組織コミットメントとは、従業員が自身の所属する組織に対して帰属意識を持つこと。組織コミットメントの定義、要素、メリット、高める方法などを解説します。
目次
1.組織コミットメントとは?
組織コミットメントとは、従業員が「自分はその会社の一員である」という意識や感覚を持つこと。愛社精神や忠誠心などをともない、従業員と会社との一体感が高まっている状態や、従業員が自社で働きたいという意欲が高い状態を指します。
近年のリモートワーク拡大で、従業員同士が会社で顔を合わせて働く機会が減少しました。上司と部下のコミュニケーションも希薄になり、適切な評価やフォローなどが難しくなったのです。
一方部下は、上司と会社に対する信頼が低下し、組織コミットメントが下がりやすくなります。このように帰属意識が低い従業員は、休職や退職するリスクも高まるのです。
ビジネスシーンにおけるコミットメントの意味
ビジネスシーンにおけるコミットメントの意味は、「公約」「承認」「責任」「関与」など。一般的な会社においては、以下のような例文が挙げられます。
- 上司のコミットメント(承認)を得た
- 我社のパブリックコミットメント(公約)に温室効果ガスの削減を掲げた
- 今回の案件について○○社はコミットメント(関与)しない
組織コミットメントの場合、「関与」という意味合いが強いといえます。組織コミットメントを高めるには、従業員と会社がお互いによい関与を行い、心理的な距離を縮めて信頼関係を構築する必要があるからです。
コミットメントとは? ビジネスでの意味や使い方をわかりやすく
コミットメントとは公約、責任を持った約束などの意味があります。ビジネスシーンでも多用されるコミットメントについて深く掘り下げていきます。
1.コミットメントとは?
コミットメントとは、責任のある約束...
2.組織コミットメントの定義
組織心理学者のジョン・マイヤーとナタリー・アレンによる定義は、「従業員と組織の関係を特徴づけ、組織の一員で居続けようという意思決定を内包する心理的な状態」です。
言い換えれば、「自社が好き」と従業員が感じており、「自社で働き続けたい」という意欲を持っている状態です。組織コミットメントが高い会社は、従業員と良好な関係を築けているといえます。
3.組織コミットメントの3要素
組織コミットメントに含まれる下記の3要素は基本、会社に対する愛着を表します。ただしそれぞれどのような視点で愛着や帰属意識を持つかが異なるのです。
- 情緒的コミットメント
- 存続的コミットメント
- 規範的コミットメント
①情緒的コミットメント
従業員の感情から生じる会社への愛着や誇り、一体感などのこと。自社と自分の価値観や考え方、目標などが一致すると、情緒的コミットメントが高まりやすくなります。
たとえば自社の理念、経営層や上司の思想や価値観、ステークホルダーに対する自社の姿勢などに共感した従業員は、自社に対して「好き」「誇れる」という気持ちが高まるのです。あるいは職場の人間関係が良好な場合も、職場への愛着が高まるでしょう。
つまり情緒的コミットメントが高い会社は、従業員の満足感も高いといえるのです。いずれも従業員の離職防止効果が期待できます。
②存続的コミットメント
報酬や役職などから会社で働きたいと思う気持ちのこと。たとえば「給料がよいからこの会社で働く」「成果をあげた分しっかりと報酬をもらえるからこの会社で働く」「良い役職につけたからこの会社で働く」などです。
情緒的コミットメントは感情から沸き起こる一方、存続的コミットメントは「損得勘定」が強いといえます。そのため存続的コミットメントが高い従業員は、今より条件のよい会社があれば転職を考えるかもしれません。
③規範的コミットメント
会社が言うことには理屈なしに従う忠誠心のこと。たとえば「一度入った会社には、長く尽くさなければならない」といった気持ちが該当します。
ある研究によると、規範的コミットメントが高い組織はパフォーマンスが向上するという結果がでたうえ、離職率も低下する傾向にありました。くわえて情緒的コミットメントも高ければさらに離職率は低下するでしょう。
規範的コミットメントが高い人は忠誠心が高いため、指示された内容を忠実に遂行します。しかし受け身の姿勢になりがちで、自分から何かを提案するのは苦手な傾向にあるのです。
4.組織コミットメントを高めるメリット
組織コミットメントを高めると、従業員が会社に愛着を持つため、仕事に対する姿勢も変わります。その結果さまざまなメリットが期待できるのです。これらのメリットについて解説します。
- 離職率の低下
- 生産性の向上
- コミュニケーションの活性化
①離職率低下
組織コミットメントが高まると、従業員が「この会社にずっといたい」と思うため、離職率が低下します。会社と従業員の間の関係性が良好な状態なので、待遇のよい他社があっても転職を選ぶ従業員は少なくなるのです。
離職率が低下すれば、会社にとって重要な人材の流出も防げるうえ、自社の成長も促進します。人材の採用コストも削減できるでしょう。
②生産性の向上
組織コミットメントが高まると、従業員の忠誠心とともに業務に対するモチベーションや集中力が上がり、生産性の向上が期待できます。また愛社精神や忠誠心が高まるため遅刻や欠勤も減り、業務効率が向上する点も生産性アップに寄与するのです。
生産性が向上すれば会社の利益が増大し、従業員の報酬として還元できるでしょう。さらに存続的コミットメントが上がるというサイクルを呼び込めます。
③コミュニケーションの活性化
組織コミットメントが高まると、従業員と会社における信頼関係が強くなり、上司と部下、同僚や他部署とのコミュニケーションが活発になります。
コミュニケーションが活性化すれば、課題の発見と解決の促進、アイデアの創出など、会社にとっても良い相乗効果が生まれるでしょう。とくに製品やサービス、ビジネスモデルに関するアイデアは会社の競争力を高め、自社の成長や発展をもたらします。
良好なコミュニケーションからは、相手に対する義理や恩義なども生じるため、規範的コミットメントが高まるのです。ここでもよいサイクルが構築されます。
5.組織コミットメントを高める方法
組織コミットメントを高める方法は主に以下の3つです。それぞれについて解説しましょう。
- 能力を生かした職務や役割を与える
- 存在意義やビジョンを整備し、共有する
- 職場の環境を整える
①能力を生かした職務や役割を与える
人それぞれ向き不向きがあるように、業務においても従業員ごとに得意分野と不得意分野があるもの。
従業員の能力を的確に見極めて得意分野の業務を担当させれば、従業員は「この業務は自分に向いている」「自分のスキルを生かせる」と感じ、情緒的コミットメントが高まります。従業員のスキルアップというメリットも得られるでしょう。
②存在意義やビジョンを整備し、共有する
会社の方向性や目標を従業員と共有すると、各従業員が「この会社で働く意味」を見出せます。従業員は自身に求められている役割と目標が明確になり、会社と従業員がともに同じゴールへ向かって進んでいけるのです。
ポイントは全従業員へ浸透するまで会社のトップがビジョンや理念を発信すること。もちろん、ビジョンや理念の意図や背景なども含めて伝えます。さらに行動規範に落とし込めば、日常業務にもビジョンや理念の思想を組み込めるのです。
③職場の環境を整える
従業員の率直な意見を聞くためにも職場環境や人間関係、業務に関するアンケートを定期的に実施しましょう。
たとえば「上司に対して意見を言いやすいか」「人間関係に問題はないか」「上司からの指示が適切か」などは、働きやすさを大きく左右します。「人事評価に不満はないか」「報酬に満足しているか」などは、仕事に対するモチベーションを測れる項目です。
このようなアンケートをもとに働きやすいと思う環境を整備すれば、情緒コミットメントや存続的コミットメントが高まるでしょう。
ただしアンケートから改善策を講じるときは、従業員の言い分をそのまま取り入れず、全従業員および自社にとってよい結果をもたらすか、よく検討すべきです。またアンケートは定期的に実施し、つど職場環境を見直しましょう。