従業員の退職に伴い、企業・従業員側ではそれぞれ手続きが発生します。退職手続きは流れに沿って順番に行う必要があり、それぞれ各種手続きに必要な書類も多いため、漏れなく対応することが重要です。
今回は企業側・従業員側の退職手続きの流れややるべきこと、手続き時の注意点などをご紹介します。
目次
1.退職手続きの流れ
退職するまでには、手続きを含め一連の流れがあります。企業側は書類関係の手続きが多く、従業員がスムーズに退職するためにも漏れなく対応しなければなりません。
下記は、従業員・企業それぞれの退職手続きの流れです。
従業員側 | ①退職の意思表示・退職日の決定:約3〜2か月前 ②業務の引き継ぎ・退職届の提出:約1か月前 ③取引先の挨拶回り・担当者へ引き継ぎ:2週間前 ④社内への挨拶・貸与物の返却・退職書類の受け取り:退職日 ⑤健康保険・年金・税金に関する手続き:すぐに再就職しない場合 |
企業側 | ①退職届の受理:約1ヶ月前 ②退職手続きの説明:約2週間前 ③退職金の支給準備・退職に関する書類準備:約2〜1週間前 ④貸与物や健康保険証の回収:退職日 ▼従業員の退職後 ⑤社会保険・雇用保険の喪失手続き ⑥所得税・住民税に関する手続き ⑦離職票・源泉徴収票の発行・送付 |
従業員側の手続きは、主に退職届の提出や業務の引き継ぎなどです。退職後、すぐに再就職しない場合は諸々の書類手続きが発生します。
企業側の手続きは、従業員の退職後に書類手続きが多く、期日が設けられている手続きもあるため退職後すぐに取り掛かる必要があります。
2.従業員側の退職手続き
従業員側の退職手続きを流れに沿って詳しく解説します。
①退職の意思表示
いきなり退職届を出すのではなく、まずは退職の意思表示と退職日を伝えることが必要です。原則、退職は意思表示から2週間で効力が生じると民法で定められています。
多くの企業では、就業規則で「希望する退職日から14日前以上に申し出ること」と定められていることが一般的です。法的・規則的には最低期日の14日前でも問題ありません。しかし、業務の引き継ぎ期間を想定して1〜3か月前に退職の意思表示をすることが一般的です。
意思表示の際はまだ退職届は出さず、直属の上司に口頭で退職の意向と退職希望日を伝えるだけで問題ありません。
②退職届の提出
退職届の提出は法的に定められていないものの、就業規則で提出が求められる場合もあります。また円満に退職するためにも退職届を提出したほうがよいでしょう。念のため、退職届の提出有無については、退職の意思表示の際に上司に確認しておくと確実です。
退職届について就業規則で定めがある場合、期日までに提出するのが原則です。一般的には、退職の1か月前までの提出が規定されていることが多いでしょう。記載内容や様式に法律上の決まりはないものの、「氏名」「退職日」「退職理由」は最低限記載する必要があります。
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③業務の引き継ぎ
円満に退職するためには、会社側の都合にも配慮した引き継ぎスケジュールを設定することが大切です。余裕を持って、退職日の3日前くらいに完了するようスケジュールを組みます。
そして、退職届が受理されたら、なるべく早く引き継ぎを始めます。引き継ぎは口頭で説明するだけでなく、誰が引き継いでも問題ないよう資料を作成しておくとよいでしょう。
仕事の流れや現在の進捗などを詳細に記載しておきます。また、会社の意向に応じて、担当していた取引先への挨拶回りも行うこともあります。後任の担当者が決まっていれば、同行してもらうと良いでしょう。
引き継ぎが終わり、有給が残っている場合には消化することも可能です。有給を消化してから退職したい場合には、退職希望日を伝える際に有給消化期間も含めた退職日を伝えます。
④貸与物の返却
貸与物は退職日当日、または退職日までに必ず返却します。完全リモートワークの場合、郵送にて返却するケースもあるでしょう。返却が必要な貸与物例は、以下のとおりです。
- 社用PC
- 社用携帯
- 名刺
- 社章
- 社員証
- 入館証
- 通勤定期券
- 制服
- 仕事に関するデータや資料
- 健康保険証
健康保険証は返却必須の重要書類ですが、退職日まで有効であるため一般的には退職日以降の返却となります。返却方法は会社の指示に従い、扶養家族がいる場合には、扶養家族分を含むすべての健康保険証を返却しましょう。
⑤退職書類の受け取り
会社から退職に伴い発行される書類を受け取ります。退職後に発行される書類であるため、基本的には自宅へ郵送されます。主に受け取る書類は、以下のとおりです。
- 離職表
- 源泉徴収票
- 退職証明書
- 年金手帳・基礎年金番号通知書(会社が保管している場合)
- 雇用保険被保険者(会社が保管している場合)
転職先の入社手続きやすぐに転職しない場合の保険関連の手続き、ハローワークなどで必要な書類もあるため、会社から漏れなく交付されているかしっかりと確認しましょう。
下記で、各書類の概要をご紹介します。
離職票
離職票は雇用保険の失業給付を受ける際に必要な書類であり、「離職票-1」「離職票-2」の2枚の書類があります。次の転職先が決まっており、失業給付を受けない場合はとくに必要ありません。
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退職証明書
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雇用保険被保険者証
基本的には会社が保管しているため、退職に伴い返却されます。雇用保険の失業給付を受ける際に必要であり、転職先では入社手続きに必要となるため提出が求められます。自分で保管しており紛失した場合は、退職前に再発行を依頼しましょう。
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年金手帳・基礎年金番号通知書
年金手帳は原則自分で保管しますが、紛失防止のために会社が保管しているケースも多くみられます。年金手帳は2022年3月を持って廃止となったため、自分で保管しており紛失した場合、再発行されるのは基礎年金番号通知書となります。
紛失してしまった場合は、年金事務所に問い合わせて、再発行依頼をしましょう。
3.企業側の退職手続き
次に、企業側が行う退職手続きを流れに沿って解説していきます。
- 退職届の受理
- 退職手続きの説明
- 貸与物の回収
- 社会保険の資格喪失手続き
- 雇用保険の資格喪失手続き
- 所得税の手続き
- 住民税の手続き
- 退職書類の発行・送付
①退職届の受理
退職届は退職に関連するトラブルを防ぐためにも必要な書類です。口頭での意思表示だけでは記録が残らないため、退職届を提出してもらうのが一般的です。企業によっては、就業規則で退職届の提出について規定があります。
②退職手続きの説明
退職予定者に対して、退職日までに必要な対応を説明しましょう。退職日までに返却してほしい物や書類、退職後に渡す書類や退職後に従業員自身で行う必要がある手続きなどを伝えます。この時、返却物や交付書類をリストにして渡すのもよいでしょう。
一部書類は退職後に渡すため、退職後の住所も確認して控えておくことが必要です。
③貸与物の回収
退職日または最終出勤日までに貸与物を回収します。回収し忘れがあると、後々郵送の依頼をしたり、返却が難航してトラブルに発展したりする恐れもあります。
有給消化をしてから退職する従業員は退職日当日に出勤するとは限らないため、最終出勤日をしっかりと確認し、それまでに回収する必要があります。
④社会保険の資格喪失手続き
退職に伴い会社側の社会保険を脱退するため、社会保険の資格喪失手続きを行います。資格喪失日から5日以内に、必要書類を所轄の年金事務所に提出しましょう。なお資格喪失日は退職日の翌日で、5日以内に土日祝が含まれる場合にはその翌日までが期日です。
社会保険の資格喪失手続きに必要な書類は、以下の2点です。
- 健康保険・厚生年金被保険者資格喪失届
- 健康保険証(扶養家族分も含む)
健康保険組合に加入している会社は、年金事務所だけでなく健康保険組合にも同じ書類を提出する必要があります。このとき、健康保険証は健康組合に提出する書類に添付します。
健康保険・厚生年金被保険者資格喪失届は、日本年金機構のWebサイトよりダウンロード可能です。
参考:日本年金機構「従業員が退職、死亡したとき」
⑤雇用保険の資格喪失手続き
雇用保険の資格喪失手続きでは、退職日の翌々日から10日以内に以下書類を所轄のハローワークに提出します。
- 雇用保険被保険者資格喪失届
- 雇用保険被保険者離職証明書
また、賃金台帳・労働者名簿・出勤簿など離職日以前の賃金の支払い状況や離職理由が確認できる書類も提出することで離職票が発行されます。
雇用保険被保険者資格喪失届は、下記よりダウンロード可能です。
参考:ハローワークインターネットサービス「雇用保険被保険者資格喪失届」
雇用保険被保険者離職証明書は状況に応じて提出
雇用保険被保険者離職証明書は、雇用保険の失業給付を受ける際に必要な書類です。従業員が次の転職先が決まっていて失業給付を受けない場合、本人が希望しない場合は提出するはありません。
しかし、退職者が59歳以上の場合、希望の有無にかかわらず提出が必要です。
⑥所得税の手続き
所得税の手続きで必要なのは、源泉徴収票の発行です。源泉徴収票は従業員の退職から1か月以内の交付が義務づけられており、違反した場合は罰則の対象です。退職後に発行するため、基本的には郵送での交付となります。
⑦住民税の手続き
従業員の住民税の納付は、会社側が給与から天引きして納付する「特別徴収」によって行われます。退職すると会社側で納付できなくなるため、そのための手続きが必要です。
従業員の退職日の翌日10日までに、従業員が居住する市区町村に「給与支払報告に係る給与所得異動届書」を提出します。提出期日は市区町村によって異なるため、各自治体に確認しましょう。
⑧退職書類の発行・送付
上記手続きに伴い発行した書類を従業員に送付します。退職後の手続き・発行となるため、基本的には郵送での送付となります。郵送で送付することになる主な書類は、以下のとおりです。
- 必ず送付するもの:源泉徴収票・雇用保険被保険者証
- 本人の希望に応じて送付するもの:退職証明書・離職票・健康保険資格喪失証明書
健康保険資格喪失証明書は、会社が加入する協会けんぽや健康組合に申請することで発行されます。企業側に発行の義務はないため、従業員の希望に応じて発行しましょう。
4.退職後すぐに再就職しない場合に従業員が対応すべきこと
退職後、すぐに再就職しない場合は下記手続きが必要です。各手続きについて、期日や必要書類などを詳しくみていきます。
- 国民健康保険の加入手続き
- 国民年金の加入手続き
- 失業保険給付の手続き
- 住民税の支払い手続き
①国民健康保険の加入手続き
退職に伴い会社の社会保険を脱退しているため、新たに健康保険に加入が必要です。会社員でない人は、一般的に国民健康保険への加入となります。
退職日から14日以内に、下記書類を持参してお住まいの市区町村窓口にて加入手続きを行います。
- 離職票、退職証明書、健康保険資格喪失証明のいずれか
- 個人番号が確認できる書類:マイナンバーカード、通知カード
- 本人確認書類:マイナンバーカード、運転免許証、パスポート
市区町村によって届出書を設けている場合もあるため、窓口で確認しましょう。
任意継続も選択肢の一つ
下記条件を満たす場合、退職した会社の社会保険を2年間継続できます。
- 資格喪失日の前日までに健康保険の被保険者期間が継続して2か月以上ある
- 資格喪失日から20日以内に任意継続被保険者資格取得申出書」を提出する
任意継続の場合、会社との折半はなく全額個人負担となる点に注意が必要です。
②国民年金の加入手続き
退職に伴い厚生年金保険の資格も喪失するため、国民年金への加入手続きが必要です。手続きが必要となるのは、退職時の年齢が20歳位以上60歳未満である場合です。
退職から14日以内に、下記書類を持参してお住まいの市区町村窓口で手続きします。
- 離職票または退職証明証
- 本人確認書類:マイナンバーカード、運転免許証、パスポートなど
- 年金手帳または基礎年金番号通知書
必要書類や手続きの期日・場所が国民健康保険の加入手続きと同じであるため、同日に手続きを済ませることをオススメします。
③失業保険受給の手続き
ハローワークで手続きすると、失業手当の給付が受けられます。失業保険を受給するには、下記条件を満たしたうえでハローワークでの求職申込みが必要です。
- 失業状態である
- 退職日以前の2年間に雇用保険加入期間が通算12か月以上あること(会社都合退職の場合は6か月以上)
- 以下書類を持参してお住まいの市区町村を管轄するハローワークで手続きしましょう。
- 雇用保険被保険者証
- 離職票1・2
- 身分証明書
- 証明写真2枚
- 印鑑
- 本人名義の口座番号がわかるもの
失業保険受給手続きの期限は、退職日の翌日から1年以内です。自己都合退職の場合、手続きしてから7日間の待期期間と2ヶ月の給付制限後に手当の給付が開始します。
失業保険とは? 受給するための制度や条件、メリット・デメリットについて
失業保険とは、会社に勤務している間に給与から天引きされる公的保険制度のこと。今回は受給するための制度や条件、メリット・デメリットについて解説します。
1.失業保険とは?
失業保険とは、会社を退職する...
④住民税の支払い手続き
会社に所属していない状態では、住民税を自身で支払う必要があります。退職に伴う住民税の支払いは、退職時期によって対応が異なります。
- 6〜12月に退職した場合:普通徴収に切り替え
- 1〜4月に退職した場合:会社側が一括徴収
- 5月に退職した場合:会社側が給与から天引き
従業員自身が役所で切り替えの手続きを行う必要はありません。6〜12月に退職した場合は自宅に住民税の納付書が届くため、自身で住民税を納付しましょう。
5.退職手続きの注意点
従業員側・企業側の退職手続きの注意点をお伝えします。
従業員側
従業員側の注意点は、以下2点です。
- 会社の就業規則を確認する
- 退職日から逆算してスケジュールを立てる
①会社の就業規則を確認する
就業規則には、退職に関する規定も記載されています。退職の意思表示の期日など、会社独自のルールが設けられている場合もあるため、退職を決めたら最初に確認しておきましょう。
②退職日から逆算してスケジュールを立てる
円満に退職するには、引き継ぎなどをしっかり行ってからの退職が望ましいです。有給を消化してから退職する場合は、とくにスケジュールに注意しましょう。
最終出勤日までに引き継ぎが終わるよう逆算してスケジュールを立ててから、退職希望日を決めると安心です。
企業側
企業側の注意点は、以下4点です。
- 退職者が財形貯蓄の手続きをする
- 社内融資の返済
- 外国人従業員の退職手続き
- 退職後の従業員情報の取り扱い
①財形貯蓄の解約手続きをする
退職者が財形貯蓄を行っていた場合、一般的には退職後6ヶ月以内に、「退職等の通知書」を財形貯蓄を扱う金融機関へ提出します。ただし、2年は積立を保有できるため、退職後2年以内に転職する、転職先が財形貯蓄を扱っている場合は、本人に継続の意思があれば解約手続きは不要です。
転職先で継続する場合には、転職先の企業が「勤務先異動申告書」を提出するなど所定の手続きを行います。
②社内融資の返済
社内融資とは、社内独自の貸付制度です。企業によって規定は異なるものの、基本的には退職と同時に一括返済となり、退職金を返済に充てることを定めているケースもあります。社内融資制度を設けており、かつ退職予定の従業員が利用している場合には退職手続きの説明時に返済についても伝えましょう。
③外国人従業員の退職手続き
外国人従業員の退職手続きの基本的な流れは同じであるものの、その違いはハローワークに外国人雇用状況の届出の提出が必要な点にあります。雇用保険資格取得者の場合は、雇用保険の手続きに含まれます。
なお手続き時には、在留カード番号の記載が必要です。また、ビザの変更や就労資格証明書交付申請などの手続きに退職証明書が必要になるケースが多いため、事前に有無を確認しておくと良いでしょう。
④退職後の従業員情報の取り扱い
以下のように、各種法令で書類の保管期間が定められている従業員情報があります。
- 2年:健康保険・厚生年金保険に関する書類
- 4年:雇用保険関連の書類
- 5年:労働者名簿・賃金台帳・出勤簿・雇入れに関する書類(履歴書、労働条件通知書など)・解雇に関する書類・災害補償に関する書類
- 7年:源泉徴収簿・給与所得者の扶養控除等(異動)申告書など
個人情報が記載された書類も多いため厳重に保管し、保管期限が過ぎたら速やかに廃棄しましょう。