職業安定法とは、求職者に就職の機会を与えて職業の安定を図りながら労働力の確保を進める法律です。ここでは職業安定法について、解説します。
目次
1.職業安定法とは?
職業安定法、いわゆる職安法とは労働市場における基本的な法律です。求人や職業紹介について定めた法律、と考えると分かりやすいでしょう。職業安定法第2条によって、公共の福祉に反しない限り、誰でも自由に職業を選択できると定められています。
職業安定法の3つの柱
職業安定法は、人材ビジネスの基本的なルールを定めた法律とも言い換えられるでしょう。
本法律では「求職者は職業を自由に選択できる」「人種・国籍・信条・性別・社会的身分・門地・従前の職業・労働組合の組合員であるなどを理由とした、差別的な取り扱いを受けない」といった基本原則とともに下記3つの柱を定めているのです。
- 職業紹介
- 労働者募集
- 労働者供給
①職業紹介
職業紹介事業者は厚生労働省の運営する人材サービス総合サイトにて、以下の情報提供を行うと義務付けられています。
- 各年度に就職した者の数
- 1のうち、期間の定めのない労働契約を締結した者の数
- 2のうち、就職から6か月以内に解雇以外の理由で離職した者の数
- 2のうち、就職から6か月以内に解雇以外の理由で離職したかどうか判明しなかった者の数
- 手数料表の内容
- 返戻金制度の導入有無、および導入している場合はその内容
- 職業紹介事業者の選択に資すると考えられるそのほかの情報(任意)
②労働者募集
労働者募集の際、つまり労働者を雇用しようとする求人者が自らもしくは他人・他社に委託し、求職者に対して勧誘する場合、「労働条件の明示」が必要になります。
最低限明示しなければならない労働条件は下記のとおりです。
- 業務内容
- 契約期間
- 試用期間
- 就業場所
- 就業時間
- 休憩時間
- 休日
- 時間外労働
- 賃金
- 加入保険
- 募集者の氏名または名称
- 受動喫煙防止措置の状況
またこれらに変更があった場合は、確定後速やかに明示しなればなりません。
③労働者供給
労働者供給とは、契約にもとづき、労働者を他人・他社の指揮命令を受けて労働に従事させること。労働者供給をする事業者は業務運営を改善・向上するため、以下の措置を講ずる必要があります。
- 供給される労働者に対して、供給される労働者でなくなる自由を保障する
- 労働組合の規約を定め、遵守および運営する
- 労働者供給事業は無料で行う
- 供給される労働者から高額な組合費を徴収してはならない
- 社会保険および労働保険の適用手続を適切に進められるよう管理する
- 供給される労働者からの苦情を迅速・適切に処理し、体制の改善に努める
2.職業安定法の内容を詳しく紹介
職業安定法の概要を理解したところで、詳しい内容を見ていきましょう。職業安定法第4条では、職業紹介を「求人および求職の申し込みを受け、求人者と求職者のあいだにおける雇用関係の成立を斡旋すること」と定めているのです。
職業安定法では、企業などがそれぞれ守るべきルールについて明示しています。つまり経営者のみならず、正社員やパート、アルバイトなどすべての従業者に理解が必要な法律なのです。
ここでは職業安定法上のルールについて、要点ごとに解説しましょう。
- 職業紹介をする者は許可・届出が必要
- 労働条件を明記する
- 個人情報について
- 手数料を取ることは禁止されている
- 職業紹介で禁止されている職業
- 求職と求人の申し込みについて
- 申し込みが受理されないケース
①職業紹介をする者は許可・届出が必要
職業紹介事業者は厚生労働大臣の許可を受ける、もしくは届出を行う必要があります。そのためには許可申請、届出等に不備のないようあらかじめ事業主管轄労働局と十分相談しておかなければなりません。
また職業紹介責任者は申請前に「職業紹介責任者講習会」を受講しなければならないのです。講習会の受講は事業主管轄労働局による申請受理日の前5年以内に限られます。
許可の有効期限満了後も引き続き職業紹介事業を行う場合は、事業主管轄労働局を経由した厚生労働大臣に対して期間の更新申請が必要です。
②労働条件を明記する
職業安定法第5条では「公共職業安定所および職業紹介事業者、労働の募集を行う者および募集受託者ならびに労働者供給事業者は、労働者に対して業務内容や賃金、労働時間等の労働条件を明示しなければならない」と定めています。
平成30年の改正に伴い最も変更されたのが、この労働条件の明示範囲です。求職者のすべてが収入を基準に就職活動を行っているわけではありません。働き方の多様化に応じて、企業にはより詳しい労働条件の明示が課せられました。
③個人情報について
職業安定法第5条の4では、求職者の個人情報の取扱いについても述べています。就職・転職希望者の個人情報は、業務の目的達成に必要なものに限り収集・保管・使用が許されているのです。以下は業務目的の範囲外とみなされるため、収集してはいけません。
- 人種・民族・社会的身分・家族の職業・本人資産の情報・容姿など
- 人生観・生活信条・支持政党・愛読書など
- 労働運動・学生運動・消費者運動などに関するもの
個人情報を収集する際は本人からの直接収集が原則です。本人以外から収集する際は、本人の同意が必要になります。
④手数料を取ることは禁止されている
職業紹介事業ではいかなる名義でも、実費そのほかの手数料または報酬を受け取ってはいけないとされています(職業安定法32条の3)。以下の場合を除いて、職業紹介事業者は就職・転職希望者から手数料を徴収してはいけません。
- 厚生労働省令であらかじめ手数料が定められている場合
- 厚生労働大臣に届け出ている手数料の場合
なかにはモデルや芸術家など受付手数料、求職者紹介手数料として徴収できる職種もありますが、極めてまれです。手数料の徴収にあたって紹介業者は、求人者・求職者に対して手数料に関する事項を明示しなければなりません。
⑤職業紹介で禁止されている職業
有料職業紹介事業者でも、すべての職業を紹介できるわけではありません。港湾運送業務、および建設業務への職業紹介は禁止となっています。
これは業務の波動性といった要素に鑑みているからです。港湾運送業務には特別の雇用調整制度が設けられており、新たな労働力需給調整システムを導入する必要がない、と判断されています。
また建設業務についても現実に重層的な下請関係のもとで業務処理が行われているため、 かえって悪影響を及ぼす恐れがあるとされ、適用除外となっているのです。
⑥求職と求人の申し込みについて
職業安定法では、募集情報等提供事業(以下いずれか、あるいは両方を事業として行うこと)についても言及しています。
- 募集主から依頼を受けて、募集に関する情報を求職者に提供している
- 求職者から依頼を受けて、求職者に関する情報を募集主に提供している
具体的には求人サイトや求人情報誌などです。職業紹介を行う者は、企業からの求人、および就職・転職希望者からの求職に関する申込みがあれば、原則的にすべて受け付けなければなりません。
⑦申し込みが受理されないケース
職業紹介事業者は、原則としてすべての求人申し込みを受理しなければなりませんが、なかには申し込みを受理しないケースもあります。以下のいずれかに該当する場合は、求人申し込みの不受理が可能です。
- 内容が法令に違反する求⼈
- 労働条件が通常の労働条件と⽐べて著しく不適当な求⼈
- 求人者が労働条件を明示しない求人
- ⼀定の労働関係法令違反のある求⼈者による求⼈
- 暴⼒団員といった反社会団体の求人
- 職業紹介事業者からの自己申告の求めに応じなかった求人者による求人
3.労働者供給と人材派遣
職業安定法の基本として「職業紹介・労働者募集・労働者供給」の3つの柱を定めているのは先に解説したとおりです。そのうちの「労働者供給」については「人材派遣」と混同されやすいため注意してください。ではこの「人材派遣」について見ていきましょう。
人材派遣とは?
「人材派遣」とは、派遣元(派遣会社)に雇われた派遣社員(労働者)が派遣先の指示に従って働く手法のこと。
労働者派遣法にて「自己の雇用する労働者を当該雇用関係のもと、かつ他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させる内容を業として行うこと」と定められています。
「実際に仕事をする会社」と「労働者が雇用契約を結ぶ会社」が異なる、と考えると分かりやすいでしょう。
労働者供給と人材派遣の違い
「労働者供給」と「人材派遣」、どちらも管理下にある労働者を他人の指揮、命令のもとで他人に使用させる、といった意味合いでは同じです。供給と派遣の違いは「雇用主」にあります。
- 人材派遣では派遣元に雇われた派遣社員が「派遣先の指示に従って」労働
- 労働者供給では雇用主=供給元とは限らない。供給元に雇われていなかったり、供給元と供給先の両方に屋われていたりと雇用主がはっきりしない部分も多い
4.職業安定法の改正によって変わること
職業安定法の改正が施行されたのはつい最近、平成30年1月1日です。ここでは改正の経緯や変更のポイントなどについて解説します。
職業安定法の改正の経緯
改正の背景にあるのは、働き方の多様化や求人詐欺の横行、慢性化した長時間労働などです。社会経済の変化に伴い、職業紹介事業や募集情報等提供事業者も責任をもって対応する必要があるとして、今回の改正に至りました。
改正に伴う追加内容は、次の5項目です。
- 失業等給付の拡充
- 失業等給付に係る保険料率および国庫負担率の時限的引下げ
- 育児休業に係る制度の見直し
- 雇用保険二事業に係る生産性向上についての法制的対応
- 職業紹介の機能強化および求人情報等の適正化
職業紹介の機能強化および求人情報等の適正化
上記5つのなかでも特に注目したいのが「職業紹介の機能強化およ
び求人情報等の適正化」。本改正により、企業には労働時間や残業および時間外労働の有無、試用期間や募集者氏名の明記などが義務化されました。
企業はこれまで以上に労働条件を具体的かつ詳細に、明示しなければなりません。また労働条件に変更が生じる可能性のある際は、その旨を速やかに明示する必要があります。
労働条件に関して追加された項目
省令において、以下の労働条件に関する明示が義務付けられました。それぞれの具体例や注意点を見ていきましょう。
- 試用期間の有無および期間
- 募集者の氏名または名称
- 派遣労働者の募集
- 裁量労働制の場合
- 固定残業代制の場合
①試用期間
試用期間中は、本採用に比べ労働条件が低くなりがちです。
これに生じる不測のトラブルを避けるため、「試用期間あり(3か月)」「試用期間中は本採用後給与の80%とする」など試用期間の有無およびその期間、試用期間中の労働条件等についての明示が義務付けられました。
有期契約が試用期間としての性質を持つ場合も同様です。試用期間と本採用がひとつの労働契約でも、試用期間中と本採用後とで労働条件が異なる場合、それぞれの労働条件を明示しなければなりません。
②募集者の氏名または名称
労働条件の明示においては、「◯◯株式会社」のように、募集者の氏名または名称の記載も必要となります。これは求職者および労働者が誰と労働契約を結ぶのかを明らかにするためです。
子会社や関連会社の募集、子会社に採用機能がある場合やグループ会社の募集など、労働者を雇用しようとする者(雇用主)と実際に募集を行っている者が異なる場合も考えられます。
本部が募集を行うが実際は経営者先が雇用主というフランチャイズの場合、実際に労働者を雇用するフランチャイズ経営者の氏名・名称の明示が必要です。
③派遣労働者の募集
先に述べた「派遣労働者」として企業が労働者を雇用する場合、「派遣労働者として雇用する場合の雇用形態:派遣労働者」のように、労働条件にその旨を明示しなければなりません。
目的は「正社員として働くつもりで入社したものの、実際には派遣労働者としてほか企業で働くことになった」という事態を避けるためです。派遣労働者として雇用する場合、有期雇用派遣/無期雇用派遣などどういったケースで働くのかを明確に示さなければなりません。
④裁量労働制の場合
「裁量労働制」とは、労働時間を実労働時間ではなく一定の時間とみなす制度のこと。出退勤時間の制限がなくなり、実労働時間に応じた残業代が発生しないといった特徴があります。
裁量労働制が採用されている旨を明示していない場合、「就業時間以上に労働をしているのに残業代がもらえない」といったトラブルを引き起こしてしまうでしょう。
記載例は「就業時間は企画業務型裁量労働制により、◯時間働いたものと見なす」となります。
⑤固定残業代制の場合
固定残業代制の場合も裁量労働制と同様です。労働者との残業代に関するトラブルを防ぐため、固定残業代制(時間外労働の有無にかかわらず、一定の手当を支給する制度)を採用している企業は以下の項目を明示する必要があります。
- 基本給
- 固定残業代の計算方法(労働時間数・金額等)
- 固定残業代相当分の労働時間を超えた場合は超過分を別途支払う旨の表記
記載例は「基本給20万円、残業代5万円(月20時間分の残業手当)、月20時間を超える時間外労働については追加の割増賃金を支給」です。
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5.職業安定法における罰則とは?
企業が必要な労働力を確保し、職業の安定から経済の発展を図る職業安定法。正確な求人内容の申告はもちろん、労働条件や変更内容の明示が適切に行われていないと罰則の対象となるため注意が必要です。ここでは職業安定法における罰則について解説します。
罰則の内容は懲役や罰金
職業安定法の改正に伴い、罰則対象も拡大しています。違反行為の主な罰則は以下のとおりです。
1年以上10年以下の懲役、または20万円以上300万円以下の罰金
- 暴行や脅迫、精神または身体の自由を不当に拘束する手段によって労働者の供給またはそれに従事した者
- 労働者の供給が公衆衛生または公衆道徳上有害な業務に就かせる目的だった場合
1年以下の懲役または100万円以下の罰金
- 虚偽等の不正行為
- 労働者供給事業の停止に違反して労働者供給事業を行った場合
- 厚生労働大臣の許可を受けていない
6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金
- 改善命令に違反した
- 虚偽の広告、または虚偽の条件を呈示
- 工場事業所等に労働者を供給した場合
30万円以下の罰金
- 理由なく報告を怠ったり、虚偽の報告を行ったりした場合
- 立入りもしくは検査の拒否や忌避、質問に対する無答弁や虚偽の陳述をした場合