テレワーク助成金とは、テレワークの導入に係る経費の一部を補助して、テレワークの普及、定着を支援する制度のことです。
目次
1.テレワーク助成金とは?
テレワーク助成金とは、テレワークを導入する企業に対し、各省庁や都道府県が導入に必要な機器やソフトウエアなどの経費を助成する制度のこと。正確には「事業継続緊急対策助成金」といいます。
助成金と補助金との違い
「助成金」と「補助金」それぞれ受け取るための要件や予算の範囲、支給件数制限などの違いがあります。なおどちらも国や地方公共団体、民間団体などから支給されたもので、返済義務はありません。
- 助成金:支給要件を満たしている場合、制限なく支給されるものが多い
- 補助金:予算や支給件数などがあらかじめ決まっている。抽選や先着順など公募方法もさまざまなパターンがあり、請求しても必ず支給されるとは限らない
2.テレワークとは?
「テレワーク」とは、情報通信技術(ICT = Information and CommunicationTechnology)を活用した、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方のこと。「テレワーク(telework)」は、tele(離れた場所)とwork(働く)を組み合わせた造語です。
テレワークとリモートワークの違い
「リモートワーク(remotework)」とは、remote(遠い、遠隔)とwork(働く)を組み合わせた造語といわれています。言葉上の意味はテレワークとほぼ同義で、使われるようになってから日も浅いため、定義や正確な語源は明らかになっていません。
「テレワークは個人事業主」「リモートワークは正社員が遠隔で働く・外部委託」と区別する場合もあります。
3.テレワーク助成金が支給される背景
総務省が発表した「平成29年通信利用動向調査」によると、日本企業におけるテレワークの導入率は13.9%。このうち在宅勤務の導入率は29.9%、モバイルワークの導入率は56.4%、サテライトオフィスの導入率は12.1%と報告されています。
このようにテレワーク導入企業はゆるやかな増加傾向にあるのです。その背景にはどのような要因があるのでしょうか。
働き方改革の実現
テレワーク助成金が支給される背景のひとつに、近年注目を集める「働き方改革の実現」があります。働くすべての人々がそれぞれの事情に応じた柔軟な働き方を自分で選択できるようにする「働き方改革」。
テレワークは育児や介護などを行う労働者に対する福利厚生策としてはもちろん、会社全体の働き方を改革するための施策として期待されています。
感染症対策
テレワークは会社における感染症拡大の防止に向けても有効な手段です。我が国ではコロナ禍前から、テレワークの導入推進に向けた各種施策を展開してきました。
また各自治体からも、感染症の拡大防止に向けてテレワークの積極的利用や時差出勤の活用など、労働者が休みやすい環境の整備を呼び掛けられています。テレワークや時差出勤を積極的に活用して、感染リスクを減らす目的があるのです。
優秀な人材の確保
テレワークの活用は、人材確保の面から見てもさまざまなメリットがあります。
- 企業イメージが向上するため、他社より有利に求人活動を進められる
- 育児などにかかわる労働者も引き続き就業できるため、新規採用コストや育成コストを削減できる
- 介護などを理由とした中核労働者の損失を防げる
労働生産性の向上
テレワークの導入に際して、生産性が落ちるのではないかという疑問があげられます。テレワーク勤務の実証実験調査によれば、テレワークによってチームの生産性が向上したと回答した人が29%、生産性は変化しなかったと回答した人が58%でした。
つまりおよそ9割近くが「テレワーク勤務による生産性への悪影響はないと考えている」のです。
4.テレワーク助成金の対象
それでは具体的に、テレワーク助成金の対象について見ていきましょう。助成金の対象は各省庁や自治体ごとに要件が異なるため、あらかじめそれぞれを確認しておく必要があります。たとえば横浜市の場合、以下すべての要件を満たしていることが条件です。
- 本社を市内とする中小企業(会社)、もしくは事業所が市内である個人事業主である
- ほか機関からテレワーク導入を目的とした助成を受けていない
- 常時雇用する労働者が2名以上
- 感染症対策として柔軟な働き方を推進する目的である
常時雇用する労働者の数が2名以上の事業者
東京都に本社や事業所を置く企業に向けた「東京都テレワーク定着促進助成金」でも、助成対象は、常時雇用する労働者が2名以上999名以下の企業だと定められています。
ここでいう常時雇用する労働者とは、期間の定めなく雇用されている労働者や、過去1年を超える期間引き続き雇用されている労働者のこと。登録型派遣労働者は含まれません。
個人事業主も対象になる
テレワーク助成金の対象は企業・法人だけではありません。都内で営む事業主を対象とした「事業継続緊急対策(テレワーク)助成金」では個人事業主も助成金の対象となっています。
ただし本取組の場合、都内税務署へ開業届を提出していることが条件です。また個人事業税および都民税の未納付がある場合、個人事業の開業・廃業等届出書の写しおよび住民票記載事項証明書の提出がない場合、受理できません。
5.政府によるテレワーク助成金
政府はさまざまなかたちでテレワークの普及支援を行っています。ここまで触れてきたテレワーク助成金も、取り組みのひとつです。ここでは厚生労働省、および経済産業省が実施している良質なテレワークを普及促進する施策について、見ていきましょう。
働き方改革推進支援助成金(テレワークコース)
厚生労働省が行う「働き方改革推進支援助成金(テレワークコース)」は、時間外労働の制限、労働者の生活と健康に配慮した労働時間など設定の改善を目的とする取り組みです。
仕事と生活の調和を推進するため、在宅またはサテライトオフィスで就業する中小企業事業主に対して、労務管理担当者に対する研修やテレワーク用通信機器の導入など、実施に要した費用の一部を助成します。
IT導入補助金
経済産業省および中小企業庁では、生産性改善を目的としたITツールの導入を支援する「IT導入補助金」を実施しています。
感染症の拡大防止対策に取り組む事業者に対してIT導入などを優先的に支援する「特別枠」では、補助率を1/2から最大3/4に拡充。PCやタブレットなどのレンタル費用も、補助対象となっています。
業務改善助成金
業務改善助成金は、事業場内で最も低い賃金、すなわち事業場内最低賃金の引き上げを図る制度です。
機械設備の拡充やPOSシステムなどの導入など、生産性向上のために設備投資をし、それによって事業場内最低賃金を一定額以上引き上げた場合にかかった費用の一部を助成します。
支給の要件は、「賃金引上計画の策定」「引上げ後の賃金額を支払う」「解雇や賃金引下げに不交付事由がない」などです。
6.地方におけるテレワーク助成金
テレワーク助成金を用意しているのは、なにも東京都や首都圏だけではありません。各地方自治体が、それぞれにテレワークの導入に向けた助成金を用意しています。ここでは以下5つの自治体が実施しているテレワーク助成金の取り組みについて見ていきましょう。
北海道:テレワーク
導入支援補助金北海道では「テレワーク導入支援補助金」という名前でテレワークの導入に取り組む事業主を支援しています。
令和2年12月から令和3年3月にかけて受付を行っていた本取組では、道内の中小企業者および法人、医療法人や社会福祉法人、学校法人なども補助の対象としていました。
端末および情報通信機器などを導入し、規定の日数でテレワークを実施すると3/4以内の補助率、最大65万円を支援します。
東京都:テレワーク定着促進助成金
東京都は企業の人材確保、職場環境整備を支援するための施策として「テレワーク定着促進助成金」を策定しました。
申請にはテレワークデーやテレワークウィークなど、企業の実情に応じた独自のルールを宣言する「テレワーク東京ルール実践企業宣言制度」への登録が必要です。
本制度に登録すると、「テレワーク東京ルールを実践する企業としてのPR」「融資利率の優遇」「信用保証料を補助する特例メニューの利用」といったメリットを受けられます。
神奈川県:テレワーク導入促進事業費補助金
神奈川県では感染症拡大に関する対策の一環として、テレワーク導入に係る経費を補助する「テレワーク導入促進事業費補助金」を実施しました。
補助対象となる経費は、周辺機器を含むパソコンなどの端末やソフトウェアの購入費用、リース費用や利用料、テレワーク導入に係るコンサルティング費や就業規則などの整備費です。
本補助金を受給するには、補助対象の機器などを使用したテレワークを約2か月の期間中に2日以上実施しなければなりません。
長野県松本市:松本市テレワークオフィス設置支援事業補助金
長野県松本市は平成28年より雇用機会の確保、また地域経済の発展を図る目的で「テレワークオフィス設置支援事業補助金」を実施しています。12か月を限度とした本制度の対象は、以下すべての要件を満たす個人および法人です。
- テレワークを行うためのサテライトオフィスを市内に新規開設、もしくは賃借している
- サテライトオフィスの開発から1年を経過していない
- 従業者1人以上が開設したサテライトオフィスに就労している
- サテライトオフィス開設後、1年以上継続した業務が見込まれる
- 市税の滞納がない
富山県富山市:テレワーク拠点開設支援事業補助金
富山県富山市は、子育て世帯の仕事と子育ての両立支援、ワークライフバランスの向上を目的に、「テレワーク拠点開設支援事業補助金」を交付しています。
「市内に保育園などの子育て関連施設を有する」「市内にテレワーク拠点施設を開設する」「同種の補助をほか機関から受けていない」などが条件です。また開設後5年以上の運営継続見込み、常時10名以上のテレワーク実施可能設備なども必要になります。
7.テレワーク助成金の申請方法
各省庁や自治体が実施しているテレワーク助成金。申請方法に一律の規定はないため、必要書類や申請方法はそれぞれ異なります。テレワーク助成金を申請する際は、必ず各省庁や自治体のウェブサイトを確認しましょう。
必要書類を作成し、郵送する
テレワーク助成金を申請する方法として多いのが、各ホームページから申請に必要な提出書類などをダウンロード・作成し、郵送によって提出する方法。
送付の際は、簡易書留など記録が残る方法で送付しましょう。どの窓口も基本、申請書類の到着有無に関する問い合わせに対応していません。忘れずに提出書類の控えを取り、保管しておきましょう。
不明点はウェブサイトやコールセンターに相談
システム環境の相談やテレワーク時の労働時間、業務管理方法など、テレワークに関する相談は各種問い合わせ窓口、ウェブサイトやコールセンターなどで受け付けています。
厚生労働省の助成金であれば、厚生産業省委託事業の「テレワーク相談センター」に問い合わせてみましょう。オンラインによる無料コンサルティングや、企業への訪問相談なども行っています。
8. テレワーク助成金でよくある疑問
テレワーク助成金には多くの種類があり、受給条件を一度読むだけでは理解しきれないといった声も事実あがっています。申請自体が混みあっているため、専用コールセンターにつながらない場合もあるでしょう。
ここではテレワーク助成金に関して特に質問の多い2つについて、解説します。
個人事業主でももらえるのか
よくあるのは「個人事業主もテレワーク助成金を受給できるのか」という質問です。基本、「開業届を提出している」もしくは「青色申告をしている事業者または白色申告者」でも事業収入を申告していれば、助成の対象となります。
ただし一般的に申請する自治体で事業を営んでいる点が条件となるのです。異なる市や区で事業を営む場合は助成の対象にはなりません。
すでに必要な機器を購入した場合は対象になるか
すでに必要な機器を購入している場合、対象になるのでしょうか。基本、支給決定日以後に発注・購入した機器などが助成対象になるため、すでに購入した機器などは助成対象外になるのです。
しかし規定期間内に発注・購入した機器などなら助成の対象とする施策もあります。また期日までに発注が完了していても、納品や工事が完了していなければ助成対象外となるものもあるため注意が必要です。