特定健康診査・特定保健指導とは、メタボリックシンドローム、対象年齢、必須項目、受診の流れ、法令や通知など詳しく解説します。
1.特定健康診査とは?
特定健康診査とは、生活習慣病予防のために、メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)に着目した健診として平成20年4月から始まったもので、特定健診とも呼ばれています。
健診項目には、内臓脂肪の蓄積状態をみるために腹囲の計測が追加されるなど、特定保健指導の対象者を的確に抽出するための検査項目が導入されています。
メタボリックシンドロームとは?
メタボリックシンドロームとは、内臓脂肪が過剰に蓄積されていることに加え、
- 血圧上昇
- 空腹時の高血糖
- 脂質代謝異常
などが組み合わせることにより、動脈硬化を促進させ、心筋梗塞や脳梗塞を引き起こす危険性が高まる状態のことを指します。
単に太っているから、腹囲が大きいからだけでメタボリックシンドロームとは診断されません。現在は予備群も含めて、男性は40~74歳で2人に1人、女性は5人に1人存在するとされています。
メタボリックシンドロームの診断基準
メタボリックシンドロームの診断基準は次の通りです。
ウエスト周囲径…男性:85cm以上・女性:90cm以上
1~3で1つでも該当する人はメタボリックシンドロームの予備軍
- 高血糖…空腹時血糖:110mg/dl
- 高脂質…中性脂肪:150mg/dlまたはHDLコレステロール:40 mg/dl
- 高血圧…収縮期血圧:130mmHg以上または拡張期血圧:85mmHg
ウエスト周囲径の正しい測り方は次の通りです。
- へその高さの周囲を測る
- 朝起きた時や、寝る前などの空腹時に測定する
生活習慣病とは?
生活習慣病とは、「健康的と言えない生活習慣」が関係している病気のことを指します。
生活習慣病の原因となる、
- 食習慣
- 運動習慣
- 休養のとり方
- 飲酒や喫煙
などが、
- 糖尿病
- 高血圧
- がん
- 脳卒中
- 心臓病
など多くの疾病の発症や進行に深く関わっています。生活習慣病は、こうした生活習慣を改めることで発病を防ぐことができる病気です。
特定健康診査の対象
特定健康診査の対象は4月1日現在において医療保険に加入している人で、40歳以上75歳未満(年度途中に75歳に達する人を含みます)となる人で、当該年度の1年間を通じて加入している人です。被保険者だけでなく被扶養者も対象となります。
年度の途中での加入、脱退など移動のあった人については、事後その対象から除かれます。
特定健康診査の基本的項目
特定健康診査の項目は、基本的項目と詳細な項目に分かれています。特定健診の結果から、階層化され、生活習慣の改善の必要性に応じて特定保健指導の対象者が選ばれます。
特定健康診査の基本的項目を解説していきます。
診察
診察では医師が診察を行って、身体の状態を診断します。
医師は患者の現在の、
- 健康状態
- 異常の有無やその程度
- 性状
などについて、
- 顔つき
- 顔色
- 表情
- 体格
- 栄養状態
- 姿勢
- 動作
などを通じて綿密に診察します。患者は質問票に必要事項(過去に罹患した疾病、飲酒、喫煙などの嗜好品、月経、結婚や出産歴など)を明記しておきます。
問診
問診では、医師が診断の手がかりを得るために、
- 現在の自覚症状や既往歴
- 内服薬
- 家族歴
- 生活習慣
- アレルギー歴
- 渡航歴
などを聞きます。
隠されている病気を診断するためにも、問診は重要な項目です。問診が効果的に行われた場合、70%程度の診断がつくともいわれています。
自分自身の健康状態をしっかり把握してから受診するのが良いでしょう。
身体計測
身体測定では身長、体重、腹囲から体格を評価するための測定を行います。体重と身長のバランスから肥満度を表す体格指数(BMI)を出します。
BMIの計算式は、
BMI=体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)
です。
基準値は18.5~24.9 kg/m2、肥満は25.0~で、BMIが22前後の人が最も死亡率が低下すると言われています。
血圧測定
血圧は心臓が血液を送り出す時に、血管の壁に加わる圧のことです。収縮期(最高)血圧および、拡張期(最低)血圧の結果によって、血圧の状況を把握できます。
収縮期血圧:120mmHg未満かつ拡張期血圧:80mmHg未満が正常の範囲内の血圧値です。血圧が高い状態が続くと、至適血圧の人と比べて脳卒中や心臓病にかかりやすいことがわかっています。
血中脂質検査
血中脂質検査では、中性脂肪、総コレステロール、HDLコレステロール、LDLコレステロールを測定します。
それぞれの正常値は次の通りです。
- 中性脂肪…35~149mg/dl
- 総コレステロール…140~199 mg/dl
- HDLコレステロール…男女:40 mg/dl ~
- LDLコレステロール…60~119 mg/dl
肝機能検査
肝機能検査では、
- GOT
- GPT
- γ-GTP
を発見できます。
GOT・GPTは臓器や組織が障害を受けると血液中にでてくる酵素です。GOTは肝臓・心臓・筋肉などの障害に、GPTは肝臓の障害に反応します。体内でのアミノ酸代謝やエネルギー代謝の過程で重要な働きをします。
γ-GTPは、肝臓の酵素の1種で、たんぱく質を分解・合成する働きをします。
血糖検査
血糖検査は血液中に含まれるブドウ糖の量を調べる検査で、糖尿病を発見することができます。インスリンが不足したり働きが悪くなると、血糖値が高いままになります。
高血糖が続くと、合併症(動脈硬化・視力障害・腎臓障害・神経障害)を引き起こし、ひどくなると心臓病や脳卒中、失明、エソによる下肢切断にいたることもあります。
尿検査
尿検査は、尿中の蛋白や糖などを調べる検査です。さまざまな病気やその兆候を知ることができます。腎臓機能が低下する疾患のほかに、メタボリックシンドロームが原因となる腎臓障害も増えています。
尿糖が陽性の場合は糖尿病、腎性糖尿などが考えられますが、必ずしも糖尿病とは限らず、血糖値などによって判定する必要があります。
特定健康診査の詳細な項目
特定健康診査の項目は、詳細な項目と基本的項目とがあります。すべての項目が実施されて、初めて特定健診の実施とみなされます。特定健診の結果から、特定保健指導の対象者が選ばれます。詳細な項目を解説していきます。
貧血検査
貧血検査は、血液中に含まれる赤血球の数や、赤血球に含まれるヘモグロビンの量を調べる検査です。
貧血は、全身へ酸素を運んでいる赤血球やヘモグロビンが減少して、体内が酸欠になる病気です。原因は、鉄分不足や骨髄異常、体のどこからか出血しているなどです。貧血を指摘された場合は、その原因を確かめることが大切です。
心電図検査
心電図検査では、
- 不整脈の有無
- 虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞)の有無
- 高血圧をともなう心肥大の有無
- 心臓病の有無
が分かります。検査で異常が出た場合は、ほかの検査も行います。
それにより、
- 狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患
- 不整脈
- 心臓肥大
- 心膜炎
- 冠動脈不全
- 高血圧症
- 動脈硬化症
などの発見をします。
眼底検査
眼底検査では、眼球の奥にある眼底の状態を検査します。
眼底に変化を起こす目の病気として、
- 網膜剥離(もうまくはくり)
- 緑内障(りょくないしょう)
- 加齢黄斑変成(かれいおうはんへんせい)
などがあります。
全身の病気では、
- 糖尿病や高血圧
- 動脈硬化症
などのほか眼底に出血が生じやすくなる血液の病気などがあります。
腎機能検査
腎機能検査では、クレアチニンとeGFRの数値を測定します。クレアチニンは体の老廃物で、尿と一緒に排出されますが、腎臓の機能が低下すると血液中に増えてきます。
eGFRは腎臓が老廃物を排出する能力を示す値で、血清クレアチニンと年齢・性別から推算します。この数値が低くなると腎臓の働きが低下していることを示します。
2.特定保健指導とは?
特定保健指導とは、特定健診の結果から、内臓脂肪蓄積の程度や生活習慣病の発症リスクの高さなどによって階層化され、
- 動機付け支援
- 積極的支援
に該当した人に対して特定保健指導が実施されるものです。
指導の対象者が自分の健康状態を自覚し、健康的な生活に自ら改善できるよう、さまざまなアドバイス、支援を行っていきます。
特定保健指導の対象者
特定健診の結果、次の項目に該当すると特定保健指導の対象者となります。
- 腹囲:男85cm以上・女:90cm以上、またはBNIが25以上
- 血糖:空腹時血糖100mg/dl以上またはHbA1c(NGSP値)5.6%以上ほか、脂質と血圧の追加リスクあり
上記の結果から、保険指導レベルがグループ分けされます。
特定保健指導の指導内容
特定保健指導では特定健診の結果で対象となった人が健康な生活を送るために、生活習慣の見直しや改善への支援を行います。
- 情報提供
- 動機付け支援
- 積極的支援
の3つの階層の指導内容についてそれぞれ詳しく解説していきます。
情報提供
特定健診を受診した全員に行われます。
いちばんリスクの低い「情報提供」レベルに分類された人は、年に 1回、健診の結果と同時に支援を受けます。
健診の結果の送付とともに情報提供用紙が送付され、
- メタボリックシンドロームや生活習慣病に関する基礎知識
- 生活習慣に問題点があった場合にそれがどのような生活習慣病を引き起こすか
などの内容を提供されます。
動機付け支援
医師、保健師、管理栄養士らの指導のもとに行動計画を作成し、生活習慣改善に取り組めるように、専門家が原則1回の動機付けを行います。初回面談で対象者に合わせた実践的なアドバイスを行います。
実践は36カ月間、自身で「行動目標」に向けて生活習慣改善を行います。実績評価は3カ月経過後に健康状態、改善状況の確認をします。
積極的支援
対象者が生活習慣改善に取り組めるよう専門家が、メールや電話などで3カ月以上の定期的・継続的な働きかけを行います。
3カ月経過後に健康状態、改善状況の確認をします。2年連続で積極的支援に該当した場合、1年目の積極的支援を終了していて、かつ1年目に比べて2年目の状態が改善していれば、2年目の特定保健指導は、動機付け支援相当の支援でも可となります。
3.特定健康診査・特定保健指導受診の流れ
特定健康診査、特定保健指導の受診の流れについて詳しく解説していきます。
40歳から74歳までの人を対象とする健診ですが、
- 健康診査被保険者
- 被扶養者
- 任意継続被保険者
ごとに受診する機会が異なるので注意しましょう。
ステップ①特定健康診査の案内
医療保険者から、対象者に受診券(保健指導は「利用券」)や、受診案内が郵送または手渡しなどで届きます。受診案内が届き次第、受診券(利用券)と被保険者証を持参して、医療保険者の案内する実施場所に行きましょう。
ステップ②特定健康診査の受診
健診当日は、次の項目を受診します。
- 身体計測(身長、体重、腹囲)
- 血圧測定
- 血液検査(血糖、脂質、肝機能など)
- 尿検査(尿糖、尿たんぱくなど)
- 問診
またこの他に、医師の判断で詳しい検査(貧血、心電図、眼底、血清クレアチニン)が行われることがあります。
ステップ③特定健康診査の判定と結果の通知
検査や問診結果などを総合して、内臓脂肪蓄積の程度とリスク要因の数の判定が行われ、リスクの高さに応じて、レベル別(「動機付け支援」・「積極的支援」)に特定保健指導の対象者の選定が行われます。
また、特定健診を受けた人には、全員に健診結果に基づいて1人ひとりにあった「情報提供」が、結果の通知と同時に行われます。
特定健康診査の判定要件
特定健診の結果から、ステップごとに階層化を行い保健指導内容を判定します。
- ステップ1…内蔵脂肪蓄積のリスクを判定。腹囲が男性85cm以上、女性90cm以上、腹囲は上記未満だが、BMI[体重(kg) ÷ 身長(m) ÷ 身長(m) ]が25以上
- ステップ2…検査結果、質問票から追加リスク数をカウント。血糖値、脂質、血圧、喫煙歴の項目で当てはまるものを、リスク1個としてカウント
- ステップ3…保健指導のレベルをグループ分け。動機付け支援・積極的支援・情報提供に分ける。65歳以上の方は、積極的支援レベルに該当しても、動機づけ支援を行う
- ステップ4…保健指導レベルに合わせた案内を送付
ステップ④特定保健指導の実施
情報提供
健康的な生活習慣の重要性に対する理解と関心を深め、生活習慣を見直すきっかけとなるような、基本的な情報を提供。
動機付け支援・積極的支援
専門的知識・技術を持った者(医師・保健師・管理栄養士等)が対象者に合わせた実践的なアドバイス、支援、サポートをします。初回面談は20分以上、実施または支援は3~6カ月間、3カ月経過後に健康状態、改善状況の確認を行います。
4.特定健康診査・特定保健指導に関する法令や通知
特定健診は、生活習慣病の発症や重症化の予防を重点に制度化された取り組みです。義務付けられたものではありませんが、積極的に受診するよう勧められています。主な特定健康診査・特定保健指導に関する法令や通知について簡単に解説します。
高齢者の医療の確保に関する法律
高齢者の医療の確保に関する法律は、国民保健の向上および高齢者の福祉の増進を図ることを目的とした法律です。1982年に老人保険法として制定されました。
当該年度において40歳以上75歳以下の年齢に達する人に対し、特定健康診査など実施計画に基づき、特定健康診査を行います。
特定健康診査及び特定保健指導の実施に関する基準
当該年度において40歳以上75歳以下の年齢に達する人を対象に特定健康診査を行います。検査項目は既往歴の調査、自覚症状及び他覚症状の有無の検査、身長、体重及び腹囲の検査、BMIの測定、血圧の測定、肝機能検査などです。
標準的な健診・保健指導プログラム(確定版)
生活習慣病の発症・重症化の危険因子(リスクファクター)の保有状況により対象者を階層化し、適切な保健指導(「情報提供」、「動機づけ支援」、「積極的支援」)を実施するための標準的な判定の基準を導入してます。
健診により把握された保健指導の対象者に対し、個々人の生活習慣の改善に主眼をおいた保健指導が重点的に行われます。