定款とは、会社の組織活動について定めた根本規則のことです。ここでは定款の目的や記載内容、定款認証までの流れや変更する際の手続きなどについて解説します。
目次
1.定款とは?
会社を運営していくうえで必要不可欠な根本規則を定めたもの、またはそれを記した書面のこと。会社や公益法人、協同組合などの憲法ともいわれており、会社設立の際、必ず作成しなければならない書類のひとつです。
どんな目的で導入されているのか
目的は、組織運営の大綱を規定すること。
定款では後述する「絶対的記載事項(商号や事業目的、資本金や所在地など)」「相対的記載事項(取締役会の設置に関する規定や公告の方法など)」「任意的記載事項(取締役および監査役の員数や定時株主総会の招集時期など)」を定めます。
どれも事業を営む基本指標となり得る情報です。
2.定款が必要かどうかは会社の形態次第
社員は「就業規則」にしたがって労働し、会社は「定款」にしたがって運営します。この定款は法人形態によって必要な場合と不要な場合があり、自社にとって定款が必要になるかどうかは、会社形態を確認してからの判断になるのです。
ここでは定款が必要な会社の形態と不要な形態について説明します。
定款が必要な形態
会社の形態が以下に該当する場合、定款の作成および認証が必要です。
- 株式会社
- 一般社団法人
- 一般財団法人
社会でいう憲法の役割を果たす定款ですが、作成しただけでは法的効力を持ちません。その定款が正しい手続きによって作成されたを公的機関が証明するための手続きを「定款の認証」といいます。
定款が不要な形態
株式会社や一般社団法人などには定款が必要なのに対し、以下の場合は定款の認証が不要になります。
- 合同会社
- 合資会社
- 合名会社
なお定款の認証には定款認証手数料の5万円、収入印紙代の4万円などが必要になります。コストをかけずに法人化したい場合は、定款認証が不要な持分会社を検討してみてもよいでしょう。
3.定款に記載する内容
公式の書類である定款には記載しなければならない内容があらかじめ決められているのです。定款に記載しなければならない内容を3つ、説明します。
- 絶対的記載事項
- 相対的記載事項
- 任意的記載事項
①絶対的記載事項
定款に必ず記載しなければならない事項のこと。後述する6項目のうちひとつでも欠けている場合、定款自体が無効となります。また記載内容が法律に違反する場合、設立登記申請が受理されません。
目的
目的とは、会社がどのような事業で収益を得るのかを記載した項目のこと。レストランを営業するなら「飲食業」、パンを作って売っているなら「パンの製造販売」となります。
会社は定款の目的に記載した範囲内で活動するため、目的に記載されていない業務は法律上できません。
商号
商号とは会社の名前のこと。冒頭に「当会社は株式会社○○と称する」といった一文を差し込みます。原則、商号は自由に決められるものの、商号に「株式会社」の文字を含めたり同一本店所在場所における同一商号の登記を禁止したり、などのルールがあるのです。
所在地
定款には「本店所在地」の記載も必要です。番地まで詳細に記載しても問題ないものの、社屋が引っ越した際にまた定款の変更が必要になります。そのため一般的には、最少行政区画である市町村、東京都の場合は区までを記載するのです。
設立に際して出資される財産の価額またはその最低額
設立に際して出資される財産の価額またはその最低額とは、会社設立後の資本金のこと。会社法上、金額についての具体的な取り決めはないため、極端な話1円でも株式会社を設立できます。
発起人の氏名または名称および住所
発起人の個人情報を記載します。個人でも法人でもかまいません。法人の場合は名称および住所を記載します。これは設立手続きをする人が誰なのか、会社の関係者以外が知るためです。
発行可能株式総数
今後も含め、会社が発行可能な株式の総数を「発行可能株式総数」といいます。発行可能株式総数は、株主にとって自分の持ち株比率がどうなるかにかかわる重要事項です。既存の株主が不利益を被らないよう、定款上で株式の発行上限値を定めます。
②相対的記載事項
記載しなければ法的効力が生じない事項のこと。たとえば「現物出資がある場合の規定」「株式の譲渡制限に関する規定」「発起人が受ける報酬」などです。
現物出資
会社設立時、一般的に発起人は現金を出資して株式を引き受けます。しかし金銭ではなく仕事に使うパソコンや製品を加工する工作機械などで出資するのも可能で、これを「現物出資」と呼ぶのです。
現物出資がある場合は定款に記載し、検査役の調査を受けると義務づけられています。
財産引受
財産引受とは、発起人が会社の成立を条件とした特定の財産を譲り受ける契約のこと。「現物出資」と似ているものの、現物出資は発起人に限られます。しかし財産引受は第三者からの財産も譲り受けられるのです。
発起人の報酬・特別利益
会社設立のために労務を尽くした発起人は、設立後の会社から報酬を受け取れます。しかしこの報酬を発起人自らが決めると、会社に対して過大な請求となるおそれがあるのです。
発起人の受ける報酬額を記載し、検査役の調査を受ける義務を課したのが「発起人の報酬および特別利益」となります。
設立費用
発起人が会社設立のために使った費用は、設立後の会社に請求可能です。しかしこれが過大な請求になれば、会社の財政的基盤が損なわれる可能性もあります。限度額を定め、検査役の調査を受けられるようにしたのが「設立費用」の項目です。
③任意的記載事項
相対的記載事項と同じく記載しなくても無効にならないものの、記載すれば定款で決定を明確にできる事項です。法律や公序良俗に違反しない範囲であれば、記載事項は比較的自由に決められます。
株主総会の招集時期
定時株主総会の開催時期について、会社法には「定時株主総会は、毎事業年度の終了後一定の時期に招集しなければならない」と定められています。
そこで「定時株主総会は事業年度末日の翌日から3カ月以内に開催する」のように定款へ記載して、開催時期を制限するのです。
役員の数
取締役員数を任意的記載事項に明記する場合もあります。なお会社法で定められている取締役の員数は取締役会設置会社で3名以上、取締役会非設置会社で1名以上。規定に反しない限り、取締役員数は自由に定められます。
事業年度
決算対象となる一定期間を「事業年度」といい、1年以内であれば自由に決められるのです。一般的には、4月1日から翌年3月31日まで、もしくは1月1日から12月31日までと定めます。
節税のため特定時期を事業年度末とするのも可能です。いずれの場合も任意的記載事項に、明文化しておくとよいでしょう。
4.定款の構成について
会社法では定款の構成を厳密に定めていません。必要事項が記載されていれば構成やフォーマットなどは任意とされています。しかし一般的な書式は縦置きのA4用紙に黒の文字色で横書きとなっているのです。
ここでは一般的な定款の構成、フォーマットについて説明します。
フォーマットは決まっていない
定款を作成する際、用紙のサイズや記入方法、書体などのフォーマットは決まっていません。
しかしA4サイズの白紙にパソコンやワープロで印字、もしくは黒色インクのボールペンで横書きにするのが一般的です。消せるタイプのボールペンは利用できないので注意しましょう。
最終的には製本します。その際PDFファイルによる電子定款を作成して、印紙税4万円を節税するのも可能です。
フォーマットの一例
取締役会や監査役がいない株式会社の場合、定款は全6章で構成されたシンプルなものになりるので。ここでは定款の基本となる全6章の詳細について説明します。
総則
- 株式
- 株主総会
- 取締役
- 計算
- 附則
①総則
総則とは、会社の商号や目的、所在地など、前述した「絶対的記載事項」の情報を記載する項目のこと。定款の最初に記載した総則を見れば、この会社はどんな会社かがわかります。まさに会社の「顔」ともいえる情報です。
②株式
株式の章では、発行可能株数や譲渡制限などの情報を記載します。例は下記のとおりです。
- 当会社の発行可能株式総数は○株とし、そのうち普通株式は○株、甲種類株式は○株とする
- 当会社の株式は、取締役会の承認がなければ譲渡または取得できない
③株主総会
招集方法や議事録、決議方法などの規定は「株主総会」の項目に記載します。例は下記のとおりです。
- 会社の定時株主総会は毎事業年度終了後3カ月以内に招集し、臨時株主総会は必要あるときに随時招集する
- 株主総会の議事録は法令で定める事項を記載、または記録した議事録を作成する
④取締役
第4章では「取締役」に関する規定を記載します。例は下記のとおりです。
- 当会社の取締役および監査役は、株主総会において議決権を行使できる株主議決権の過半数を有する株主が出席し、その議決権の過半数をもって選任する
取締役会や監査役、監査役会を設置する会社では別章を追加する場合もあります。
⑤計算
計算の章には事業年度や剰余金、決算についての規定を記載します。例は下記のとおりです。
- 余金の配当は、毎事業年度末日現在における株主名簿に記載または記録された株主、または登録株式質権者に対して行う
事業年度は1年内であれば自由に定められるものの、繁忙期と決算申告時期が重なれば大きな負担になります。可能な限り、避けたほうがよいでしょう。
⑥附則
先に述べた5章以外の規定、具体的には一般的な規定や、他章の変更によって影響が出た場合の措置などを定めた項目を附則として記載します。例は下記のとおりです。
- 当会社の設立に際して出資される財産の価額は○万円とする
- 当会社の設立に際して発行する株式の総数は○株とし、その発行価額は1株につき○万円とする
5.定款認証までの流れ
先にも少し触れたとおり、定款は作成だけでなく公的機関による「定款認証」を受けてはじめてその効果を発揮します。定款認証を受けるにはどのような手続きが必要なのでしょうか。ここでは定款の認証を受けるまでの流れについて、説明します。
- 公証役場を決める
- 事前確認をする
- 実質的支配者となるべき者の申告書を提出する
- 公証役場にて認証を受ける
①公証役場を決める
発起人が最初に作った定款を「原始定款」といいます。もちろんこのままでは定款としての効力を持っていません。そのため原始定款は公証役場で公証人の認証を受ける必要があります。
公証役場とは各都道府県に設置された法務省、法務局所管の公的機関のこと。定款認証を受ける公証役場は、本店所在地と同一の都道府県にある公証役場と定められています。管轄外の公証役場で認証を受けた場合は無効となるため、注意が必要です。
②事前確認をする
定款認証では以下を準備します。
- 定款(同一のものを3部)
- 設立発起人全員の印鑑証明
- 定款認証手数料5万円
- 定款の謄本交付手数料(1ページ250円)
- 収入印紙4万円分
これらを用意し、定款の内容を確認したら公証役場のアポイントを取りましょう。作成した定款をFAXで事前に送り、内容を確認してもらうのも可能です。
③実質的支配者となるべき者の申告書を提出する
2018年より定款認証を行う際は「実質的支配者となるべき者の申告書」の提出が求められるようになりました。「実質的支配者」とは、事業経営を実質的に支配できる個人のことで、株式会社では「発起人」のこと。
本制度は暴力団員や国際テロリストが実質的支配者となる会社、不正な会社の成立がないよう制定されたものです。申告書は日本公証人連合会のホームページからダウンロードできます。
④公証役場にて認証を受ける
公証役場での認証は、郵送でできません。アポイントを取ったうえで、直接公証役場に出向く必要があります。
なお認証を受ける際は原則、発起人全員で公証役場に出向く必要があるのです。ただし行けない発起人全員の住所と氏名、実印を押印した委任状を作成すれば、代理人を立てられます。
用意した定款3部のうち、収入印紙を貼った1部は公証役場で保管され、残り2部が登記用と会社保管用として返還されるのです。
6.定款を変更する場合
定款は事業や資本などの変化に応じて定款も変更する必要があります。とはいえ会社法で決められたルールである以上、単純に変更をくわえて完了するわけではありません。ここでは定款を変更する際の手続きについて説明します。
株主総会で特別決議を行い、議事録を作成
定款の変更には株主総会での特別決議が必要です。特別決議とは、決議事項のなかでも重要な決定をする際に用いられる決議のこと。議決権を行使できる株主過半数以上の出席と、議決権の3分の2以上の賛成が必要です。
特別決議の議事録作成、定款の変更内容に応じた登記申請、原始定款との保管(変更の履歴をたどるために必要)をもって、はじめて変更が可能になります。
現行定款を作る
法人を設立する際に作成し、それ自体を直接変更できない定款を「原始定款」といいます。原始定款に対して、最新の状態に変更された定款を「現行定款」と呼ぶのです。行政手続きで提出を求められる場合が多いのは「現行定款」となります。
現行定款の作り方
現行定款の作り方は、以下2つの方法があります。
- 原始定款の後ろに定款変更決議の株主総会議事録を付けて綴じ合わせる
- 原始定款のファイルに変更内容を反映させ、最新状態の定款を作り直す
合綴する方法なら変更経緯を詳細に示せますし、最新状態に作り直す方法なら現行の状態がわかりやすくなります。会社の状況に応じてどちらかを選びましょう。
原本証明が必要
合綴する場合も最新状態に更新する場合も、定款の変更には「原本証明」が必要です。
原本証明とは、原本を提出できない書類の写しを提出する際、その書面が確実に原本の写しであると証明する記載のこと。コピーした定款の最終ページに以下を記載し、代表者による証明を行います。
- この定款の写しは、原本と相違ないことを証明する。
- 令和〇年〇月〇日
- 株式会社〇〇
- 代表取締役 〇〇〇〇 印
法務局へ登記申請
定款の変更内容によっては、法務局への登記申請が必要になります。以下の場合、法務局へ定款変更の登記申請を行わなければなりません。
- 絶対的記載事項を変更する場合(商号、事業目的、本店住所等の変更)
- 株券の発行や取締役会の設置などの相対的記載事項を変更する場合
- 資本金の額や事業年度などの任意的記載事項を変更する場合