ワークシェアリングとは?【意味をわかりやすく】メリデメ

働き方改革で労働者の働き方がクローズアップされる中、「仕事の分かち合い」を意味するワークシェアリングという言葉をよく耳にするようになってきました。

  • ワークシェアリングとは何か
  • ワークシェアリングが注目を集めた背景
  • ワークシェアリングのメリットやデメリット
  • ワークシェアリングの種類や事例

などについて解説していきます。

1.ワークシェアリングとは?

ワークシェアリングとは、労働者同士で雇用を分け合うという意味の言葉です。「一人ひとりの労働者が自分の働く時間を短くする」「労働者の総人数を増加させる」「今まで以上に多くの労働者を雇用する」といった試みがあるのです。

端的に「仕事の分かち合い」と訳されることも。目的は、社会全体の雇用者数増加です。

言葉の意味

ワークシェアリングという言葉の意味を簡単にまとめます。

ワークの意味

ワークシェアリングの「ワーク」という単語は、作業や仕事、研究といった意味を持ちます。

シェアリングの意味

ワークシェアリングの「シェアリング」という単語は、分け合う、共有するといった意味を持ちます。

ワークシェアリングは、各労働者の労働時間を短くして、社会全体の雇用者数を増やすことを意味しています

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2.ワークシェアリングが注目される背景

欧州で失業者が急増したことを機に、ワークシェアリングが注目を集めました。このとき、失業対策の中の雇用を創出する手段のひとつとして、ワークシェアリングが導入されたのです。

日本でも、「経済市況の悪化によって失業率が高くなった」「過重労働による過労死が社会問題化した」といった背景があり、1人当たりの労働時間を短縮させるワークシェアリングに注目が集まり始めました。

現在、官民を挙げてITを活用しながらワークシェアリングを効果的に進める動きが進んでいます。

ワークシェアリングは、

  • 経済市況の悪化による高い失業率
  • 過重労働による過労死

といったことから注目を集めています

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3.ワークシェアリングのメリット

ワークシェアリングの実施によって得られるメリットを、企業側と労働者側の双方から解説します。

企業側のメリット

まず、ワークシェアリングの実施によって企業が得られるメリットです。

コストカット

労働者は、労働時間の短縮により、自分の仕事量がセーブされる場合も。それにより、一つひとつの仕事に余裕を持って取り組むことができるでしょう。また、「新しい発想を生み出す」「業務の無駄が減り、業務が効率化するといった好循環を生み出します。

さらに従来なら深夜残業や休日出勤までして取り組んできた仕事も、ワークシェアリングによってスリム化されるため、人件費や光熱費などのコストカットにつながっていくのです。

迅速な対応

ワークシェアリングの特徴は、「人員を削減しない」「雇用数を確保する」「業務を多くの労働者でシェアする」ということ。

仮に市場が活況となり急に人員が必要になった場合でも、ワークシェアリングを実施していれば個々の労働者は余裕を持った働き方をしています。そのため、追加の業務や新規の業務に対して、迅速に人材を配置できるのです。

従業員満足度の向上

ワークシェアリングを行うと、「市況が悪化した場合には大勢の労働者の雇用が保障されなくなるのではないか」といった心配もあるでしょう。しかし、あくまで現在ある仕事を基準に業務をシェアするため、雇用そのものは維持されます。

リストラといった最悪の事態は避けられることから、労働者の企業に対する信頼は向上します。その結果、従業員満足度も向上するのです。

イメージアップ

企業イメージの向上は企業価値そのものの向上にも貢献するため、多くの企業はイメージアップに向けて積極的な戦略を行っています。

ワークシェアリングの実施で、「多くの労働者を雇用している企業」「リストラなど人員削減を行わない企業」「一人ひとりが余裕を持って仕事ができる企業」といった点が評価されれば、結果として企業のイメージもアップするでしょう。

従業員側のメリット

続いて、ワークシェアリングの実施によって従業員が得られるメリットです。

働くことができる

求職者であれば、ワークシェアリングによって生じた新しい仕事に就くことができますし、今現在雇用されている人は、労働時間を短縮されるものの、雇用は維持されるため働き続けることができるのです。

今現在雇用されている労働者、新しく雇用される労働者の双方が働く場所を確保できることは、従業員側にとって大きなメリットでしょう。

ワークライフバランス

労働者は、「ワークシェアリングの実施により労働時間が短縮」し、「できた時間を自分のためや家族のために活用できる」ため、好循環が生まれます。

介護や育児、自己啓発やリフレッシュなどさまざまな目的に使用できれば、ワークライフバランスにもつながるでしょう。

企業がワークシェアリングを導入することによって、企業側・従業員側の双方にさまざまなメリットがあります

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4.ワークシェアリングのデメリット、問題点

ワークシェアリングには、メリットだけでなくデメリットもあります。

企業側のデメリット

まず、ワークシェアリングの実施によって企業が抱えてしまうデメリットです。

制度の見直し

制度を大幅に見直す必要が生じます。ワークシェアリングを実施しようとした場合、単に労働時間の短縮、新規雇用者の採用だけを実施すればよいわけではありません。

たとえば、短時間勤務制度や格差是正の制度の創設といった、各種制度の見直しなどが必要になるのです。いくつもの制度を労働者にとって公平なものに整備し直すことは、企業にとって大きな負担になるでしょう。

給与計算の手間

給与計算は、制度や雇用者数によって、計算方法が大きく変わる可能性があります。給与計算は、従業員にとっても生活の基盤に関わる重要な作業ですので、期限を守って正確に処理をしなくてはなりません。

「給与計算の方法が変更される」「労働者が増えるため、給与計算のボリューム自体が増える」などにより、給与計算が従来以上に手間がかかる作業になることは、企業にとってもデメリットでしょう。

一部コストの増加

たとえば、雇用する労働者数が増えると、企業の社会保険料の負担金が増えます。また労働者の増加に応じて、福利厚生や教育などの費用が増える可能性もあるでしょう。

雇用者の増加と比例して、企業が負担する一部のコストが増加することは、経営面から考えた場合、企業側にとって大きなデメリットとなります。

従業員側のデメリット

続いて、ワークシェアリングの実施によって従業員が抱えるデメリットです。

給与ダウン

ワークシェアリングとは、一人ひとりの労働者の労働時間を短くして雇用を分かち合うこと。つまり一人ひとりの労働時間が短くなるため、労働時間に応じて支払われる基本給も下がります。給与は生活の基盤ですから、従業員にとってはデメリットになるでしょう。

ただし、1時間当たりの給与が増加する場合、逆に給与が増加する場合もあるようです。

格差が生じる

ワークシェアリングの対象になる労働形態・対象にならない労働形態がある場合、ワークシェアリングの対象労働者だけが労働時間が短縮されるため、両者に賃金格差が生じてしまいます。

同一労働同一賃金が叫ばれていても、労働時間で賃金が決定してしまう現状は、従業員にとってデメリットとなるでしょう。

ワークシェアリングを実施する際は、企業側・従業員側共にデメリットを把握し、対策を講じましょう

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5.ワークシェアリングの種類、分類、タイプ

ワークシェアリングには、4つの種類があります。ここでは、それぞれの種類について説明していきます。

  1. 雇用維持型(緊急避難型)
  2. 雇用維持型(中高年対策型)
  3. 雇用創出型
  4. 多様就業促進型

①雇用維持型(緊急避難型)

雇用維持型(緊急避難型)とは、企業の業績が悪化してしまった際、今現在雇用している労働者を解雇することなく、その雇用を維持するために行うワークシェアリングのこと。

業績が悪化した企業の内部では、人材の流出といった大きな問題に直面しがちです。そのため、「雇用を維持する」「貴重な経営資源のひとつであるヒトの流出を防ぐ」「経営の立て直しをスムーズに行う」などを目的としてワークシェアリングが行われるのです。

②雇用維持型(中高年対策型)

もうひとつの雇用維持型である雇用維持型(中高年対策型)は、「中高年層の労働時間を短縮する」「中高年層の雇用を増やす」ことを目的とするワークシェアリングです。

ここでいう中高年層は、定年以上の年齢層をイメージしてください。雇用維持型のワークシェアリングでは、短時間勤務や少ない勤務日数といった条件で定年を超えた労働者を多く雇用して、より多くの中高年層に活躍の場を提供します。

③雇用創出型

雇用創出型とは、一人でも多くの労働者を雇用できるよう、すでに雇用されている労働者1人当たりの労働時間を短くし、その分の業務を新規採用者に振り分けるワークシェアリングです。

雇用創出型では、新規で人材が採用されます。求人倍率が低い、なかなか仕事が見つからないといった際の人材雇用の創出に活用されており、失業者を減らすことに特化した形といえるでしょう。

④多様就業促進型

多様就業促進型とは、働き方改革の流れを汲んだもので、さまざまな働き方を実現するために活用されるワークシェアリングのこと。育児と仕事、介護と仕事などを両立させようとした場合、フルタイムではなく短時間労働を希望する声が多く上がります。

多様就業促進型では、「ワークシェアリングで労働時間を調整する」「多様な働き方を企業や社会で受け止める」ことを目的として業務の分かち合いを行っており、ワークライフバランスに一石を投じているのです。

ワークシェアリングには、「雇用維持型(緊急避難型)」「雇用維持型(中高年対策型)」「雇用創出型」「多様就業促進型」の4種類があります

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6.ワークシェアリングの事例

ワークシェアリングの事例を4つご紹介します。ワークシェアリングを実施する際の参考にしてみてください。

トヨタ

2009年、アメリカにあるトヨタの6つの工場で生産ラインに就く約1万2,000人を対象として、労働時間と賃金共に1割ずつ削減するワークシェアリングが実施されました。目的は、「急激な業績悪化」「雇用の維持」に対応するためです。

  • 賞与の一部削減
  • 幹部社員と間接部門の賞与無支給
  • 賃上げの見送り
  • 幹部社員の給与5%カット
  • 早期退職者の募集

ジム・ワイズマン副社長は「生産調整を進めつつ、雇用を守りたい」と回答しています。

オランダ

オランダでは、1982年に政労使で締結された「ワッセナー合意」に基づいてワークシェアリングが推進されました。

オランダでは、短時間の雇用を生み出す雇用創出型が中心となっており、

  • 労働組合が賃金抑制に協力
  • 企業は雇用確保や時短に対して努力する
  • 政府は実質雇用者所得の減少を緩和するための減税などを実施

などによって失業率が、1983年時11.9%だったものが2001年には2.7%と大幅に改善されました。

ドイツ

ドイツでは、1980年代頃からワークシェアリングがスタートしています。当初は、金属産業や自動車メーカーなどの業績悪化に対する緊急避難策が中心で、時短勤務による失業者の削減が試みられました。

近年では、パートタイム労働者や有期労働契約者の雇用拡大によってパートタイム労働および有期労働契約法などの法律の整備も行われています。

その中には、「同一労働同一賃金の明記」「パートタイム労働者とフルタイム労働者との容易な相互転換」なども盛り込まれているのです。

フランス

フランスでは法成立によって、政府主導による労働時間の短縮などが実施されました。

  • 1998年6月労働時間短縮に関する指導・奨励法(通称:オブリ法)・第一次法
  • 2000年1月オブリ法・第二次法

これら法律の主な特徴は下記の通りです。

  • 法定労働時間を週35時間とする
  • 早期実施に対するインセンティブとして企業に社会保障負担の時限的な軽減措置を実施
  • 時短の具体的実施方法等を労使間に委ねる

ワークシェアリングは、アメリカ(トヨタ)・オランダ・ドイツ・フランスなど、世界の主要各国で実施されてきました