社会保険義務違反の罰則とは?人事労務担当者必見の加入条件と対応策

企業の人事労務担当者として、社会保険加入義務を正しく理解していますか。2024年10月の適用拡大により、従業員51人以上100人以下の企業のパート・アルバイトにも社会保険加入義務が課されるようになりました。この義務を怠ると、遡及徴収だけでなく罰金や懲役といった厳しい刑事罰の対象となる可能性もあります。

また近年、従業員からの内部告発による未加入発覚も増加傾向にあります。本記事では社会保険加入の法的義務と違反時のリスク、そして実務担当者が知っておくべき対応策を詳しく解説します。

社会保険加入は法律で定められた企業の義務

オフィスでのビジネスパーソンの集合写真
社会保険は企業が加入義務を負う重要な制度です。本節では、社会保険の基本的な種類や企業の加入条件について解説します。健康保険や厚生年金保険といった「社会保険」と、労災保険や雇用保険を含む「労働保険」の違い、それぞれが提供する保障内容、そして企業形態によって異なる加入義務について理解を深めていきましょう。

また、強制適用事業所と任意適用事業所の区分や、2024年10月から始まる社会保険適用拡大についても触れ、人事労務担当者として知っておくべき最新の社会保険制度の全体像を把握できるようにします。

社会保険の種類と企業が加入すべき制度

社会保険とは、企業と従業員がともに加入する公的な保障制度で、主に4種類に分けられます。健康保険と厚生年金保険は「社会保険」、労災保険と雇用保険は「労働保険」と呼ばれますが、これらを総称して社会保険と呼ぶこともあります。

健康保険は医療費負担の軽減、厚生年金保険は老後の所得保障、労災保険は業務上の災害補償、雇用保険は失業時の生活保障を目的としています。

企業が加入すべき制度は事業形態によって異なります。個人事業所でも、製造業や物品販売業など16業種で常時5人以上の従業員がいる場合は強制適用です。また労働保険については、従業員を1人でも雇用していれば、事業規模や業種を問わず原則として加入義務があります。

社会保険加入は事業主の法的義務であり、適切に手続きを行わないと従業員の将来的な保障に影響を与えるだけでなく、法的なリスクも生じることになります。

強制適用事業所と任意適用事業所の違い

社会保険の加入義務は事業所の種類によって明確に区分されています。株式会社や合同会社などの法人はもちろん、個人事業主でも製造業や運送業など法定16業種を営み、常時5人以上の従業員がいる場合は強制適用事業所となります。

一方、任意適用事業所は社会保険に任意で加入できる事業所です。従業員が5人未満の個人事業主や、飲食業・美容院などの適用外となる業種の個人事業主が該当します。任意適用事業所が社会保険に加入するには、従業員の半数以上の同意を得た上で「健康保険・厚生年金保険 任意適用申請書」を年金事務所に提出する必要があります。

強制適用事業所は企業の経営状況に関わらず社会保険への加入を継続しなければなりません。社会保険の適用範囲は拡大傾向にあり、2024年10月からは従業員数51人以上の企業にまで適用範囲が広がったため、最新情報の確認が重要です。

区分 該当条件 社会保険加入義務
強制適用事業所 株式会社や合同会社などの法人、または法定16業種で従業員5人以上の個人事業主 義務あり(経営状況に関わらず継続必要)
任意適用事業所 従業員5人未満の個人事業主、法定16業種以外の個人事業主 義務なし(従業員の半数以上の同意で加入可能)

2024年10月からの適用拡大で51人以上の企業も対象に

2024年10月から社会保険適用の範囲が大きく広がりました。従業員数51人から100人の企業等で働くパート・アルバイトの方々が新たに社会保険の適用対象となるのです。

この従業員数のカウントは厚生年金保険の被保険者数を基準とし、正社員だけでなくパート・アルバイトも含めた総数で判断されます。具体的には、12か月のうち6か月以上基準を超えることが見込まれる場合は適用対象です。法人の場合は法人番号が同一の全事業所の従業員数を合計します。

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社会保険加入対象となる従業員の条件

飲食店で働く女性スタッフ
社会保険加入対象は雇用形態によって異なります。以下では正社員とパート・アルバイトの加入基準、短時間労働者の加入条件、さらに業種別・雇用形態別の例外ケースについて詳しく解説します。

2024年10月からの社会保険適用拡大で従業員数51人以上の企業も対象となる重要な変更点も含め、社会保険義務の順守に必要な判断基準を理解しましょう。正しく社会保険の加入手続きを行うことは、罰則を回避するだけでなく、従業員の福利厚生を守るために欠かせない企業の責務となっています。

正社員とパート・アルバイトの加入基準の違い

正社員とパート・アルバイトでは社会保険加入条件に明確な違いがあります。正社員は原則として全員が社会保険の加入対象ですが、パート・アルバイトは勤務条件によって判断が分かれます。

まず、パート・アルバイトでも「正社員の3/4以上の労働時間・日数」で働く場合は、雇用期間が2か月以上見込まれれば加入対象となります。重要なのは「一時的」ではなく「常時」その条件を満たすことで、繁忙期だけシフトが増えた場合は対象外です。

一方、3/4未満の勤務でも「106万円の壁」と呼ばれる基準を満たせば加入対象となります。具体的には、週20時間以上勤務、月額8.8万円以上の賃金、2か月超の雇用期間見込み、従業員51人以上の企業(または労使合意のある50人以下の企業・公共団体)で働き、学生でないという5条件すべてを満たす必要があります。

区分 正社員の3/4以上基準 106万円の壁基準
対象者 すべての企業のパート・アルバイト 主に51人以上の企業のパート・アルバイト
労働時間 正社員の3/4以上 週20時間以上
賃金 問わない 月8.8万円以上
雇用期間 2か月以上 2か月以上
その他条件 なし 学生でないこと

週20時間以上・月額賃金8.8万円以上など短時間労働者の加入条件

短時間労働者が社会保険の対象となるには、明確な条件を満たす必要があります。2024年10月からは従業員数51人~100人の企業で働くパート・アルバイトにも適用が拡大される点が重要です。

具体的な加入条件は4つあります。まず週の所定労働時間が20時間以上であることです。この時間は契約上の労働時間を指し、臨時の残業時間は含まれません。ただし実労働時間が2か月連続で週20時間を超えた場合は、3か月目から加入義務が生じます。

次に所定内賃金が月額8.8万円以上であることです。これは基本給と手当の合計額で、残業代や賞与、通勤手当などは含みません。

さらに雇用期間が2か月を超える見込みがあること、そして学生でないことも条件です。

業種別・雇用形態別の例外ケースと判断基準

特定の業種や雇用形態によって、社会保険加入義務の例外や特例が設けられています。

例えば、建設業では災害時の復旧・復興事業において、時間外労働の上限規制に特例があります。自動車運転業務(ドライバー)は、年間の時間外労働上限が960時間と一般より緩和されているのです。医師については、時間外・休日労働の上限が最大1860時間まで認められる場合があります。

また、雇用形態による特例としては、高度専門職(年収1,075万円以上で特定の専門知識を有する有期雇用労働者)は、5年を超える一定期間内のプロジェクト業務中は無期転換申込権が発生しないという例があります。同様に、定年後の継続雇用の高齢者も、特定条件下で無期転換申込権が発生しない場合があります。

これらの特例適用には、事業主が適切な雇用管理計画を作成し、都道府県労働局長の認定を受けるなどの手続きが必要です。社会保険義務の判断に迷う場合は、最寄りの年金事務所や労働基準監督署に相談しましょう。

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社会保険未加入のリスクと罰則

パソコンと電卓を操作しながら書類を確認するビジネスパーソンの手元
社会保険への加入義務違反は企業にとって深刻なリスクをもたらします。ここでは、未加入が発覚した場合の具体的な罰則や財政負担、発見されるケースについて詳しく解説します。

年金事務所による強制加入と過去2年分の遡及徴収、従業員との保険料折半の原則が崩れるケース、厳格化する調査の実態など、人事労務担当者が知っておくべき重要ポイントを紹介します。社会保険義務違反の結果として生じる懲役刑・罰金刑や行政処分の詳細、内部告発のリスクなど、企業が直面する可能性のある問題とその対応策について理解を深めましょう。

社会保険料の徴収と厳格化する調査の実態

社会保険の未加入が発覚した場合、年金事務所によって強制加入となり、過去2年間に遡って保険料が徴収されます。この遡及徴収は企業にとって大きな財政負担となります。特に注意すべきは、社会保険料が給与だけでなく賞与からも徴収される点です。

通常、社会保険料は会社と従業員で折半するのが原則ですが、遡及徴収では退職した従業員分の回収が困難で、企業が全額負担するケースが少なくありません。また、納付期限を過ぎると未納額に応じた延滞金が発生し、金額が大きいほどペナルティも増加します。

社会保険未加入の事業所はハローワークでの求人募集ができなくなるなど、実務上の制限も生じます。近年、社会保険事務所による調査は厳格化しており、企業は社会保険義務を正しく理解し、該当する場合は速やかに手続きを行うことが重要です。

罰則規定と違反時の刑事罰・行政処分の詳細

社会保険加入義務に違反した場合、厳しい罰則が待ち受けています。健康保険や厚生年金保険では6か月以下の懲役または50万円以下の罰金、雇用保険や労災保険では6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります。

加えて、社会保険未加入の事業所には行政処分も課されます。事業の種類によっては、事業停止処分や許可取消処分といった厳しい措置が取られることもあるのです。特に運送業では、社会保険未加入の場合、自動車の使用停止処分などの行政処分が科されます。

さらに悪質なケースでは、事業者名が公表されるリスクもあり、企業イメージを大きく損なう結果となります。

このような厳しい罰則を避けるためにも、社会保険加入義務を適切に果たすことが企業としての責務です。

社会保険種類 刑事罰
健康保険・厚生年金 6か月以下の懲役または50万円以下の罰金
雇用保険・労災保険 6か月以下の懲役または30万円以下の罰金

未加入が発覚するケースと内部告発のリスク

社会保険の未加入が発覚するケースは多岐にわたります。最も多いのは年金事務所による立入調査です。特にパート・アルバイトなどの短時間労働者の加入漏れは重点的にチェックされます。週30時間、月130時間を超える労働時間で働く従業員がいる場合は特に注意が必要です。

近年増加しているのが従業員自身による内部告発です。「社会保険には入りたくない」と本人が希望していても、条件を満たせば加入は法的義務であり、選択の余地はありません。退職後に従業員が「本来加入すべきだった」と気づき、通報するケースも少なくないのです。

また、医療機関からの通報も発生しています。業務上の負傷や疾病で受診した際、労災保険を使用せずに健康保険で処理しようとすると、医療機関が不審に思い労働基準監督署に連絡するケースがあるのです。

未加入が発覚した場合、懲役刑や罰金のリスクだけでなく、過去の保険料の遡及徴収に加えて延滞金も発生します。企業の信用問題にも発展するため、社会保険義務はしっかりと順守すべきです。

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社会保険加入手続きと企業の実務対応

「保険」と書かれたブロックと電卓、ペン、ノート、スマートフォン
社会保険の加入手続きと保険料計算は企業の人事労務担当者にとって重要な実務知識です。ここでは、社会保険加入に必要な具体的な手続きのステップと、保険料の正確な計算方法について解説します。

事業主が守るべき期限や必要書類の詳細、そして社会保険料の算出方法や従業員との負担割合まで、社会保険義務を適切に履行するために必要な実務知識を網羅的に紹介します。これらの正しい理解と運用が、企業の法的リスク回避につながります。

加入手続きの流れと必要書類の準備

社会保険の加入手続きは、一連の流れに沿って進めましょう。まず、事業主は加入事由発生から14日以内に届出を行う必要があります。これは法律で定められた期限であり、遅延すると後々トラブルの原因となります。

手続きに必要な書類は主に以下の3種類です。
①マイナンバー確認書類(マイナンバーカードや通知カードなど)
②本人確認書類(運転免許証やパスポートなど。写真付き身分証明書が1点、または写真なし証明書が2点必要)
③加入事由別の書類(職場の健康保険をやめた場合は資格喪失証明書など)

加入手続きは年金事務所や健康保険協会の窓口で行いますが、最近では郵送での受付も可能になっています。ただし、書類に不備があると受付されないため、事前に内容を十分確認しましょう。

なお、加入の届出が遅れると、資格発生日まで遡って加入となり、保険料も遡って納める必要があります。また、その間の医療費が自己負担となるリスクもあるため、期限内の手続きが非常に重要です。

社会保険料の計算方法と従業員・企業の負担割合

社会保険料の計算方法は、保険の種類によって異なります。

健康保険料と厚生年金保険料は「標準報酬月額」に保険料率を掛けて算出します。例えば、健康保険料は「標準報酬月額×健康保険料率」で計算し、その半額を従業員が負担します。厚生年金保険料も同様の計算方法で、2017年9月以降の保険料率は18.30%で固定です。

注目すべきは、これらの社会保険料は毎月の給与だけでなく、賞与からも天引きされる点です。賞与に対する保険料は「標準賞与額×保険料率÷2」で計算されます。社会保険料率は種類や居住する都道府県によって変動するため、人事労務担当者は最新の保険料率情報を常に確認しておく必要があります。

適切な計算と納付を行うことで、社会保険義務違反のリスクを回避できるでしょう。

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まとめ

パソコンを開きながら目の前の男性2人に説明する女性ビジネスパーソン
企業における社会保険の加入は法的義務であり、2024年10月からは従業員51人以上の企業にも適用が拡大されました。一般的に週20時間以上働く従業員は加入対象となり、事業主には加入手続きの責任があります。

未加入は罰則や立入検査などのリスクをともなうため注意が必要です。適切な加入手続きには事業所整理記号の取得や被保険者資格取得届の提出などが求められます。企業は従業員の雇用形態や労働時間を適切に把握し、法令順守のための実務対応を進めましょう。

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