請負とは、委任契約と準委任契約にならぶ業務委託のひとつです。ここでは請負についてさまざまなポイントから解説します。
1.請負とは?
請負とは、業務委託における契約のひとつです。請負について5つのポイントから解説しましょう。
- 業務委託における契約形態のひとつ
- 請負に関する法律
- 委任契約との違い
- 準委任契約との違い
- 派遣契約との違い
①業務委託における契約形態のひとつ
業務委託(民法で定められている「請負契約」「委任契約」「準委任契約」の総称)における契約形態のひとつが、請負です。
請負契約は、「企業が成果物の完成を約束する契約により、業務をアウトソーシングし、請負人は期限までに契約どおりの成果物を納めて、報酬を得る」という形になっています。
②請負に関する法律
民法第632条にて請負は、成果物の納品を条件に報酬を支払う契約であると明記されています。
民法は2020年4月1日に改正され、「瑕疵担保責任は廃止され、契約不適合責任が追加」「未完成でも報酬請求が可能」「注文者が成果物の不適合を知ったときから1年以内なら請負人の担保責任を追及できる」という内容になりました。
③委任契約との違い
委任契約とは、「当事者の一方が法律行為をして相手方に委託し、相手方の承諾後に効力が生じる」という契約のことで、請負と同じ業務委託契約のひとつになります。請負と委任契約の違いは、下記のとおりです。
- 請負:仕事の完成形である成果物が契約内容
- 委任契約:行為を実行すれば債務の履行となる
④準委任契約との違い
準委任契約とは、発注者から依頼された行為(法律行為以外の事務行為)を行うと約束する契約のこと。準委任契約も業務委託契約のひとつで、違いは下記のとおりです。
- 請負:仕事の完成形である成果物が契約内容
- 準委任契約:法律行為以外の事務行為を実行すれば債務の履行となる
⑤派遣契約との違い
派遣契約とは、契約した当事者の一方が、相手方に労働者を派遣すると約束する契約のこと。派遣労働者は、派遣元企業と雇用契約を結んで派遣先企業にて働きます。請負契約と派遣契約の違いは、下記のとおりです。
- 請負契約:労働者は発注者から業務についての指揮命令を受けない
- 派遣契約:派遣先企業が業務に関する指揮命令を出す
2.請負のメリット
請負にはどんなメリットがあるのでしょうか。下記4点から解説します。
- 管理業務が必要ない
- 人的コストの削減
- 求める成果物を入手しやすい
- 業務量の変動に対応しやすい
①管理業務が必要ない
業務を行う際、業務内容や納期、作業の方法や目的について詳細な打ち合わせが必要です。請負の場合、一度打ち合わせすれば、受注者は成果物が完成するまでの工程を管理します。そのため、「管理業務に煩わされずより効率的な経営を実現しやすくなるのです。
②人的コストの削減
請負では、成果物に対する報酬があらかじめ設定されています。時給計算といった人件費はかかりません。また成果物を生み出すための専門的な人材が確保されているため、新人教育や研修を行う手間が省かれ、教育コストもかからないのです。
③求める成果物を入手しやすい
請負ではあらかじめ、納期や成果物の完成形を明確に設定して契約を締結します。そのため、期日までに一定の品質がある成果物を入手できるのです。万が一、契約不履行が見つかっても、対応は受注側が行うため、発注側の負担は少なくすみます。
④業務量の変動に対応しやすい
繁閑や緊急業務に対応できるよう人や資源を配置しておくと、リスクになりかねません。必要に応じて労働者を活用するため、業務量の変動に対応しやすく余剰人員を抱えるリスクが減ります。
3.請負のデメリット
請負にはデメリットもあります。一体どのような内容なのか、3点から解説しましょう。
- 業務の質が人材に左右される
- 発注側から請負先に指示が出せない
- 社内にノウハウが蓄積されない
①業務の質が人材に左右される
請負における業務の指揮命令権は、受注者である請負会社にあります。つまり発注側である企業は、労働者に指揮命令を出せません。そのため成果物の質が、受注者や請負労働者のスキルや能力の優劣に影響を受けやすくなるのです。
②発注側から請負先に指示が出せない
成果物を完成させるための指揮命令は、受注者が行うため、発注側から請負先へその都度指示は出せません。もし成果物のイメージを正確に伝えられないと、不満足な完成品を受け取る可能性が高まるのです。
③社内にノウハウが蓄積されない
請負のメリットを享受しようと過度に請負に依存すると、社内にノウハウが蓄積できなくなります。
専門性の高い業務ほど人的コストの面から請負に依存するため、ノウハウの蓄積が困難になる状況が顕著です。社内にノウハウを蓄積する仕組みづくりも必要でしょう。
4.請負契約書の項目と書き方
請負契約書には、項目と書き方が定められています。それぞれについて解説しましょう。
- 業務の内容・範囲
- 成果物の納品期限・検収期間
- 報酬の支払時期・支払方法
- 再委託
- 知的財産権
- 瑕疵担保責任
- 損害賠償
- 契約解除
①業務の内容・範囲
業務の内容・範囲とは、「どんな業務を請負として契約するのか」「業務範囲はどこまでか」といった詳細のこと。詳細を詰めておけば、完成した成果物に対する認識に違いが出にくくなるため、トラブルを防げるのです。
業務内容や範囲の詳細を発注側と受注側で取り決め、書面に残しておきます。
②成果物の納品期限・検収期間
成果物の納品期限と検収期間とは、下記のとおりです。
- 納品期限:成果物を引き渡す納品期限
- 検収期間:納品後の成果物を確認する期間
「いつ成果物が納品されるのか・納期に間に合わない場合の対応・検収期間の終了後に引き渡しが完了したと見なす」など、納品期限や検収期間に関わる取り決めもあわせて請負契約書に記載します。
③報酬の支払時期・支払方法
報酬の支払時期・支払方法とは、成果物に対する報酬の支払いに関する取り決め項目のこと。
報酬の金額や算出方法、支払日や支払い方法(分割や一括支払いなど)、着手金の有無といった情報を具体的に取り決めます。報酬の支払い時期は「納品月の月末締め翌月末支払い」とするケースが多いようです。
④再委託
再委託とは、受注者が受けた仕事を、無断で第三者に委託する契約のこと。請負で再委託は禁止されていません。しかし再委託は、成果物の質を落とすといったさまざまなトラブルに発展しやすいもの。
そのため再委託の可否のほか、「再委託の際、秘密保持義務を求める・再委託が不相当と判断されれば再委託を無条件撤回できる」といった項目について検討し、契約書に記載します。
⑤知的財産権
知的財産権とは、知的活動によって誕生したアイデアや創作物などのなかで財産的な価値を持つもののこと。
請負契約では契約前に、「既存および将来誕生する知的財産が含まれた知的財産権を明確にする・知的財産権を守る」などの措置を講じなければなりません。知的財産権がどこに帰属するのか、契約書上で明らかにしておくのです。
⑥瑕疵(かし)担保責任
瑕疵担保責任とは、完成した成果物の納品後に欠陥や不具合が確認された場合、請負人の責任の範囲・責任を持つ期間のこと。
「完成・納品・検収段階では基準を満たしていた・一定期間経過後に瑕疵が見つかる」といったケースへ対応するには、瑕疵担保責任の明記が必要です。なお2020年4月施行民法改正で、瑕疵担保責任は契約不適合責任に名称が変更されています。
⑦損害賠償
損害賠償は、発注者と受注者とのトラブルで生じる損害に関する賠償のこと。
「完成の見込みが立たなくなった・完成前に契約を解除された」場合、発注者が受ける利益の割合に応じて報酬の一部を請求できます。また改正民法536条2により、発注者に責があり仕事を完了できなかった場合、報酬の全額を請求できるようになりました。
⑧契約解除
注文者側からの解除には、「受注者の契約違反を理由とする解除」「受注者に契約違反がない、発注者の都合による解除」があります。
受注者側からの解除には、「注文者が破産した場合などを除き、解除の前に催告が必要」「請負人は完成部分の割合に応じた請負代金の支払を求められる」点に注意するのです。
5.請負契約書に貼る収入印紙
請負契約書は、印紙税額一覧表の第2号文書「請負に関する契約書」に該当するため、収入印紙を貼ります。収入印紙について2つのポイントから解説しましょう。
- 収入印紙の金額
- 収入印紙の購入場所
①収入印紙の金額
収入印紙の金額は、契約書に記載された契約金額によって変わります。
- 1万円未満は非課税
- 1万円以上100万円以下は200円
- 100万円を超え200万円以下は400円
- 200万円を超え300万円以下は1,000円
- 300万円を超え500万円以下は2,000円
- 500万円を超え1,000万円以下は1万円
- 1,000万円を超え5,000万円以下は2万円
- 5,000万円を超え1億円以下は6万円
- 1億円を超え5億円以下は10万円
- 5億円を超え10億円以下は20万円
- 10億円を超え50億円以下は40万円
- 50億円を超えるものは60万円
- 契約金額について記載のないものは200円
②収入印紙の購入場所
収入印紙の購入場所は、意外と身近なところにあるのです。たとえば200円といった少額ならコンビニエンスストアで購入できます。24時間365日開いているので、少額の収入印紙が必要な場合はコンビニエンスストアで購入するとよいでしょう。
高額な収入印紙を含めた全31種類の収入印紙は、郵便局や法務局で販売されています。
6.請負契約を結ぶ際の注意点
請負契約を結ぶ際、何に注意すればよいのでしょう。法的にも問題のない請負契約を締結するために知っておきたい3つの注意点について、解説します。
- 偽装請負
- 雇用契約
- 労働者を選ばない
①偽装請負
偽装請負とは、実質、雇用関係と見なされるにもかかわらず、業務委託契約で仕事を進めること。
偽装請負は、企業が労働法令に関わるルール回避のために行われる違法行為であり、取り締まりの対象です。契約書が請負契約でも、業務実態によって処罰の対象となります。
②雇用契約
請負契約でも指揮命令の有無や業務の専門性、報酬体系などで実質的に雇用主と労働者が雇用関係にあると認められれば、違法になるのです。その場合、「社会保険や労働保険への遡及加入」「未払い残業代の支払い」「有給休暇の付与」などを求められます。
③労働者を選ばない
「労働者を選定している、労働者に指揮命令を出している、労働者の始業・終業時刻を管理している、労働者の服務規程を設定している」などは、請負契約と見なされません。すべて偽装請負と見なされる可能性があるので、注意しましょう。