IT技術の進化による競争の激化、人材の流動化、生産人口の減少傾向などの理由から、タレントマネジメントが注目されています。企業の成長や優秀人材の育成に効果が期待できる一方で、導入や運用に不安を抱えている人も多いようです。
そこでこの記事では、タレントマネジメントの導入を検討する際に知っておきたい、次の内容をご紹介します。
- タレントマネジメントの意味や目的
- タレントマネジメント導入のステップ
- タレントマネジメントのメリットや課題
- タレントマネジメントシステムについて
- タレントマネジメント(システム)の導入事例
目次
1.タレントマネジメントとは?
タレントマネジメントとは、社員のスキルや能力などの情報を把握し、それをもとに適正な配置や育成を行う人材マネジメントの手法のひとつです。
もともとはリーダー候補を発掘・育成するための手法で、対象も優秀な人材に限られていました。しかし、働き方改革やシステムによる効率化といった要因から、昨今では全社員をタレントマネジメントの対象とする企業が増えています。
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2.タレントマネジメント導入の目的
タレントマネジメント最大の目的は、経営目標の達成。具体的には、業績の向上や事業の拡大を人事戦略の側面から実現することです。この目的を業務レベルに落とし込むと、次の通りです。
- 経営目標やプロジェクト達成に必要な人材の発掘・調達
- 能力を高め、仕事の質を上げる戦略的な人材育成
- 適材適所の配置によるパフォーマンスの最大化
- 調達、育成を行った人材の定着・リテンション
企業が重視する導入目的
実際に導入している企業は、具体的にどのような目的で導入しているのでしょうか。HR総研:「タレントマネジメントシステム」に関するアンケート調査の調査結果によると、主な導入目的は次の通りです。
- 人材の適正配置…39%
- 戦略的な人材育成…32%
この調査結果から、タレントマネジメントを導入している企業全体の約7割が、社員の能力やスキル活用の最大化を重要視していることがわかります。
3.タレントマネジメント導入のメリット
次に導入を考える際に知っておきたいメリットについて、人事の重要な4つの業務に沿ってご紹介します。
①人材調達
②人材配置
③人材育成
④人材代謝
①人材調達
人材調達は、企業の目標達成やプロジェクト遂行に必要な人材を確保することです。タレントマネジメントを実施することで、会社に必要な人材の採用や発掘が効率化されます。
採用基準の明確化
社内の優秀人材の特徴や過去に離職した人材の人材情報を蓄積、分析し、採用基準を明確にすることで、採用のミスマッチを防ぎます。人事の重要課題でもある優秀人材の確保と離職率低下、採用コスト削減に効果が期待できます。
優秀人材の発掘
社員の能力や個性といった人材データを蓄積、可視化しておくことで、経営戦略上重要なポストやプロジェクトにふさわしい人材をスムーズに探し出せます。
②人材配置
人材配置とは、社員の能力や意思を考慮しながら適切なポジションに配置し、パフォーマンスを発揮してもらうことです。タレントマネジメントを実施し、全体的なバランスを見ながら定量・定性的なデータにもとづき配置検討することで、より社員のポテンシャルを活かせる適材適所の配置が可能です。
個人のパフォーマンス向上
各個人の能力やスキル、キャリア感などを把握することで、社員のパフォーマンスを最大限発揮できる配置検討が可能です。また、従業員自身が能力を発揮できるポジションで活躍することで、モチベーションの向上も期待できます。
チームのパフォーマンス向上
チームメンバーのスキルや個性、メンバー同士の相性を確認しながら人材配置することで、個人だけでなく、チーム全体のパフォーマンス向上にも期待できます。
③人材育成
人材育成は、社員の能力を高めることで企業の業績向上を目指す活動です。これまで上司の勘や経験頼りに進められてきた人材育成も、タレントマネジメントを実施し、能力やキャリアなどの人材データにもとづくことで、計画的で効率的な人材育成が可能です。
一人ひとりに合わせた育成
人材データを把握することで、社員の特性やスキルレベルに合わせた育成が可能になります。また、適切な育成により得られる「能力の向上」はモチベーションアップにつながり、従業員の成長を加速させます。
育成のスムーズな引き継ぎ
従業員の育成データを一元管理しておくことで、社員の異動の際も育成データを引き継ぎ、一貫した育成を継続できます。育成担当者あるいは上司が異動した場合も、後任者への引き継ぎがスムーズです。
④人材代謝
人材の代謝は、いわゆる人材の新陳代謝です。企業は人材の流動性が激しい市場のなかで
- 欲しい人材の確保
- 期待にそぐわない社員の退出促進
を実施し、健康的な経営状態を保つことが求められています。この課題に対して、タレントマネジメントによる優秀人材に共通する特性や、離職者に共通する傾向の見える化が効果的です。
エンゲージメント向上と離職防止
タレントマネジメントによる適材適所の配置の結果、社員はパフォーマンスを発揮しやすくなります。また、活躍できるポジションでの能力向上は、社員のエンゲージメントを向上させ、離職防止につながります。
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ローパフォーマーの特定
優秀な人材の発掘と同じ要領で、ローパフォーマーの特定も可能です。該当者には必要に応じて育成のフォローを入れたり、降格や減給、退出を促す候補として管理したりすることで、代謝施策がスムーズに進みます。
4.タレントマネジメント導入のステップ
タレントマネジメントの導入には標準的なステップがあります。以下、順にご紹介しましょう。
①目的・目標の明確化
②人材情報の可視化
③タレントの特定とリストの作成
④採用・育成計画書の作成
⑤人材の採用
⑥人材の配置
⑦人材の育成
⑧人材評価、レビュー
⑨異動、能力開発
①目的・目標の明確化
まずタレントマネジメントを実施する上で重要なのが、目標・目的の明確化です。目標・目的を具体的にすることで、進むべき方向性や実施すべき施策が明確になります。
一方で目的が曖昧なままだと、手段の目的化が起こる可能性があります。「タレントマネジメントを成功させるために、タレントマネジメントをやっている」といったことが起こらないよう、目的と目標の明確化はしっかりと行いましょう。
②人材情報の可視化
目的・目標が明確化したら、次は人事情報の可視化です。社内にある人材情報を収集し、見える化。活用できる状態にします。なぜなら、正確な人材情報がわからなければ、その人の課題やパフォーマンスを引き出すための施策も見えてこないからです。
必要なデータは企業ごとに異なりますが、一般的に次のような情報を収集していきます。
- スキル
- 資格
- 研修履歴
- 面談記録
- キャリアビジョン
③タレントの分類とリストの作成
社員の持っている能力やレベルごとに分類し、タレントプールと呼ばれる特性ごとのリストを作成します。
タレントマネジメントの対象となる社員が多ければ多いほど、タレントの分類が難しくなります。運用に少しでも負担を感じたら、効率化を目的にシステムの導入を検討してみるとよいでしょう。
④採用・育成計画書の作成
ステップ③で作成したリスト(タレントプール)ごとに、現状と理想のギャップを埋める育成計画を立案します。リストに人材の過不足がある場合は、採用や配置転換を行うなど柔軟な計画を立てましょう。
この計画はタレントマネジメントで非常に重要な工程です。もし修正の必要が出てきた場合にも、運用に支障がないよう丁寧に作成していきます。
⑤人材の採用
ステップ④で作成した採用計画書を元に採用を行います。ステップ②で可視化した優秀人材の特徴や離職傾向を明確にしておくことで、採用のミスマッチや離職の防止が可能です。
⑥人材の配置
採用した新たな人材や社内の人材の能力や特性を考慮して、適材適所の配置を行います。チームのパフォーマンスは構成するメンバーによって決まるため、メンバー同士の相性やスキルバランスの調整が重要です。
⑦人材の育成
ステップ④で作成した採用計画書を元に社員の育成に着手します。タレントプールの属性や各個人のスキルに合わせた研修やトレーニングを実施。定期的に育成計画書と照らし合わせ、進捗をチェックします。
⑧人材評価、レビュー
人材の採用、配置、育成の結果を継続的に評価します。社員の成長の確認では、能力の向上や業績の向上、今後のキャリアなどについて確認。現状データを更新し、次の配置や育成に活かします。
また、個人・全体の結果を評価することで、実施したタレントマネジメント施策の効果を確認することも重要です。
⑨異動、能力開発
ステップ⑧において期待通りの成果が得られた場合は、役職の維持、または昇進を検討します。逆に計画通りの成長が見られない場合は、能力開発のフォローアップを行います。
5.タレントマネジメント導入の課題・注意点
タレントマネジメント導入の際に気をつけておきたいポイントをご説明します。失敗と対策を知っておくことで、スムーズな実施につながります。
- 手段の目的化
- 人材データ収集・管理
- 運用の継続
手段の目的化
手段の目的化は、ビジネスでもよくある失敗の原因です。またそれはタレントマネジメントでも同様です。
タレントマネジメントは手段で、目的はあくまでも経営目標の達成や業績の向上です。しかし、手段が目的化されてしまうと、本来達成すべき目的を見失ってしまいます。結果として、タレントマネジメントで得られる効果も減少してしまうでしょう。
タレントマネジメントを実施する際には、定期的に目的・目標を確認するなど、常に目的・目標を意識して取り組むことが大切です。
人材データ収集・管理
タレントマネジメントでは、収集した人材情報を常にフレッシュな状態に更新し続けることが重要です。古い情報にもとづいて配置や育成を行っても、その人の現状にあった適切な配置や育成にならないからです。
しかし、注意していても多忙などの理由から情報の収集や更新がうまくいかないケースがあります。人材情報の管理に難しさを感じたら、タレントマネジメントシステムの導入を検討してみるとよいでしょう。
運用の継続とPDCA
タレントマネジメントは導入して終わりではありません。
- P(採用・育成計画書の作成)
- D(採用・配置、育成)
- C(人事評価・レビュー)
- A(異動、能力開発)
このPDCAを回し運用し続けることで、タレントマネジメントの効果を高めながら施策の実行が可能です。
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6.タレントマネジメントシステムとは?
タレントマネジメントシステムとは、社員のスキルや能力といった情報を一元化・見える化し、社員の最適配置や計画的な育成を効率化するシステムのことです。たとえば、次のような機能が実装されています。
- 人材データベース
- リーダー候補の管理
- 目標、評価管理
- スキル管理
- 要員シミュレーション
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システム導入の目的
タレントマネジメントシステム導入の目的は
- 人材データの管理や更新
- 資料作りや分析
といった煩雑な作業を効率化することです。結果として、人事は本来力をいれるべき人材育成といった重要な業務に集中できるようになり、タレントマネジメントが加速します。
データの収集や管理、更新はもちろん手作業でも可能ですが、こうした業務は社員が増えるたびに増加します。少しでも運用に負担に感じたらシステム導入の検討がオススメです。
タレントマネジメント運用企業の約7割がシステムを導入
HR総研:「タレントマネジメントシステム」に関するアンケート調査によると、タレントマネジメントを導入している企業の約7割が、タレントマネジメントシステムを導入、もしくは導入準備中という報告があります。
この結果から、タレントマネジメントの運用にはシステムの導入が効果的、もしくは効果が見込めると考えている企業が多いことがわかります。もし紙やExcelでの運用に負担を感じるならば、システムの検討をしてみるとよいでしょう。
7.タレントマネジメント(システム)の導入事例
こちらでは実際にタレントマネジメントを導入した企業の事例をご紹介します。各企業の導入の課題と背景、そして成果を知ることで、導入時のイメージがしやすくなるでしょう。
【人材の適正配置】アールビバン株式会社の事例
課題と背景
溶岩ヨガ・スタジオ「アミーダ」を展開するアールビバン株式会社。同社では新規店舗の展開と人員増加により、次のような課題を抱えていました。
- 誰がどこにいるかわからない(どの店舗にいるのかわからない)
- Excelで人材情報を確認するだけでは、その人がどんな人かわからない。その人の個性や想いまで想像できず、配置や抜擢検討の際の課題となっている
タレントマネジメント施策
この課題に対して、顔写真に紐づけて人材情報を確認できるタレントマネジメントシステムを導入。次のような施策を実施しました。
- 人材情報を顔写真に紐づけて見える化
- マトリクス表示機能を使って、スキルや経験からだけではわからない店員同士の相性や店舗の人員バランスまで考慮した異動を実施
成果
- 人材情報を顔に紐づけることで、社員の性格や特徴まで把握できるように
- スタッフの特徴を見極めて異動が可能となり、活き活きとした組織づくりが可能に
- 活気ある組織づくりが出来た結果、抜擢人事が次々と起こる
【効率的な人材育成】株式会社コスモシステムズの事例
課題と背景
携帯電話の中継局の施工・設計を主軸に成長してきた株式会社コスモシステムズ。中小企業から中堅企業へと成長を遂げていくために、若い世代を育て戦力とするための人材育成プログラムを推進するものの、次のような課題を抱えていました。
- 新入社員の情報をExcelで管理することに現実性を感じられない
- 10年スパンで実施する人材育成プログラムで増え続ける情報管理の負担が大きい
- 人材情報をスムーズに共有できるようにしたい
タレントマネジメント施策
そこで、タレントマネジメントシステムを活用し、育成に必要なすべての情報の一元管理を実施しました。具体的には次のような項目です。
- 資格情報
- 研修の受講履歴
- OJTに関する記録
- キャリアプラン
成果
- 育成に必要な人材情報の効率的な管理を実現(Excelからの脱却)
- 異動の際もスムーズに人材情報を共有し、引き継げるように
- 育成の主役である現場のマネジメント層の満足度がアップ