どんな人間も平等に持っているもの。それは1日24時間という時間です。この限られた時間をいかに管理し、有効活用できるかどうかで、人生は大きく変わります。業務に取り組む場合、多くのタスクをいかに効率よく処理し、生産性を向上していくかが重要です。ここでは、
- タイムマネジメントのコツ
- タイムマネジメントの方法
- タイムマネジメントの手順
- タイムマネジメントの研修例
などを見ていきましょう。
目次
1.タイムマネジメントの意味とは?
タイムマネジメントとは「時間の使い方の改善によって、生産性の向上を図ること」を意味します。
たとえば、
- 1時間あたり100の成果を出していた場合、同じ1時間で200の成果を出せるように
- 半分の30分という時間で100の成果を出せるように
といったケースです。
管理監督する立場であれば、定型業務が減る一方、複雑多様な業務とそれに関わる結果を求められたり、業務を複数掛け持ったりといった状況もあるでしょう。そのような場合でも、時間的なコストをかけず的確に業務を遂行できるよう管理することが求められます。
このようにタイムマネジメントはさまざまなビジネスシーンで、常に要求される時間管理術なのです。
時間は管理できない
タイムマネジメントとは、厳密に言えば「時間管理」ではありません。「時間管理」とはいうものの、実際に1日24時間という時間を私たちが自由に増やしたり減らしたりすることができないからです。
タイムマネジメントとは「行動のマネジメント」です。タイムマネジメントは万人に与えられている時間のなかで、行動をどう変え、どうマネジメントするかを考える概念です。
タイムマネジメントによる生産性向上のパターン
タイムマネジメントは、限られた時間で生産性を向上させるための行動をマネジメントする手法です。生産性向上には、あるパターンがあります。それが、元マッキンゼー・アンド・カンパニー人材育成マネジャーの伊賀泰代氏が説く、生産性=成果÷投入時間の方程式です。
①投入時間同・成果増
タイムマネジメントによる生産性向上のパターン、生産性=成果÷投入時間の方程式について具体的に考えてみましょう。生産性を向上させたい場合、仮に分母となる投入時間を変化させないとすると、分子にあたる成果の数値を上げる必要があります。
業務に取りかかる時間を現状維持する際には、
- 業務の効率化や機械化
- 労働者のスキルアップ
などによって、成果物の総量の増加や成果物そのものの質を向上することが生産性の向上につながるでしょう。
②投入時間減・成果同(増)
次に、成果物の総量は変えずに投入時間を減らした場合はどうでしょう。今まで1時間かけていた業務を、半分の30分で行うようなケースです。生産性=成果÷投入時間の方程式に当てはめてみましょう。
分子である成果物の総量は変わらず分母の投入時間が減るので①と同様に生産性は向上します。同じ数の成果物を今までの半分の時間で生産してしまうのですから当然です。この場合も業務の効率化や労働者のスキルアップなどのマネジメントが不可欠です。
③投入時間増・成果大幅増
では、生産性=成果÷投入時間の方程式で投入時間を増やし成果物の総量を大幅に増やした場合はどうでしょうか。費やす時間を増やすので、生産性を高めるには成果物の総量も上げる必要があります。
成果物の総量を大幅に増大するには、成果に結びつきやすい業務を特定してそこにかける時間のみを増加するとよいでしょう。
業務全体にまんべんなく時間を振り分けては、成果物の総量を大幅にアップさせる生産性の向上は難しいといえます。
④投入時間大幅減・成果減
最後に、生産性=成果÷投入時間の方程式で、投入時間を大幅に削減して、成果物の総量も減らすというマネジメントを考えていきましょう。一見、生産性を落とし悪い結果をもたらすようにも見えます。
しかし、
- 業務内容の見直しなどを実施して、成果に結びつきにくい業務にかける時間を大幅に減らす
- 場合によっては、その業務を完全にやめてもよい
と考えてみてはいかがでしょう。
投入時間の大幅削減により、余った時間を成果の出やすい業務に費やせば会社全体の生産性は大きく向上します。タイムマネジメントは、ひとつの業務で考える視点と、会社全体で捉える視点の両方が必要です。
2.タイムマネジメントのコツ、方法
タイムマネジメントは、いかに効率よく時間を使って行動するかという行動マネジメントの手法です。タイムマネジメントは、生産性=成果÷投入時間といった方程式を駆使することで、さまざまな考え方ができることがわかりました。実際にタイムマネジメントを行う際のコツや方法を6つに分けて見ていきます。
- 優先順位の高いものに時間を使う
- 目標を持って行動する
- 細かくわける
- 振り返りの時間を設ける
- 「まとめて処理」の時間を設ける
- 人に任せる
①優先順位の高い業務に時間を使う
1つめのコツは、優先順位の高い業務に時間を使うことです。
業務には優先して取り組むべき順番があります。優先順位を決めて、優先度の高い業務にできるだけ多くの時間を費やすようにマネジメントしましょう。逆に言えば、優先順位の低い業務には、限りある貴重な時間を割かないということです。
優先順位を決める際、To Doリストを作成するなどまず取り組むべき業務を箇条書きにします。最初から優先度を確定させるのが難しい場合には優先度を単純に「高・中・低」などに振り分けるのもよいでしょう。最終的に優先度「高」の中で最も優先されるべき業務に最長の時間を振り分ければ、限りある時間を有効に利用できるでしょう。
②目標を持って行動する
タイムマネジメントとは、時間配分だけではありません。最も時間をかける優先順位の高い業務を決めたら、その業務をどのレベルで、いつまでにやり終えるのかを決めることが必要です。
仕事である以上、すべての業務にはそれ相応の結果が求められます。「十分に時間はかけたけれど、成果物が計画どおりに出来上がらなかった」という場合、タイムマネジメントを行う意味がなくなり、マネジメントの根底がくつがえされてしまいます。
タイムマネジメントを成功させたいのなら、「何を」「いつまでに」「どこまでやり終えるか」といった目標を設定して業務に取り組むことがポイントです。それにより、生産性向上という結果にコミットできるタイムマネジメントが実践できるでしょう。
③細かく分ける
「何を」「いつまでに」「どこまでやり終えるか」といった目標が設定できたら、それをさらに詳細な行動計画に落とし込みましょう。たとえば、タスクを月単位、週単位、日単位といった時間軸と行動の種類によって細かく分けます。
- 今日はこの業務をこのレベルまで行う
- 週末にはこのレベルまで到達している
- 月末には会議で発表できるような結果が手に入っている
など時間軸を設定し、そのためにどんな作業が必要となるか行動の種類を設定します。「第1週目は顧客へのアポイントメントを取る。月末までにはアポイントメントが取れた顧客への訪問を完了させる。来月から3ヶ月かけて、デモンストレーションを行う」など時間軸でアクションプランを練ると、タイムマネジメントがより実践的なものになります。
④振り返りの時間を設ける
「優先順位をつけ、優先度の高い業務に時間を割く。目標を設定し、目標達成のために細かい時間軸とアクションプランを作成する」、これらのコツがわかれば、タイムマネジメントの基本的な考え方は理解できたといえます。
しかしタイムマネジメントは、一度計画して実行すれば終わりというものではありません。
- 計画どおりに物事が進んでいるか
- 目標がぶれていないか
- 時間配分はこのままでよいか
といった振り返りの時間を必ず設けるようにしましょう。たとえば、週末など振り返りがしやすいときに、30分から1時間程度時間を確保します。そこで、
- 予定どおりに物事が進んでいるか
- 予定どおりでない場合、スケジュールの引き直しなどをチェック
といったことを実施してその都度軌道修正をしましょう。
スケジュールの最後で、「間に合わない」「まだ達成できない」などといった事態を避けるためにも、振り返りの時間は重要です。
⑤「まとめて処理」の時間を設ける
タイムマネジメントは、優先順位の高い業務に時間を割く手法です。とはいえ、優先順位の高いものばかりに時間をかけ、他の業務をおざなりにすることもできません。優先順位の低い・雑務的なものをまとめてこなす時間を別途設けておくと、抱えている業務全般をコントロールしながらやり遂げることができるでしょう。
「まとめて処理」という特別枠を週1回程度は設けるようにするだけでも、バランスのよいタイムマネジメントができるようになります。
⑥人に任せる
優先順位の低い業務や雑務を「まとめて処理」する時間を設ける有効性について説明しましたが、ほかにも、それらの業務を処理する方法があります。それは、人に任せるという方法です。
優先順位が低い・自分がやる必要のない業務は、
- 他人に任せられないか
- アウトソーシングできないか
検討します。すべてを自ら処理するのは理想ですが、現実はなかなかそうもいきません。周りの力も借りながら、効率よく業務をこなしていくことは、タイムマネジメントの極意でもあります。
3.タイムマネジメント術:6つの手順
タイムマネジメントのコツがわかったら、いよいよタイムマネジメント術を実践してみましょう。タイムマネジメントを実際に自分の業務に落とし込む際には、次の6つの手順を踏むとスムーズに導入できるとされています。手順に従って計画を立てれば、思いのほか簡単にタイムマネジメント術を駆使できるのではないでしょうか。
①やることを洗い出す:「ロジックツリーなど」
タイムマネジメントを行う際最初に取り組むことは、やることを洗い出す作業です。いわゆるロジックツリーやブレインストーミングなどを用いて、
- 今やるべきこと
- これからやりたいこと
- やったほうがいいと思うこと
など業務に関してあらゆる角度から自由な発想で洗い出しを行います。優先順位づけや本当にやるかどうかの判断は以降の過程で行いますのでこの段階では特に判断などはせず洗い出しに専念してください。
②優先順位をつける1:「アイゼンハワーマトリクス」
業務の洗い出しが終わったら、「アイゼンハワーマトリクス」をつかって優先順位をつけましょう。
アイゼンハワーマトリクスとは、第34代アメリカ大統領アイゼンハワーが時間管理を行うときに使っていたとされるフレームワークです。
業務を緊急度・重要度でわけ、それぞれの高低でわかれる4つの象限にタスクを分類して優先順位を確認することが有効だと記されています。
- 第Ⅰの領域 緊急度・重要度とも高い業務
- 第Ⅱの領域 緊急度は低いが重要度は高い業務
- 第Ⅲの領域 緊急度は高いが重要度は低い業務
- 第Ⅳの領域 緊急度・重要度ともに低い業務
となっています。これらを第I>第II>第III>第IVの順で優先度をつけるのです。
その際、第Ⅰの領域にある業務を優先的に取り組むのはもちろんですが第Ⅱの領域がおろそかになりやすい点をスティーブン・R・コヴィーは指摘しています。重要度が高いエリアの業務を見落とすことなく、時間配分を的確に行うことが求められます。
③優先順位をつける2:「フィジビリティスタディ」
業務の優先順位をつけるもうひとつの方法があります。それが、「フィジビリティスタディ」です。
「フィジビリティスタディ」とは、
- マクロ環境(新規事業などのプロジェクトの実行可能性や採算性など)
- 市場動向
- 投資効果や資金調達といった財務関係
などの調査・検討を行うことです。
フィジビリティ(コストやリスクなどの実現可能性)とインパクト(成果や効果の大きさ)の掛け合わせで優先度を求める簡易版のフィジビリティスタディによって、施策や業務の重要度を深掘りできます。
アイゼンハワーマトリクスの緊急度と重要度の2つの軸で、タスクごとの「重要度」が判断できない場合には、このフィジビリティとインパクトの掛け合わせにより優先順位を決定していくとよいでしょう。
ちなみに、アイゼンハワーマトリクスとフィジビリティスタディ、どちらの方法を先に行ってもかまいません。
④目標を持って行動:「SMARTの法則」
ロジックツリーやブレインストーミングにより洗い出された業務はすべて、時間管理のマトリックスで緊急度と重要度、フィジビリティスタディによってフィジビリティとインパクトに分類されました。
次の工程はタスクの具体的な目標や締め切りを決定することでそれには、「SMARTの法則」が有効です。「SMARTの法則」とは、1981年にジョージ・T・ドランが発表した目標設定法で、目標達成を実現させるために欠かすことのできない以下の5つの成功因子で構成されています。
- Specific(明確性)
- Measurable(計量性)
- Assignable(割当設定)
- Realistic(実現可能性)
- Time-related(期限設定)
タスクについて5つの因子に則って決めていくと、効果的になるでしょう。
SMARTの法則とは? 目標設定の重要性、目標の立て方、具体例について
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⑤細かく分ける:「HIROEN」
「SMARTの法則」によってそれぞれのタスクを5つの因子に則って決めたら、次はHIROENのフレームワークでタスクを分解します。HIROENとは、
- Hear(聞く)
- Inform(知らせる)
- Request(頼む)
- Operate(作業する)
- Examine(調査・検討する)
- Negotiate(交渉する)
の頭文字を取ったものですべてのタスクは、この6つに分類できるとされています。すべてのタスクを6つに分類して、やるべきことに抜けがないかを意識し、それぞれにどれくらい時間がかかるかまで考えると、先の見通しがつけやすくなるでしょう。注意したいのは、他者が関わるタスクの場合です。予定を確保する必要性があるので早めに動く必要があります。
⑥実行
- 業務の洗い出し
- 優先順位付け
- 目標設定
- アクションプランへのブレイクダウン
以上が終われば、あとは実際に行動に移すだけです。やり始めた後は上述の「コツ」を意識してPDCAを回していくと、タイムマネジメントが身についていきます。
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4.タイムマネジメント研修で社員の生産性向上
タイムマネジメントを社内で実行する場合、社員研修を行うとよいでしょう。階層別や社歴ごとに社員を集め、集合研修を行います。タイムマネジメントは、方法さえ習得してしまえば、実際の職場に戻っても比較的容易に応用できます。生産性の向上を模索しているなら、タイムマネジメント研修の実施を検討してみてください。
効果
社員向けにタイムマネジメント研修を行うことで、2つのメリットを享受できます。
- 自己効力感の向上
- ワークエンゲージメントの向上
①自己効力感の向上
タイムマネジメントは、自分の行動管理を実現する手法です。タイムマネジメントを実践して小さな成功体験を積んだ社員は、「自分はできるんだ」といった自己効力感を強く持ち、仕事へのモチベーションが高まります。
高まったモチベーションを持って業務にあたれば、納得いく結果が得やすくなり、さらに自己効力感が高まるでしょう。このようにタイムマネジメントは、良循環を生む原動力になる自己効力感の向上に大きく貢献します。
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自己効力感とは、ある状況の中で必要とされる行動のこと。
たとえば、
結果を出す
目標を達成する
といった結果を出そうとする際「自分がうまくできるかどうか」という予期のことをいいます。
自己効力感は...
②ワークエンゲージメントの向上
タイムマネジメントは、ワークエンゲージメントの向上にも一役買います。ワークエンゲージメントとは、仕事に対する積極的な態度のことで、ワークエンゲージメントが高い社員は、仕事に没頭してパフォーマンスを上げるといわれています。
タイムマネジメントを行えば、頭の中が整理でき、最も取り組むべき業務に集中できる環境を社員自らが生みだし、仕事に没頭できる環境が整います。するとワークエンゲージメントを向上させながらよりよく働ける社員が多く輩出されるでしょう。
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研修方法
タイムマネジメント研修は、自己効力感やワークエンゲージメントを向上させることができるとして注目を集めています。具体的にはどのような研修方法が効果的なのでしょう。課題感に着目して具体例を挙げてみます。
課題感に合わせて行う
課題感に合わせてタイムマネジメントを行う研修方法が効果的です。タイムマネジメントには6つの手順があり、その手順を踏んで取り組むのが効果的というのは前述の通りです。
たとえば、優先順位付けができていないといった課題があるのに、研修でタスク分解の方法をやっても意味がなく、実際の効果も薄いでしょう。事前にアンケートを取るなどタイムマネジメントのどの段階に問題があるのかを調べ、見つけた課題を研修内容に取り入れるとよいでしょう。
研修例:料理の過程をタイムマネジメント
まずは料理の過程や家事の計画といった日常生活の中での課題を例に取り組むとよいです。また、別の部署間でも共通認識があるテーマがあるならば、それを取り上げるのもおすすめでしょう。
ここでは研修例として、料理の過程をタイムマネジメントしてみます。
夜7時までにトマトソースパスタを作ると仮定しましょう。まず、料理完成までのタスクをおおよそ洗い出します。次に、もう少し細かな実際の作業工程に落とし込みます。それから、それぞれのタスクについて、パスタを茹でる、ソースを作るといった作業時間の割り振りをします。
夜7時と時間が設定されているので、出来たての料理を食べるには、何時までに何をするかが非常に重要です。このように身近な例でも楽しく取り組むことができます。
個人のタイムマネジメントだけでなく、数名でチームや組織のタイムマネジメントを研修テーマにするのもよいでしょう。
まとめ
タイムマネジメントは、1日24時間という限られた時間をどう効率よく使っていくかという行動マネジメントです。タイムマネジメントを習得すれば、自己効力感やワークエンゲージメントを高めることができるので、個人の能力を高めると同時に会社の生産性向上にも大きく貢献します。
親しみを持てる課題を通して楽しく取り組むことができるので、タイムマネジメントを学び、貴重な時間をフル活用して仕事・プライベート、そして人生を実り多いものにしていきましょう。