単身赴任とは?【意味をわかりやすく】住民票、手当、期間

単身赴任とは、会社の事例に辞令に従って単身で住居を移す労働形態のことです。ここでは単身赴任の目的や会社が行う手続き、注意点や諸手当などについて解説します。

1.単身赴任とは?

会社の辞令によって自宅通勤ができない地域への転勤を命じられた際、家族と離れて単身で任地におもむき、そこで生活する労働形態のこと。単身赴任をしている社員を「単身赴任者」といいます。

単身赴任の目的

単身赴任を含む配転には、以下4つの目的があります。

  1. 必要人員を充足させるための人事異動手段
  2. 顧客や競合など拠点による違いや、それに付随する人間関係を経験させるための人材教育
  3. 経営幹部の育成およびスクリーニング
  4. 担当業務のマンネリ化および不正を防ぐため

単身赴任が適切なものか判断するには、これらの正当な動機や目的があるかを見ます。

単身赴任の期間

単身赴任の期間は会社の状況や単身赴任の目的、職種などによって大きく異なります。現場の立て直しに半年ほどおもむく単身赴任もあれば、必要人員を充足させるための単身赴任が10年単位になる場合もあるのです。

一般的に、単身赴任を開始してから戻るまでの平均年数は3年程度といわれています。その後昇進の話が待っている栄転の場合、3~5年ほどです。

単身赴任の現状

かつて単身赴任といえば働き盛りの30~40代を指すのが一般的でした。しかし労働人口の減少や高齢者の就業が増えてきたのもあり、現代では60代になってから単身赴任を命じられる人も増えたのです。

またかつては単身赴任では家族と密に連絡が取れない、家族間のつながりが薄れてしまうといった課題もありました。現在はインフラ整備による通信手段の発達により、こうした課題は解決されつつあります。

出向との違い

出向とは、もともと所属していた企業との雇用形態はそのままにして、ある一定の期間別の企業に異動すること。たとえば親会社から子会社へ出向になった場合、現場の仕事は子会社側の指示に従うものの、給与は親会社から支払われます。

出向には対象者のキャリア形成や企業間交流、業績アップなどの目的があるため、対象者を低い地位に落とすという意図はありません。

異動との違い

異動と転勤は同じと思われるでしょう。しかし厳密にいえばその意味合いは異なります。異動とは地位や勤務などが変わる配置転換全般を指した言葉のこと。広義には担当業務の変更や転籍、職種の変更や出張なども異動の範囲に含まれます。

そして異動のなかでも転勤を命じられた人が任地へおもむくことを「赴任」といいます。異動のなかに転勤や単身赴任がある、と考えていけばわかりやすいでしょう。

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2.会社が行う単身赴任の手続き

単身赴任を進める際、会社にはどのような手続きが必要になるのでしょう。手続きの内容について、見ていきます。

健康保険と厚生年金の被保険者住所変更

マイナンバーと基礎年金番号が紐づいていない被保険者や海外居住者、短期在留外国人の場合、会社から年金事務所へ「健康保険・厚生年金被保険者住所変更届」を提出しなければなりません。また場合によっては被扶養配偶者の変更届も必要です。

家族全員で引越しをする際は住所変更届の1枚目と2枚目を、本人以外の家族が残る場合は住所変更届の1枚目のみを提出します。なおマイナンバーと基礎年金番号が紐づいている場合、住所変更届の提出は必要ありません。

雇用保険被保険者転勤届

単身赴任の際は「雇用保険被保険者転勤届」の提出も必要です。転勤先の事業所を管轄するハローワーク宛に、転勤の事実が発生した翌日から10日以内に提出しなければなりません。

申請は直接窓口のほか郵送や電子申請が認められています。しかし転勤の事実を証明する書類(社員名簿や辞令、出勤簿など)および被保険者資格喪失届、氏名変更届の提出が求められる場合もあるのです。

単身赴任手当の確認

単身赴任を命じる際、社内の赴任規定を参考にして単身赴任者にどのような手当が発生するか、確認が必要です。

赴任規定には後述する「単身赴任手当」のほか、単身赴任の定義や許可基準、転居に伴う費用の負担や転居のための休暇の扱い、また帰省旅費の負担などを定めている場合もあるため必ず確認しておきましょう。

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3.単身赴任の諸手当

単身赴任の辞令とともに、諸手当を支給する制度を整える企業も増えています。しかしこれらの制度は法律で定められた手当ではないため、払うか払わないかは会社の就業規則によるのです。だからこそ事前に手当の確認が必要になります。

それではここでは単身赴任の諸手当について、説明しましょう。

単身赴任手当

単身赴任手当とは、「子どもを転校させられない」「介護をしなければならない家族がいる」「配偶者が働いている」など、さまざまな理由から家族と別れて生活しなればならない社員に支給する手当のこと。

単身赴任の際はもともと住んでいた家の家賃や家族の生活費にくわえて、赴任先での家賃や光熱費などが発生します。これらの負担を少しでも軽くするための手当が「単身赴任手当」です。

家賃補助(住宅手当)

家賃補助とは、単身赴任先で生活する新たな住居に必要な家賃の一部を補助する手当のことで、「住宅手当」とも呼ばれます。この家賃補助には2つの方法があるのです。

  • 会社が借りた社宅に社員を住まわせる
  • 社員自身が借りた物件の家賃を補助する

家賃補助も、受給条件や対象者は各会社の規定によって異なります。

帰省旅費手当

社員が単身赴任先から家族が住む家に帰る際の交通費を補助する手当のこと。定額を支給する方法と領収書にもとづいて全額保証する方法があります。また多くの場合、月に1回分や年間〇回分といった条件がつくのです。

なお帰省旅費手当は原則、給与課税の対象となります。職務上必要な旅行に付随して帰宅する場合、この限りではありません。

転勤支度金(単身赴任準備金)

単身赴任にともなう引っ越し費用や生活家電の購入などを補助する手当のこと。支給金額は「全体の8割」や「固定額の〇万円」、「全額支給」など企業によって異なります。

また現在地から赴任地までの旅費を指して「転勤支度金」と呼ぶ場合もあるのです。この場合は一般的に、宿泊滞在費+日当+交通費を支給します。家族がいる場合はその分の転勤支度金も支給するのです。

民間企業の単身赴任手当相場

先に述べたとおり、単身赴任手当は企業によって設定金額や運用が異なるため一概に比較できません。しかし厚生労働省による「就労条件総合調査」からおおまかな傾向をつかめます。

2014年の調査によれば単身赴任手当を支給している企業は全体の約13%、全体の平均支給額は月4万6,065円です。企業規模が大きくなるほど支給額が高くなっているとわかります。

国家公務員の単身赴任手当相場

国家公務員の給与はすべて法律と人事院の規則により定められています。国家公務員の単身赴任手当は、月額3万円です。これに赴任先の住居と家族住居の距離に応じた額が加算されます。

  • 100km以上300km未満→8千円
  • 300km以上500km未満→1万6千円
  • 500km以上700km未満→2万4千円
  • 最大7万円(2,500km以上)

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4.単身赴任を命じる際の注意点

会社が社員に対して単身赴任を命じる際、何に気をつければよいのでしょう。3つの視点から説明します。

  1. 正当な命令であるか
  2. 雇用契約内容に含まれていたか
  3. 就業規則で諸手当を取り決めているか

①正当な命令であるか

会社が単身赴任を命じる際、配転命令権の濫用にあたらないことが第1条件です。以下3つのポイントをもとに、配転命令権行使の濫用にあたらないかどうかを判断します。

  • その命令は業務上必要な配転であるか
  • 社員の受ける不利益が、通常受けいれられる範疇を著しく超えていないか
  • 正当な動機や目的をもってなされた配転であるか

②雇用契約内容に含まれていたか

単身赴任を含めた人事異動を行う際、就業規則の規定による根拠が必要です。

「業務の都合により必要がある場合、会社は社員の就業する場所または従事する業務の変更を命ずることがある」といった規定が設けられていれば、労働契約の一部となり、会社は社員に単身赴任を命じていけます。

一方、就業規則に定められていない場合は原則、人事異動のたびに本人の同意を得なければなりません。

③就業規則で諸手当を取り決めているか

先に触れたとおり単身赴任手当の支給そのものや金額、諸条件などに関する労働基準法上の定めはありません。払うか払わないかはすべて会社の就業規則次第となります。

しかし単身赴任は家族と離れた場所で生活を送るもの。通常の労働対価として支払われる手当とは別の側面があるため、多くの会社では単身赴任者への配慮という意味で手当を支給しているのです。

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5.社員が単身赴任を拒否した場合の対応

就業規則上、単身赴任の規定があれば、会社はなかば一方的に社員へ単身赴任を命じていけます。しかしさまざまな理由から社員が単身赴任を拒否する場合もあるのです。ここでは社員が単身赴任を拒否した場合の対応について説明します。

まずは社員が拒否する理由を調査する

社員が単身赴任を拒否した場合、いきなり降格や懲戒解雇を進めるのではなく、まずは拒否する理由を調査するところからはじめましょう。就業規則に単身赴任を定めた規定があり、その辞令に業務上の必要性が認められれば単身赴任命令は原則、有効です。

しかし単身赴任によって本人の病気治療が難航したり、家族に不利益をおよぼしたりした場合、その単身赴任辞令は権利濫用として無効になります。単身赴任を命じる際は、あらかじめ社員の家族構成や家族事情などを、十分調査しておきましょう。

降格や減給

単身赴任の拒否を理由に降格や減給の処分をすると違法になるのでしょうか。日本の人事制度ではいまだ担当者の機嫌に左右される部分も多くあるため、会社からの扱いが悪くなる状況は避けにくいです。

降格や減給の処分が嫌がらせや自発的な退職に追い込むような処遇ではなく、正当な理由が認められれば、これらの処分を下す場合もあります。

退職勧奨

退職勧奨とは、会社が退職してもらいたい社員と交渉して自主退職をうながすこと。会社が退職勧奨をする際は、有給休暇の付与や退職金への加算など退職に応じるメリットと同時に、会社に残るなかでの評価や昇進有無などのデメリットを提示するのが一般的です。

社員を強制的に退職へ追い込む「退職強要」にあたらないよう注意する必要があります。後述する解雇の前に、一度退職勧奨を行うケースもあるのです。

懲戒解雇

一般的に長期雇用を前提とする雇用契約関係では、使用者に配置転換に関する強い権限が認められており、社員はこれに従う義務を負っています。つまりその単身赴任辞令が正当である限り、拒否した場合の懲戒として「懲戒解雇」を選択できるのです。

実際に正当な理由なく単身赴任を拒否した結果、解雇が有効となった判例もあります。

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6.海外へ単身赴任する場合に会社が行う手続き

単身赴任先は必ずしも国内とは限りません。グローバル化や働き方の多様化が進むなかで、海外へ単身赴任するケースも増えてきました。ここでは給与や諸手当、保険など海外へ単身赴任する際に会社が行う手続きについて説明します。

赴任者の給与決定方式

海外赴任者の給与は、以下3種類の方法で決定します。

  • 購買力補償方式:国内勤務と同等、あるいはそれ以上の待遇を考えた給与体系。国内の給与×生計費指数×為替レートで算出する
  • 併用方式:購買力補償方式と別建方式を組み合わせた給与体系。現地の給与体系を購買力補償方式で補てんする狙いがある
  • 別建方式:海外法人の給与体系に則った方法。わかりやすい反面、国内で支給されていた給与との整合性を取るのが困難

海外赴任における諸手当

一般的には国内単身赴任と同様、海外赴任でもいくつかの諸手当を用意します。

  • 海外赴任手当:慣れない海外での生活や商習慣の違いによるストレスの補てん。海外勤務の経験が企業の重要課題でもあるため「インセンティブ手当」とも呼ばれる
  • ハードシップ手当:赴任地の治安や気候など、生活環境の違いから受ける負担を軽減するための手当
  • 現地役職手当:現地企業との交渉や、ローカルスタッフのマネジメントに対する手当

保険について

海外赴任でも基本、親会社との雇用関係が継続しているため社会保険は継続されます。ししかし雇用主が変わる場合は解除されるのです。

  • 健康保険:現地で医療機関にかかる際は一旦全額負担し、後日還付される。雇用主が変わる場合は現地での公的健康保険、もしくは任意の健康保険に入る
  • 雇用保険:万が一海外赴任先での給与が著しく減少した場合、日本で受け取っていた給与をベースに算出される場合もある
  • 厚生年金保険:雇用主が変わらなければ、海外赴任期間も年金加入期間にカウントされる

納税について

海外赴任時の納税については、以下の扱いとなります。

  • 所得税:原則、海外勤務で得た給与所得に日本の所得税は課税されない。ただし日本国内で給与以外の所得がある場合、赴任前住所の税務署に確定申告する必要がある(不動産の貸付や資産の譲渡など)
  • 住民税:1月1日に住居を有する地方公共団体に納める。年の途中で海外転勤になった場合もその年の納税は必要

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7.単身赴任についてよくある疑問

単身赴任が決まったら、単身赴任手当等の確認や健康保険と厚生年金の被保険者住所変更、雇用保険被保険者転勤届などやらなければならないことがたくさんあります。慣れないものも多く、会社側にもさまざまな疑問が生じるでしょう。

最後に単身赴任についてよくある2つの疑問を説明します。

住民票の異動はどうするのか

単身赴任の際住民票の異動はどうするのでしょうか。生活拠点が赴任先に転じる場合、住民票を異動させたほうが無難です。反対に早期に帰任する、赴任先に滞在することはほとんどない場合、住民票を異動しない選択もあるのです。

以下に当てはまる場合は住民票の異動は不要とされています。

  • 赴任期間が未定。かつ生活の拠点が変わらない
  • 単身赴任期間が1年以内

転勤費用は誰が負担するのか

転勤費用は会社負担になるのか、もしくは社員負担になるのかもよくある疑問でしょう。結論からいえば転居をともなう異動で発生する費用の負担について法律上の規定がないため、どちらが負担するかは会社によって異なるのです。

引越しにかかわる費用全般を会社が負担する会社もあれば、上限を設けている会社や「一時金引越し手当」などの名目で別途手当を支給する会社もあります。不要なトラブルを防ぐため、あらかじめ就業規則を確認しておきましょう。