所得税控除とは、所得金額の合計から各種控除の合計額を差し引く制度のことです。ここでは各種控除の種類や仕組み、非居住者の所得税控除などについて解説します。
目次
1.所得税控除とは?
所得税控除とは、各納税者の個人的事情を加味する目的で設けられた制度のこと。個人の所得にかかる税金、つまり所得税を計算する際、所得金額の合計から各種控除の合計額を差引できます。
所得控除の目的
所得控除の主な目的は、納税者の個人的事情に適合した応能負担の実現を図ること。所得控除には次項で解説する15の控除があり、それぞれ異なる目的を持っています。
- 担税力への影響を考慮する:医療費控除・雑損控除
- 個人的事情を考慮する:勤労学生控除・障がい者控除・寡婦(寡夫)控除
- 課税最低限を保障する:配偶者控除・配偶者特別控除・基礎控除・扶養控除
- 社会政策上の要請:社会保険料控除・生命保険料控除・地震保険料控除・小規模企業共済等掛金控除・寄附金控除
所得控除の計算
定められた所得控除の要件に当てはまる場合、各所得の合計金額から各種所得控除の合計金額を差し引きます。残りの金額を基礎として計算されるのが所得税額です。
- 所得税額=課税所得金額×所得税率-控除額
所得税はすべての給与所得者に一律で課税されません。所得税率は個人の年収によって7段階に分かれています。
2.所得税控除の種類を紹介
続いて所得税控除の種類について詳しく見ていきましょう。令和2年4月1日現在、所得税法では15種類の所得控除を設けているのです。ここでは15種類のうち該当する人が多い8つの控除について解説します。
- 扶養控除
- 医療費控除
- 社会保険料控除
- 小規模企業共済等掛金控除
- 生命保険料控除
- 地震保険料控除
- 障がい者控除
- 配偶者控除
①扶養控除
「扶養控除」とは、納税者に所得税法上の控除対象扶養親族(その年の12月31日時点で以下すべての要件を満たす人)となる人がいる場合、一定金額の所得控除が受けられる仕組みのこと。
- 配偶者以外の親族、もしくは都道府県知事から養育を委託された児童および市町村長から養護を委託された老人
- 納税者と生計を一にしている
- 青色申告者の事業専従者として給与の支払を受けていない、または白色申告者の事業専従者ではない
- 年間の合計所得金額が48万円以下
扶養控除とは? 控除の条件や金額、年収の壁について簡単に
扶養控除とは、家族や親族の生計を支えている人にかかる税負担や社会保険料を軽減する措置です。要件、控除金額、扶養控除に関する年収の壁などについて解説します。
1.扶養控除とは?
扶養控除とは、家族や親...
②医療費控除
「医療費控除」とは、支払った医療費が一定額を超えた場合に受けられる所得控除のこと。医療費控除の金額は、「(実際に支払った医療費の合計額-保険金などで補てんされる金額)-10万円」で求められます。
要件は「控除の対象となるのは自己または自己と生計を一にする配偶者やそのほか親族のために支払った医療費である」「その年の1月1日から12月31日までに支払われた医療費である」です。
③社会保険料控除
「社会保険料控除」とは、社会保険料を支払った金額について受けられる所得控除のこと。その年に実際支払った金額、または給与から差し引かれた金額の全額が控除されます。なお社会保険料控除の対象となるのは以下の金額です。
- 被保険者として負担した健康保険・国民年金・厚生年金保険・船員保険の保険料
- 国民健康保険の保険料あるいは国民健康保険税
- 高齢者医療の確保に関する法律の規定にもとづいた保険料
④小規模企業共済等掛金控除
「小規模企業共済等掛金控除」とは、納税者が小規模企業共済法に規定された共済契約にもとづく掛金を支払った際に受けられる所得控除のこと。控除できるのはその年に支払った掛金の全額で、次の3つです。
- 小規模企業共済法の規定によって、独立行政法人中小企業基盤整備機構と結んでいる共済契約の掛金
- 確定拠出年金法に規定された企業型年金加入者掛金、または個人型年金加入者掛金
- 地方公共団体が実施する心身障がい者扶養共済制度の掛金
⑤生命保険料控除
「生命保険料控除」とは、納税者が生命保険料や介護医療保険料、個人年金保険料を支払った場合に受けられる所得控除のこと。控除金額は年間の支払保険料によって4段階(平成24年1月1日以後に締結した新契約の場合)に区分されています。
なお保険期間が5年未満の生命保険には控除の対象にならないものもあります。あらかじめ確認しておきましょう。
⑥地震保険料控除
「地震保険料控除」とは、地震保険に加入した際に支払った保険料が、保険期間や保険料に応じて控除される仕組みのこと。平成18年の税制改正に伴い、従来の損害保険料控除が廃止。より控除枠の大きな仕組みとして新設されたのが地震保険料控除です。
控除を受ける際は、確定申告書に地震保険料控除に関する事項を記載したうえで、支払金額や控除を受けられると証明する書類、または電磁的記録印刷書面を添付します。年末調整で控除される場合、この必要はありません。
⑦障がい者控除
「障がい者控除」とは、納税者自身もしくは同一生計配偶者や扶養親族が、所得税法上の障がい者に当てはまる場合に受けられる所得控除のこと。
控除金額は、「障がい者」「特別障がい者」「同居特別障がい者」といった区分によって異なります。特徴は、扶養控除の適用がない16歳未満の扶養親族を有する場合も適用される点です。
⑧配偶者控除
「配偶者控除」とは、納税者に所得税法上の控除対象配偶者がいる場合に受けられる控除のこと。以下4つの要件すべてに当てはまる人が控除対象配偶者の対象です。
- 民法の規定による配偶者である
- 年間の合計所得金額が48万円以下である
- 青色申告者の事業専従者として給与の支払を受けていない、または白色申告者の事業専従者でない
- 納税者と生計を一にしている
なお配偶者控除による控除額は控除を受ける納税者本人の合計所得金額、および控除対象配偶者の年齢によって異なります。
3.非居住者の場合は所得税控除が限定される
日本の所得税法では、国内に住所を有し、現在まで1年以上居所する個人を「居住者」、それ以外の個人を「非居住者」と規定しています。「非居住者」の場合、所得控除はどのような扱いになるのでしょう。ここでは非居住者の所得控除について解説します。
日本国内に住所がない非居住者とは?
我が国の所得税法では、納税義務者を「居住者」と「非居住者」の2つに区分して課税される所得の範囲に違いを設けています。日本の居住者に該当するかどうか判断する際には、国内に住所または居所があるかどうかを判定しなければなりません。
ここでいう住所とは各人の生活の本拠を、居所とはその人の生活の本拠という程度には至らないものの、その人が現実に居住している場所を指しています。
非居住者に対する3つの所得控除とは?
日本国内に住所などがない、いわゆる「非居住者」の場合、以下3つの所得控除を受けられます。
- 雑損控除
- 寄附金控除
- 基礎控除
役員や使用人が海外の支店などに転勤となった際、1年以上の予定による転勤なら非居住者に、1年未満の転勤であれば居住者になります。非居住者となった際の年末調整も、基本的には毎年12月に行われる年末調整と同じ手続きが必要です。
①雑損控除
「雑損控除」とは、災害や盗難、横領によって資産の損害を受けた際、一定金額の所得控除を受けられる制度のこと。対象となるのは以下すべての要件を満たす資産です。
- 資産の所有者が納税者、もしくは納税者と生計を一にする配偶者やそのほか親族である(その年の総所得金額等が48万円以下)
- 棚卸資産、もしくは事業用固定資産「生活に通常必要でない資産」のいずれにも該当しない資産である
②寄附金控除
「寄附金控除」とは、納税者が国や地方公共団体、特定公益増進法人などに「特定寄附金」を支出した際に受けられる控除のこと。いわゆる「ふるさと納税」を行った場合に受けられる所得控除になります。
このうち政治活動に関する寄附金や認定NPO法人に対する寄附金などは、所得控除ではなく税額控除にするのも可能です。
③基礎控除
「基礎控除」とは、納税者本人の合計所得金額に応じて0円から48万円まで控除を受けられる制度のことで原則、すべての納税者に適用されます。ほか所得控除のように、ある一定の要件を満たす必要がありません。
給与所得者でも個人事業主でも無条件で一律に適用されます(令和元年分以前の基礎控除は一律38万円)。
4.所得税控除における配偶者控除を受けるためには?
続いて納税者に所得税法上の控除対象配偶者がいる場合に受けられる「配偶者控除」について、見ていきましょう。令和2年4月1日現在、配偶者控除の詳細は配偶者の所得が給与所得のみの場合と、給与所得以外の所得がある場合とで異なります。
配偶者の所得が給与所得のみの場合
まずは配偶者の所得が給与所得だけの場合を見てみましょう。配偶者のその年の給与収入が103万円以下であれば、給与所得控除額は55万円。これを差し引いた合計所得の金額は48万円以下になり、配偶者控除を受けられます。
たとえばパート勤務による給与収入が95万円の場合、「給与所得(95万円)-給与所得控除額(55万円)=給与所得(40万円)」合計所得金額は48万円以下となるため、配偶者控除が受けられるのです。
配偶者に給与所得以外の所得がある場合
一方、給与所得以外に不動産所得や一時所得、譲渡所得などがある場合はどうでしょう。この場合も、年間の合計所得金額が48万円以下(令和元年分までは38万円以下)であれば、配偶者控除を受けられます。
たとえば給与収入が80万円、不動産所得が10万円の例を見てみましょう。
「給与収入(80万円)-給与所得控除(55万円)=給与所得(25万円)」「給与所得の金額(25万円)+不動産所得の金額(10万円)=合計所得金額(35万円)」合計所得金額が48万円以下となるため、配偶者控除が受けられます。
5.改めて知っておきたい所得税の仕組みと計算方法
ここで改めて、所得税の仕組みと計算方法について確認しておきましょう。所得税控除について学ぶ際、所得金額の計算方法や所得税額の計算方法、所得税および復興特別所得税の税額計算方法などを整理しておく必要があります。
所得税とは?
所得税とは、毎月の給与や商売の利益、土地を売って得た利益などに対して課される税制のこと。その年1年間のすべての所得から所得控除を差し引き、残りの課税所得に税率を適用して、税額を計算します。
なお平成25年から令和19年までの最長25年間は、所得税と復興特別所得税をあわせて申告、納付するのです。
所得金額の計算方法
「所得」は、性質によって10種類に分かれます。
- 利子所得
- 不動産所得
- 事業所得
- 給与所得
- 退職所得
- 配当所得
- 山林所得
- 譲渡所得
- 雑所得
- 一時所得
収入や必要経費の範囲、所得金額の計算方法などにはそれぞれ異なる対象、計算方法が定められています。
課税所得金額の計算方法
課税所得金額は、その年の1月1日から12月31日(年分という)のすべての所得から、以下15種類の所得控除額を差し引いて計算します。こちらも金額や要件はそれぞれ異なるのです。
- 基礎控除
- 社会保険料控除
- 生命保険料控除
- 配偶者控除
- 配偶者特別控除
- 扶養控除
- 医療費控除
- 小規模企業共済等掛金控除
- 地震保険料控除
- 寄附金控除
- 寡婦(寡夫)控除
- 障がい者控除
- ひとり親控除
- 勤労学生控除
- 雑損控除
所得税額の計算方法
所得税率は、5%から45%の7段階(分離課税に対するものなどを除く)に区分されているのです。なお課税される所得金額は、1,000円未満の端数金額を切り捨てた後の金額になります。
最小の区分は1,000円から194万9,000円まで。この場合の税率は5%、控除額0円です。最大の所得金額区分は40,00万円以上。この場合は税率45%、控除額は479万6,000円です。
所得税および復興特別所得税の申告納税額の計算方法
復興特別所得税は、所得税額から差し引かれる金額を差し引いた後の金額、つまり基準所得税額に2.1%の税率を掛けると計算できます。
- 基準所得税額=課税総所得金額×税率-控除額
- 復興特別所得税=基準所得税額×2.1%
- 基準所得税額+復興特別所得税が所得税・復興特別所得税になり、あわせた申告・納付が可能
復興特別所得税の税額は、所得ではなく「所得税額」の2.1%である点に注意が必要です。また復興特別所得税は記入漏れも多いため、あわせて注意しましょう。
6.課税所得金額に税率を乗じて一定の金額を控除する税額控除
課税所得金額に税率を掛けて算出した所得税額から、一定の金額を控除するしくみを「税額控除」といいます。税額控除は、剰余金配当などの配当所得がある場合に控除を受けられる制度のこと。こちらもほかの控除と同じく、受ける際は申告が必要です。
主な税額控除の内容
税額控除にはさまざまな種類があります。
- 配当控除
- 外国税額控除
- 住宅借入金等特別控除
- 政党等寄附金特別控除
- 公益社団法人等寄附金特別控除
- 認定NPO法人等寄附金特別控除
- 住宅耐震改修特別控除
- 住宅特定改修特別税額控除
- 認定住宅新築等特別税額控除
- .試験研究を行った場合の所得税額の特別控除
ここでは特に代表的な税額控除の3つについて解説します。
配当控除
「配当控除」とは、剰余金の配当などの配当所得がある際に税額控除を受けられる仕組みのこと。
配当控除を受けられるのは、日本国内に本店のある法人から受ける剰余金の配当や利益の配当、剰余金の分配や金銭の分配など。外国法人から受ける配当は、配当控除の対象外となります。
また基金利息や特定目的会社から支払を受けるべき配当、国外私募公社債等運用投資信託の配当も配当控除の対象外となります。
外国税額控除
外国の法令にもとづき、外国またはその地方公共団体により個人の所得を課税標準として課される税を「外国所得税」といいます。外国所得税を納付する場合、二重課税を調整するために設けられたのが「外国税額控除」です。
居住者が外国所得税を納付する場合、一定金額を限度としてその外国所得税額を所得税額から差し引けます。
住宅借入金等特別控除
「住宅借入金等特別控除」とは、個人が住宅ローンを利用してマイホームの新築や取得、増改築をした際に受けられる控除のこと。
一定の要件を満たす場合、取得等に係る住宅ローンの年末残高合計額を基準にした金額を、各年分の所得税額から控除できます。住宅ローン減税や住宅ローン控除とも呼ばれる制度です。
控除期間は10年間、控除金額は毎年の住宅ローンの年末残高に1%を掛けた金額となります。限度額は40万円、認定住宅の場合は50万円です。