社是とは? 読み方、社訓・経営理念との違い、浸透方法

社是とは会社の経営方針のことです。混同されやすい社訓との違い、定める際のポイント、社内に浸透させる方法などを紹介します。

1.社是(しゃぜ)とは?

社是とは、経営上の方針またはその主張を表す言葉で、具体的には会社の経営理念をもとに、経営方針を分かりやすい言葉で表現した、その会社において最も重要なもののこと。社会における会社の存在意義を明確にし、また会社の経営の方向性を、全社員に浸透させる目的があります。

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2.社是と経営理念・社訓の違い

社是を考える際は、経営理念についてよく理解しておく必要があるでしょう。経営理念を考える意義、また社是と混同しやすい、「社訓」「ビジョン」「スローガン」「クレド」などの違いについて説明します。

経営理念とは?

経営理念とは、企業の経営や活動における基本的な価値観や精神、信念、考え方、企業の存在意義などを示すもので、どういった目的を持ってその企業を経営しているのか、何のために経営しているのかなどを表現しています。

会社にとって大切にする根本的な考えや想いなので、多くの場合、企業の経営者が考えます。一方の社是は、会社の経営上の方針またはその主張を表す、つまり社員が労働する上で正しい方向、正しい姿勢を示す、いわばコンパスのようなものです。

社是は、社員の士気を高めると同時に、社会での企業価値を高めます。そうした社是の土台ともなる経営理念は、経営陣の考えを明確にするだけでなく、目的の確立も重要でしょう。

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経営理念は、売り上げを高めるために示すものではありません。確かに、しっかりとした経営理念を社会に公表している企業には、業績がよいという傾向があります。だからといって経営理念を定めるだけで売り上げがアップするわけではありません。

大切なのは、企業の経営者が己の考えを明確にし、経営上の方針を社是に分かりやすくまとめること。そしてその社是を全社員に浸透させて、売り上げアップにつなげていくことなのです。

社是と社訓の違い

社是は、会社の経営上の方針や主張を示すものです。社是の是は、正しいという意味を持っており、このことから社是はその会社が正しいとする方針という捉え方にもなります。

一方の社訓とは、その会社で働く全社員が守るべき会社の理念や心構えを示したもの。社訓の訓は、教えの意味があるため、会社の経営者や創業者の教えや戒め、という解釈も可能です。

社是と社訓の大きな違いは、対象となるものが異なる点。社訓はその会社の社員だけに向けて示す教訓なので、対外的なものではありません。対して社是は企業が掲げる経営方針であり社員だけでなく対外的にも示すものなのです。

社是の類義語

社是と混同しやすいものに、スローガン、クレド、ビジョンなどがあります。それぞれの意味を説明しましょう。

  • スローガン:企業の経営理念や、経営活動の目的などを簡潔に言い表した誰もが覚えやすい文、語句、印象的なフレーズでキャッチコピーなどと呼ばれることも
  • クレド:ラテン語で信条、志、約束を意味する言葉。企業で採用する場合は、経営理念よりもさらに具体的なものにした企業活動の信条や価値観、行動規範、経営指針を簡潔に表現したものとなる
  • ビジョン:企業理念をもとに、将来成し遂げたい事柄や状態、姿などを意味する

企業の経営者の考えを明確化した経営理念は、社是や社訓をはじめスローガン、クレド、ビジョンなど多くの言葉で表現されています

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3.社是の具体例

社是について理解を深めるためには、実際に導入している企業の具体例から学ぶとよいでしょう。6社の社是を紹介します。会社がどの方向へ何のために向かうのか、社会的責任をどのように果たすのか、大手企業はどのような社是を掲げているのでしょう。

  1. セブン&アイ・ホールディングス
  2. 三菱重工業
  3. ヤマトホールディングス
  4. 日本経済新聞社
  5. キユーピー
  6. ライオン

①セブン&アイ・ホールディングス

セブンイレブン、イトーヨーカドーを経営するセブン&アイ・ホールディングスの社是を紹介します。

「私たちは、お客様に信頼される、誠実な企業でありたい
私たちは、取引先、株主、地域社会に信頼される、誠実な企業でありたい
私たちは、社員に信頼される、誠実な企業でありたい」

同社の社是からは、「信頼」と「誠実」を強く主張していると分かります。「お客様」だけではなく、取引先や地域社会、そして社員にも信頼される企業でありたいと掲げている点が特徴です。

なお、同社では企業行動指針として社是を掲げていますが、経営理念は策定していません。

②三菱重工業

日本最大の機器メーカーとして知られる、三菱重工業の社是を紹介します。

「一、顧客第一の信念に徹し、社業を通じて社会の進歩に貢献する
一、誠実を旨とし、和を重んじて公私の別を明らかにする
一、世界的視野に立ち、経営の革新と技術の開発に努める」

同社の社是は1970(昭和45)年に制定されました。文言は、第4代社長の発想に基づくもので、会社の基本的態度、従業員のあるべき心構え、将来会社の指向すべき方向を表現しています。

1870年の創業者をはじめ歴代の経営者、従業員が残した教訓を一層の飛躍に備え、絶えず新しい意欲を持って前進したいという想いを盛り込んでいるのです。

③ヤマトホールディングス

宅配便のシェアNo.1である宅急便などを展開するヤマトホールディングスの社訓を紹介します。

「一、ヤマトは我なり
一、運送行為は委託者の意思の延長と知るべし
一、思想を堅実に礼節を重んずべし」

同社は、1931(昭和6)年に制定した「社訓」を原点として、「経営理念」「企業姿勢」「社員行動指針」の3つの柱で、「企業理念」を構成しています。

「ヤマトは我なり」と表現しているのは、「ヤマト=自分自身という意識を持ちなさい」という社の想いを表したからでしょう。これは創業の精神としてヤマトグループの原点であり、継承するものとしています。

④日本経済新聞社

日本を代表する経済紙で販売部数世界一ともいわれる日本経済新聞社の社是を紹介します。

「中正公平、
わが国民生活の基礎たる経済の
平和的民主的発展を期す」

同社は、社是、基本理念、ミッション、行動規範をそれぞれ掲げています。社是にある「中正公平」は基本理念でも使われている言葉で、社是の内容を基本理念でも詳しく説明しているのです。

同社では、2017年にミッションを新しく策定しています。ミッションとは、一般的に社会に対してどのように貢献したいかという社会的使命のこと。同社社是が企業の基礎となり、基本理念とミッションが不備を補完する役割を果たしているのです。

⑤キユーピー

マヨネーズなど調味料を主力とする食品メーカーのキユーピーの社是を紹介します。

「楽業偕悦」

「らくぎょうかいえつ」と読みます。

同社では、その意味を、「志を同じくする人が、仕事を楽しみ、困難や苦しみを分かち合いながら悦びをともにする」という考えだと説明しており、これは創始者の中島董一郎氏の仕事に対する基本的な考えを反映した社是です。

同社では経営の基本方針と、理念として「社是」「社訓」「めざす姿」「姿勢」をそれぞれ掲げています。そのすべてで大切にしているのが、「世の中は存外公平なものである」という創始者の教えなのです。

⑥ライオン

石けんや洗剤、メディカル商品などで有名な、大手生活用品メーカーのライオンの社是を紹介します。

「わが社は、「愛の精神の実践」を経営の基本とし、人々の幸福と生活の向上に寄与する。」

ライオンは社是と経営理念をそれぞれ掲げています。経営理念は3項目ありますが、こちらはすべてで「われわれは」から始まっているのです。

社是は「わが社」、経営理念は「われわれ」と、主語が異なっていることが分かります。社是とは、会社の経営上の方針、またはその主張を表すという定義がよく理解できる内容といえるでしょう。

社是だけを掲げる企業、経営理念だけ掲げる企業、2つを掲げる企業などさまざまですが、それぞれの目的の違いがよく分かります

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4.社是を定めるときのポイント

社是とは、会社の経営上の方針、またはその主張を表すもの。社是を定めるときは、漠然と定めるのではなく、手順を踏んで考えていく必要があります。そんな社是を定めるときのポイントは以下の4点です。

  1. 社是は1つにまとめる
  2. 経営方針の中で最重要なものを選ぶ
  3. 短い言葉でまとめる
  4. 組織改革に活かしていく

①社是は1つにまとめる

社是は、その会社がどのような考え方で運営をしていくのかを示す指針です。社員は社是に基づいた行動が求められますし、また社員だけでなく対外的に示すものでもあります。このことからも、社是は1社に1つを意識して定めるのがポイントです。

社是は経営理念を反映させたものですが、経営理念をそのまま用いてしまうと、多くの経営方針が示されるため、経営の軸がぶれてしまうことになりかねません。社是は1つにまとめるとよいでしょう。

②経営方針の中で最重要なものを選ぶ

社是は複数ある経営方針から、最も重要度の高いものを選びます。できるだけ普遍的だと思われる経営方針を選ぶとよいでしょう。社是を定める際は、経営理念を実現させるための経営方針がなくてはなりません。

経営方針は、顧客、商品、社員、会社、地域社会など、それぞれの会社に合った視点で考えるのがポイントです。社員に浸透し、かつ経営理念が実現できるという社是を考えなければいけません。

③短い言葉でまとめる

決まった形式はなく一文にまとめたり、1文字や2文字の漢字で表したりと、さまざまな形で制定できますが、どのような形にしろ、社是は短い語句または、端的に一文にまとめるのがポイントです。

印象に残る言葉を集めたフレーズに集約するのもよいでしょう。あまり長い文章にしてしまうと、社内外に浸透しづらくなり、社是を制定する意味がなくなります。

④組織改革に活かしていく

社是は創業から内容を変えてはいけないものではありません。社是や社訓の見直しや変更を行う企業は多くあります。

その理由として挙げられるのは、社是が現状に合っていない、顧客や取引先、地域社会に新たなサービスや商品を提供するにあたって会社の存在意義や使命を改めて見直す、などです。

組織改革を行う際に、社是を見直すのもよいでしょう。社是は経営方針と連動しているものなので、まずは社内の意識改革を図ることが重要です。

社是は経営方針で最も重要なものを選び、分かりやすい端的な言葉で表現しましょう。社員にも対外的にも浸透しやすくなります

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5.社是を浸透させるための方法

社是を定めると会社が向かう方向性も定まり、社員の士気も高まります。しかし立派な社是でも、社員に浸透していかなければ、経営改善にはつながりません。社是を浸透させるためには、3つのプロセスがあります。

  1. 経営者の想いを具現化
  2. 社員を巻き込んで策定していく
  3. ホームページや社内研修の活用

①経営者の想いを具現化

社是を定める際はまず、経営者がどのような会社を目指しているのかを明確にしましょう。たとえば、以下のような質問を挙げていき、1つ1つの問いに対する考えを書き出してみます。

  • 何のために経営をしているのか
  • 何のために働いているのか
  • どのような会社にしたいのか
  • 事業を通して将来実現したいこと
  • 社会的な存在価値
  • 社会に対してどのような貢献をしたいのか
  • この先10年後20年後のありたい姿

目標や理想など心の中で考えていた感情を文字として書き出すと、頭の中にあったときよりもすっきりと整理されます。思わぬ欠点が見つかったりほかに目指すべきものが見つかったりする場合もあるでしょう。

②社員を巻き込んで策定していく

社是を定めて満足しては、経営改善につながりません。また社是を作ったのでこれに沿って活動するように、などと伝えるだけでは、経営者が目指す活動など社員には浸透しないでしょう。

社是は経営者だけでなく、全社員に理解されるものでなければ制定した意味がありません。そのためにも全社員が社是の制定に参加できるように工夫しましょう。

ワークショップや面談、アンケートなどを用いて役員や現場の社員などあらゆる社員の声を吸い上げて反映させます。それにより社員にとっても明確な活動指針となり、また「自分たちで作り上げた社是」という誇りも生まれるでしょう。

③ホームページや社内研修を活用

社是を浸透させるには、常に全社員の目に触れる機会を増やすことが大切です。

  • 社内の目立つ場所に掲示する
  • 自社のホームページに掲載する
  • 朝礼や会議などで社是を唱和する
  • 社是を携帯できるようカードや手帳にして配布する

そのほか、社内研修などを通じて社是を学ぶ機会をつくる、創立記念日や入社式などの節目で経営者が社是について話すのもよいでしょう。

また本気で社是を浸透させるべく、経営者自らが率先して社是を実行することも大切です。そうした姿を見れば、社員たちも社是を深く理解し会社の経営改善へとつながるでしょう。

全社員が社是の制定に参加し常に目に触れる機会を増やしましょう。また社是を掲げるだけでなく、経営者自らがアクションを起こすことも大切です

社是のQ&A

社是(しゃぜ)といいます。 社是の「是」には、正しいという意味があります。つまり社是とは、会社が正しいと定める方針のことです。
たとえばセブン&アイ・ホールディングスの社是は、「私たちは、お客様に信頼される、誠実な企業でありたい」「私たちは、取引先、株主、地域社会に信頼される、誠実な企業でありたい」「私たちは、社員に信頼される、誠実な企業でありたい」です。 また、日本経済新聞社には「中正公平、わが国民生活の基礎たる経済の平和的民主的発展を期す」という社是があります。
クレドとはラテン語で「信条」や「約束」を意味します。企業がクレドを採用する場合、経営理念よりもさらに具体的な、企業活動の信条や従業員の行動規範をあらわすことが多いでしょう。 一方で社是は、企業が掲げる経営方針です。その対象は従業員に限らず、対外的にも示される性質を持ちます。