「所得税」とは、収入から所得控除を引いた額に対して一定の税率で課される税金のことです。ここでは所得税の種類や計算方法、各種控除などについて説明します。
目次
1.所得税とは?
所得税とは、給料や商売の利益、あるいは土地を売って得た利益などに対して課される税金のこと。1年間すべての所得から所得控除を差し引いた残りの課税所得に、一定の税率を適用して税額を計算します。
所得税は本来従業員が税務署に支払うものですが、会社では給料から差し引く形で従業員にかわって「源泉徴収」をしています。所得の大きさに応じた負担を求めたり、家族構成などの状況に応じて配慮できたりするのが所得税の特徴です。
2.所得税の特徴
所得税には3つの特徴があります。
- 収入から所得控除を差し引いた金額に、一定の税率で課される税金
- 累進課税制度である
- 公平性の高い税金である
この税金は、毎年1月1日から12月31日までの1年間に得たすべての所得に課せられます。所得税の特徴について、もう少し詳しく見ていきましょう。
①収入から所得控除を引いた金額に一定の税率で課される税金
税金を計算するには「収入」と「所得」を区別して考える必要があります。まずはそれぞれの違いをおさらいしましょう。
「収入」とは、会社からもらう給与や、パート・アルバイトなどで得た給与のことで、「所得」とは、「収入」から必要経費を差し引いて残った金額のこと。会社勤めの場合、「給与所得控除」という形で給与から必要経費を差し引いた額が「所得」になります。
収入から所得控除を引いた金額に対して、一定の税率で課される税金が「所得税」です。また給料から差し引く形で、会社が代わりに支払うことを「源泉徴収」といいます。
②累進課税制度である
所得税は、所得の多い人には多くの税金を、所得の少ない人にはそれなりに抑えた税金を負担してもらおうという「累進課税制度」になっています。簡単に言えば、所得が高くなれば税率も高くなるのです。
累進課税制度は、下記2つに分かれます。
- 課税標準が一定額を超えた場合に全体に対して高い税率を適用する「単純累進課税」
- 超えた金額に対してのみ高い税率を適用する「超過累進課税」
日本で現在用いられているのは後者の「超過累進課税」です。
③公平性の高い税金
累進課税制度を導入している「所得税」は、公平性の高い税金ともいわれています。では所得税と並んで説明される「消費税」と比較してみましょう。
消費税はご存知の通り、すべての担税者に一律の税率を課しています。富裕層も貧困層もその負担度合いは変わりません。
対して、「逆進性」と呼ばれるこの性質を解消したのが、累進課税制度をとる「所得税」。公平性の観点から見た場合に、所得税が優れた税金だといわれるのはそのためです。
3.所得税の計算方法
続いて、所得税の計算方法について見ていきましょう。所得税は、課税所得金額に税率を掛けることで算出できます。平成27年以降、所得税の税率は5%から45%までの7段階に分かれており、所得税の計算式は以下の通りです。
所得税=課税所得×税率-税額控除額(所得金額から14種類の所得控除を引いた額)
1年の収入と所得を計算する
はじめに、1年間(その年の1月1日から12月31日まで)の収入と所得を計算します。所得はその性質によって次の10種類に分かれます。
- 給与所得
- 配当所得
- 利子所得
- 事業所得
- 不動産所得
- 譲渡所得
- 退職所得
- 山林所得
- 一時所得
- 雑所得
それぞれの所得に収入や必要経費の範囲、所得の計算方法などが定められており、所得金額は、収入から必要経費を差し引くことで算出できるのです。
所得控除を差し引く
続いて所得控除を差し引きます。所得税には、それぞれの家庭や個人の状況に応じて負担をなるべく公平なものにするための「所得控除制度」が14種類設けられているのです。
- 基礎控除
- 社会保険料控除
- 生命保険料控除
- 地震保険料控除
- 配偶者控除
- 配偶者特別控除
- 扶養控除
- 医療費控除
- 障がい者控除
- 雑損控除
- 小規模企業共済等掛金控除
- 寄附金控除
- 寡婦(寡夫)寡夫控除
- 勤労学生控除
所得金額からこれらの所得控除を引いたものが「課税所得金額」となります。
基準所得税額を算出する
所得控除を差し引いた金額から「税額控除」を差し引いて「基準所得税額」を算出します。控除には「所得控除」と「税額控除」の2種類があり、適応のタイミングがそれぞれ異なるのです。
「所得控除」は「所得合計額」に適応する控除制度で、各納税者の個人的事情を加味するために設けられています。所得金額から一定の控除額を差し引けるのです。
対して「税額控除」とは「所得税額」に適用する控除制度。政策措置として国家による補助的な目的で制度化されており、所得金額ではなく所得税額から一定金額を控除できます。
源泉徴収・中間徴収の金額との差額を納付する
ここまでで算出した所得税は、全額を収めるのではなく源泉徴収されたり中間納付した税額と差額を収めたりする形になります。
すでに収めている額が算出した所得税よりも多かった場合、還付を受けられます。これが毎年1月から3月にかけて行われる「確定申告」です。
また納め過ぎた所得税の還付を受けるための申請を「還付申告」といいます。還付申告は過去5年間にわたって請求が可能です。
会社で年末調整を受けていれば基本的に確定申告は不要といえます。しかし年末調整では適用できず確定申告で適用できる所得控除も存在するので、注意しましょう。
4.主な所得控除とは?
先に述べた「所得控除」について、もう少し詳しく見ていきましょう。所得控除とは、一定の要件に当てはまる場合に所得の合計金額から一定の金額を差し引ける制度です。
会社員の場合、所得控除は細かく分けて14種類。ここでは代表的な所得控除の種類や特徴、どれくらい控除が受けられるかなどを紹介しましょう。
基礎控除
基礎控除は、ほかの所得控除のように一定の要件に該当する場合に適用されるものではなく、無条件で認められている控除です。
2019年まではすべての課税者に一律38万円が適用されていました。しかし2020年以降(令和2年分以降)は納税者本人の合計所得金額に応じて控除額が異なります。
<個人の合計所得金額と控除額のイメージ>
- 2,400万円以下の場合:48万円
- 2,400万円超2,450万円以下の場合:32万円
- 2,450万円超2,500万円以下の場合:16万円
- 2,500万円超の場合:0円
医療費控除
通院や入院などに掛かった費用が対象となっているのが医療費控除です。納税者本人または納税者と生計を同じくする配偶者、そのほかの親族のため医療費を支払った際に適用されます。
医療費控除の金額は、下記の計算式に当てはめて計算し、その最高額は200万円です。
「医療費控除額=その年に実際支払った医療費の合計額-保険金などで補てんされる金額(※)-10万円または取得金額の5%(どちらか少ない額)」(※入院費給付金や高額療養費、出産育児一時金などが該当する)
扶養控除
扶養控除は、納税者本人に子どもや老人など所得税法上の控除対象扶養親族となる人がいる場合に適用される控除です。ここでいう「扶養親族」とは、その年の12月31日時点で以下の要件すべてを満たす人のこと。
- 納税者と生計を一にしている
- 配偶者以外の親族、または都道府県知事から養育を委託された児童や市町村長から養護を委託された老人である
- 年間の合計所得金額が38万円以下(令和2年分以降は48万円以下)である(給与のみの場合は給与収入が103万円以下)
- 青色申告者の事業専従者でありその年一度も給与の支払いを受けていない、または白色申告者の事業専従者でない
扶養控除とは? 控除の条件や金額、年収の壁について簡単に
扶養控除とは、家族や親族の生計を支えている人にかかる税負担や社会保険料を軽減する措置です。要件、控除金額、扶養控除に関する年収の壁などについて解説します。
1.扶養控除とは?
扶養控除とは、家族や親...
社会保険料控除
納税者が、自己または生計を一にする配偶者や親族の負担すべき社会保険料を支払った場合、支払った金額について所得控除が適用されることを社会保険料控除と呼びます。たとえば公的年金や国民年金、厚生年金保険の保険料などです。
社会保険料控除額は、その年に支払った社会保険料、または公的年金などから差し引かれた金額となります。社会保険料控除を受けるためには、各保険料や掛金の額などが証明できる書類を、確定申告書または年末調整の際に提出するのです。
5.主な所得の種類
所得は、所得税法から見て10種類の区分に分かれます。
- 給与所得
- 事業所得
- 退職所得
- 不動産所得
- 譲渡所得
- 配当所得
- 山林所得
- 利子所得
- 一時所得
- 雑所得
所得にかける税率や計算方法は、所得の種類によってそれぞれ異なります。ここではその中でもよく知られる6種類の所得について見ていきましょう。
給与所得
会社員にとって一番身近なものが、勤務先から受ける給料や賞与などを指す「給与所得」でしょう。給与所得の計算方法は下記の通りです。
給与所得の金額=収入金額(源泉徴収される前の金額)-給与所得控除額
給与所得は、事業所得のように必要経費を差し引けません。その代わり、所得税法で定められた給与所得控除額を差し引けます。
また一定の要件を満たすと通勤費や研修費、資格取得費など費用の一部を給与所得控除後の金額から差し引けます。これは「特定支出控除」と呼ばれる制度です。
事業所得
農業や漁業、製造業やサービス業、卸売業や小売業、その他所得を発生させるものの事業から生じる所得を「事業所得」といいます。事業所得の計算方法は下記の通りです。
事業所得の金額=総収入金額-必要経費
ただし不動産の貸付けや山林の譲渡による所得は、事業所得に含まれません。それらは原則、「不動産所得」や「山林所得」として扱われます。
事業所得として認められれば青色申告の優遇措置を受けることができます。しかし会社員の副業を事業所得として申告するのはなかなか難しいといわれているのです。判断が難しい場合は、一度最寄りの税務署に相談してみるとよいでしょう。
不動産所得
「不動産所得」とは、地代や家賃、権利金など不動産の貸付から生じる所得のこと。具体的には以下の所得を不動産所得として定義付けています。
- 土地や建物などの不動産の貸付
- 地上権など不動産の上に存する権利の設定および貸付
- 船舶や航空機の貸付
不動産所得の計算方法は以下の通りです。
不動産所得の金額=総収入金額-必要経費
なお総収入金額には、賃貸料収入のほかに名義書換料や承諾料、更新料などの名目で受領するものや返還を要さない敷金や保証金、共益費の名目で受け取る電気代や水道代なども含まれています。
譲渡所得
「譲渡所得」に該当するのは、マイホームや農地、ゴルフ会員権など土地や建物、株式といった資産譲渡によって生じた所得です。棚卸資産や山林などの譲渡による所得は、譲渡所得になりません。
また、使用可能期間が1年未満の減価償却資産や取得価額が10万円未満の減価償却資産は、土地や建物以外の資産を譲渡した際、譲渡所得に含まれないのです。土地や建物を譲渡した際の譲渡所得金額は、下記の計算式で算出します。
課税譲渡所得金額=収入金額-(取得費+譲渡費用)-特別控除額
配当所得
株式や出資の配当などを「配当所得」といい、株主が受ける配当や、投与信託によって受けた分配金などが配当所得に該当します。配当所得の金額は、下記の計算式に当てはめて算出します。
配当所得の金額=収入金額(源泉徴収税額を差し引く前の額)-株式などを取得するための借入金の利子
配当所得は原則として確定申告の対象ですが、一定のものについては納税者の判断により確定申告をしなくてもよいとされています。「確定申告不要制度」と呼ばれる制度です。
利子所得
「利子所得」とは、その名の通り公債や社債、預貯金などの利子のこと。預貯金や公社債の利息公社債投与信託などの利益の分配を受けた所得が利子所得に当たります。利子所得の計算式はありません。
利子等の収入金額(源泉徴収される前の額)がそのまま利子所得の金額になります。また利子所得は原則として支払を受ける際に所得税や復興特別所得税が源泉徴収されているのです。
中には非課税とされる利子も存在します。納税貯蓄組合預金の利子や、納税準備預金の利子、いわゆる子供銀行の預貯金等の利子は非課税です。
6.働き方別:所得税の支払い方法
所得税の納付方法は働き方によって異なるため、ときに自身で確定申告を行わなければならない場合もあります。また反対に所得税がかからない場合もあるのです。
ここでは「会社員で給与所得のみの場合」「給与年収が2,000万を超える場合」「パートもしくはアルバイトの場合」の所得税の支払い方法を見ていきましょう。
会社員で給与所得のみ
納税者が会社員で給与所得のみの場合、所得税は給料から天引きされます。会社が所得税をあらかじめ引いてから給与を支払う、これを「源泉徴収」といいます。毎月の給与明細の控除欄に「所得税」と書かれている項目です。
源泉徴収されている場合、納税者が行うことはありません。会社が毎月従業員から源泉徴収を行い、本人にかわって翌月10日までに納付するのです。
ただし毎月の納付ではざっくりとした金額を支払っているため、年末に帳尻合わせが必要になります。これが12月に行われる「年末調整」です。
給与年収が2.000万円を超える人
その年の給与が2,000万を1円でも超えた場合、年末調整の対象になりません。その場合は、納税者自身が確定申告をして所得税を支払う必要があります。
確定申告の方法は、一般の給与所得者が行うものと同じです。源泉徴収票や各種控除証明書などを用意して期日までに税務署に提出、納付しましょう。
そのほか、主な給与所得以外の報酬や退職金以外の各種所得金額の合計額が20万円を超える人も、確定申告の必要があります。確定申告の期間は所得が該当する年の翌年2月16日から3月15日です。
パート・アルバイトの場合
パートやアルバイトの場合の所得税はどうなるのでしょうか。パートやアルバイトは、年収が一定の金額を超えなければ所得税はかかりません。
よく聞く「103万の壁」がその金額にあたります。103万円とは、給与所得控除額の65万円と基礎控除額の38万円を合算した金額です。パートやアルパイトにより得た金額が103万円以下で、ほかに所得がなければ所得税はかからないことになります。
なお令和2年分以降、給与所得控除額は最低55万円に、基礎控除額は48万円に変更されているので注意してください。