特定求職者雇用開発助成金とは、厚生労働省から支給される助成金のひとつです。その目的や各コースの支給要件と支給額、申請の流れや注意点、相談窓口などについて、詳しく解説します。
目次
1.特定求職者雇用開発助成金とは?
特定求職者雇用開発助成金とは、就職困難者を雇い入れる事業主に一定の条件下で厚生労働省から支給される助成金のことで、12のコースがあります。
- 特定就職困難者
- 生涯現役
- 被災者雇用開発
- 発達障がい者・難治性疾患患者雇用開発
- 障がい者初回雇用
- 就職氷河期世代安定雇用実現
- 生活保護受給者等雇用開発
- 一般トライアル
- 障がい者トライアルコース・障がい者短時間トライアル
- 若年・女性建設労働者トライアル
- 地域雇用開発
- 沖縄若年者雇用促進
2.特定求職者雇用開発助成金の目的
目的は、「雇用の拡大」「失業の予防」「労働者の能力開発」「介護や育児休暇制度の充実」などに取り組もうとしている企業を、金銭的に支援すること。
要件を満たせば助成金は支給され、申請時の不正などがない限り返済義務はありません。
人材の確保ができるうえ返済のない資金を調達できるという、積極的に活用したい制度です。
3.特定求職者雇用開発助成金の支給要件
原則、以下の機関を経由して雇い入れます。
- 公共職業安定所
- 地方運輸局(船員として雇い入れる場合)
- 適正な運用を期せる有料・無料職業紹介事業者など
平成30年10月の要件変更
平成30年10月、支給要件に以下のような変更がありました。
- 支給期間中の解雇に対して助成金の返還ではなく、「以後3年間の不支給」に変更
- 支給期間中の離職に対して離職月までの月割り支給ではなく、「原則支給なし」に変更
対象となる事業主
対象となる事業主の条件は、下記のとおりです。
- 雇用保険の適用事業主である
- 支給の審査に必要な書類、雇用保険の対象となる労働者の出勤状況や賃金の支払い状況がわかる書類を整備・保管している
- 管轄労働局の実地調査を受け入れる
中小企業の範囲
「資本金の額・出資の総額」または「常時雇用する労働者の数」が以下のとおりになっている場合、特定求職者雇用開発助成金による中小企業となります。
- 小売業(飲食店含む)5,000万円以下または50人以下
- サービス業5,000万円以下または100人以下
- 卸売業1億円以下または100人以下
- そのほか業種3億円以下または300人以下
追加された対象外の基準
助成対象外の基準が追加されました。
- 雇入れた対象労働者が事業所の代表者、または取締役の3親等以内の親族である場合
- 対象労働者を雇入れた事業所と同一事業所で、雇入れ日以前の3年間に、通算して3カ月を超える職業訓練や実習などを行った場合
- 対象労働者を雇入れた事業所の関連会社で、雇入れ日以前の1年間に、通算して3カ月を超える職業訓練や実習などを行った場合
4.特定求職者雇用開発助成金の支給額と算定方法
特定求職者雇用開発助成金の支給額と算定方法を紹介します。
実労働時間に応じた支給額
支給額は、労働時間に応じた内容になっています。
- 支給対象期6カ月間の平均実労働時間が最低基準以上の場合:助成額の満額を支給
- 支給対象期6カ月間の平均実労働時間が最低基準に満たない場合:月ごとの平均実労働時間により、助成額を月ごとに算定して支給
支給額の算定に必要な賃金額
支給額の算定に必要な、賃金に関する書類を提出します。
- 対象労働者が支給対象期に労働した分として支払われた賃金に関する賃金台帳などを提出
- 支給申請期間までに支払った支給対象期の賃金額が助成額に満たない場合で、支給申請期間以降に支給対象期の労働についての賃金の支払いがある場合は、該当の賃金台帳を後日提出
5.特定求職者雇用開発助成金の7つのコース
特定求職者雇用開発助成金には、いくつかのコースがあります。主な7コースについて詳しく紹介しましょう。
- 生涯現役コース
- 特定就職困難者コース
- 発達障がい者・難治性疾患患者雇用開発コース
- 三年以内既卒者等採用定着コース
- 被災者雇用開発コース
- 就職氷河期世代安定雇用実現コース
- 生活保護受給者等雇用開発コース
①生涯現役コース
雇入日の満年齢が65歳以上となる離職者が対象です。ハローワークの紹介による労働者(雇用保険の高年齢被保険者)を1年以上継続して雇用することが、確実だと認められた事業主に対して助成されます。
支給要件
生涯現役コースの支給要件は以下です。
- ハローワークや地方運輸局(船員として雇い入れる場合)、適正な運用を期すことのできる有料・無料職業紹介事業者などの紹介により雇い入れる
- 雇用保険の高年齢被保険者として雇入れ、1年以上の雇用が確実だと認められる
支給額
生涯現役コースの中小企業に対する「1人当たりの支給額」「助成対象期間」「支給対象期ごとの支給額」は、下記のとおりです。
- 短時間労働者以外…70万円、1年、35万円×2期
- 短時間労働者…50万円、1年、25万円×2期
中小企業事業主以外に対する「1人当たりの支給額」「助成対象期間」「支給対象期ごとの支給額」は、
- 短時間労働者以外…60万円、1年、30万円×2期
- 短時間労働者…40万円、1年、20万円×2期
②特定就職困難者コース
対象は、高年齢者(60歳以上65歳未満)や身体・知的障がい者や重度障がい者、母子家庭の母などの就職困難者の雇用です。ハローワークの紹介により、継続雇用する労働者(雇用保険の一般被保険者)として雇入する事業主に助成されます。
支給要件
特定就職困難者コースの支給要件は、下記のとおりです。
- ハローワークや地方運輸局(船員として雇い入れる場合)、適正な運用を期すことのできる有料・無料職業紹介事業者などの紹介により雇い入れる
- 対象労働者は、60歳以上65歳未満の高年齢者や母子家庭の母、重度障がい者など
支給額
特定就職困難者コースの中小企業に対する「1人当たりの支給額」「助成対象期間」「支給対象期ごとの支給額」は、下記のとおりです。
- 短時間労働者以外…高年齢、母子家庭の母など60万円、1年、30万円×2期
- 重度障がい者を除く身体・知的障がい者120万円、2年、30万円×4期、重度障がい者など240万円、3年、40万円×6期
- 短時間労働者…高年齢や母子家庭の母など40万円、1年、20万円×2期、重度障がい者などを含む身体・知的障がい者80万円、2年、20万円×4期
③発達障がい者・難治性疾患患者雇用開発コース
発達障がい者や難治性疾患患者をハローワークの紹介により、継続して雇用する労働者(一般被保険者)として雇い入れる事業主に助成されます。ただし雇入れから約6カ月後、ハローワーク職員が職場訪問を行うのです。
支給要件
発達障がい者・難治性疾患患者雇用開発コースの支給要件は、
- ハローワークや地方運輸局(船員として雇い入れる場合)、適正な運用を期すことのできる有料・無料職業紹介事業者などの紹介により雇い入れる
- 雇用保険一般被保険者として雇い入れ、継続した雇用が確実だと認められる
支給額
発達障がい者・難治性疾患患者雇用開発コースにおける、対象労働者の「企業規模」「1人当たりの支給額」「助成対象期間」「支給対象期ごとの支給額」は下記のとおりです。
- 短時間労働者以外:中小企業、120万円、2年、30万円×4期/中小企業以外50万円、1年、25万円×2期
- 短時間労働者:中小企業、80万円、2年、20万円×4期/中小企業以外30万円、1年、15万円×2期
④三年以内既卒者等採用定着コース
既卒者や中退者の応募機会の拡大および採用・定着を図るためのコースです。既卒者が応募できる新卒求人の申し込みまたは募集を行い、既卒者を新規学卒枠で初めて採用そて、一定期間定着させた事業主に助成金を支給します。
支給要件
既卒者等コースの支給要件は、
- 既卒者・中退者が応募可能な新卒求人の申し込みまたは募集を行い、当該求人・募集に応募した既卒者・中退者を、通常の労働者として雇用した
- これまで既卒者などを新卒枠で雇い入れた経験がない
また高校中退者コースの支給要件は下記となります。
- 高校中退者が応募可能な高卒求人の申し込みまたは募集を行い、当該求人、募集に応募した高校中退者を通常の労働者として雇用した
支給額
企業区分による対象者の「定着期間1年後/2年後/3年後」に応じた、各コース1名の支給額は、下記のとおりです。
- 中小企業:既卒者などコース/50万円/10万円/10万円、高卒中退者コース/60万円/10万円/10万円
- それ以外の企業(定着期間1年後のみ):既卒者などコース/35万円、高卒中退者コース/40万円
⑤被災者雇用開発コース
東日本大震災で多くの人が、離職を余儀なくされました。
平成23年5月2日以降、被災離職者や被災地求職者をハローワークの紹介により、1週間の所定労働時間が20時間以上の労働者として雇い入れる事業主(1年以上継続して雇用することが確実な場合に限る)に、助成されます。
支給要件
被災者雇用開発コースの支給要件は、下記のとおりです。
- ハローワークや地方運輸局(船員として雇い入れる場合)、適正な運用を期せる有料・無料職業紹介事業者などの紹介により雇い入れる
- 平成23年5月2日以降、雇用保険一般被保険者として雇い入れ、1年以上継続して雇用すると見込まれる
支給額
被災者雇用開発コースの対象労働者の「1人当たりの支給額」「助成対象期間」「支給対象期ごとの支給額」は下記です。
- 短時間労働者以外…60万円(50万円)、1年(1年)、30万円×2期(25万円×2期)
- 短時間労働者…40万円(30万円)、1年(1年)、20万円×2期(15万円×2期)
※( )内は中小企業事業主以外に対する支給額
⑥就職氷河期世代安定雇用実現コース
就職氷河期に正規雇用の機会を逃した結果、十分なキャリア形成がなされず、正規雇用に就くのが困難な人もいます。そういった人をハローワークの紹介にて、正規雇用労働者として雇い入れる事業主に助成されるのです。
支給要件
就職氷河期世代安定雇用実現コースの支給要件は、下記のとおりです。いずれにも当てはまる必要があります。
- 35歳以上55歳未満
- 雇入れの日の前日から過去5年間、正規雇用労働者として雇用された期間が1年以下であり、過去1年間に正規雇用労働者として雇用された経験がない
- 失業・非正規雇用労働者であるうえ、ハローワークにて個別支援などの就労に向けた支援を受けている
- 正規雇用労働者としての雇用を希望している
支給額
就職氷河期世代安定雇用実現コースの企業規模による「支給対象期間」「1人当たりの支給額」「支給総額」は、次のとおりです。
- 大企業…1年、第1期25万円/第2期25万円、50万円
- 中小企業…1年、第1期30万円/第2期30万円、60万円
※支給対象期ごとの支給額は、支給対象期に対象労働者が行った労働に対して支払った賃金額を上限とします。
⑦生活保護受給者等雇用開発コース
ハローワークまたは地方公共団体から、通算して3カ月を超えて支援を受けている生活保護受給者や生活困窮者を、ハローワークの紹介にて継続雇用する労働者(雇用保険の一般被保険者)として雇い入れる事業主に、助成されます。
支給要件
生活保護受給者等雇用開発コースの支給要件は、下記のとおりです。いずれにも当てはまる必要があります。
- ハローワーク、地方運輸局(船員として雇い入れる場合)、適正な運用を期すことのできる有料・無料職業紹介事業者などの紹介により雇い入れる
- 雇用保険一般被保険者として雇い入れ、継続雇用が確実だと認められる
支給額
生活保護受給者等雇用開発コースの対象労働者による「1人当たりの支給額」「助成対象期間」「支給対象期ごとの支給額」は、下記のとおりです。
- 短時間労働者以外…60万円(50万円)、1年(1年)、30万円×2期(25万円×2期)
- 短時間労働者…40万円(30万円)、1年(1年)、20万円×2期(15万円×2期)
※( )内は中小企業事業主以外に対する支給額
6.特定求職者雇用開発助成金の申請について
特定求職者雇用開発助成金はどのように申請するのでしょう。申請書の作成と必要な書類や申請の手順を説明します。
申請書の作成
全コース共通で必要な書類は、下記のとおりです。(三年以内既卒者など採用定着コース、障がい者初回雇用コースを除く)
- 支給要件確認申立書(共通要領様式第1号)
- 支払方法・受取人住所届(初めて申請する場合、口座に変更がある場合のみ)
- 勤怠状況等確認書
すべての書類はサイトからダウンロード可能です。また各コースによって準備する書類は異なります。
申請の手順
特定求職者雇用開発助成金を申請する場合、どのコースにおいても申請の手順は以下のような流れとなります。
- 求職者を雇い入れる
- 第1期分の支給申請
- 支給申請書の審査
- 第1期分の助成金支給
①求職者を雇い入れる
ハローワークや地方運輸局(船員として雇い入れる場合)、国の認可を受けた有料・無料職業紹介事業者などの紹介による対象労働者を、正社員または無期雇用者として雇い入れます。あわせて雇用保険に加入させ、そして各コースの対象者要件を確認するのです。
②第1期分の支給申請
労働局やハローワークに、第1期分の支給申請に向けて必要書類を提出します。支給申請期間は、雇入れ日(賃金締切日が定められている場合、雇入れ日の直後にある賃金締切日の翌日)から6カ月経過した日から、2カ月以内です。
③支給申請書の審査
支給申請書の記載事項と支給要件は申請先の労働局またはハローワークで審査され、その後、支給または不支給決定の通知書が申請事業主に送付されます。受給決定は、国から助成金の受給ができた信頼ある企業といったイメージにもつながるのです。
④第1期分の助成金支給
事業主指定の金融機関口座に、助成金が振り込まれます。助成期間が1年の場合、1期6カ月の計算は雇入れから最初の賃金締切日の翌日を起算日とするのです。第2期支給以降も支給申請や審査、助成金支給といった同じ手順で申請します。
7.特定求職者雇用開発助成金に関する注意点
ハローワークの紹介以前に雇用の予約があった労働者や、事業主または取締役の3親等以内の親族である労働者などは、助成金の対象に該当しません。そのほかとくに注意が必要なのは支給申請期間です。詳しく見ていきましょう。
支給申請期間
対象労働者を雇い入れてもすぐに申請できません。各期ごと、6カ月間の支給対象期を経過した翌日から、申請が可能になります。
支給申請期間は2カ月。この支給申請期間を1日でも過ぎてしまうと申請できなくなってしまうので注意しましょう。スケジュール管理の徹底が重要になります。
8.特定求職者雇用開発助成金に関する相談窓口
特定求職者雇用開発助成金に関する相談窓口は、各都道府県にあります。助成金の制度内容や具体的な申請手続の方法、申請先について不明点があった際は、ハローワークや各都道府県労働局で直接相談してみましょう。
労働局
労働局ホームページに掲載されている、各エリアを管轄する労働局の所在地一覧を確認しましょう。労働局から直接、電話や書面で助成金の勧誘を行うことは一切ありません。助成金の手続きを勧誘する事業者には、注意が必要です。
ハローワーク
各都道府県にあるハローワークで、助成金の制度内容や具体的な申請手続きなどを相談できます。新型コロナの感染拡大防止のため、ハローワーク窓口のほか郵送とオンラインでの申請や電話での相談受付も行っています。
雇用関係各種給付金申請等受付窓口一覧でチェック
厚生労働省のホームページには、雇用関係各種給付金申請の問い合わせ先と電話番号が都道府県ごとに記載されています。ただし65歳超雇用推進助成金、障がい者雇用納付金制度に基づく助成金については、問い合わせ先や申請書が異なるので注意しましょう。