近年、ビジネスシーンで「可視化」という言葉がよく用いられるようになりました。今回は可視化についてフォーカスし、メリットや事例、便利なツールなどをご紹介します。
目次
1.可視化とは?
可視化とは、目に見えないものを見える状態に整え、必要なときに見られる状態にしておくことです。ビジネスでは、数字やグラフ用いて顧客のニーズや満足度、売上、社員のエンゲージメント等の傾向を可視化することで、業務改善を行っていきます。また可視化はビジュアライゼーション(visualization)と表現されることもあります。
2.可視化と見える化の違い
可視化と似た意味を持つ言葉に「見える化」がありますが、2つの意味に大きな違いはありません。「見える化」は多くが企業活動で利用されるのに対し、「可視化」は研究といった分野で使われています。
また下記のような見解もあります。
- 「見える化」はいつでも見える状態にしておく
- 「可視化」は必要なときに見えるようにする
3.可視化の目的
可視化の目的は、本来見られないものを目に見える形で表し、傾向や対策を講じること。たとえば顧客満足や社員満足などをデータにまとめてグラフやチャートで表示すれば、数値の比較や改善後の効果測定がしやすくなります。
まず可視化の目的について見ていきましょう。
- 現状把握
- BPMやRPA導入
- 内部統制
①現状把握
可視化すると業務上でどこに問題があるか把握できるようになり、問題解決に努められます。
たとえば企業では、「予算を作成するため現在の業務でかかっているコストを正確に把握する」「適切な業務の分担を行うため社員一人ひとりの業務や進捗を把握する」などの可視化が行われるのです。
②BPMやRPA導入
BPMやRPAの導入を目的として可視化を導入する企業もあります。
- BPA:業務の中でPDCAサイクルを回して効率を高めるアプロ―チのこと。Business Process Management(ビジネス・プロセス・マネジメント)の略
- RPA:ソフトウェア型のロボットを導入して定型作業を自動化すること。Robotic Process Automation(ロボティック・プロセス・オートメーション)の略
BPMやRPAへの取り組みにて、業務フローのマップ化や洗い出しのために可視化を行う必要があります。
③内部統制
内部統制では業務フローチャートや業務記述書、リスクコントロールマトリクスなどを整備します。これらの書類には業務の実態を業務フローチャート形式で作成し、リスクや統制のポイントなども含める必要があるのです。
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4.可視化のメリット
可視化は現状把握やBPMやRPAの導入、内部統制の整備に効果的です。それ以外にも可視化によって得られるメリットが多数あります。
- 全体像を把握できる
- 問題の把握がしやすい
- 属人化の解消につながる
- 新しい分析につながる
①全体像を把握できる
社内の業務を可視化すれば、自身がかかわっていない業務も把握でき、今まで見えなかった課題の発見や、解決すべき課題の優先順位の決定などにつながるでしょう。部署や課を越え、企業全体で課題の解決に取り組むには業務の可視化が必須といえます。
②問題の把握がしやすい
業務の全体像が見えているので各部署の進捗具合が把握でき、問題点をいち早く発見できるのです。また問題点の改善だけでなく、抽象的な表現も見える化すると具体的な行動が取りやすくなります。
そのためにはKGI(重要目標達成指標)やKPI(重要業績評価指標)、企業のミッションなどを可視化するとよいでしょう。
③属人化の解消につながる
業務を可視化して固定の人物しかできない作業を洗い出せば、マニュアルや制度、運用方法などを整備できます。つまりその作業を誰もが行えるように標準化できるのです。
作業の属人化は業務の効率化を妨げる大きな要因になりえるもの。可視化で属人化の原因を特定し、解消していくことが重要です。
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④新しい分析につながる
データを可視化して関連を見出すと、最適な分析方法が新たに発見される場合もあるのです。新たな分析は、新たな仮説や予測にもつながります。データをAIによる機械学習で分析すれば、より精密な分析結果が得られるでしょう。
5.分野別の可視化事例
すでにさまざまな分野の企業活動や研究で活用されている可視化。環境と通信、広告の3つの分野で実施された事例をご紹介します。
【環境】国境を越える大気汚染物質
私たちの生活にも大きくかかわっているのが大気汚染物質の可視化です。たとえば「PM2.5」は中国から飛来してきます。しかし対策を検討するためにはPM2.5の飛来経路や量などを把握しなければなりません。
等値面や地図などの数値データをもとにシミュレーション映像が作成され、その日、どのくらいのPM2.5が流れてきているのかを可視化できるのです。
【通信】通信の解析結果
通信の分野では、ドイツのドイツ・テレコム社という通信事業者が、音声やネットワークなどさまざまな可視化を実現しています。設置されている送信機が送信する信号の距離を地形ごとに測定し、解析したのです。
その結果、効率的に送信機を設置でき、コストの削減につながりました。
【広告】動画広告による態度変容
広告分野では、ポストインプレッションの測定に可視化が活用されました。ポストインプレッションとは、動画を視聴したのち直接、あるいは検索を経てサイトに訪れた人の割合。
広告動画の視聴率やサイトのクリック数、来訪者数などを可視化した結果、広告の動画を見る時間が増えれば増えるほど、その広告サイトを訪れる割合が高くなると明らかになりました。
6.目的別の可視化方法
可視化にはその目的に応じて方法を変化させるのが一般的です。ここでは以下の4つの目的に適した方法をご紹介します。
- 変化を見る場合
- 比較を見る場合
- 相関を見る場合
- 割合を見る場合
①変化を見る場合
棒グラフや線グラフ、面グラフ(エリアチャート)などを用いる方法がおすすめです。
これらのグラフは短期的な変化を見る時に適した手法で、数値の増減や推移などを見る際に役立ちます。たとえば横軸に時系列、縦列にデータ量を記載すると、時間ごとの増減傾向や増減の幅などが把握しやすくなるのです。
②比較する場合
プロットマッピングやヒートマップ、または円グラフが適しています。これらの手法を使うと、数値同士の比較がしやすくなるのです。
- プロットマッピング:地域ごとの数値を表示する手法
- ヒートマップ:数値の大小を色の濃淡で表す手法
- 円グラフ:総数に対する各項目の割合を表す
③相関を見る場合
散布図やバブルチャートがおすすめです。
- 散布図:縦軸と横軸で2つの数値を表して数値の分布状況を調べる手法
- バブルチャート:2つの数値の分布状況にくわえて、数値の大きさも表示できる手法。たとえば縦軸に気温を、横軸に商品の購入数を置いた散布図で点(数値)が右上に向かって並んだ場合、2つには相関があると考えられる
④割合を見る場合
ツリーマップや帯グラフ、または円グラフがおすすめです。いずれもデータの総数に対する各項目の占有率を可視化できます。
- ツリーマップ:数値の大きさに応じた大きさの四角い図形を重ねてそれぞれの割合を表す手法
- 帯グラフは、棒グラフで総量と各項目の割合を表す手法
7.業務やスキルの可視化方法
社員の計画的な人材育成や人材配置を行うには、業務やスキルの可視化が重要です。ここではこれらの可視化に有用な3つの方法をご説明します。人事システムやタレントマネジメントシステムにあらかじめ搭載されている場合は、ぜひ活用しましょう。
- スキルマップ
- プロセスマップ
- 可視化ツール
①スキルマップ
社員の現状のスキルを一目でわかるようにした表です。たとえば縦軸に社員の名前を、横軸にスキルを示す項目を記載し、その項目ごとに基準を決めて数値を書き込みます。
数値が難しければ〇や×、あるいは数字やアルファベットで段階的な評価を記載してもよいでしょう。スキルマップは人材育成計画の策定や、配置転換に役立ちます。
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②プロセスマップ
業務のプロセスをフローチャートで可視化した図表です。現在の業務の組織体系や、ビジネスや業務の流れがわかります。各業務の担当者も記載しておくのも有効でしょう。
プロジェクトのリーダーは、誰がどこに配置されているのか、確認できます。そして作業している社員は自分の作業がどこに影響してくるのか、すぐ確認できるのです。
③可視化ツール
作業内容と作業時間を可視化できるアプリやシステムで、データから分析ができるものもあります。
たとえば社員のPCに操作ログを収集するようなアプリをインストールしておくと、ビジネスアプリの使用ログや使用時間といったデータをサーバーへ収集できるのです。そしてデータをグラフにて表せます。
8.人事が使える可視化ツール
人事業務で人材育成や配置の計画を立てる際には、社員の効率や評価、スキルなどのさまざまなデータの可視化が必要となるでしょう。さまざまなデータを可視化できるツールとして「カオナビ」をご紹介します。
カオナビ
「カオナビ」は、人材情報の一元化や見える化、業務の可視化や効率化が可能なタレントマネジメントシステム。
ダッシュボードで社員のデータや集めた情報を瞬時にグラフ化でき、見たい情報を時系列で複合的に分析できます。ES調査やエンゲージメント向上、テレワークの活用などにも対応可能な機能を搭載したマネジメントシステムです。
【導入事例①】バンドー化学
バンドー化学は、110年以上続く産業用ベルトメーカー老舗です。社内では社員の多さから人事評価をする際に一人ひとりに詳しい評価を伝えられず、評価の記号だけが本人に届くような状況が問題視されていました。
そこでカオナビを導入し、一次評価や二次評価、評価者のコメントなどを可視化したのです。本人と評価者間の連絡やフィードバックがスムーズに行えるようになり、人事評価に使っていた時間を年間100時間短縮できました。
【導入事例②】物語コーポレーション
多数の飲食ブランドを運営する物語コーポレーションでは、月に一度の経営会議で社員数や男女比の推移などを報告します。しかし社員飲食業界は人材流動が非常に激しく、それを逐一把握するのにかなりの時間を要していました。
そこでカオナビを導入し、社員の現状をグラフで可視化したところ作業が数分で完了するようになりました。さらに社員のスキルや評価を可視化し、育成や今後の経営戦略に役立てています。
9.可視化ツールを選ぶ際のポイント
可視化ツールの導入で人事業務を効率化できます。しかし可視化ツールならなんでもよいわけではありません。最後に可視化ツールを選ぶ際のポイントをご紹介します。
- 自社の目的にあった機能
- 使いやすい操作性
- コストパフォーマンス
①自社の目的にあった機能
可視化ツールを導入するうえで最も重要なのは、会社の目的に沿った可視化ツールを導入すること。可視化ツールの種類はさまざまで、管理や監視が得意なツールや、収集したデータを分析が得意なツールなど、ツールによって特徴が異なるのです。
可視化ツールを導入して何がしたいのかを明確にしておきましょう。
②使いやすい操作性
ツールを主に使う人が操作にとまどうようでは、十分に活用できません。
データの分析に特化したチームが使うならば、ある程度操作が複雑でもより細かにデータを収集できるツールがよいでしょう。主に人事や一般の社員がツールを使用する場合は、クリックやドラッグなどでかんたんに操作できるものがおすすめです。
③コストパフォーマンス
生じる費用は、初期費用や月額費用、1ユーザーあたりのライセンス料など。最適な料金プランは用途や会社規模によっても変わります。導入から運用まででどれくらいの費用がかかるのかを確認し、コストと期待できる効果を検討してからツールを選びましょう。