「差別」というのは、あまり良い印象の言葉ではありません。しかし、「統計」は、仕事を行ったり、対照を分析する際にはとても便利な、どちらかというとプラスの印象のある言葉でしょう。
それでは、「統計的差別」とは、一体どのようなものなのでしょうか。
「統計的差別」とは?
統計的差別というのは、差別を行う意図がなくても、理論的な統計値から物事を判断した結果、差別につながってしまうという事象のことです。
たとえば、厚生労働省の「平成27年賃金構造基本統計調査」(http://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2015/dl/01.pdf)によると、男性の平均賃金が335,100円であるのに対し、女性の平均賃金は242,000円と、大幅な開きがあります。
女性は産休や育休を取得するケースも多く、また、結婚や出産によって退職する場合もあります。これは統計的に見ても事実であり、そのために平均賃金が低くなっていると考えることもできます。
しかし、こうした統計データを元に、「女性は退職する可能性があるため、あまり重要なポストに付けられない」と考えるのは、統計的差別にあたってしまうのです。
理論的に考えるほど統計的差別に陥りやすい
統計的差別を行ってしまう背景には、より企業に貢献してくれる人材を確保したいという、当然の希望があります。
企業にとって、すぐに辞めてしまう人材や、能力値の低い人材を雇うのか、長年勤めあげて企業に貢献してくれる人材や能力値の高い人材を雇うのかというのは、大きな問題です。
しかし、これを判断するデータが、面接や人材採用時に十分に揃っているとは限りません。採用した人物がどのような人間なのかは、実際に一緒に働いてみなければわからないケースも多いでしょう。
そこで、少しでも良い人材を採用するために、「男性か、女性か」「どこの大学を出ているのか」といった情報から、統計的に良い人材である可能性が高い人物を採用することがあります。
これが、統計的差別です。
統計的差別の具体的な事例
統計的差別は、採用時にだけ起こるわけではありません。女性社員に対して、「どうせいつかやめてしまうから」「育休に入る可能性があるから」と、重要な仕事を任せず、いつまでも役職や給与が上がらないまま雇用し続けるというのも、統計的差別に該当します。
ところが、こうした差別が起こると、それによって、社員のモチベーションは下がっていってしまいます。「同程度の能力の男性はどんどん昇進しているのに、いつまでも平社員のまま」「大きな仕事をするチャンスが与えられない」といった不満から、いざ出産となった際に、それをきっかけに会社を辞めてしまったり、転職してしまったりするケースもあります。
企業は、統計的差別によって社員の能力を存分に引きだすことなく離職させてしまうことがないよう、気を配る必要があります。
個々人の能力を正当に評価するシステム作り
統計的差別を起こさないためには、「性別」「学歴」「年齢」といった表面的なレッテルに惑わされることなく、社員の絶対的な能力を見極められる評価制度を作ることが大切です。
具体的な業務遂行能力や、周囲の社員からの評価、上司からの評価などを総合して、個人個人の能力を評価するようにしましょう。正当な評価を受けることで、企業への帰属意識を高め、さらに上を目指していこうというモチベーションにも繋がります。
統計的なデータは、あくまでもそこに属する人物の傾向であって、その人個人の考えや能力とは異なります。全体ではなく、従業員個人に目を向けて、その人のライフプランや働き方の希望、将来のビジョンについて共有していくようにしましょう。