当事者意識とは、ある問題や状況に対して自分ごとと捉えて、主体性や責任を感じて取り組むことです。仕事を進める中で当事者意識は重要な要素ですが、本人の性格や職場環境が原因で当事者意識が持てない・低い場合もあります。
今回は、当事者意識がない・低い人の特徴や原因、当事者意識を持たせる方法や高める方法を詳しく解説します。
1.当事者意識とは?
当事者意識とは、ある問題や状況を「自分ごと」と捉えて責任や義務を感じ、主体的に取り組むことであり、積極的に動くための基盤となる意識です。英語では、「Sense of ownership」「Commitment」と表現します。
類語に「オーナーシップ」があり、「Owner=所有者」であることから、ある問題や仕事が自分のものであるという意識を示します。
自分一人が請け負う仕事に対しては当事者意識を持ちやすいですが、チームで連動して取り組む場合、責任の所在や役割が不明瞭な状態では当事者意識に欠けてしまうことも多いもの。
「自分の担当ではないので知らない」「やらされている」といった感覚では、当事者意識は低い状態といえます。
当事者意識の言い換え方
当事者意識の言い換え方には、「主体性」や「責任感」があります。
- 主体性とは、自分の意志や行動を自分の意識と責任にもとづいて展開すると、自己決定力や自律性がある状態
- 責任感は自分の行動や選択に責任を持つことであり、その行動や選択について責任を果たす意思がある状態を指す
自分だけでなく他者に対しても責任感があることで、信頼関係の構築や他者への配慮、チームワークの促進に有効です。当事者意識をはじめ、どれも「他人事」ではなく、「自分ごと」と考える意識・姿勢を指します。
2.当事者意識がない・低い人の特徴
ビジネスシーンにおいて、当事者意識がない・低い人はマイナスなイメージを与えてしまいます。なぜなら、ビジネスには必ず責任が伴い、主体的に動く必要があるからです。ここでは、当事者意識がない・低い人にみられる特徴をみていきます。
問題や物事に対して興味関心がない
自分の置かれている状況や直面している問題・課題に対して興味関心がなく、他人事と考えている、誰かが解決してくれるあるいは誰かがやってくれるだろうと考えている人は、当事者意識が低いといえます。
言われてやっているだけ、自分には関係ないといった意識で仕事に取り組んでいる場合は当事者意識がない・低い状態です。このような人は問題や課題が自分に関係ないと思っているため、責任感も欠如している傾向にあります。
受け身で人任せな姿勢でいる
当事者意識に欠けていると、自ら考えて積極的に行動したり、指示以上のことをしなかったりと、人任せで受け身な姿勢になるのです。自発的に動くことがなく「指示待ち人間」とも呼ばれ、トラブル対応や急な対応が苦手な傾向にあります。
また、自分ができない、難しいと感じたことはすぐに人に頼ることが多く、さらには自分が任されたという意識がないため、自分で解決・対応しようと思わない特徴がみられます。
諦めが早い
うまくいかない、失敗しそうと思ったらすぐに諦めてしまうなど、意志が弱い人は当事者意識が低い傾向にあります。また、トライしたとしても、うまくいかなければ途中でやめればいいと考えている場合も。
最後までやり切ろうという気持ちがなく、常に逃げ道や楽な方に意識が向いている点が特徴です。途中で物事を投げ出すような責任感に欠けている人は、責任のあるポジションや仕事が任されにくくなります。
自分を優先する
自己愛が強く、自分を第一に考えている特徴もみられます。自分が傷つくようなことや嫌な思いをしたくないため、自分の都合を最優先に考えるだけでなく、自分にとってマイナスなことが起これば、自分を守るために保身に走る傾向があります。また、他人にも関心がないため、自分されよければ良いと考えている人もいるのです。
言い訳や責任逃れをする
仕事での失敗やトラブルが起こった際言い訳ばかり並べたり、責任を逃れたりするような人は当事者意識がない・低いといえます。さらに、自分のミスや失敗も周りのせいにしたり、隠したりする傾向にあり、周囲の人からの信頼を失ってしまいます。
自己評価が低い
自信を持てずに自己評価が低くなるなど、自己肯定感が低い傾向にあります。また周囲からの評価を気にするあまり、失敗を恐れて積極的に物事に取り組まない様子もみられます。
経験や成功体験がつめないため自信も得られず、結果的になかなか成長できずに当事者意識も培われません。
3.当事者意識がない・低くなる原因
当事者意識が低くなる原因は、本人の性格や考え方だけでなく、組織状況が原因となる場合もあります。従業員の当事者意識がない、低くなる原因を押さえてみましょう。
役割や責任の所在が不明瞭
そもそも自分の役割や担当している業務の責任の所在がわからないと、当事者意識を持ちにくくなります。なかには性格上、そうした状況下でも当事者意識を持てる人もいます。
また従業員が自分の役割や責任を認識できていないがゆえに、当事者意識が持てていないケースもあるでしょう。当事者意識を醸成するには、組織図などから組織やチーム、個人レベルで役割や責任の所在を明確にすることが大切です。
従業員に意思決定の機会がない
トップダウン型の組織では、管理職や経営者がすべて意識決定し、従業員は指示を受けて行動するだけになってしまうため、従業員が当事者意識を持ちにくい環境です。当事者意識を持つには、自らの意思で行動・選択できる環境や状態が必要です。
目的や目標がわかりにくい
目的や目標がわかりにくい、そもそもない場合は主体的に行動する目的がなく、当事者意を持ちにくい傾向にあります。
また目的や目標が上から与えられるだけで、自分で設定できていないがゆえに、自分ごとになっていない場合も原因のひとつ。自ら目標設定することは、目標に向けて行動する主体性や積極性、目標を達成する責任感を持つためにも重要です。
目標設定とは?【設定のコツを一覧で】重要な理由、具体例
目標設定は、経営目標達成や個人のレベルアップのために重要なもの。適切な目標設定ができないと、最終的なゴールが達成されないだけでなく、達成のためにやるべきことも洗い出せなくなってしまうでしょう。
今回は...
評価基準が曖昧
何を持って評価されているのかが不明瞭だと、評価を上げるためにどのような方向性で行動すればよいかがわからなくなります。
自分の行動・選択が評価をよくするためのものであるかもわからないため、積極的な行動を避けてしまう傾向にあり、当事者意識を持ちにくくなってしまうのです。その結果、余計なことはしない、指示以上のことはしない意識づけがなされてしまう恐れもあります。
評価基準とは?【作り方をわかりやすく】目的、項目の具体例
評価基準とは評価するための水準であり、公平かつ客観的な評価を行ううえで重要な指標です。人事評価への不満は優秀人材の離職の原因ともなり、最悪のケースでは業績不調を招く恐れもあります。
今回は、評価基準と...
余裕を持てない
仕事量が多いといった理由から、自分のことで精一杯になってしまう状況も原因のひとつ。物事を考える時には物理的・精神的な余裕も必要であり、余裕がないとなおのこと他人のことは考えられなくなってしまいます。
結果的に積極的な行動を避けるようになってしまい、与えられた仕事だけをこなすだけになってしまうといった終始受け身の姿勢になってしまうでしょう。
4.当事者意識の持たせ方・高め方
当事者意識は、意図して持たせたり高めたりすることが可能です。ここでは、当事者意識の持たせ方・高め方をご紹介します。
適切かつ明確な目標を設定する
個人の目標達成は、最終的に組織の目標達成につながります。そのためには、自分の目標が全体にどういった影響をおよぼすか、どう貢献するかを意識できるような目標設定がポイントです。
目標達成という目的があれば意義を持って仕事に取り組めるようになり、さらに目標を自分ごとととらえられれば、仕事に対する主体性や責任感も生まれます。
SMARTの法則とは? 目標設定の重要性、目標の立て方、具体例について
目標を立てるにあたって、全く実現不可能なものであっても意味がないですし、簡単に達成できそうなものであっても目標になりません。達成可能な目標の立て方として注目を集めているのが、SMARTの法則と呼ばれる...
コミュニケーションを促進させる
当事者意識を高めるためには、企業と従業員の良好な信頼関係も重要です。心理的安全性やエンゲージメント向上によって、主体的に動けるようになります。
コミュニケーション促進の方法は、経営層が自社の理念や方針を発信する、1on1や社内イベントを開催するなどさまざまです。
また、部署や職種の垣根を超えた意見交換の場を設けることも有効です。従業員の声が上がり、部署間の協力体制や連携が強化されれば組織の一体感も向上し、当事者意識が育まれます。
1on1ミーティングとは? 目的や効果、やり方、話すことを簡単に
部下を育成し、目標を達成させる「1on1」とは?
効果的に行うための1on1シート付き解説資料をプレゼント
⇒ 無料ダウンロードはこちらから
ヤフーが導入したことでも注目され、現在では多くの企業が導入...
明確な役割と仕事内容を提示する
業務を指示するときは、役割や仕事内容を具体的に提示することも大切です。求める役割や達成度を提示することで、責任感を持って取り組めるようになるでしょう。
自分に期待されることが認識できている状態がベストであり、期待を実現するにはどうすればよいかを考えながら主体的に行動できるようになります。あえて、責任のある仕事を任せるのもひとつの方法です。
明確な評価基準のもと適切に評価する
明確な評価基準は、従業員が積極的に動くための指標といえます。評価基準として達成度を明確にすることで、達成に向けて意欲が向上し、主体的に動けるようになるでしょう。
「評価=従業員の頑張り」を認識する機会であるため、適切に評価し、褒める文化が定着すれば、意欲とモチベーションの向上に有効です。
同時に失敗や改善点についても適切にフィードバックすることで失敗をバネにし、成功のために意欲的かつ具体的に行動できるようになることで当事者意識も育まれます。
失敗を許容する環境を作る
失敗したら怒られる、責められる、責任を取らされるなど、失敗に怯えてしまう環境では当事者意識が生まれにくいです。くわえて、積極的な行動を避ける、失敗を恐れて挑戦しない風潮が生まれてしまいます。
失敗を許容される環境では心理的安全性が高まり、適度な緊張感を持って仕事に取り組めるため、そうした意識になりにくいといえます。
しかしただ許容するだけでは甘やかしているだけになってしまうため、失敗した後のフィードバックや失敗が成長につながるようなフォローが大切です。
5.当事者意識が高い人がもたらすメリット
当事者意識が高い人は、下記のようなメリットをもたらします。各メリットを詳しくみていきましょう。
- 主体的な行動が促される
- 意思決定のスピードが早くなる
- 従業員同士で良い影響を与えられる
①主体的な行動が促される
当事者意識があることで、従業員が仕事や直面する問題に対して自分ごとととらえられるため、仕事に対して責任感を持ち、最後までやりとおそうとする姿勢が期待できます。
目標の達成に対しても積極的になれるため、個人が目標達成に尽力でき、実現すれば組織全体の目標も達成されるでしょう。
②意思決定のスピードが早くなる
やらされている・受け身な状態を脱するため、行動の判断や意思決定のスピードが向上します。また、判断が必要になった際に人任せにせず自分から提案できるようになり、考え方やアイデアの多様化からイノベーションの創出にもつながるのです。
近年変化の激しい時代において意思決定のスピードは重要であり、企業力の強化にも有効といえます。
③従業員同士で良い影響を与えられる
当事者意識が高いと、目的意識を持ってモチベーション高く業務に臨めるようになります。
組織にモチベーションの高い従業員が多いと、切磋琢磨する良好な競争力が生まれ、個々の成長に貢献するだけでなく、適度な緊張感や一体感を生み出す効果が期待できます。
さらに全員が当事者意識を持って連携できればチームワークも促進され、早くに成果も出せるようになるでしょう。