睡眠負債とは、睡眠不足の蓄積によって心身に不調をきたす状態のことです。ここでは睡眠負債がもたらす症状や原因、解消方法などについて解説します。
目次
1.睡眠負債とは?
睡眠負債とは、日々積み重なった睡眠不足が蓄積して心身に支障をきたす状態のこと。まさに「睡眠の借金」であり、厚生労働省の調査によれば国民全体の約2割、30~40代の3人にひとりが睡眠負債を抱えているといわれています。
「1日2日の睡眠不足は気にしない」人も多いでしょう。しかしこれが続くと疲れやだるさを感じやすくなったり、日中強い眠気を引き起こしたりします。
睡眠をお金に置き換えてみるとわかりやすいでしょう。不足は「手持ちのお金が足りず貸しを作ったことになるが、すぐに返済できる」状態といえます。しかし負債は「借金に借金が続いて返すあてがなくなる」状態なのです。
2.睡眠負債チェックリスト
睡眠負債を抱える人の多くは、自分自身が睡眠負債にあると感じていません。しかし以下の項目に複数当てはまる人は、睡眠負債を無自覚に抱えている可能性もあるため注意が必要です。
- 日中も眠気がある
- つねに寝覚めが悪い
- 体調を崩すことが増えた
- イライラしやすくなった
- なんとなく全身がだるい
- 鬱々としておりやる気が出ない
- 最近太りやすいと感じる
3.睡眠負債がもたらす症状
睡眠負債は単に日中眠気を引き起こしたり、集中力を低下させたりするだけではありません。下記のようなさまざまな病気に関連しているといわれているのです。
- 肥満
- 感情が不安定になり鎮静しにくい
- 免疫機能の低下
- 認知機能が低下する
- 高血圧や糖尿病など生活習慣病のリスクが増加
①肥満
体脂肪が過剰に蓄積した状態のこと。健康時、人間のからだのなかでは食事によってとりこまれた栄養素を全身の臓器で利用できるよう「インスリン」がコントロールします。
しかし睡眠が不足するとインスリンの流れが乱れ、栄養素をうまく分解吸収できません。これが肥満の引き金になります。
ほかにも食欲を抑制するレプチンの分泌が低下し、反対に食欲増進ホルモンのグレリン分泌が増え、食欲はさらに増加。睡眠時間と肥満は決して無関係ではないのです。
②感情が不安定になり鎮静しにくい
人間の睡眠は「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」のふたつがあります。いわゆる「ストーリー性のある夢を見た」という記憶はレム睡眠中のもの。
また夢のなかに現実で見聞きした要素があらわれるのは、それによって記憶を整理したり定着させたり、感情を鎮静化させたりするためです。
しかし睡眠が不足するとレム睡眠の時間が短くなって感情や記憶が整理しきれず、ネガティブな情動が残ったり判断力や認知力が低下したりするのです。
③免疫機能の低下
免疫機能とは、細菌やウイルスなど、自分の体にもともと存在しないものから身体を守る仕組みのこと。この免疫機能には副交感神経と強いつながりがあります。
副交感神経は、免疫機能を正常化したり内臓の機能を高めたりなど、おもに身体を回復させる神経で、優位に働くのはおもに夜間のリラックスしているタイミングです。
つまり睡眠不足によって副交感神経の活動が弱まると、身体を回復させるシステムの動きが低下し、その結果免疫機能が低下します。「睡眠不足が続くと風邪をひきやすくなる」といわれるのはこのためです。
④認知機能が低下する
睡眠負債は認知能力(記憶や理解、判断や論理などの知的機能全般)も低下させます。認知機能障害の代表的なものとして挙げられるアルツハイマー型認知症。その原因といわれている物質、アミロイドβは熟睡中に除去されるものといわれているのです。
慢性的な睡眠不足によって、本来除去されるはずの物質が沈着。「睡眠不足によって記憶力や判断力などの認知能力が低下する」のはアミロイドβが蓄積している状態であり、場合によってはアルツハイマー型認知症の早期発症を引き起こす原因にもなります。
⑤高血圧や糖尿病など生活習慣病のリスクが増加
先に述べた「インスリン」の作用は高血圧や糖尿病にも影響します。
- 高血圧:安静状態での血圧が慢性的に高い状態
- 糖尿病:インスリンの分泌や働きに障害が起きて血糖値の高い状態が続く病気
インスリンの活力低下は肥満を引き起こすだけでなく、肥満から高血圧、糖尿病につながるおそれもあります。いずれも原因は睡眠不足による副交感神経の不活性化です。この状態が慢性化すると、脳梗塞や心筋梗塞などのリスクを高めます。
4.睡眠負債を抱える原因
睡眠負債の原因はひとつではありません。仕事と家事の両立、育児や介護、長時間通勤やそれにともなう夜型の生活など、日常生活を送るうえで避けて通れない要因が複数絡み合って睡眠負債を引き起こすのです。
OECD(経済協力開発機構)のデータによれば、日本人の睡眠時間は平均を大きく下回り、加盟国のなかでももっとも短くなっています。
また令和元年に厚生労働省が実施した「国民健康・栄養調査」によると、男性30~50代および女性40~50代の約半数は6時間未満の睡眠時間であると報告されています。
なお60歳までの成人に推奨されている睡眠時間は7時間以上。つまり働く世代の多くが自覚の有り無しにかかわらず、睡眠負債を抱えている可能性が高いのです。
参考 令和元年国民健康・栄養調査報告厚生労働省5.睡眠負債を解消する方法
睡眠負債はもはや他人事ではありません。「心身に不調は生じていないが、前述の睡眠チェックリストに複数チェックをつけた」人は、一度生活習慣を見直してみましょう。ここでは睡眠負債を解消する方法を4つ、説明します。
- カーテンを開けて睡眠
- 自分にとって必要な睡眠時間を毎日確保
- 寝る前のテレビや電子機器の使用を自制
- 食事や入浴は眠る2時間以上前
①カーテンを開けて睡眠
睡眠をはじめ、身体のさまざまな生体リズムを調整する仕組みを「体内時計」といいます。体内時計が乱れると望ましいタイミングで寝起きできなくなり、そこから睡眠負債につながるのです。
この体内時計は光によってリセットされるため、夜遅くまで明るい環境下で活動し、朝遅い時間まで寝て太陽の光を浴びる時間が遅れると、体内時計は乱れてしまいます。このリズムを整えるために必要なのが、毎朝決まった時間に起きて日の光を浴びる方法です。
難しい場合はカーテンを開けたまま眠りにつき、強制的に日の光を浴びるとよいでしょう。
②自分にとって必要な睡眠時間を毎日確保
「理想的な睡眠時間は8時間」といわれているものの、必要な睡眠時間は年齢や体質などさまざまな要因によって異なります。「自分が日中眠気を感じずに集中力を保てる睡眠時間は何時間か」を認識して、生活リズムを安定させましょう。
睡眠時間は長ければ長いほどよいわけではありません。また休日に一日中寝て睡眠不足を補おうとする「寝だめ」も、失われた睡眠は取り戻せません。かえって生活リズムを崩し、悪循環に陥る可能性もあります。
③寝る前のテレビや電子機器の使用を自制
寝る前のテレビ視聴やスマーフォンの利用なども睡眠負債を引き起こす要因のひとつ。テレビやパソコン、タブレットなどの電子機器画面から発せられるブルーライトは脳を刺激し、寝る前であっても昼であるかのように錯覚させます。
とくに寝る前のスマートフォン操作による睡眠障害は若年層に多く見られ、厚生労働省も注意を呼びかけているのです。
どうしても使う場合は画面の明るさを抑えたり、ブルーライトをカットするめがねや保護フィルムなどを使用したりするとよいでしょう。
④食事や入浴は眠る2時間以上前
質のよい食事や入浴を意識する際は、その時間帯を意識しましょう。寝る直前の食事は身体が睡眠よりも消化を優先させるため、睡眠の質を下げる可能性があります。
さらに必要以上のエネルギーを体内に蓄えてしまうため食事は寝る3時間前までに済ませるのが理想です。
また入浴によるリラックス効果で副交感神経を高めて睡眠負債を回避するのも方法のひとつ。しかし眠気がくるのは入浴の1~2時間後、体内深部の温度が下がるタイミングです。入浴も寝る直前ではなく、遅くとも1時間以上前に済ませておくとよいでしょう。