トップダウンとは、組織の意思決定を上層部が行い現場で実行するスタイルのこと。ここではボトムアップとの違いや、メリットとデメリット、トップダウンを採用して課題を解決した会社の例などを解説します。
目次
1.トップダウンとは?
トップダウン(Top Down)とは、会社の上層部が決めた内容を現場の従業員が実行する意思決定方法のこと。日本語では「上意下達」と呼ばれます。トップが強いリーダーシップやカリスマ性を持つ会社では、経営が安定しやすい方法です。
2.トップダウンとボトムアップの違い
「トップダウン」と「ボトムアップ」はどちらも組織の意思決定を上層部が行うものの、その手法や特徴は対極にあります。
ボトムアップ(Bottom Up)とは?
従業員の意見やアイディアを吸い上げて、上層部が承認する意思決定方法のこと。日本では「下意上達」と呼ばれます。従業員の主体性や自律性を尊重した組織づくりができる方法です。
ボトムアップとは?【意味を簡単に】トップダウンとの違い
ボトムアップとは、従業員の意見を取り入れて意思決定に生かす方式のこと。ボトムアップのメリットとデメリット、導入のポイントや注意点、導入事例を解説します。
1.ボトムアップとは?
ボトムアップとは、現...
トップダウンとボトムアップの違い
トップダウンとボトムアップは、いずれも組織の意思決定方法です。両者の違いを「意思決定のスピード」と「適した範囲や規模」の視点から説明します。
意思決定のスピード
トップダウンでは意思決定から実行までを迅速に行えるのに対し、ボトムアップでは組織の規模が大きいほど時間がかかる傾向にあります。
- 【トップダウン】:「少人数の上層部だけで議論を行うため意思決定が早い」「現場への伝達や実行がスピーディに行える」
- 【ボトムアップ】:「現場からの多様な意見の集約に時間がかかる」「現場と上層部の間の階層が多いほど、時間がかかりやすい」
適した範囲や規模
トップダウンは全社規模の大きな意思決定、ボトムアップは各部署の小規模な意思決定に適しています。
- 【トップダウン】:「上層部が判断するため、全社が一丸となって実行できる」「横展開しやすく、全社規模で効果を上げやすい」
- 【ボトムアップ】:「小規模なら意思決定に時間がかからない」「部署の業務内容に応じた専門性が高い意見を集約できる」
3.トップダウンのメリット
スピーディに全社規模の意思決定ができるトップダウンには、以下のようなメリットがあります。それぞれについて解説しましょう。
- スピード感のある運営を実現
- 統制の取れた組織作り
- トップ次第で会社の急成長が期待できる
①スピード感のある運営を実現
意思決定にかかわる人数が少なく、会社の今後を左右するような大きな事項でも決定から伝達、実行までをスピーディに行えます。上層部が決定した事項は速やかに現場まで伝達され、全社で一貫した行動を取れるようになるのです。
②統制の取れた組織作り
トップダウンでは、組織全体が同じ方向を向いて活動できる、統制の取れた組織が作れます。トップの意思がそのまま組織全体の意思になり、全従業員に共有されるからです。トップのメッセージが明確に現場に伝わるため、社内に連帯感が生まれます。
③トップ次第で会社の急激な成長が期待できる
優れた経営者がトップダウンを採用すると、会社は短期間で大きな成長を遂げる可能性があります。そのときに必要な施策を、全社一丸となってスピーディに展開できるからです。トップダウンにより、業績を大きく向上させた事例も少なくありません。
4.トップダウンのデメリット
トップダウンは「上層部だけで意思決定を行う」という特性から、以下のようなデメリットがあります。それぞれについて解説しましょう。
- 判断力のある従業員が育たない
- 組織内で不満が募りやすい
- トップの能力に依存する
①判断力のある従業員が育たない
トップダウンを採用している会社では、主体性のある従業員が育ちにくい傾向にあります。意思決定は上層部により行われるため、現場から意見を出す機会は減少するからです。
自分で考えて動ける人材が減ると、上層部の判断に依存する「指示待ち」組織になる恐れもあります。
②組織内で不満が募りやすい
上層部と現場の信頼関係が構築できていないと、従業員の不満が募りやすくなります。トップダウンでは上層部の決定権が強く、現場の意見は反映されにくくなるからです。
現場に「どうせトップが決めたことだから」という雰囲気が広がると、モチベーションは低下するでしょう。また決定事項が迅速に実行されない可能性もあります。
③トップの能力に依存する
経営者の資質によって会社の行く末が決まるリスクがあります。現場の声や組織の現状、社会情勢などをトップが正確に把握して判断すれば急成長が期待できる反面、判断を誤れば会社は大きく衰退してしまうでしょう。
ひとつの判断ミスで、倒産の危機に直面する可能性もあるのです。
5.トップダウンが適している組織・ケース
トップダウン経営で重要なのは、従業員から慕われるトップのカリスマ性や合理性です。そのためすべての企業にトップダウンが向いているわけではありません。ここではトップダウンが適している組織・ケースを解説します。
- スピード感のある決断を求められる組織
- 優秀なトップや経営陣のいる組織
- 単一化やマニュアル化ができる組織
- 従業員数の少ない「ベンチャー企業」や「スタートアップ企業」
①スピード感のある決断を求められる組織
トップダウンでは上層部が意思決定を行います。このため判断が難しい重要な決断を迅速に行い、速やかに実行できるのです。
- 市場の変化が激しい
- 急成長中で好機を逃したくない
- 一気にシェアを拡大したい
- 不祥事の後始末を早急に行いたい
②優秀なトップや経営陣のいる組織
トップダウン経営では、従業員から信頼される「人望」「カリスマ性」を持つ経営陣の存在が重要になります。経営陣に求心力があれば、決定事項を組織全体が一丸となって実行できるからです。
優秀な人材が組織を率いて舵取りをすると、会社が大きく成長する可能性があります。
③単一化やマニュアル化ができる組織
トップダウンで生産や販売などの仕組みを整備すれば、マーケットシェアを獲得して大きく成長できる可能性もあるからです。たとえば外食チェーンやコンビニなどの「チェーン展開」や「フランチャイズ」などの経営戦略には、業務のマニュアル化が欠かせません。
④従業員数の少ない「ベンチャー企業」や「スタートアップ企業」
人材や資金が少ない「ベンチャー企業」や「スタートアップ企業」にとってビジネスチャンスを見逃さないスピード感が重要だからです。トップが自分のアイディアや理念を従業員と共有すると組織が一枚岩となり、大企業とも渡りあえる可能性があります。
6.トップダウンが適していない組織・ケース
トップダウン経営を採用して大成功する事例がある一方で、トップダウンでの意思決定が向かない組織やケースもあります。
- 事業の専門性の高い組織
- 業種が多岐にわたるケース
- 次世代に向け優秀な人材を育てたい組織
①事業の専門性の高い組織
トップが事業の専門分野を深く理解して正確に判断するのは難しく現場の従業員の知識や経験に頼らざるを得ない場合もあるからです。
このような組織ではボトムアップを採用して、現場の意見を聞きながら意思決定をする経営方法が適しています。
②業種が多岐にわたるケース
事業のすべてをトップが管理して意思決定するのは実質的に難しいからです。
扱う業種が多岐にわたるケースでは、部門ごとに責任者を立てて意見を集約し意思決定するボトムアップが適しています。ボトムアップは、各部門の従業員が自分たちの意見を反映できるため、満足感を持って働けるのです。
③次世代に向け優秀な人材を育てたい組織
上述したように意思決定を上層部が行うトップダウンでは現場に主体性を持つ人材が育ちにくいからです。このような組織にはボトムアップ経営が向いています。
現場の提案が経営に生かされるため、従業員はつねに組織の成長を身近にとらえていくでしょう。それが次世代の経営陣の育成につながります。
7.トップダウンのポイント
トップダウンでは上層部が意思決定を行います。しかし組織を良い方向に導くためには、つねに現場の声に耳を傾けることが大切なのです。ここではトップダウンのポイントについて、解説します。
- トップからの方針やビジョンの発信
- 重要な判断をする場面で現場の意見を反映できるかどうか
- トップの責任感
①トップからの方針やビジョンの発信
トップダウンを意思決定方法に採用する際経営者はつねに「経営方針」や「ビジョン」を明確に発信し続けましょう。全従業員が会社の方向性を理解すれば、組織全体が同じ目的に向かって一丸となって行動できるからです。
トップダウンを採用したい経営者は、「カリスマ性」と「強いリーダーシップ」を持ち、つねに組織全体を鼓舞し導く必要があります。
②重要な判断をする場面で現場の意見を反映できるかどうか
大きな判断をする際は、たとえトップダウンを採用していても現場の声を取り入れましょう。現場の意見を聞くと、トップダウンのメリットであるスピード感だけでなく、従業員との一体感を得られるからです。
つねにトップの独断で意思決定をすれば、現場からの反発を招くだけでなく、視野が狭く偏った判断になりかねません。
③トップの責任感
トップダウンにおいて意思決定を行う経営陣はつねにすべての責任を負う覚悟を持ち、それを全従業員に示す必要があります。経営陣が責任を取る姿勢を見せなければ従業員の信頼を失いかねません。
従業員の心が離れてしまうと、組織は弱体化します。たとえ現場のミスでプロジェクトが失敗に終わったとしても、責任は意思決定をした経営陣が負いましょう。
8.トップダウンの注意点
トップダウンは生産性を向上する手段として有効です。しかし実際に運用するには以下についての注意が必要になります。それぞれについて解説しましょう。
- パワハラへの注意
- ワンマン経営に陥るリスク
- 情報共有方法の確立
①パワハラへの注意
上層部が意思決定を行い、現場が実行するスタイルのトップダウンでは、パワハラへの注意が必要です。指示の伝え方によってはパワハラととらえられ、訴訟に発展する場合もあるからです。
「上司の決めたことに従え」「黙ってやればよい」など実行だけを強引に求めれば、従業員の心は離れてしまいます。現場に決定事項を伝える際は、実行する目的を論理的にわかりやすく説明し、理解してもらいましょう。
パワハラ(パワーハラスメント)とは? 定義、具体例、対策
パワーハラスメントとは、職場での優位性を利用して相手に心身の苦痛を与える行為のこと。社会でもパワーハラスメントの存在が大きな問題となり、企業が対処を怠ったとして損害賠償を求められるケースも発生していま...
②ワンマン経営に陥るリスク
正しくトップダウン経営をしているつもりでも、ワンマン経営に陥るリスクがあります。トップダウンでは意思決定をトップが行うため従業員の声が上層部に届きにくいもの。いつのまにか経営者によって会社が私物化されるかもしれません。
ワンマン経営に陥れば、たとえ会社の進む方向が間違っていても誰も指摘できなくなります。従業員の意欲や自社への信頼が低下し、優秀な人材が退職してしまう恐れもあるのです。
③情報共有方法の確立
トップダウン経営では、現場のリアルな情報を共有できるシステムを構築しましょう。トップダウンの性質上、現場での些細な情報はトップに共有されない場合もあるからです。
たとえば現場に寄せられた「クレーム」「顧客からの要望」「小さなトラブル」などの情報が経営戦略に生かされず、サービスの質を落としてしまう可能性もあります。このようなリスクを回避するために、現場からのリアルな情報を共有する方法の確立が必要です。
9.トップダウンに成功した企業事例
トップダウンとボトムアップは、それぞれに適した組織やケースがあり、どちらか一方が優れているわけではありません。ここではトップダウン経営を採用して組織風土改革に成功した会社の事例を5つ、説明します。
- キリンビール
- トヨタ自動車
- 東洋電装
- 小松製作所
- 村田製作所
①キリンビール
キリンビールは、2001年にビール市場で1位から転落したのをきっかけに、トップダウンによる組織風土改革を開始。2015年に社長へ就任した布施孝之氏は、「お客様のことを一番に考える組織風土に」というメッセージを従業員に繰り返し説き続けました。
布施氏と対話した従業員はのべ900人。社長自らが強い発信を続けた結果、組織風土が改革され、各カテゴリーで市場を上回る成果を実現したのです。
②トヨタ自動車
トヨタの豊田章男社長は2020年の年頭スピーチで「トップダウンとは、部下に丸投げすることではない。トップが現場におりて、自分でやってみせることだ」と発言。新たなトップダウンのあり方を示し自ら実践しています。
たとえば経営トップ主導の健康支援活動では、社長をはじめ全役員が健康宣言をして「健康メッセージ」を発信。さらに「健康チャレンジ8」という健康づくり活動に全社で取り組み、全従業員の意識向上や実行をうながしました。
③東洋電装
東洋電装では長時間労働を改善するため、トップダウンで勤務制度を改革し成果を生み出しました。
当初はボトムアップでの改革を目指したものの、マネージャー層が課題を充分に理解しておらず思うように成果が生み出されなかったのです。そこで社長自らが、トップダウンによる制度改革とマネージャーの意識改革を開始。
「労働時間の適正化」「就職希望者の増加」「従業員満足度の向上」など、大きな成果をもたらしました。
④小松製作所
小松製作所の経営構造改革は、トップダウンだけでなく「ミドルダウン」「ミドルアップ」を組み合わせたものです。
2001年に社長へ就任した坂根正弘氏は、トップ自らが現場へ方針を明示する「トップの現場密着」を掲げてトップダウンで経営構造改革に乗り出します。さらに「継続的に改革するにはミドル層の力が不可欠」と考えて、「ミドルアップ」「ミドルダウン」を採用。
トップダウンで決まった内容をミドル層が部下へ伝えると同時に、現場の課題を吸い上げてトップと共有する仕組みを構築したのです。ミドルアップとミドルダウンで経営構造改革が推進され、グローバルな事業展開を実現しました。
⑤村田製作所
村田製作所では、経営陣の本気の行動が従業員の心を動かし、組織風土改革を成功させました。
ITバブル崩壊後、業績悪化を機に社内経営陣は組織風土改革に着手したのです。改革は難航するも粘り強く従業員との対話を重ね、全役員が他社のノウハウを習得する合宿に参加して、積極的な取り組みを実施しました。
このような経営陣の行動に感化され、社内全体が組織風土改革へ取り組むようになり大きな成果を生み出したのです。