VUCAの時代に起こること、求められるスキル、リーダーシップ、OODAなどについて詳しく解説します。
目次
1.VUCAとは?
VUCA(ブーカ)とは、社会やビジネスにとって、未来の予測が難しくなる状況のことを指す言葉です。Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取って作られた造語です。
元々アメリカで使われていた軍事用語で、アメリカとロシアの冷戦が終結し、核兵器ありきだった戦略が不透明な戦略へと変わったことを表している言葉でした。
2010年代に変化が激しい世界情勢を表す言葉としてビジネスでも利用されるようになりました。
2.VUCAが注目される背景
VUCAが注目される背景として、グローバリゼーションやIT技術の発展、少子高齢化などが上げられます。
それぞれの国の風土や価値観、宗教観などに合わせて柔軟にビジネスを展開する必要性、ITの進化が既存のビジネスモデルを破壊する可能性、少子高齢化が深刻化した場合に今後どのような変化が起こるか予測できないVUCAの不確実性に関わる要素です。
2.VUCAに関する政府の動き
経済産業省が2019年3月に発表した「人材競争力強化のための9つの提言(案)~日本企業の経営競争力強化に向けて~」では、経営競争力・人材競争力強化に関する文脈で
- 3つの大原則
- 大原則に基づく6つの具体的な方策
が提言されています。その中でVUCAは、大原則の1つとして「経営トップが率先して、VUCA時代におけるミッション・ビジョンの実現を目指し、組織や企業文化の変革を進めること」という形で触れられています。
3.VUCAの時代に起こること
VUCAの時代には、予想外のできごとが次々と起こり、これまでの常識が通用しなくなります。Volatility・Uncertainty・Complexity・Ambiguityに沿って説明していきましょう。
変動性(Volatility)
テクノロジーの進化や、それにともなってさまざまな価値観や社会の仕組み、顧客ニーズなどが変化していくことを示しています。
短期間で市場の状況が変わることも予測されるなど、めまぐるしくさまざまなことが変化していくため、先の見通しを立てることができず、未来の予測が難しくなっていると考えられ、不安要素となります。
不確実性(Uncertainty)
グローバル化が実現し、自由貿易が全世界に恩恵をもたらしています。その一方で、自由貿易の悪用や保護主義に向かう国があらわれ、世界経済にさまざまな悪影響を与えています。
また地球の温暖化による気候変動、新型コロナウイルスのような未知の疾病など、自然環境や政治、制度など未来の予測することが困難だということを示しています。
複雑性(Complexity)
ひとつの企業あるいは国での成功事例を他で再現しようとしても、習慣や常識、ルールなど個別の要因が作用して単純化できず、ビジネスが複雑化しています。
グローバルなビジネス環境では、その国の法律や文化、常識などさまざまな要因が絡み合って、ビジネスを複雑化しています。世界で通用するキャッシュレス決済が日本では浸透しない、といったこともその一例といえます。
曖昧性(Ambiguity)
- 変動性
- 不確実性
- 複雑性
が重なることで、曖昧性が生まれるといわれています。過去の実績や成功例に基づいたやり方では通用しない状況です。
こうした曖昧な現代ビジネスでは、「いつまでも」「確実に」「どの国や企業でも」通用する解決策がないとされています。このような曖昧さは、多くのビジネスパーソンに不安を与える要因ともいえます。
4.VUCAの時代に求められるスキル
VUCAの時代には、これまでとは異なる能力が求められといわれます。VOCA時代を生き抜くためのスキルを5つ、紹介しましょう。
情報収集力と処理能力
膨大な情報から望ましくかつ正しい情報を選別し、正しく状況を把握する情報収集力と処理能力が求められます。
例えば、日頃から多量の情報に接しており、特に自らと異なった意見を含めて多様で大量なニュースソースを現に持っている人材は、優れた情報処理能力を持つといえるでしょう。
さらに膨大な情報から適切な情報を選び出すリテラシーを兼ね備えたスキルが求められます。
意思決定力
市場のニーズが常に変動し、ビジネスが後手に回らないためにも、迅速に意思決定を行うスキルです。
意思決定の遅れから、競合他社が先に同じようなコンセプトの商品やサービスをリリースしてしまい、大きなビジネスチャンスを逃す事態を招くこともあります。
経営陣だけではなく、各自が最新の情報を取得し活用する意識を持たなければならないでしょう。
臨機応変に対応する能力
これまでの成功事例にとらわれず、柔軟な思考を持ち臨機応変に行動できるスキルが求められています。
例えば、スマートフォンの登場で需要が下がった携帯電話など価値があると思われていたものが、急激に価値が落ちてしまうというケースは珍しくありません。
不確実なリスクが多い時代だからこそ、臨機応変な対応力が求められます。
コミュニケーション力
多様性を受け入れるコミュニケーション能力は、VUCAの時代を生き抜くキーポイントと考えられています。さまざまな価値観や、バックグラウンドを持つメンバーと的確にコミュニケーションをとれる力は大切です。
価値観の異なる人々はトラブルにも発展しやすく、そうした状況では異なる考え方を受け入れる力が必要となります。
問題解決力
曖昧性のあるVUCAの時代をでは、そもそもの問題や課題を発見し最適な答えを導く力が大変重要になります。
例えば、2020年以降の新型コロナウイルスの感染拡大によって、過去の事例を参照しても答えが出ない問題と向き合うことになりました。既存のビジネスが立ちいかなくなり、自分で課題を解決する方法を探すスキルが求められました。
5.VUCAに対応できる組織づくりのポイント
変動性、不確実性、複雑性、曖昧性が増している中、「いかに変化を起こしていくか」という変革への対応力が求められています。企業や組織が今後どのようにあるべきかを考察してみましょう。4つのポイントを紹介します。
人材マネジメントを刷新する
終身雇用や新卒一括採用といったこれまでの人材マネジメントは通用しなくなりました。VUCA時代では多様な人材を受け入れ尊重し合う組織づくりが必要とされるでしょう。
そのためには、
- 柔軟な人材制度
- 目標設定評価や基準社員
- 社員の再教育
- 自律的なキャリア支援施策
などのタレントマネジメントシステムの導入なども求められます。
ステークホルダーへ積極的に発信と対話を行う
経営陣は「社員」「資本市場」「労働市場」といったステークホルダーに対し、人材戦略を積極的に情報発信することが求められます。
VUCAの時代では、多様な価値観を持つ人材を集めることが重要とされます。それは人材戦略が経営戦略には最重要ということを示しています。経営陣は多用な人材を活用して具体的なアクションを実行することが求められます。
テクノロジーを活用する
データやデジタルテクノロジーを活用し、ビジネスの効率化を図ることが必要とされています。AIやIoTの活用によって事業拡大のスピードを上げていくことやビジネスを効率的に行えることは、社会の変化に素早く対応することにつながります。
VUCA時代の企業にとって、デジタルトランスフォーメーションは取り組むべきテーマでしょう。
アジャイル経営・開発をめざす
予測や準備に時間をかけず、変化に合わせて機敏に方針を軌道修正することです。
アジャイル開発には「事前にすべてを正確に予測し計画することはできない」という考えが前提にあります。従来の開発手法でサイクルを小さく何回も回していく形をとり、柔軟性やスピード感が求められるシステム開発領域のデファクトスタンダードになります。
6.VUCAにおけるリーダーシップのありかた
VUCA時代を生き残る組織を作るためには、データにもとづいて意思決定する、決断力と行動力を発揮するなど新たなリーダーシップやマネジメントを発揮する必要があるとされています。
どのような要素が求められるか詳しく解説していきましょう。
ビジョンを設定する
今まで以上に、組織としてどこに向かっていくべきか、といった明確なビジョンを持つことが必要とされます。
これまでは、
- 企業理念
- ミッション
- ビジョン
- バリュー
が重視されてきました。
しかしVUCA時代は、メンバーが自分の役割を再認識し、イノベーションの創出へとつながるよう具体的なビジョンの設定が重要となるのです。
新しい情報を常に取り入れる
常にアンテナを張り、新たな情報を積極的にインプットすることが必要でしょう。さまざまなニュースを積極的に見聞きし、今の世界情勢を常に把握することが重要です。新しいテクノロジーや経営手法について学ぶことも必須です。
これまで蓄積したノウハウや知識に頼るのではなく、常に新しい情報を取り入れる姿勢が求められます。
データにもとづいて意思決定する
データに基づいて意思決定をすることです。これまでの経営手法のように勘や経験などの要素ではなく、データ活用の重要性に注目されるでしょう。
公平性に欠ける人事評価についてもデータを活用することで、従業員からの納得も得られやすく、配属後のミスマッチも事前に防ぐことができます。最終的には、人が判断します。
決断力と行動力を発揮する
VUCA時代のリーダーに必要なのはこれまで以上に決断力や行動力を発揮することです。VUCA時代は、さらに難しい判断や的確な行動がリーダーに求められるでしょう。
そのため、自分で全て解決しようとせずに、メンバーの力を借りることも必要です。メンバー全員がリーダーシップを発揮できる環境をつくることも、VUCA時代のリーダーには求められます。
メンバーに対して動機付けを行う
メンバーと対等な目線を持ち対話できる能力が求められます。従来のような上司から部下への一方的な指導や教育はVUCA時代には排除されていくでしょう。
メンバーそれぞれの価値観や能力を引き出して活かせる人物こそが、これから求められるリーダーです。メンバーの本音を引き出すためには、上司と部下の1対1の面談も必要でしょう。
7.VUCAの時代に効果的なOODA(ウーダ)ループとは?
VUCAの時代に必要不可欠とされている思考法であるOODAループを、次ぎの4ステップで詳しく解説します。
- Observe(観察)
- Orient(状況判断)
- Decide(意思決定)
- Act(実行)
OODAループが注目される理由
OODAループは観察と状況判断から始まり、迅速な実行を目的としたフレームワークです。従来のPDCAサイクルは、最初に計画することから始まる業務改善などに適したフレームワークですが、計画が機能しないケースがVUCA時代では増えていることが指摘されていました。
そのため、OODAループを基に意思決定を行うのが望ましいと注目されています。
OODAの4ステップ
OODAは4ステップで構成されています。
- 臨機応変にステップを飛ばすことができること
- サイクルを回し終えるまでの時間が短い
というのが特徴です。
Observe(観察)
市場や顧客など外部環境を観察し、データを収集します。急激なビジネスシーンの変化をいち早く気付くためのプロセスです。
Orient(状況判断)
Observe(観察する)によって収集した生データを基に、現状を把握・理解し実行すべき方向性を考えます。これまでの経験やアイデアなども重要です。
Decide(意思決定)
Orient(情勢判断する)プロセスで選んできた手段や方向性を考慮しながら、具体的な方針やアクションプランを決定します。
Act(実行)
これまでのプロセスによって決めてきたプランを基に、実行に移します。目標にたどり着くまで何度もOODAを続けていくことが重要です。
OODA(ウーダ)ループとは? 具体例やPDCAとの違いを簡単に
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