社内失業とは労働者が正社員として企業に在籍しているにもかかわらず、仕事を失っている状態を指す言葉です。そんな社内失業について、詳しく見ていきましょう。
目次
1.社内失業とは?
社内失業とは、労働者が正社員として会社に在籍しているものの仕事がない状態のこと。社内失業と類似する言葉に「社内ニート」や「窓際族」などがあり、こうした状態にある人のことを「社内失業者」といいます。
会社にいれば何かしら仕事があるのが普通ですが、社内失業者の場合、会社にいてもやるべき仕事がないため、社内で時間を持て余してしまうのでます。
2.社内失業の実態、現状
人材採用・入社後活躍支援のエン・ジャパンが運営サイトを利用する企業を対象として行った調査によると、「現在、社内失業状態の社員はいますか?」という質問に対して「いる」が23%、「いる可能性がある」は17%でした。
企業規模で見ると、1,000人以上の企業が41%、業種別ではメーカーが28%とそれぞれ最多となりました。また社内失業者の属性とそれぞれの最多を見ると、年代は50代が57%、役職は一般社員クラスが80%、職種は企画・事務職が46%でした。
3.社内失業はなぜ生じるのか? 背景にあるもの
社内失業が生じる背景には、年功序列と終身雇用制度があります。企業は自らの都合で簡単に社員を解雇することができません。一度雇った社員はこれらの制度によって半永久的に雇用する必要があるのです。
また社員は、年齢を重ねるごとに昇進・昇給するため、スキル不足でも給与の高い管理職に登用されます。結果として、現場の作業を忘れているにもかかわらず賃金が高い、成長を目指さない社員が一定数存在してしまうのです。
4.社員が社内失業となる理由
正社員として雇用された社員が社内失業となる理由は何でしょうか。
社員のスキル不足
前述の調査によると、社内失業者が発生する要因の最多は当該社員の能力不足(70%)。グローバル化が急速に進む現代、学ぶ意欲のない社員やスピードに対応できない社員が会社の役に立ち続けることは困難です。
個々の成長スピードが会社の成長スピードに追い付けなくなったとき、社内失業が発生します。これはベテラン社員でも若手新入社員でも同じです。
社員の異動先がない
次いで多かったのが当該社員の異動・受け入れ先がないといった理由です(51%)。配置転換を実施しようにも新業務に必要なスキルと本人が持つスキルが一致しない、そもそも異動できる部署そのものがない場合、社内失業者になってしまいます。
これらは労働者側の原因や理由だけでなく、異動、受け入れ先をつくることのできない企業側の体制に問題があるのかもしれません。
人間関係
社内失業の原因のひとつに挙げられるのが社内の人間関係です。約26%が「職場での人間関係が悪い」と回答しました。
多忙な職場では一般社員も上司も余裕がなく、コミュニケーションが不足しがちです。その結果ますます人間関係が悪化し、社内失業者を生んでしまう例もあります。
ビジネスライクに考えることが理想的ですが、「嫌いな人に仕事を任せたくない」という思いから社内失業につながってしまうことがあるのです。
5.社内失業によって起こる問題、課題
ここでは、社内失業によって起こる問題や社内失業者の課題などを見ていきます。
効率の悪さ
業務に対して社員の能力が低く、仕事を任せることができない社内失業者に対して、会社側は何もしないで放置していることが多いとされています。
仕事を任せられないという理由だけで解雇などの扱いをすると不当解雇として争う可能性があるため、面倒ごとを避けるために放置しているのです。結果、当該社員は仕事をだらだらとこなすようになり、効率が悪くなってしまいます。
モチベーションが下がる
社内失業者はやがて諦める、もしくは何もしなくても給料はもらえるといった意識になっていきます。「会社に必要とされていない」という自己認識が強く、著しくモチベーションが低い傾向にあるのです。
それを見たほかの社員が「自分が頑張ることは損なのかもしれない」と考えてしまうことは必然でしょう。結果として、全社のモチベーションが下がってしまうのです。
業績低下
業務効率の悪さといった物理面、モチベーションの低下といった精神面、これら2つの要因が業績低下を招きます。
社内失業者を放置したままにはできないが具体的な解決策が見つからない、その結果他の社員のモチベーションが下がっていく、といったように次から次へと問題が発生し、負のスパイラルに陥ってしまうのです。
6.企業ができる社内失業への対策、対処法
社内失業に対して企業はどう対応していけばよいのでしょうか。マネジメント層ができることは大きく分けて3つあります。
- キャリアを発展させるチャンスを与える
- 会社と個人の関係性が変化しているという「真実」を伝える
- キャリアパスを考えるチャンスを与える
教育、人材育成
前述したエン・ジャパンの調査によれば、社内失業者がいる(もしくはいる可能性がある)と回答した企業のうち35%が「該当社員への教育が必要である」と回答しました。
また2011年に独立行政法人労働政策研究・研修機構が発表した調査によれば、若手の育成が「うまくいっていない」と答えた企業は3割強に上ります。
企業側は、学習に使った金額を一部補助するなどして、直接、間接を問わず社内失業者が再び復帰できるよう、人材育成につながるサポートを行いましょう。
認識の変更
かつて日本では職業人生の設計を会社や人事部が行ってきました。会社の一員として属していれば自動的に昇格、昇給が約束されていたのです。しかし今や会社が終身雇用を保障できるか分からない、終身雇用制度が崩壊しつつある時代になっています。
社員は企業の一部であるという考えから、企業に属している個の集合体といった認識に改めてもらう必要があるでしょう。どこでも通用するにはどうしたらよいのか、どんなスキルが必要なのか、と自分で考える意識に結び付けることが大切です。
給与体系や職階の見直し
社内失業者が「会社は仕事をしない人に対しても仕事を頑張っている人と同じだけの給料をくれる」と考えて、自らの改善を望まない場合があります。
これは仕事を頑張っている人から見れば「頑張り損」です。会社が社内失業の対策を講じないと社内全体のやる気やモチベーションが低下するでしょう。
現在進行している業務量に見合った給与となるよう給与体系や職階などを見直して、適切な配置ができるよう取り組む必要があります。
副業解禁などキャリアアップの促進
会社で副業が認められている場合、副業を勧めてみるといった方法があります。副業を通じて会社に有益な情報を得て、本業に相乗効果を生み出すことも期待できるでしょう。
会社が副業や異動など、キャリアを発展させる機会をつくり、社内失業者が新たに取り組むステージを増やすよう働きかけることも有効です。
社内失業者が、ある上司との人間関係の悪化で社内失業状態にあったが、異動や配転によってやる気とモチベーションを取り戻すことができた、というケースは決して珍しいものではありません。
キャリアパスへの支援
「残りの人生をどう歩んでいきたいのか」「今後どうしたいのか」など、社員が自らの最終的なキャリアパスを考える機会を設けることも有効です。業績向上に対する動機が薄い人が「社内失業のほうが楽して稼げる」と思ってしまうのも無理はありません。
人生について考えることが難しければ、自分が最もやりがいを感じる社会課題は何か、考えてみるとよいでしょう。会社側が、これらを複数で考えたりどのように考えるとよいかを理解するためのセミナーを実施したりすれば支援にもなります。
退職制度の充実
中には社外での活躍を望む社内失業者もいます。企業はそんな社員がいつでも動き出せるよう退職制度を充実させることも必要です。
終身雇用を是としてきた日本企業でも近年、早期退職優遇制度が一般化してきました。希望する社員は退職金の割増しや再就職の支援などを受けられる場合があるのです。
早期退職を活用できればキャリアを伸ばす上で、貴重な追い風になります。日々社外との接点を持ち、普段から社内評価より市場価値に軸足を置いて、自らの選択肢を増やしておきましょう。
小さな組織を構築し、自発性を促す
前述の調査によれば、組織の人数が多いほど受動的な人員が増え、社内失業につながる可能性が高まります。企業規模が大きくなればなるほど「隠れる場所ができる」からです。
そこで効果的なのが組織を細分化して自発性を促すこと。たとえば、1チームを20人から5人にすれば必然的に自分も表に出て行動するしかないため隠れる場所がなくなります。所属したメンバー誰もが自発性を促せるようにすると、社内失業を防止できるのです。
7.もし社内失業になったら? 過ごし方
もしも組織に属する「個」が社内失業になったら、どのような対策を講じればよいのでしょうか。
転職する
社内失業に陥った際、「自分の能力が至らないせいだ」「自分は社会から必要とされていないのではないか」と思い悩みがちです。
本人の実力不足といったケースも否めません。しかし、仕事のマネジメントがうまくいっていないなど会社が原因となるケースがあることも事実です。
自分の能力と市場価値を相対的に把握して、社外に活躍できるところを見つけるのもよいでしょう。今の会社で再起を図るより転職したほうが、環境的にも精神的にも効果的である場合もあります。
退職する
転職するかはさておき、一旦退職して休息を取ったり勉強し直したりすることも効果的です。社内失業によって社内で孤立し、人脈も業績もつくれないといった負のスパイラルに陥り、結果としてうつ病を発症してしまったといったケースも珍しくありません。
社内失業の多くは40~50代ですが、20~30代にも社内失業者が見られます。一旦その環境を離れて別のコミュニティに属しながら刺激を与え合ったり仲間をつくったりして、新たな門出に向けた準備を進めましょう。
リカレント教育や資格の取得
社内失業にはリカレント教育や資格の取得も効果的です。リカレント教育とは学校を卒業し就職した後も必要に応じて教育を受けること。
海外では、就職して積み重ねたキャリアを一旦中断して大学などの高等教育機関に戻り、その後またキャリアを再開させるライフコースが出来上がっています。
社内失業状態でも、会社にいるうちに改めて業務に必要な資格を取得したり、将来携わりたい仕事に関する専門性やスキルを高めたりしておくとよいでしょう。
整理整頓
企業に在籍しながらやることがない、仕事がないときは、普段できない雑務に取り掛かるチャンスでもあります。
一旦周囲を見渡して隅々まで観察してみましょう。「落ち着いたら整理するはずだった資料」や「慌ただしくて処分できなかった備品」などがあるかもしれません。文房具や備品の整理整頓や補充、デスクの清掃などを進めてみましょう。
身の回りの整理整頓を進めるうちにないがしろにしていた業務やフォローアップを行ったほうがよい仕事が見えてくる可能性も高いです。
SWOT分析や3C分析を実施する
現代社会において一生続けられる職場や仕事はほとんどないといわれていますが、営業や企画、オペレーションなど、どんな職種に就いていても通用する汎用的なビジネススキルはあります。
SWOT分析や3C分析など各種フレームワークを用いて、現状を把握しましょう。
強み、弱み、機会、脅威の4つの視点から経営戦略や事業計画の現状分析を行うSWOT分析では、将来にわたって企業が抱える問題の分析や企業戦略目標、施策の設定などの思考を深めることができます。
SWOT分析とは? 目的、分析の具体例、やり方を図解で簡単に
SWOT分析とは事業戦略の検討の場面でよく利用されるフレームワークの一つです。
そこで、
SWOT分析とはなにか?
SWOT分析の目的
SWOT分析の基本や作成方法
SWOT分析を用いた戦略の立て方...
スキルの棚卸し
落ち着いた時間を活用して自分が今持つスキルを棚卸しし、新たに獲得したいスキルや伸ばしたい専門性などを見出すことも必要です。
活かしきれていないスキルが実は市場で不足しているスキルだった、既存スキルを伸ばすことでさらに需要のある資格に成長できた、などが可能になります。
転職サイトや転職エージェントサイトなど、会社とは全く異なるコミュニティを活用して自分との相対的な違いを理解したり、第三者からのアドバイスを受けてみたりするとよいでしょう。
工夫を習慣化する
それまで携わっていた仕事がなくなったとしても、仕事が目の前にあると仮定して「どうしたらさらによくなるか」「違う側面からアプローチできないか」など試行錯誤することを習慣化してみましょう。
決まりきったオペレーションを少しだけ変えてみることも効果的です。たとえばメールの書き方を結論から書き始めるよう変えてみたり、会議主催時にあらかじめアジェンダを決めて共有したりと自分のできる範囲で少しずつ積み重ねていきます。
これらはやがて、新しい知識やスキルを身に付ける意欲や学び直しの機会になり得るでしょう。