昇進試験とは、面接や適性試験などで昇格に値するかどうかを見極める試験のこと。ここでは昇進試験の実施方法について解説します。
目次
1.昇進試験とは?
昇進試験とは、特定の人材が昇格に値するかどうかを見極める試験のこと。面接や適性試験など複数の試験が行われ、その結果により、今より高い職位に昇進できるかが決まります。適性試験は一般的に外部の研修機関が用意したテストを用います。日々の業務や独自の試験で測ろうとすると、客観的な判断が困難になるためです。
2.昇進試験の「昇進」とは?
昇進試験の「昇進」とは、どのような意味を持つ言葉なのでしょうか。ここでは「昇進」の意味や類似する言葉、企業から見た昇進試験の目的などについて説明します。
昇進の意味
昇進とは、組織内指揮系統のなかで、これまでよりも上の立場に就くこと。昇進すると、一般社員から主任、主任から係長、係長から管理職といったように役職が上がります。
同じ昇進のなかでも、管理職に昇進する際は注意が必要でしょう。業務は部下のマネジメントや育成が中心となり、これまでの専門的な知識やスキルが生かせるとは限らないからです。
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昇進に類似する言葉の意味
昇進と似た言葉に「昇格」や「昇給」があります。意味も使い方も異なるため、それぞれの違いを正しく理解しておくとよいでしょう。ここでは昇格や昇給の意味と、昇進との違いについて説明します。
昇格
組織内で自分の等級が上がること。組織が定める職能資格制度にて、今までよりも上のランクになることを昇格といいます。
昇格には業務成績や試験の結果、推薦など組織ごとに独自の基準が規定されているのです。当該社員の職責が変化し、それにともなって後述する昇給や異動などが発生する場合もあります。
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昇進と昇格の違い
昇進と昇格はいずれも職場での立場が上がるという意味では同じといえます。しかしそれぞれわずかにニュアンスが異なるのです。昇進で組織内指揮系統における上位の立場に就くため、役職の変化はまわりから見てもはっきりとわかります。
対する昇格は「職能資格制度」において上のランクに就くこと。ランクと職位が連動するわけではありません。昇格したものの職位は以前のままというケースもありえます。昇格は給与アップといった周囲から認識されない変化がある点でも、昇進と異なるのです。
昇給
基本給が上昇すること。年齢や勤続年数によって自動的に生じる昇給を「自動昇給」、人事評価にもとづいた昇給を「査定昇給」というのです。
また同じ昇給でも2種類あります。給与規定で定められたとおりに給与が上がる「定期昇給(定昇)」と、給料金額を底上げする「ベースアップ(ベア)」です。
昇進と昇給の違い
社員の勤続年数や職務上の昇格によって給料が増加すること。多くの場合、昇進や昇格には昇給がともなうものの、昇進や昇格がなくても業務範囲の拡大や変更によって昇給する場合もあります。
なお昇給で上がるのはあくまで基本給の金額です。ボーナスや残業手当の支給による給与増加は、厳密にいえば昇給と異なります。また昇進によって役職手当が加算されれば、職能資格が同じで職位が異なる社員間にも給与差が生まれるのです。
企業側からみた昇進試験の目的
企業の立場からみた昇進試験の目的は、下記のとおりです。
- 幹部社員の適性判断
- 人材育成
- 公平性の担保
「昇進イコール仕事上の役割が変わる」ではありません。本人や周囲のメンバー、ひいては企業全体に影響が出る可能性もあるため、どのような目的をもって昇進させるのか明確にしておく必要があるのです。
①幹部社員の適性判断
企業で行われる昇進試験の一番の目的は社員が管理職に適した人材かどうか、見極めること。昇進した社員は組織のリーダー的ポジションとして部下を率います。
そのため「勤続年数が長いから」「実務経験が長いから」と安易な理由で昇進を決めると、管理職に求められるマネジメント機能が効果的にはたらきません。それどころかほかの社員のモチベーション低下を招くおそれもあります。
本人にチームをまとめる適性があるかをチェックするのが、昇進試験なのです。
②人材育成
昇進試験は企業にとって戦力となる人材を育成するためにも必要です。昇進した社員には、会社に対する帰属意識や仕事に対する責任感が生まれます。
昇進に見合ったよりよい成果を出したいと考える社員もいるでしょう。昇進は優秀な企業戦力の育成につながり、ひいては会社全体の発展へとつながります。
また昇進は仕事に対する評価の形でもあります。適切な昇進試験と評価で昇進させれば、本人はもちろんまわりにも「頑張れば会社は相応の評価をしてくれる」とよい印象を与えられるのです。
③公平性の担保
昇進の基準が不明確では、ほかの社員から不平不満の声が挙がります。場合によっては昇進した本人への反発につながる可能性もあるでしょう。
昇進に公平性がないと、社員にとっては何が基準で昇進できるかわかりません。ひどい場合、上司や管理職の個人的な判断や主観的な印象で昇進を決めるケースもあるでしょう。これではキャリアプランが立てにくく、会社への不満は高まり、愛着度も下がります。
公平性や納得感を持たせる昇進にするためにも、基準を明確に定めた昇進試験が必要なのです。
3.昇進試験における5つの実施方法①適性検査
昇進試験にはさまざまな種類があります。なかでも代表的なのが、能力適性や性格適性などを見極める適性検査です。
適性検査
昇進試験における適性検査として、おもに3つの手法が挙げられます。
- 能力適性検査
- 性格適性検査
- 指向(態度)適性検査
いずれも被検査者の能力や指向を数値的に測れる方法で、昇進に客観的な評価をつけられます。しかしとっさの判断やリーダーシップなど、実践的な能力を測りにくいというデメリットもあるのです。複数の評価方法を組み合わせて実施するとよいでしょう。
①能力適性検査
業務を円滑に進めるための能力を測る検査です。社員の基本的な能力や個性、作業の効率性や課題解決能力などを見ていけます。自宅や企業、試験会場などさまざまな会場で何かしらの課題処理をさせ、その力量を測るのが一般的な方法です。
能力適性検査では、複雑性が高く困難な環境においても課題を発見・解決する能力があるかを見極められます。
②性格適性検査
個人の性格を評価・診断するための検査です。心理学研究の分野にて、性格の良し悪しではなく「どのような性格か」を分類する目的で生まれました。単に「人格検査」と呼ばれる場合もあります。
昇進試験ではメンタルの健全さや組織風土への適性、モチベーションや行動様式などを確認するために用いられるのです。
③指向(態度)適性検査
キャリアに対する考え方や興味のある分野、指向性など、数値で表しにくいパーソナルな部分を測る検査のこと。昇進試験だけでなく能力開発計画や人物理解、職務要件の充足度など幅広い人事施策で活用されます。
「能力適性検査」や「性格適性検査」に比べ、被検査者の好き嫌いや個人的な動機などに注目した検査です。
適性検査とは? テストの種類と内容一覧、問題と対策を簡単に
適性検査といえば、新卒や中途採用時の判断材料に使うイメージがあるのではないでしょうか。実は、既存社員の配置や評価といったものに活用できる適性検査も多く存在しており、その種類は多種多様なのです。
ここで...
4.昇進試験における5つの実施方法②面接
昇進試験の基本は、後述する小論文と人事評価、そして面接です。直接的なコミュニケーションを通じて、社員の人格や昇進への意欲などを確認します。
経営者や役員と行う面接とは
昇進試験における面接の目的は、回答を通じて昇進に必要な能力を保持しているか、総合的に判断すること。多くの場合、昇進後の社員には問題点を見つけ出して具体的な解決法を見つけたり、部下を育てたりする能力が求められます。
面接はこれらの能力があるかどうかを見極める場で、昇進試験だけでなく採用試験や人事考課などさまざまなシーンで行われる手法です。
面接のフロー
面接の進め方は基本、以下4つのフローで行われます。
- 挨拶と面接内容の説明
- コミュニケーションを円滑にするためのアイスブレイク
- 面接の本番にあたるヒアリング
- 質疑応答
ヒアリングについては事前に出しておいた課題について論じたり、面接官の質問によって進めたりと、そのスタイルはさまざまです。一般的に過去の実績や仕事で心がけていることなどを質問します。
面接で質問すべき項目
昇進試験における面接では、以下7つの質問を行います。
- 自分自身について:所属部署や現在のおもな職務など基本的な情報
- これまでの実績について:基本情報よりさらに一歩踏み込んだ実績
- 管理職としての状況把握力:チームや部署が抱えている課題は何か
- 課題解決に向けたビジョン:解決に向けたビジョンを持っているか
- 自社の経営方針について:管理職としての適性や重要な判断に迫られたときの判断力などをみる
- リスク管理:不正や各種ハラスメントが発生したらどう対応するか
- マネジメント能力:個人的な主観ではなく正当な人事評価ができるか
面接する側が注意すべき点
面接では、先に述べた「能力適性検査」や「性格適性検査」よりも評価に主観が入りやすいです。これまでの経歴に評価が引っ張られたり、面接する側の好き嫌いによって左右されたりしないよう注意しなければなりません。
面接では次のような誤りが起きないよう意識しましょう。
- 質問が場当たり的で一貫性に欠けるものになっていないか
- 緊張感を解きほぐし、本音を引き出せているか
- 面接官が話をし過ぎていないか
- 容姿や実績など言語外の要素に左右されていないか
- 評価に一貫性はあるか
- 個人的な好き嫌いによる判断していないか
5.昇進試験における5つの実施方法③小論文
近年、多くの企業で昇進試験に小論文が取り入れられています。小論文では課題やその解決策、懸念点などを見つける力、および解決に導く能力の有無を測るのです。
昇進論文
昇進論文を作成する際は、以下5つのポイントをおさえて論理的な文章を構成します。
- キーワードの定義を調べる
- 理想のゴールをイメージする
- 現実をイメージする
- マイナス要因を考える
- 解決方法を具体的にイメージする
またテーマは会社によって異なるものの基本、「現状、会社やチームが抱えている課題は何か、それをどう変えていくか」であり、大きな違いはありません。
小論文のテーマ:チームワーク
小論文のテーマとして多いのが、組織のチームワークやコミュニケーションについての論述です。
チームワーク向上のため、「リーダーにはどのような役割が求められるか」「明るい職場づくりとは何か」「それに向けた取り組みには何があるか」などを論述します。
近年、「テレワーク時のコミュニケーションを円滑にするには」というテーマも多く見られます。仕事を効率よく進めるうえで、人間関係やコミュニケーションは非常に重要な要素。チーム全体としてどう対策するか、また自分ができることは何かなどを記述します。
小論文のテーマ:職務上自身の役割
小論文のテーマのなかには「職場における自身の役割と課題」について論じるものもあります。現在の自分が置かれている立場、およびチームや会社全体での自分の役割を理解しているかを見るテーマです。
さらにそのうえでチームや会社が課題としているものは何か、改善するには具体的にどのような策が必要かを論じます。
「これまでの仕事で達成したこと」「課題達成のために取り組んだこと」「管理職の役割とは」などの質問に対する考えを整理しておくとよいでしょう。
小論文のテーマ:コンプライアンス
コンプライアンスや危機管理に関するテーマも多く見られます。
不正会計や製品強度の偽装、食品の産地偽装などさまざまな企業の不祥事が明るみに出つつある昨今。コンプライアンス(法令遵守)の意識をどう高めるかは、すべての企業が考えなければなりません。
ひとたびコンプライアンス違反が起きてしまえば、多額の賠償費用や売り上げのダウン、行政処分や株主からの訴訟など大きなダメージを負うでしょう。そこで不正を起こさない、許さない組織風土を作るための課題と対策について論じるテーマです。
小論文のテーマ:マネジメント
係長や部長職など、上級管理者向けの小論文でテーマになりやすいのが、マネジメント面での課題と対策。
「チームの目標を達成するためにはどのような対策が必要か」「ほか部署からの協力が得られなかったらどう対処するか」「役職者としてできることは何か」などを問うテーマです。
昇進試験後、特に上級管理者は目標を達成するためにどう部下を動かしていくかを考えることになります。はじめて管理職になる場合も、現在の視点から課題と解決策を考えてみましょう。
6.昇進試験における5つの実施方法④人事評価・人事考課
昇進試験では、当然人事評価や人事考課の内容も反映されます。昇進試験における人事考課は、管理者による主観的評価である点に注意しなければなりません。
人事評価・人事考課
人が人を評価する以上、主観的な考えを0にするのは困難でしょう。しかし無意識のうちに評価の歪みやバイアスが介在しないよう、事前に自身を律するのは可能です。人事評価では特に次のような偏りが介在します。
- ハロー効果:目立った特徴に引きずられて、ほかの評価が歪んでしまう
- 初期印象:第一印象がその後の評価が影響する
- 相似(非相似)効果:自分と似た人を高く評価し、相反する人を低く評価する
これらを意識して、昇進試験に公平感を持たせることが重要です。
7.昇進試験における5つの実施方法⑤語学試験
ポジションや部署によって、昇進試験に語学試験を実施する場合もあります。2019年に実施した調査では、今後のビジネスパーソンにとってもっとも重要なスキルは「英語力」、という結果が出ました。
語学試験
日本でグローバル化の必要性が叫ばれて以来、英語力の差が昇進試験の合否を左右するとまでいわれるようになりました。今後もあらゆる部署に外国人社員が増加する可能性もあります。語学力は今や管理職にとって欠かせないスキルとなったのです。
競合他社との差別化をはかるためにも、会社はいち早くグローバル化に対する意識を高めなければなりません。反対にいえば、語学力がないと昇進はおろかキャリアアップや現状維持すら難しい時代が来るかもしれないのです。
TOEIC
TOEICを運営する国際ビジネスコミュニケーション協会の調査によれば、2015年時点でおよそ3割以上もの企業がTOEICスコアを全社的に、あるいは特定の部署で昇進の要件にしていると回答しました。
英語のニーズは電気精密機械などの製造業や商社をはじめ、あらゆる業界で高まっています。現在、英語力のなさに対する危機感が薄い企業も、20〜30代が昇進の対象となる頃には、さらに多くの企業がTOEICのスコアを昇進の基準にするといわれています。