2014年に「ティール組織」をテーマにした書籍が発売されました。それ以来ティール組織は、従来の日本にはなかった新しいマネジメント手法として注目されています。
ティール組織とは一体何か?組織モデルと運営方法、具体的な事例などを見ていきましょう。ここでは、
- ティール組織の概要
- 組織モデルについて
- ティール組織の運営方法
- ティール組織の事例
について紹介します。
1.ティール組織とは?
ティール組織とは、フレデリック・ラルーが2014年に出版した『Reinventing Organizations(日本語版のタイトル「ティール組織―マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現」)』で唱えた新しいマネジメント手法で、メンバーが一体となって万事に当たる新しい組織論です。
上司の指示といったマイクロマネジメントをなくしても、組織が達成すべき目標の実現に向かってひとつの生命体として進むことができる組織を指します。
誰かの指示によって業務を進めるのではなく、組織の構成員全員でルールや仕組みを設定し組織を動かすのです。
ティールとは?
ティール(teal)とは緑と青の中間の色のことをいいます。ターコイズ(turquoise)やアクア(aqua)に近い色をイメージするとよいでしょう。しかしティール組織のティールは単純に色を意味しているわけではないのです。
原始的なものから少しずつ進化する「組織のあり方の最も発展した形を象徴する色」として書籍のタイトルに選ばれています。
書籍『ティール組織』の要約
ここで、フレデリック・ラルーの著書の概要をご紹介しましょう。フレデリック・ラルーは、色を用いて組織の進化を表しています。
無色を原点とし、レッド、アンバー、オレンジ、グリーンそしてティールへと組織は進化。色には意味や組織的特徴があり、進化の最終的な到達点がティール組織であると述べています。
ティール組織は、3つのエッセンス
- 自主経営(セルフ・マネジメント Self-management)
- 全体性(ホールネス Wholeness)
- 進化する組織の目的(Evolutionary Purpose
で構成されており、それぞれの正しい理解が不可欠です。
上司の指示で動くのではなくいかに組織内に存在する権力を分配し、お互いにセルフ・マネジメントをし合いながら個人として組織の全体を動かすかが問われるため、メンバー同士のつながりが極めて重要になります。
上司の指示や売上目標などがない状態で組織を運営するという従来の日本的経営にはない新しいマネジメントの概念が提唱されています。
ティール組織の提唱者
ティール組織という新しい組織のあり方を提唱したフレデリック・ラルーを簡単に紹介します。
フレデリック・ラルーは、マッキンゼーで10年以上組織変革プロジェクトに携わったのち、エグゼクティブ・アドバイザー、コーチ、ファシリテーターとして独立。
世界中の組織のあり方を約2年間調査・研究し、「ティール組織」をテーマにした書籍を発行するに至りました。
なぜティール組織に注目が集まっているのか?
なぜ「ティール組織」に注目が集まっているのでしょうか。ティール組織は上下関係も、売上目標も、予算もない、まったく新しいスタイルの経営論だからです。
12カ国語に翻訳され、20万部を超えるベストセラーになった『ティール組織』。
- 早稲田大学ビジネススクール准教授入山章栄氏
- 元DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集長岩佐文夫氏
- 米ハーバード大学教育学大学院教授ロバート・キーガン氏
といった名だたる人物が、その圧倒的スケールや人間の意識変化を組織マネジメントに適用した点、新発想が生まれやすい環境整備のマネジメントといった側面を高く評価しています。
2.ティール組織モデルの発達段階
「ティール組織」では、人類の歴史における組織の進化を7色の波長で表現しており、それぞれの色は組織の様子を象徴しています。色が表す意味や組織の特徴を踏まえながら、組織の発達段階を見ていきましょう。
- 無色(グレー)、神秘的(マゼンタ)
- 衝動型(レッド)
- 順応型(アンバー)
- 達成型(オレンジ)
- 多元型(グリーン)
- 進化型(ティール)
①無色(グレー)、神秘的(マゼンタ)
まず最初の色はグレーで、組織といった形態ができる前段階を意味します。10人程度の小さい集まりで、自分と他人、自分と周囲の環境の区別がない状態を示しているのです。
グレーが一歩進化したマゼンタも、世界の中心は自分にあり、物事の捉え方が未熟な数百人規模の小集団を意味します。
②衝動型(レッド)
組織の進化はグレーやマゼンダから衝動型のレッドに進化します。レッドは組織生活の最初の形態で、数百人から数万人の規模へと拡大し、特定の個人の力や恐怖などによる支配・運営が行われます。
レッドは、自分と他人の区別や単純な因果関係の理解が進み、組織の中で分業が成立します。たとえば、マフィアやギャングなどがこれに該当します。
この組織は権力者個人に依存しており、時間軸でいえば短期的思考の傾向が強いのが特徴です。
③順応型(アンバー)
衝動型のレッドがさらに進化すると、順応型のアンバーになります。
アンバーは、部族社会から農業、国家、文明、官僚制の時代への変化を意味します。時間の流れによる因果関係を理解でき、長期的な展望や計画を立てることが可能です。
規律、規則、規範による階層構造が誕生するため厳格な階層に基づくヒエラルキーが生まれ、それによる役割分担が積極的に行われます。
- 協会
- 軍隊
- 官僚組織
といったものがこのアンバーの段階に生まれます。
④達成型(オレンジ)
アンバーの段階を経て、達成型のオレンジへと組織は進化します。
オレンジは科学技術の発展とイノベーションが生み出された結果、起業家精神の段階へと大きく変貌した組織カラーで、ヒエラルキーに基づいた「命令と統制」から技術革新による「予測と統制」へ舵が切られます。
変化や競争を容認、歓迎する実力主義の誕生で、効率を重視するため、多国籍企業などといった複雑な階層組織も生まれます。
一方機械のように働き成果をあげることに偏重するため、人間らしい生活や幸せに回帰するきっかけともなります。
⑤多元型(グリーン)
組織の変化は多元型のグリーン、多様性と平等と文化を重視するコミュニティ型組織の段階へと形を変えていきます。
ヒエラルキーはあっても、ボトムアップの意思決定や多数のステークホルダーによって、個人のあり方も尊重されるような組織運営を目指そうとするのです。
組織の構成員同士が意見を尊重し合う半面、合意形成に課題を抱えるなどの問題もありますが意思疎通の円滑な組織運営ができるという特徴を持ちます。
⑥進化型(ティール)
最後に行き着くのが進化型のティールで、3つのエッセンスで構成されます。
- 自主経営(セルフ・マネジメント Self-management)
- 全体性(ホールネス Wholeness)
- 進化する組織の目的(Evolutionary Purpose)
上司からの指揮命令系統自体が存在しないにもかかわらず、組織の目的実現のためにメンバー同士が信頼関係のもと組織運営を行うという組織です。
3.ティール組織の運営方法
組織の進化を経て生まれたティール組織はどのように運営されるのでしょうか。3つの特徴についてもう少し詳しく見ていきます。
- 自主経営(セルフ・マネジメント Self-management)
- 全体性(ホールネス Wholeness)
- 進化する組織の目的(Evolutionary Purpose)
①自主経営(セルフ・マネジメント Self-management)
ティール組織を象徴的に表すのが、自主経営(セルフ・マネジメント Self-management)です。
組織を取り巻く環境の変化に対して、組織のヒエラルキーや組織全体のコンセンサスに頼ることなく、問題や課題に対して適切なメンバーと連携を取り合いながら迅速に対応していく様子を指します。
自主経営(セルフ・マネジメント Self-management)が浸透している組織では、互いにアドバイスをしつつ、独立した一人ひとりが積極的に意思決定に関わります。実現には、
- 情報の透明化
- 意思決定のプロセスに関する権限委譲
- 人事プロセスの明確化
といった仕組みが必要です。こうした仕組みのもと、メンバー同士がリアルタイムで問題や課題に対応するマネジメント方式が有効に機能していきます。
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②全体性(ホールネス Wholeness)
全体性(Wholeness)もティール組織を象徴する運営方法です。メンバー一人ひとりが持っている潜在性をすべて使って、組織を運営します。
誰もが「本来の自分」の姿で職場に臨むことができ、そこには自分が同僚や組織、社会との一体感を持っているような風土や慣行があるのです。
自分の持つ能力を最大限発揮できるだけでなく、
- 自分にできるだろうか
- 本当にその進め方でいいのだろうか
のような迷いや不安に寄り添い合える仲間がいたり、自然と互いに寄り添い合える組織であったりする点も重要です。
個性豊かな人材が、安心感を持って仲間と課題を乗り越えるには、人間関係づくりのトレーニングやメンタル面でのサポートといった取り組みも大切です。
③進化する組織の目的(Evolutionary Purpose)
一体感を持って進む組織には、到達すべき目標が必ず設定されています。ティール組織ではその目標を固定値とするのではなく、進化する目標として流動的に捉えます。
創業者が決めたビジョンやミッション・ステートメントと違い組織や会社、社会、時代などさまざまな環境の変化に適応した方向性を目指すのです。
その方向性は、一部の限られた人が決定し推し進めるものではありません。組織全体として探求し続けるなかで組織が何のために存在し、将来どの方向に向かうべきなのかを常に追求し続ける姿勢として表れます。
そのために方向性を確認するコミュニケーションの場を設けるといった取り組みを積極的に行う企業もあります。
4.ティール組織の企業事例
実際にティール組織を行っている企業を3社、企業事例としてご紹介します。
- Buurtzorg(ビュートゾルフ)
- 株式会社ビオトープ
- ザ・モーニング・スター・カンパニー
①Buurtzorg(ビュートゾルフ)
オランダの非営利在宅ケア組織。2007年には看護師の従業員4名でしたが現在は1万名にまで従業員を増やす成長をとげました。顧客満足度・従業員満足度ともに高い組織です。
Buurtzorg(ビュートゾルフ)では安く質の低いケアが繰り返されていました。しかし、ティール組織のマネジメントが導入され効率を追求するあまり画一化された業務を看護師が自分の専門性を発揮しながら全プロセスに責任を持つ運営に転換したのです。
この組織には、マネージャーやリーダーが一人もいません。バックオフィスに約40名、コーチが約15名いるだけで、その役目は看護師のサポートに徹しています。看護師同士のコミュニケーションは、専用アプリによって行われ、セルフ・マネジメントと全体性が効率よく保たれているのです。
②株式会社ビオトープ
営業コンサルティングやWEBコンサルティング事業を展開。企業向け・個人向けの人材育成事業にも力を注いでおり、企業や事業主の利益と地域社会貢献の最大化に取り組んでいます。
株式会社ビオトープは、タスクベースで自立的なプロジェクトをさまざまな要素で構成しています。
たとえばプロジェクトの目的を世の中に投げかけ、その反応で従業員の採用活動を実施します。プロジェクトのメンバー同士は「共鳴」をベースにつながりを持つのです。
また地理的制限を超えてミーティングを行い、プロジェクトの目的や全体との関わりやつながりを可視化します。個人と組織の目的をすり合わせながら、メンバー同士共通のパターンを探り問題解決を行える人材を育成しているのです。
③ザ・モーニング・スター・カンパニー
ザ・モーニング・スター・カンパニーは世界最大のトマト加工会社。トマトケチャップやトマトソースなどの生産で全米シェア25~30%の実績があります。従業員は約400名で年商約63億円ともいわれ成長を続けている企業です。
従業員全員がマネージャーで、部長や課長といった役職や昇進は一切ありません。
自分のミッションを設定したのち、行動計画を作成して合意書に明記します。合意書は全従業員間で共有され従業員にはすべての決定権が付与されます。報酬は、合意書に対する結果をその従業員の仕事に関わる他の従業員が評価します。
自分の仕事に必要だと思うことに関しては、上司の決裁を受けることなく自身の判断で行動に移せます。
- 従業員のモチベーションを高める
- 企業としても利益増大
という成果を徹底したティール組織運営によって得ている成功事例といえるでしょう。
まとめ
ティール組織は、
- 自主経営(セルフ・マネジメント Self-management)
- 全体性(ホールネス Wholeness)
- 進化する組織の目的(Evolutionary Purpose)
という3つの特徴を持ちます。上司もいない、目標設定もない、予算もないなか、組織のメンバーとの意思疎通を図りながら自らの仕事を自らの責任で行っていくもので、組織が進化した結果生まれた新しい組織のあり方です。
日本企業の体制に慣れ親しんでいると無謀な挑戦のようにも見えます。しかし世界では、ティール組織のマネジメントを実践して結果を出している組織も多くあるのです。
手始めに、ティール組織をプロジェクトや小集団といったところから実践し、その有用性を検証してみてはいかがでしょうか。