公益通報者保護法とは? 保護の内容、改定内容、対応、効果

公益通報者保護法とは、公益通報した人を保護する法律です。保護や改定の内容、対応や効果、内部通報制度の導入や注意点などについて詳しく解説します。

1.公益通報者保護法とは?

公益通報者保護法とは、公益通報した通報者を保護する法律のことで、2006年4月1日に施行されました。公益通報に該当しない場合でも、次に示す3点から通報者保護を行えます。

  • 内部通報を行った結果、不当な取扱いを受けないと明確に定める
  • 内部通報の受け付け者、調査実施者に厳正な秘密保持を義務づける
  • 内部通報の受け付け手段や各種記録類の取り扱い、保管方法などについて、機密保持を考慮した設備と運用方法を整備する

内部通報制度とは?

社内の不正行為を発見した社員からの報告について、上司を通じたルートとは異なる報告ルートを設ける制度のこと。上司自身が不正に関与していた場合、このルートは機能しません。そのため内部通報窓口を通じた報告ルートが必要なのです。

保護の内容

公益通報したことを理由にする解雇は無効です。また事業者が公益通報者に対して不利益な取り扱いをするのは禁止されています。たとえば解雇や降格、減給や訓告、自宅待機命令などです。

通報者が派遣社員の場合、派遣契約の解除や派遣社員の交替は求められません。

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2.公益通報者保護法における公益通報とは?

公益通報とは、社員が企業内の通報窓口や外部の機関に通報すること。通報者は企業から不利益な取り扱いを受けるおそれがあります。

通報者

通報の主体は、正社員や派遣社員、アルバイトやパートタイマー、公務員など。労働基準法(第9条)では、「職業の種類を問わず、事業または事務所に使用される者で賃金を支払われる者」と労働者を示しています。

通報時に注意すべき点

通報者が注意すべき点は以下のとおりです。

  • 通報を手段として金品をゆするといった不正の利益を得る目的でない
  • 会社や社員の信頼や権威を失わせる不正の目的でない

また公益通報には第三者の個人情報や営業の秘密に関する情報が含まれる場合もあるため、他人の正当な利益または公共の利益を害しないよう気をつけなくてはいけません。

通報内容(通報対象事実)

通報の内容は、勤務先の事業者や派遣先の事業者、取引先の事業者などの労務提供先について、法令違反が生まれたまたは今まさに生じようとしている内容です。対象となる法令の例には、下記のようなものがあります。

  • 刑法
  • 金融商品取引法
  • 不当景品類および不当表示防止法
  • 大気汚染防止法
  • 廃棄物処理法
  • 個人情報保護法
  • 労働基準法
  • 不正アクセス行為の禁止等に関する法律

これら法令に違反する犯罪行為、または最終的に刑罰につながる行為が通報対象事実です。

通報に適する行為

通報に適する行為の3つの事例を紹介します。

  1. パワハラ…日頃から部下に対して暴言を繰り返していた上司を部下の1人が通報して発覚
  2. セクハラ…女性派遣社員が男性社員から執拗に食事や酒席に誘われて迷惑していると通報
  3. 出張経費の着服…出張の際、正規料金での航空券代を請求しつつ、ネットで安い航空券を購入して出張していた

通報に適さない行為

通報に適さない行為は次のとおりです。

  • 誹謗中傷…「単なる噂話や他人を誹謗中傷するような通報は受け付けられません」といったルールを設けている会社もある
  • 悩みや不安…業務上の悩みや不安を相談窓口に訴える社員が増えている
  • 社内ルールへの疑問…社内ルールが非効率・不適切といった内容は、社内の業務担当部署や専用窓口に相談する

通報先

通報先は自分の都合で選べます。主な通報先は次の3つです。

  1. 企業内部…事業者内の窓口や担当者、事業者が契約する法律事務所のほか管理職や上司など
  2. 行政機関…通報された事実について、勧告、命令できる行政機関
  3. そのほか外部の機関…報道機関や消費者団体、労働組合など。完全匿名ヘルプラインを含め、外部の通報窓口の設置も通報先になる

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3.公益通報者保護法の改正

2020年6月「公益通報者保護法の一部を改正する法律」が公布されました。2022年の6月までに施行される予定です。

改正の背景

内部通報者に対して、

  • 不利益な取扱いが行われた
  • 制度の信頼性を害する事例が発生した
  • 公益通報者保護制度の実効性の向上が課題となっていた

などが改正の背景です。

また法の適用範囲が狭く、

  • 保護対象となる要件が厳しすぎる
  • 保護対象となった通報について、民事裁判を通じた解決しか望めない
  • 民事的な効果だけでは不利益取り扱いを抑止するために不十分

という問題がありました。

改定内容の概要

改定内容を4つのポイントから説明します。

  1. 通報しやすい体制の整備
  2. 通報者保護要件の緩和
  3. 通報者の範囲拡大
  4. 違反に対する罰則

①通報しやすい体制の整備

社員300人超の事業者には、内部通報に対応するための体制整備や内部通報窓口の設置、通報後の調査や是正措置を行う担当者を置くことが義務づけられているのです。義務違反の事業者には官庁による指導や勧告、公表といった行政措置があります。

必要な体制整備の具体的内容については今後、指針が定められるとのことです。社員数300人以下の事業者には努力義務が課されます。

②通報者保護要件の緩和

行政機関への告発要件が緩和されました。氏名と公益通報内容を記載した書面を提出するのみで、法の保護対象になるのです。提出方法は、書面に電子的方法による記録が含まれるため、メールによる通報も許容されます。

通報者が証拠資料を用意する必要がなくなった点で、行政へ告発するハードルがかなり下がったといえるでしょう。

③通報者の範囲拡大

退職後1年以内の退職者と役員も公益通報者に含まれます。ただし役員による公益通報のうち外部への通報は、社員による外部への通報と異なります。原則、通報前に調査是正措置を取る努力が求められているのです。

改正前より退職者からの通報は、社員に次いで件数が多いとの実態調査がありました。

④違反に対する罰則

現行法は基本、事業者の行為を制約する規定が中心となっています。改正法では措置義務を定めるといった事業者の積極的な関与が求められ、違反に対する行政処分や刑事罰、行政罰などが定められているのです。

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4.公益通報者保護法に対する企業の対応

公益通報者保護法に対する企業の対応として、通報に関する秘密保持の徹底や通報窓口の整備などがあります。

  1. 公益通報者対応業務従事者の選定(義務)
  2. 匿名通報の受付
  3. 調査体制の整備
  4. 内部通報制度認証の取得

①公益通報者対応業務従事者の選定(義務)

公益通報対応業務従事者とは通報受付や事実関係の調査、是正措置などの業務を担当する者のこと。誰またはどの部署が通報受付業務を行うのかを決定し、規程などに明記する必要があるのです。

その際、独立性が高く、かつ利用者が使いやすいルートを検討しなくてはなりません。通報対応業務全般に関して物理的に隔離された部屋で行われている必要があります。

守秘義務

改正法では、公益通報対応業務従事者または公益通報対応業務従事者であった者に対し、「公益通報対応業務に関して知り得た公益通報者が特定される情報を、正当な理由なく漏らしてはならない」との守秘義務を課したうえで、違反者への刑事罰を定めました。

正当な理由とは、「法令にもとづく」「通報者から同意を得られている」場合などです。

②匿名通報の受付

実名にもとづく通報と同様の対応を行うのは難しいとされています。しかし匿名の通報でも、法令遵守のために有益な通報が寄せられる場合も考えられるでしょう。そのため法令遵守の観点から見た対応が望ましいといえます。

③調査体制の整備

事業者が書面や電子メールなどの方法により内部通報を受けた場合、それが公益通報の対象となる事実である限り、事実関係の調査結果や是正措置などの状況について通報者に通知するよう努めることが定められています。

また事業者は、公益通報者への不利益な取り扱いをしてはならないことはもちろん、通報者の匿名性の確保が義務付けられています。

④内部通報制度認証の取得

自己適合宣言登録制度や第三者認証制度にて企業の内部通報制度を評価し、公的認証を付与する制度のこと。

「内部通報に対してオープンな企業体制をアピールする」「消費者からの信頼確保など企業価値の向上に効果がある」「実際に通報する際の心理的ハードルを下げる」などが期待できます。

自己適合宣言登録制度

認証基準は、「公益通報者保護法を踏まえた内部通報制度の整備・運用に関する民間事業者向けガイドライン」にもとづき作成されたものです。認証基準は、内部通報制度のPDCAサイクルを示したもので、審査項目は38項目にのぼります。

第三者認証制度

第三者認証は、ISO9001や同14001などマネジメントシステムの国際規格と同様、申請企業が認定された認証機関による審査で適合の確認を受けて認証を取得する方式です。現時点では、明確な開示時期と審査基準の詳細ともに未定となっています。

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5.企業における公益通報者保護法の効果

企業における公益通報者保護法の効果は、違法行為の抑止や企業価値の向上があります。それぞれ詳しく解説しましょう。

違法行為の抑止

組織内の一部関係者のみが情報を持っているような違法行為は発見しにくいもの。しかしそうした行為に疑問を持つ関係者からの通報により、発覚するのです。問題が大きくなる前に発見・解決できれば、組織の自浄作用を高められるでしょう。

企業価値の向上

公益通報できる窓口を作り、不正が発見されやすい環境を作ると、企業イメージの低下や消費者や取引先からの不信といったリスクを防げます。イメージを向上させれば、企業価値も向上するでしょう。

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6.内部通報制度の導入手順

内部通報制度を整備・運用している企業は、不正の未然防止や早期発見が可能となります。では公益内部通報制度はどのように導入すればよいのでしょう。手順を説明します。

  1. 内部通報制度の設計
  2. 内部通報制度運用規程の作成
  3. 社内規定への明記
  4. 社員への周知

①内部通報制度の設計

次のような項目を整備し、組織になった制度を設計します。

  • 受け付ける内容(通報や相談)
  • 通報対象者(社員や派遣社員、社員の家族や退職者、消費者)
  • 内部通報窓口(社内担当部署や社外)
  • 受付時の匿名性
  • 匿名性の確保(社外窓口担当者以外は匿名扱い、委員会でも匿名扱い)
  • 受付手段(電話や郵送、メールや面談)

②内部通報制度運用規程の作成

通報の秘密保持や通報者の不利益取り扱いの禁止、通報があった場合の対応などを定める必要があります。内部通報制度運用規程については過去、消費者庁からさまざまな規程の例が公表されているので、参考にするのもよいでしょう。

③社内規定への明記

内部通報制度は、社内規程に明記し全社員に告知します。内部通報窓口の連絡先や通報方法、通報後の調査や調査結果の報告など通報に関する対応方法を定めるのです。

通報者に対して通報を理由とする不利益な取り扱いをしない内容も明記します。事業者が通報者の心理的ハードルを下げることが大切です。

④社員への周知

内部通報制度を十分に機能させるためにも制度の存在や内容、利用方法などを社員に周知させましょう。

その際欠かせないのが、「制度に対する姿勢を周知するのは経営陣」という点。制度を周知する方法として挙げられるのは、社内報といった文書やイントラネットによる伝達、携帯カードの配付や社員研修などです。

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7.内部通報制度の運用における注意点

内部通報制度を運用する際、何に注意すればよいのでしょうか。それぞれについて解説します。

  1. 経営層が積極的に取り組む
  2. 安心して通報できる仕組みを作る
  3. 定期的に制度を見直す
  4. 通報者への聞き取りは慎重に

①経営層が積極的に取り組む

通報案件個々の重要性や状況を積極的に把握するという経営層の意識が重要です。経営層が積極的でなければ、担当者の意識も薄れ、対応もおろそかになるでしょう。

運用を円滑に進めるため人員数を確保し、通報者へのケアを行うといった組織全体で取り組む姿勢が必要となります。制度導入時は興味を示していた経営陣が後々、社員に任せきりになるのも制度衰退への一因です。

②安心して通報できる仕組み作り

社員が安心して通報できるような仕組み作りには「匿名性の確保」や「秘密保持の徹底」が必要です。しかし社内に内部通報窓口を設けている場合、社員はなかなか信用できないもの。

その場合、弁護士といった外部機関を窓口に設置しましょう。社員は安心して不正を通報できます。

③定期的に制度を見直す

窓口担当者に、通報内容について聴取する力や調査能力ならびに調査した事実を評価して認定する力がないため、不正を解明できないケースもあるのです。

その場合、社員間に不満の声が出始め、制度の重要性が周知されなくなります。担当者の調査能力や調査方法をつねに点検しましょう。

④通報者への聞き取りは慎重に

担当者の不用意な発言は通報者の反感を買います。「内部通報したためにすでに不利益が発生している」と訴えている通報者には、特に十分な時間を取って事情を聞く必要があるのです。

また通報者には個人的な不満や、疑わしい内容の場合もあります。通報の動機を確認する際は慎重に耳を傾け、心情を害するような質問は控えましょう。