年収にはいくつかの壁があります。その中のひとつ、106万円の壁を中心に、年収の壁について解説しましょう。
目次
1.106万円の壁とは?
106万円の壁とは、厚生年金保険や健康保険といった社会保険への加入が必要となる収入の基準のこと。
106万円の壁は、2016年10月、社会保険の適用範囲が拡大されたことにより生まれました。ただし、106万円の壁が適用されるのには一定の条件があり、その条件を満たした場合にのみ適用されるのです。
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2.106万円の壁となる対象、特徴
106万円の壁は、一定の条件を満たした場合に対象となります。
週20時間以上働いている
1つ目は、1日8時間、1週40時間という法定労働時間の範囲内で会社が自由に定められる週の所定労働時間が20時間以上であるということ。106万円の壁の条件となっている週20時間を算出する際は、残業時間を合算せずに計算します。
1年以上継続して勤務する見込み
2つ目は、1年以上継続して勤務する見込みがあるということ。
1年以上の継続勤務を立証するポイントは、「雇用期間が1年以上」「雇用期間が1年未満である場合、雇用契約書に契約更新の可能性があると記載されている」どちらかです。
1カ月の賃金が8.8万円を超す
3つ目は、1カ月の賃金が8.8万円を超すというもの。1カ月の賃金が8.8万円を超すと、1年の年収が計算上、で106万円以上になります。
ここでいう1カ月の賃金とは所定内賃金で、そこに各種手当や賞与などは含みません。純粋に1カ月に支払われる賃金である点に注意してください。
学生ではない
4つ目は、学生ではないことです。大学生、高等学校や専修学校の生徒などの学生は106万円の壁の対象になりません。ただし、「卒業前に就職して引き続き雇用される予定がある」「休学中」「夜間の大学に通学している」などは、106万円の壁の対象になります。
特定の条件を満たす企業で働いている
5つ目は、「従業員数が501人以上の企業」「従業員数が500人以下であるが、保険加入について労使の合意がある企業」どちらかに該当する企業で就労している場合です。
3.106万円の壁を超えたときのメリット
106万円の壁を超えた場合の主なメリットは、下記のようなものです。
年金の増加
社会保険に加入すれば、将来、手にする厚生年金の金額が増えます。社会保険に加入すると保険料が差し引かれるため、手取りの額面は減ってしまうでしょう。
しかし将来、社会保険料に見合った厚生年金が支給されるのです。それにより老後の生活が安定しやすくなります。
医療保険の増加
社会保険への加入とはつまり、健康保険料を支払って健康保険の被保険者になること。
健康保険の被保険者になると、「業務外の事由による病気や怪我で休業中、一定の要件を満たした場合に傷病手当金」「出産のために休業中の場合に出産手当金」といった給付を受けることができます。
これらは、社会保険に加入していなければ支給されない手当金です。
障害厚生年金の支給
「厚生年金に加入期間中に初診日がある」「障害等級に該当する」などの条件を満たした場合には、月最低49,000円の障害厚生年金が支給されます。また、障害等級に該当しない場合でも支給される場合があるのです。
これは、障害基礎年金にはない保障制度で、障害以外にも遺族厚生年金制度があり、万が一のときにも手厚い保障が受けられます。
4.106万円の壁のデメリット
106万円の壁を超えた場合、どのようなデメリットがあるのでしょう。ここでは、デメリットについて解説します。
手取り額は減ってしまう
106万円の壁に該当すると、世帯主の扶養から外れ、自分自身で厚生年金と健康保険の社会保険に加入します。社会保険料の半分は会社が負担してくれますが、残りの半分は自らの給与の中から支払うため、手取り金額が減少してしまいます。
5.年収の壁の種類
配偶者がパートやアルバイトで働いている場合、いくつかの年収の壁が立ちはだかるのです。その内容について解説しましょう。
年収100万円の壁
年収100万円は、住民税の支払い義務が発生するラインとされています。住民税額は、各自治体によって違いがあり、一概に年収100万円と言い切ることはできません。しかし年収がおおむね93万円から100万円を超えた場合に、住民税の支払い義務が生じるのです。
他の年収の壁と比較して住民税の徴収額が少ないためクローズアップされませんが、100万円を超えた場合、住民税の納税通知書が手元に届きます。
年収103万円の壁
年収103万円を超えると、所得税の支払い義務が生じるのです。所得税額は、103万円を超えた部分の収入に対して課税されるため、金額はそれほど大きくなりません。
しかし、以前は103万円が扶養手当がなくなるラインとされていました。扶養手当の要件によっては、103万円を意識した働き方が必要です。103万円の壁は、住民税や所得税の支払い義務が発生すると理解しましょう。
年収130万円の壁
年収130万円を超えると、現行、扶養から外れるのです。それはつまり、住民税や所得税、社会保険や国民年金、国民健康保険などの保険料を自ら支払う義務が生じることを意味します。
また、「勤務先の社会保険に加入する場合、保険料を会社と折半して支払う」「社会保険がない場合、国民年金と国民健康保険に加入して保険料を支払う」ことになるのです。
年収150万円の壁
年収150万円を超えると、配偶者特別控除が減り始めるのです。
- 年収150万円までであれば、世帯主は配偶者特別控除について満額の38万円で受けることができる
- 年収150万円を超えると、段階的に配偶者特別控除の控除額が減額されていく
年収200万円に近くなれば控除額も少なくなるため、それ以降は配偶者特別控除について考える必要はなくなります。
6.106万円の壁についての考え方
「106万円の壁についてどのように考えていけばよいのか」、その考え方を解説します。
試算
106万円の壁について、まず必要なのは「試算」。106万円を超えた、超えない、両方を試算するとどのような結果になるのか分かります。その際、税理士やファイナンシャルプランナーなどの専門家に相談して、正確に試算してもらうことをお勧めします。
手取り額と社会保険の調整
次は、「手取り額と社会保険」です。
- 社会保険料の支払いで手取りが減る場合、どのように調整するのか
- 社会保険への加入で、将来どのような保障を得られるのか
現在の収入だけでなく、万が一のことが起きた場合の将来の保障についても、考えを巡らせましょう。
最も損をするケース
最後は、「最も損をする場合を見つける」こと。
年収が106万円を超えて130万円以上になった場合、勤務先企業によっては、「扶養から外れる」「社会保険への加入が義務付けられる」場合も。その際は、「実際にどの程度損をするのか」「最も損をするのはいくらの年収か」などを見つけ出しましょう。