「法定休日」と「法定外休日(所定休日)」はどちらも使用者が労働者に与える休日であるものの、法律での要件や運用方法は大きく異なります。
これら休日は従業員の権利と福祉に直結し、また企業の法的責任にもかかわるため、正確な理解と適切な管理が不可欠です。
この記事では、法定休日と法定外休日の基本やその違い、割増賃金率の計算方法、そして労働基準法にもとづくこれらの休日の管理方法や注意点について詳しく解説します。
目次
1.法定休日とは?
法定休日とは、労働基準法にもとづき、労働者に与えられるべき最低限の休日のこと。法定休日は、従業員の健康と生活の質を守るため、そして過労を防ぐために労基法第35条で規定されています。
使用者は、労働者に「週に少なくとも1日の休日」か、「4週間を通じて4日以上の休日」を与えなければなりません。 企業はこの法定休日を就業規則に明記し、従業員に明確に通知し、守る責任があります。
法定休日を無視したり、適切に提供しなかったりする企業は、労基法第119条により6か月以下の懲役、または30万円以下の罰金が科せられる可能性もあります。したがって、これらの休日の管理は、企業の法的責任を果たすうえで非常に重要です。
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2.法定外休日(所定休日)とは?
法定外休日、または所定休日は、企業が独自に定める休日のこと。法定休日とは異なり、企業の裁量で決定され、就業規則などに定められます。多くの企業では、週末や特定の平日を法定外休日(所定休日)として設けています。
これらの休日は従業員にとって追加の福利厚生を提供する機会となり、従業員のモチベーション向上や生産性の向上、ワークライフバランスの向上に貢献します。
ただし、法定外休日は法定休日と異なり、労働基準法で規定された割増賃金の対象外となることが一般的です。
法定外休日の出勤に関する割増賃金率は企業が自由に設定できるため、就業規則で明確にすることが推奨されます。そして、法定休日と所定休日の合計が年間休日です。
3.法定休日と法定外休日の違い
法定休日と法定外休日の主な違いは、法的な地位と割増賃金の適用です。法定休日は労働基準法によって保証された休日で、従業員にとって権利として扱われます。対して、法定外休日は企業が自由に設定できる休日であり、法的な保証はありません。
法定休日に出勤した場合の割増賃金率は法律によって定められているのに対し、法定外休日の割増賃金は企業の裁量に委ねられているのです。人事労務担当者は両者の区別を正しく理解し、従業員への適切な給与計算と企業の法的リスク管理をする必要があります。
4.法定休日を特定する重要性
労働基準法では、法定休日を特定しなければならないという定めはありません。そのため法定休日を特定しなくても、違法ではないのです。
しかし法定休日を正確に特定し、適切に管理することは、従業員の権利保護と企業の法的責任を果たすうえで極めて重要でしょう。
法定休日の不適切な管理は、労働紛争のリスクを高めるだけでなく、企業の評判にも影響を与えかねません。法定休日が不規則な業務によって変動する場合は、その都度従業員に通知することが重要です。
また休日の特定は、割増賃金の適用や従業員の労働時間管理においても重要な役割を果たすといえます。
そのため企業は、労働基準法に準じた適切な法定休日を特定し、就業規則や労働協定に明記することが求められるのです。これにより、従業員と企業の双方の利益を保護し、円滑な労働関係を維持できます。
5.法定休日・法定外休日出勤時の割増賃金率
法定休日および、法定外休日出勤時の割増賃金率は異なります。法定休日には割増賃金を支払う必要があるので、それぞれの割増賃金率を正しく把握しておきましょう。
法定休日出勤時の割増賃金率
労働基準法によると、法定休日に労働した場合、通常の労働時間に対して35%以上の割増賃金が必要です。割増賃金の適用は、労働者の休息権を保護するとともに、法定休日の出勤を抑制する目的があり、従業員が休日に労働することに対する補償として機能します。
法定休日の割増賃金率は、労働基準法によって最低限度が定められているものの、企業がより高い割増率を設定するのも可能です。
また、割増賃金は重複して発生する場合もあります。深夜業に対する割増賃金は2割5分以上で、休日労働が深夜業となった場合は6割以上(3割5分+2割5分)の割増賃金を支払う必要があります。
企業はこの法律を遵守し、適切な割増賃金を従業員に支払わなくてはなりません。
法定外休日出勤時の割増賃金率
法定外休日に出勤した場合の割増賃金率は、企業で自由に設定できます。これは労働基準法で定められた法定休日の割増賃金とは異なり、企業ごとの就業規則や労働協定で規定されることが一般的です。
法定外休日の割増賃金は、従業員との公平な関係を維持するためにも、この割増賃金率を就業規則に明記することが望ましいです。
労働者のモチベーション維持や法的リスクの管理の観点から、法定外休日の割増賃金率を適切に設定し、就業規則で明確に定義することが重要でしょう。
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6.法定休日・法定外休日の判別方法
法定休日と法定外休日では、休日出勤時の割増賃金率が異なるため、法定休日と法定外休日は区別して取り扱う必要があります。
法定休日と法定外休日の判別は、労働契約・就業規則の定めがある場合、それらの規則にもとづいて行われますが、労働契約・就業規則の定めがない場合、以下の要領で区別します。
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労働契約・就業規則の定めがある場合
労働契約や就業規則に明記されている場合、法定休日と法定外休日はこれらをもとに判別します。労働契約は、雇用時に従業員と雇用主の間で合意された条件を含み、休日に関する具体的な規定が含まれることが一般的です。
一方、就業規則は企業全体の労働条件を定めるもので、法定休日と法定外休日に関する詳細なガイドラインを提供します。
これらの文書では週に1日以上の法定休日の確保が義務づけられており、さらに企業が設定する法定外休日についても明記されている場合が多いです。企業は、これらの文書に従って休日を適切に管理し、従業員に明確な情報を提供する必要があります。
労働契約・就業規則の定めがない場合
労働契約や就業規則に法定休日や法定外休日に関する明確な規定がない場合、一般的に以下の要領で法定休日と法定外休日を区別します。
週1日を法定休日とする場合
週1日を法定休日とする場合、まず起算日を明らかにします。一般的には日曜日から一週間がはじまるという考えで、日曜日を起算日とし、もっとも後ろに位置する休日が法定休日、それ以外の休日が法定外休日となるのです。
土日週休2日制の場合、法定休日はより後ろにある休日となるため、土曜日が法定休日、日曜日が法定外休日と扱われることになります。
4週間を通じて4日を法定休日とする場合
4週間を通じて4日を法定休日とする変形休日制も、労働基準法で例外的に認められています。業態や職種によっては、週1日の休日を確保することが難しい場合、例外的に4週を通じて4日の法定休日を設定するのです。
4週間を通じて4日を法定休日とする場合、「2023年4月1日」「毎年4月の第1日曜日」のように4週の起算日を付与し、4週間を通じて4日以上の休日を与えなければなりません。
また、できるかぎり休日は特定する必要があります。就業規則そのほかこれに準ずるもので4週間の起算日を明らかにする必要があるのです。
7.法定休日の注意点
法定休日を与えないと罰則が科せられる場合もあるため、注意しなければなりません。また、法定休日に勤務させる場合は36協定の締結が必要です。注意点を確認し、適切な運用をしましょう。
年間52日が最低の法定休日数
労働基準法には年間の法定休日数が明示されているわけではありません。労働基準法では、「週に少なくとも1日の休日」か、「4週間を通じて4日以上の休日」と最低限の付与日数が規定されています。
年間の週数は約52週なので各週1回法定休日を付与した場合、年間52日が最低の法定休日数となるのです。
法定休日を与えなかった場合に課せられる罰則
法定休日を与えなかった場合、企業は労働基準法の違反として罰則を受けることになります。これには、罰金や行政指導が含まれ、重大な違反の場合には刑事訴追の可能性もあるのです。
刑事罰の対象となった場合、労働基準法119条1項1号により、行為者は「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」に処されます。
また、36協定が未締結・未届けのまま法定休日労働をさせたり、割増賃金を支払わなかったりする場合も、処罰の対象となるのです。法定休日の遵守は、単に法的要件を満たすだけでなく、労働者の健康と福祉を保護するための基本的な措置といえます。
企業が法定休日を無視すると、労働者の権利侵害と見なされ、企業の信頼性と評判に悪影響を与える可能性も高いです。そのため、企業は法定休日の適切な管理と遵守に努めることが不可欠でしょう。
休日出勤した場合の代休と振替休日
休日出勤が発生した場合、企業は従業員に代休または振替休日を提供することが一般的です。代休と振替休日は混同しやすいものの、労働時間の管理や割増賃金を支払ううえでの取り扱いが異なるため、違いをしっかり押さえておきましょう。
代休と振替休日は任意制度のため、付与する義務はありません。しかしどちらも従業員のワークライフバランスを保ち、過労を防ぐために重要です。付与する場合は就業規則に規定しておくのが適切でしょう。
振替休日に割増賃金の支払い義務はない
振替休日は、従業員が本来の休日(たとえば国の祝日や週末)を予め労働日とし、その休日を別の日に振り替えて与える休日です。
振替休日は通常、休日出勤が予め計画されている場合に適用されます。前もって振り替えている場合は休日労働に当たらないため、割増賃金の支払い義務はありません。つまり休日出勤日に通常の賃金を支払えばよく、振替休日に賃金を支払う必要はないのです。
ただし、法定労働時間が40時間を超える場合、25%以上の割増賃金が発生します。また、振り替えた休日が週をまたがった場合、振替勤務により、当該週の実労働時間が週の法定労働時間を超える場合があるのです。
その場合は時間外労働に対する割増賃金の支払が必要となります。
代休は割増賃金の支払い義務がある
代休は、従業員が定められた勤務時間外、たとえば残業や休日出勤をした際に、その労働時間に相当する休暇を後日与えるものです。代休は、特に予期せぬ残業や急な休日出勤に対して適用されることが多いです。
代休は定められた法定休日に休日労働を行わせた場合ですから、そのあとに代休を与えても休日労働をさせたことが帳消しにされないため、35%の割増賃金を支払う義務があります。
代休の取得は、使用者が指定することもあれば、労働者の申請によって付与することもあります。
法定休日に勤務させる場合は36協定の締結が必要
法定休日に休日労働を命じる場合、事前に一定の労使協定書(「36協定」とも呼ばれます。)の締結・届出が必要です。
36協定を未締結で休日労働をさせることは法律違反となり、労働基準法第119条により6か月以下の懲役、または30万円以下の罰金が科される可能性もあります。
また、法定外休日(所定休日)は休日労働には該当しませんが、時間外労働に該当する可能性があります。時間外労働には25%の割増賃金の支払い義務が発生するため、休日の労働が予想される場合には36協定を締結しておくべきです。
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必要就業規則に規定しておくべき事項
法定休日には、35%以上の割増賃金を支払う必要があります。よって就業規則に、法定休日の数、割増賃金の規定、休日の変更や振替に関するルールなど法定休日に関連する具体的な事項を明確に記載しなくてはなりません。
また、緊急事態や特別な状況下での休日の取り扱いに関するガイドラインも必要です。これらの規定を明確にすることで、従業員は自身の権利と義務を理解し、企業は法的なコンプライアンスを保証できます。
就業規則にこれらの事項を適切に組み込むと、労働者との明確なコミュニケーションを促進し、労働紛争の予防にもつながります。従業員の福祉を尊重し、法的義務を遵守するためにも、企業にはこれらの事項を適切に管理することが求められるのです。