組織サーベイとは、企業が社員を対象として行う調査のこと。ここでは組織サーベイの目的やメリット、調査ツールなどを解説します。
目次
1.組織サーベイ(組織診断)とは?
組織サーベイとは、企業内での社員を対象とした調査のことで、「組織診断」とも呼ばれます。サーベイ(Survey)は「調査、測定」などと訳される英語です。調査項目は、社員の意識や満足度、モチベーションやエンゲージメントなど多岐に渡ります。
組織サーベイが注目された背景
背景に挙げられるのは、「離職率や生産性などには、社員の意識やエンゲージメントが大きく影響する」という認識が広まったこと。そのため企業が社員の意識やエンゲージメントを調べる手段のひとつとして、組織サーベイが注目されるようになったのです。
2.組織サーベイの目的
組織サーベイの目的は何でしょうか。それぞれについて見ていきます。
- 組織全体を客観的に把握するため
- 働きやすい環境を整備するため
- 人事課題を解決するため
①組織全体を客観的に把握するため
組織サーベイをとおして、組織の状態を数値で把握できます。
上司による面談でも、社員の意識や満足度、モチベーションやエンゲージメントなどの度合いをある程度測れます。しかし上司から経営層へ、面談結果を正確に伝えるのは難しいでしょう。会話による調査結果には、明確な基準や根拠がないからです。
組織サーベイを行うと調査結果を数値化できるため、客観的な視点で組織を可視化できます。
②働きやすい環境を整備するため
組織サーベイは、社員が働きやすい環境を整備しやすくなります。組織サーベイを行うと、個々の社員が抱える悩みや不安、およびそれぞれの仕事環境を可視化できるからです。
社員満足度やモチベーションなどの数値から、メンタルヘルスの悪化や陰湿なハラスメントなど表面化しにくい問題が発見される可能性もあります。社員が安心、安全、健康に働ける職場作りに取り組むならば、組織サーベイは必須といえるのです。
③人事課題を解決するため
組織サーベイの結果は、人事課題の解決に役立てられます。組織サーベイで、「上司との関係性」「キャリアパス」「教育」「報酬」「評価」「待遇」などへの満足度を把握できるからです。
調査結果から、特定部署あるいは全社的な人事課題が見つかる可能性もあります。また人事課題施策を実施したあとも、定期的に組織サーベイを行い、効果を測定しましょう。
3.組織サーベイツールの種類と用途の比較
組織サーベイには、どのような種類があるのでしょう。それぞれについて、見ていきます。またそれぞれの効果やメリットは異なるため、目的に応じた使い分けが必要です。
- 社員満足度調査
- ストレスチェック
- エンゲージメント調査
- モラールサーベイ
- パルスサーベイ
①従業員満足度調査
職場環境に対する従業員の満足度を調べる調査で、「従業員サーベイ」とも呼ばれます。
調査項目は「勤務条件」「給与」「評価」「福利厚生」「スキル」「キャリア」「人間関係」など、働き方や仕事に対する満足度の調査に適しているのです。結果から、社内制度や待遇に潜む問題や、社内コミュニケーションの問題などを把握できます。
従業員満足度調査とは?【わかりやすく解説】質問項目例
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②ストレスチェック
社員が抱えるストレスの度合いを測る調査のこと。この調査は、労働安全衛生法第66条にて実施が義務づけられています。
調査を通じて得られたデータは社員個人のメンタルケアだけでなく、社員がストレスを感じにくい職場環境の整備にも生かせるのです。社員がストレスを感じずに働ける職場になれば、離職率の低下や生産性の向上なども期待できるでしょう。
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③エンゲージメント調査
社員が企業に対して持つエンゲージメント(愛着心や貢献意欲)の度合いを測る調査。調査項目は、「自社への信頼度」「自身へ期待される役割の理解度」「仕事に対するやりがいや達成感の度合い」などです。
社員満足度調査と違って、企業風土や企業価値などに対する意見を集めやすくなります。よって労働環境だけでなく企業全体の体質を変えたい場合、効果的です。
④モラールサーベイ
社員のモラール(意欲や士気)を測る調査のこと。調査項目は、「目標達成や課題解決への意欲」「仕事や職場に対するやる気」などです。
またカテゴリーでは、モラールの構成要素である「職務への満足」「職場の人間関係」「上司によるマネジメント」「昇給や昇進への満足」などが挙げられます。
そのためモラールサーベイの結果からは、社員のモチベーション度合いと、モチベータ(意欲を高める要因)を把握できるのです。
モラールサーベイとは? メリット、実施方法、活用事例など
モラールサーベイとは? メリット・効果、実施方法、活用事例
モラールサーベイとは、従業員の意識調査のことです。ここでは、モラールサーベイについてさまざまなポイントから解説します。
1.モラールサーベイ...
⑤パルスサーベイ
少数の質問で行う定期的な意識調査のこと。数分で済む質問を短期間に何度も行う点から、パルス(脈拍)の測定になぞらえています。
目的は、定期的に同じ質問を社員に投げかけて、社員の考え方や感じていることの変化を把握すること。質問項目には、職場の環境や人間関係、企業そのものなどに関する内容が挙げられます。
なおパルスと対照的なのが「コンサス」です。1年に1回程度で実施し、50問以上の設問を用意します。
パルスサーベイとは? 意味や目的、導入メリット、質問項目例
パルスサーベイとは、従業員の離職防止や満足度向上を目的に短いスパンで行う意識調査のこと。従業員の離職や満足度に課題を抱えている場合、解決の糸口としてパルスサーベイの実施を検討している企業も多いでしょう...
4.組織サーベイのメリット
組織サーベイの結果をもとに組織風土や社内制度を改善すれば、離職率低下や生産性向上などの効果が期待できるのです。これらのメリットについて説明します。
- 社員のモチベーション向上
- 離職率の低下や優秀な人材の定着
- 課題の見える化で生産性向上
①社員のモチベーション向上
組織サーベイの結果をもとに改善施策を進めると、社員のモチベーションを向上できます。組織サーベイで、社員が抱える悩みや不安を把握できるため、効果の高い施策を打てるからです。
たとえばテレワークによるコミュニケーション不足から仕事へのモチベーションが下がっていたとしましょう。そのときは定期的にチーム全体でミーティングを実施します。
②離職率の低下や優秀な人材の定着
組織サーベイの結果をもとに社内制度や仕事環境を整備すると、社員の働きやすさが向上し、離職率の低下や優秀な人材の定着などの効果も得られます。離職率阻止や優秀な人材の確保が喫緊の課題である企業なら、組織サーベイは不可欠な取り組みといえるのです。
たとえば「勤務形態やキャリアパスの選択肢を増やす」「休暇制度や福利厚生を充実させる」などを取り入れると、社員は自分に合った働き方を選びやすくなります。
③課題の見える化で生産性向上
組織サーベイで日々の業務で発生している悩みや不安などを「見える化」し、組織課題の解決に取り組むと、生産性を向上できます。
たとえば組織サーベイで上司と部下のマネジメント状況を調査した際、コミュニケーションや評価、業務量などに関する問題が見つかるかもしれません。
これらを解決すれば社員のパフォーマンスがアップし、組織力が強化されます。その結果、生産性や利益の向上につながるのです。
5.組織サーベイのデメリット
組織サーベイにはデメリットも存在します。調査を行う際は、デメリットが表面化しないよう注意しましょう。
- 社員のストレス負担
- 完全な客観的データの収集は困難
- 分析結果から活用までのスパンが短期間
①社員のストレス負担
組織サーベイ自体が、社員にストレスを感じさせる原因になることがあります。
たとえば設問数の多い調査が実施された場合、社員は時間を確保しなければなりません。また組織サーベイの実施担当者は、設問の設定、回答の回収および分析などで時間がかかります。そのため本来の業務に支障が出てしまう恐れもあるのです。
組織サーベイでは、社員へかかる負担についてよく考える必要があります。
②完全な客観的データの収集は困難
組織サーベイを実施したからといって、完全な客観的データを収集できるわけではありません。「回答によって不利益を被るかも」といった理由で、社員が本心で答えない場合もあるからです。
組織サーベイで収集したデータの有効性を高めるためにも、「無記名方式」といった社員が気兼ねなく回答できる形式を選びましょう。
③分析結果から活用までのスパンが短期間
組織サーベイの分析結果をもとに、短いスパンで改善施策を打つ必要があります。社員がもつ不満や不安を放置してしまうと、社員のエンゲージメントが低下する恐れもあるからです。
とくにパルスサーベイは毎週あるいは毎月実施されるため、分析から活用までのスパンがさらに短くなります。組織サーベイの実施から改善施策の効果測定までの取り組みを、短期間で効率よく繰り返す仕組みづくりが必要です。
6.組織サーベイの導入手順
組織サーベイにはさまざまな種類があり、それぞれで詳細な導入手順も異なります。しかしいずれの組織サーベイにおいても共通する、基本の手順があるのです。ここでは組織サーベイ導入における基本の流れを解説します。
たとえば「長時間労働が減らない」という課題なら、「上司のマネジメント力が不足しているのではないか」といった仮定が挙げられるでしょう。
調査対象では「全社員を対象とするか、あるいは一部の社員だけを対象とするのか」を検討し、項目では設問の数と内容を決めていきます。
たとえばエンゲージメント調査であれば、「経営理念についてどう感じるか」「自社の企業としての在り方に疑問を感じていないか」といった設問が挙げられるでしょう。
たとえばパルスサーベイは、状況の変化をすばやくキャッチできます。しかし設問数が少ないため、課題を深堀りする目的には向いていません。
一方でセンサスは、パルスサーベイよりも多くの情報を得られます。ただし回答する社員の負担が増加するので注意しておきましょう。
分析結果を社員と共有すると、改善施策への意識を統一しやすくなります。改善施策を実行したのちも組織サーベイで効果を測定し、調査、分析、改善のサイクルを確立させましょう。
7.組織サーベイ実施の注意点
組織サーベイには注意点もあります。それぞれについて見ていきましょう。
- 結果をすべて受け入れない
- 目的に合わせたツールの選択
- 実施目的を事前に社員に伝える
- 調査頻度は目的によって変更
- 結果を生かした対策を実施
①結果をすべて受け入れない
結果のすべてをそのまま受け入れるのは避けましょう。必ずしも正確な結果が得られるわけではないからです。
そもそも組織サーベイは、企業課題を可視化するためのツール。発見された課題の裏に、根幹となる課題が存在する可能性もあります。調査結果を鵜呑みにして表面的な改善施策を行った場合、思うような効果が得られないでしょう。
②目的に合わせたツールの選択
組織サーベイに使うツールは多岐にわたるため目的に合ったツールを選ぶ必要があります。
たとえば離職率の改善を目指すなら、調査結果から退職リスクやエンゲージメント、組織コンディションなどを分析できるツールが効果的です。
人事評価やキャリアに関する課題に取り組むなら、部署や年齢、役職や評価などから結果を分析できるツールが役立ちます。
③実施目的を事前に社員に伝える
組織サーベイを実施する前に、目的を社員に伝えて理解と納得を得ておきましょう。調査対象である社員が実施目的を理解していれば、「できるだけ課題解決に役立つ情報を提供しよう」という意識が高まるからです。
組織サーベイの目的と重要性を理解した社員は、回答時間を取るために業務を調整し、有効性の高い回答を提出するようになります。
④調査頻度は目的によって変更
目的に応じて調査頻度を変更するのも大切です。パルスサーベイといった高い頻度で実施される調査は、実施や分析を担当する社員に大きな負担がかかるからです。
また回答する社員も、感情やストレスは日々変化します。毎日ストレスやエンゲージメントなどの調査が行われていたら、変動する結果に振り回されてしまうでしょう。
組織サーベイを実施する際は、社員への負担を考慮しながら頻度を調整する必要があります。
⑤結果を生かした対策を実施
調査の実施が目的にすり替わってしまうケースも見られます。組織サーベイによって得られた結果は、対策に生かしてはじめて意味を成すもの。
組織課題が解決されないまま放置されれば状況が悪化していくかもしれませんし、課題に取り組む姿勢を見せなければ、社員のエンゲージメントや信頼も低下します。
組織サーベイを実施する前に、「調査によって得られた結果をどのように生かすのか」決めておくとよいでしょう。