就職氷河期世代支援プログラムとは、いわゆる就職氷河期世代の人を対象にした内閣府主導の支援計画のことです。
目次
1.就職氷河期世代支援プログラムとは?
就職氷河期世代支援プログラムとは、就職氷河期の影響により、働く意思を持ちながらも、不本意に非正規雇用で働いたり引きこもりになってしまったりした人を支援する計画のこと。
内閣府主導の施策として2019年に発表され、50以上の支援策によって構成されています。資格取得や職業体験のように本人に向けた支援のほか、企業や支援機関に向けた助成金などの間接支援も盛り込まれているのです。
就職氷河期世代支援プログラムの内容
就職氷河期世代支援プログラムの概要について、もう少し詳しく見ていきましょう。これまで長期無業者や引きこもり層、不安定な職に悩む人に向けた対策は、当該状態にある労働者が直接ハローワークまで出向いて仕事を紹介してもらう「申請式」が主流でした。
しかしハードルが高く解決につながる部分が少ない課題もあったのです。そこで「就職氷河期世代支援プログラム」では、公共福祉に携わる人がサポートを必要とする人のもとに出向く「アウトリーチ支援」に重きを置くようになりました。
プログラムの対象年齢
就職氷河期世代支援プログラムの支援対象年齢は、卒業年度で判断します。支援対象の中心となるのは1993年から2004年に最終学歴を卒業した人。それぞれの支援制度により変動するため、実際の支援は学歴不問で35歳から55歳が中心になるものと考えられています。
プログラムの支援対象
就職氷河期世代支援プログラムの支援対象となるのは、上記年齢を充たす人のうち、「無職」「引きこもり」「非正規雇用」などの状態であり、かつこの状態が不本意だと感じている人です。ここには「8050問題」の当事者や、長期の引きこもりも含まれます。
就職氷河期世代の支援が必要な理由
なぜ就職氷河期世代に向けた支援が必要なのでしょうか。現在の日本では社会的な大不況により、推定100万人もの人が「非正規雇用や無職」といった不本意な状況にあるとされています。就職氷河期を過ごした人は、現在30代半ばから40代半ばを迎える世代です。
このまま数年が経過すると、そういった人は安定的な生活基盤を持たないまま高齢期になってしまうでしょう。それにより年金や医療費といった社会保障にも致命的なダメージを与えかねません。
こうした問題に危機感を抱いた政府によって決められたのが、今回の「就職氷河期世代支援プログラム」なのです。
支援対象者の状況について
国の経済政策の一環として発表された側面を持つ「就職氷河期世代支援プログラム」には、就職氷河期世代への救済と同時に「人手が足りない分野で正社員になってもらいたい」という思惑があります。
現時点で支援の実施が確認されている事業の対象者は、下記のとおりです。
- やむを得ずアルバイトやパート、派遣などで働く人
- 社会とのつながりが断たれた中高年のひきこもりの人
- およそ1年以内の離職を繰り返している人
- 就職の意思はあるものの、長いあいだ無職状態の人
就職氷河期世代とは何歳の人をいうのか
そもそも就職氷河期世代とは、何歳の人を指すのでしょうか。就職氷河期世代とは、俗にいうバブル崩壊後の1993年から2005年に最終学歴を卒業し、就職活動に差し掛かった年代のこと。
「就職氷河期」は、1994年に流行語大賞に選ばれて世間に広まった俗語です。2021年時点では、37歳から46歳くらいの人を「就職氷河期世代」といいます。
学歴別に氷河期世代を見てみる
就職氷河期世代を学歴別に見てみましょう。以下は平成5年から平成16年に最終学歴を卒業した人の生年を、学歴別に整理したものです。就職氷河期は1993年から2004年。生まれた年ではなく、最終学歴を卒業した年度数で判断します。
- 最終学歴が中学校卒業→生年1977年から1988年が該当
- 最終学歴が高校卒業→生年1974年から1985年が該当
- 最終学歴が短期大学、専門学校卒業→生年1972年から1983年が該当
- 最終学歴が大学卒業→生年1970年から1981年が該当
- 最終学歴が大学院(2年)卒業→生年1968年から1979年が該当
2.就職氷河期世代支援プログラムで受けられる支援
就職氷河期世代支援プログラムは、各府省庁による50以上の支援計画によって構成されています。プログラムの原文には難解で曖昧な部分があるものの、全体を見ると「切れ目のない支援」を提供しているのです。
具体的には、「資格を取ったが就職につながらない」「働きたいと考えているがどう動けばいいのか分からない」といった事態を防ぐものになります。ここでは就職氷河期世代支援プログラムで受けられる具体的な支援について、解説しましょう。
資格取得や職業訓練などの直接支援
まずは就職氷河期世代本人への直接支援について見ていきます。たとえば「就職につながる資格学習をサポートして資格を取得しやすくなるよう支援する」「職業訓練の機会を提供する」などです。
このほか概算要求では、短期間での資格取得に実習をセットにした「短期資格等習得コース」の創設、ハローワークが実施する求職者訓練の見直しなどが予定されています。
短期資格等習得コース(仮称)の創設
短期資格等習得コースとは、無職や引きこもり、非正規雇用など不安定な状態にある人に向けた「資格取得+職業体験」のサポート計画です。以下4つのステップで資格の取得や就職をサポートします。
- 申し込み:ハローワークや直接申し込みなど
- 資格を取る:1か月から3か月ほどで取れる実用的な学習講座を提供
- 職業体験:委託した業界団体や関係企業での職場見学や業務体験(半日から3日程度)
- 正社員に就職
氷河期世代限定求人
2019年9月、厚生労働省は、氷河期世代を中心にした求人の年齢制限を許可しました。「氷河期世代限定求人」の登場です。これには2か月間で1500人を超える求人が集まり、約80人の就職が決まりました。
これを受けて、対象世代の大規模採用を打ち出す企業も出てきたのです。総合物流大手の山九では氷河期世代を対象にした正規雇用枠を3年間で300人確保する計画を、人材派遣のリーディングカンパニーであるパソナからは合計300人を採用する計画が発表されています。
氷河期世代の公務員採用試験について
氷河期世代限定求人に続き、日本政府は各府省庁に就職氷河期世代のひとを対象にした人事院による統一試験の実施を求めました。この影響を受けて進められたのが、公務員職員採用試験の実施です。2020年には内閣府及および厚労省が先行的な採用試験を実施。
各自治体の判断によって、地方公務員についても氷河期世代を採用するよう求めています。取り組みはすでに「兵庫県宝塚市や三田市」「岡山県岡山市」「群馬県渋川市」など複数の自治体で進められており、今後も継続すると見られています。
求職者支援訓練の見直し
就職氷河期世代支援プログラムにおける本人への直接支援の一環として、現在ハローワークが実施している求職者訓練の見直しも進められています。先に触れた「短期資格等習得コース」の創設もこのうちのひとつ。
受講しやすく、また即効性のあるリカレント教育を確立させるため、求職者支援訓練の訓練期間を現行の3か月から2か月以上に緩和する取り組みが進められているのです。
農業人材力強化総合支援事業について
農業人材力強化総合支援事業とは、農家になりたい人に3か月程度の短期農業教育を提供して、就農や独立開業を促す事業。就職氷河期世代を含む幅広い世代の新規就農を後押しするため、研修期間1年あたり150万円の資金を交付しています。
「都道府県が認めた研修機関でおおむね1年以上かつ年間1200時間以上研修する」「常勤の雇用契約を締結していない」などが交付の要件です。
漁業人材育成総合支援事業について
漁業人材育成総合支援事業とは、農業と同じく漁師になりたい人に漁業学習や職業体験を提供し、これらを通して就職・独立開業を促す事業です。漁業の場合、漁業学校などにおける通信教育といった学習プログラムを実施。
本プログラムにより漁業学校などで学ぶ若者の就業準備や就業相談会、就業情報の提供といった内容を実施後に、漁業現場での長期研修、経営・技術向上の支援が行われます。農業と同じく一部は、令和元年度より前倒しで実施されているのです。
その他支援について
農業や漁業以外、以下の業種でもさまざまな支援策が進められています。
- 観光業:旅館への就職、転職に興味のある人を対象とした支援策。旅館実務の基礎知識や地域の特色についての座学、施設の就業体験などを実施している
- 自動車整備業:労働条件の整備をテーマにした人材確保セミナーを年1回以上実施。幅広い層に向けた自動車整備人材受入のための環境整備を進めている
- 建設業:各建設業団体と連携を図り、建設技能者のスキルアップに向けた特別講習を実施。インターネット上で利用可能な学習プログラムの作成も行われている
- 造船・舶用工業:造船工学新教材や造船技能研修センターなどを活用した教育内容が検討されている。受入れのための環境整備も進行中
3.ハローワークなど支援窓口の強化
就職氷河期世代本人への直接支援だけでなくハローワークなど支援窓口でも、就職氷河期世代支援プログラムによる支援の強化が進められています。具体的な支援窓口の強化策として挙げられるのは、次の2つです。
- ハローワークに氷河期世代専門窓口を設立
- 地域若者サポートステーションの拡充
①ハローワークに氷河期世代専門窓口を設立
ひとつめは、全国の主要なハローワークに「就職氷河期世代限定の専門窓口」を設置すること。兵庫労働局では、以下のような支援を実施しています。
- キャリアチャレンジ応援コーナーPlus:チーム支援を中心とした伴走型支援。就職支援コーディネーターなどの専門家を中心とした個別支援を実施している
- キャリアチャレンジ応援コーナー:求職者担当者制による個別支援を中心に実施
- 不安定就労者再チャレンジ支援事業:教育訓練などを通じた民間委託による就職支援事業を実施
②地域若者サポートステーションの拡充
地域若者サポートステーション(通称サポステ)でも就職氷河期世代の支援を進めています。地域若者サポートステーションは、働くことに悩みを抱えている人たちとじっくり向き合い、職場定着までを全面的にバックアップする厚生労働省委託の支援機関です。
就労体験や職業体験、ビジネスマナー講座など、「就労の準備段階的な支援」を提供しています。多くの人が気軽に相談できる機関として利用できるよう、すべての都道府県に設置されているのです。
4.助成金などの間接支援について
就職氷河期世代のなかには、正規雇用の機会を逃したことによる低スキル・低キャリアによって、思うように社会復帰できない人も少なくありません。新卒世代のような若さもないため、雇用促進や安定化には政府による支援が必要です。
就職氷河期世代支援プログラムでは、就職氷河期世代を正社員として採用した企業やトライアル雇用をした企業に助成金を供出しています。
成果報酬型の民間委託事業
就職氷河期世代支援プログラムの間接支援は、以下2つから構成されています。
- 成果報酬型の民間委託事業
- 特定求職者雇用開発助成金
内閣府では「成果連動型民間委託契約方式による事業(PFS事業)」を推進しているのです。
これは支援対象者へ2〜3か月ほどの訓練を実施した業者に対して、経費の一部として最大10万円を支給。さらに6か月以上就業した場合は50万円、1年以上の継続就労に成功した場合は10万円の成功報酬を上乗せする制度です。
特定求職者雇用開発助成金
特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)とは、高齢者や雇用経験の少ない人、またハンディを持つ人などを雇った企業に対して助成金を供出する制度です。企業が助成金を受給するためには、以下の要件をすべて満たす必要があります。
ハローワークまたは民間の職業紹介事業者等の紹介により雇い入れる
雇用保険一般被保険者として、雇い入れ・継続雇用が確実だと認められる
助成金額も50万円から60万円と少なくないうえ、対象者にとっては雇用されやすくなるといったメリットもあります。
5.相談サービスの拡充
引きこもり状態の人には、病気や長期間の無職状態、社会からの孤立など就労以前の問題を抱えている人もいます。氷河期世代支援プログラムには、こうした人たちにも支援の手が届くような支援体制の強化、相談サービスの拡充が盛り込まれているのです。
アウトリーチ支援員について
一人ひとりの状況に合わせたより丁寧な支援を実現するため、政府は「アウトリーチ支援」の展開を進めています。アウトリーチとは、手を差し伸べること。
チラシやパンフレットを届けるといった従来の対応だけでなく、公共福祉に携わる人が、みずからサポートを必要とする人のもとに出向く「アウトリーチ支援員」の配置を発表しました。
各支援機関との連携を強めるアウトリーチ支援員によって、引きこもりや長期無職の人に適切な支援情報を提供するのです。
医療や法律にも対応する相談サービス
相談サービスの充実に向け、医療や法律にも対応する専門チームの構築も進められています。従来の支援センターでは、青少年を得意とするスタッフが中高年の支援を引き受けているケースも少なくありませんでした。
今回の支援プログラムに合わせて、より専門性の高い支援体制を構築。医療や法律、心理や福祉など、さまざまな分野に知見がある専門チームを配置して、自立相談支援機関へのアドバイスを行っています。
就労にこだわらない居場所作り
就職氷河期世代支援プログラムの最終的な目標は、働く意思を持ちながら不本意に非正規雇用で働く人や、ひきこもり状態の人に対する雇用の促進および安定化です。
同時にさまざまな事情から、就労が適切ではないと考えられる中高年引きこもりの人に対して、就労にこだわらない居場所を作る取り組みも進められています。
ボランティア活動やコミュニティの創設などあらゆる角度から、居場所を作る方針が打ち出されているのです。
6.就職氷河期世代支援プログラムの開始について
就職氷河期世代に対する相談サービスの拡充や、助成金を通じた間接支援など、さまざまな支援策を盛り込んだ就職氷河期世代支援プログラム。その大部分が実践に向かって進められており、一部にはすでに実施開始しているものもあるのです。
支援自体は期限なしで、集中支援は3年
2019年、政府は3年間で集中的に取り組む本格支援プログラムを取りまとめました。これは地域ごとの実状、対象者を把握したうえで具体的な目標を立て、3年間の集中的な取り組みによって30万人の正規雇用者の増加を目的とした取り組みです。
もちろん3年間はあくまでプログラムの集中支援期間。支援そのものは当事者や家族の事情に合わせて期限なく提供されます。