無視や暴力
セクシュアルマイノリティだから無視や暴力、いじめをしてよいわけではありません。SOGIを理由とした自宅研修の強要や別室隔離、集団で無視して孤立させるなどは立派なハラスメントです。
近年、家族がセクシュアルマイノリティであることを理由としたいじめも報告されています。
④理不尽な異動や解雇
SOGIを理由にした不当な移動や解雇ももちろんハラスメントです。事実、過去にはSOGIに起因する職場トラブルが裁判に発展した事例もあります。
結果として異動や解雇が行われなかったとしても「なぜ男なのに女性の制服を着ているのですか。そんな人にはうちの会社を辞めてもらいますよ」といった発言は生活の強要にあたるのです。
⑤本人の意思を無視した行動
SOGIのマイノリティ、マジョリティにかかわらず、本人の意思を無視した行動はハラスメントです。性的マイノリティの当事者が自分の意思で性的指向や性自認を他者に伝えることを「カミングアウト」といいます。
過去にはカミングアウトではなく許可なく他者のSOGIを暴露する「アウティング」によって自死を選んでしまったという事件もあるのです。
7.SOGIハラスメントはどう対策する?
2020年(中小企業は2022年)のパワハラ防止法施行により、SOGIハラスメントもパワハラとみなされるようになりました。これは「措置義務」であり「目標」ではありません。つまりすべての企業にSOGIハラスメント防止施策の実施が義務づけられているのです。
ここではSOGIハラスメントへの対策について、解説します。
- 「sogi=アライ」を理解する
- 気遣いを心がける
- SOGIハラ対策を企業全体で行う
- 相談窓口の設置
①「sogi=アライ」を理解する
アライ(ally)とは味方、つまり当事者たちに共感して寄り添いたいと思う人のこと。
「自分は人と違うから理解されないのでは」「カミングアウトしたらどんな目に合うかわからないから本当の自分をさらけ出せない」と考えているLGBT当事者は多く存在します。
「私はアライです」と宣言する必要はないものの、SOGIやLGBTに対する理解は必要でしょう。
②気遣いを心がける
SOGIハラスメントの防止には、相手に対する気遣いが欠かせません。SOGIハラスメントを疑う場面に遭遇した際は、次のような行動で理解を示しましょう。
- 当事者がハラスメントを受けている場合は決して加担しない。またその場を去る際に「さっきの発言で不快な思いをしなかった?」のような声掛けを行って味方だと示す
- 場の雰囲気や上下関係ですぐ指摘できない場合、話題を変えたり雰囲気を変えたりするスイッチャーの役割を担う
③SOGIハラ対策を企業全体で行う
「SOGIとは何か」「アウティングとは何か」「どのような言動がSOGIハラスメントにあたるのか」これらに対する理解を深めるのも効果的です。LGBTに対する理解は深まっているものの、SOGIの考えはまだまだ浸透していません。
研修を通じて企業全体が「SOGIとは何か」「どのような言動がアウティングにあたるのか」「どうすればSOGIハラスントを未然に防げるのか」を理解、啓発することが重要です。
④相談窓口の設置
企業には、SOGIハラスントやアウティングが発生した場合の相談窓口を設けることが措置義務として定められています。また「相談窓口に申告した人が解雇や異動などの報復を受けないようにする」「アウティングを防ぐ」のも徹底しなければなりません。
順天堂大学医学部附属順天堂医院では院内に「SOGI相談窓口」を設置しています。レインボーバッジをつけたアライの医師と看護師が対応し、不安を抱えたまま治療が始まらないよう体制を整備しているのです。