会議中、堅苦しさから眠気を覚える人はいませんか?実はワールドカフェと呼ばれる手法を使えば、そうした眠気を避け、さらに会議の内容も充実したものになるのです。一体ワールドカフェとはどんなものなのでしょうか?
- ワールドカフェの誕生
- 意義
- 語源
- 効果
- ワールドカフェのやり方
について解説します。実際にワールドカフェを取り入れている企業の実例なども紹介しますので、参考にしてみてください。
目次
1.ワールドカフェとは(概要・意味・語源など)
ワールドカフェ、と聞くと和やかで楽しげ、といった雰囲気が感じられるでしょう。ワールドカフェとは、お茶を飲んでくつろいでいるような雰囲気で会議をすることです。
ワールドカフェは1995年、アメリカで開発されました。くつろぎながら会議をする、というワールドカフェ。その言葉にはどういった意味が込められているのでしょう。語源や意味などについて解説します。
ワールドカフェの定義
ワールドカフェの定義は、カフェでくつろいでいるようなリラックスした雰囲気のもと行われる会議のことです。
参加者は4~5人ずつに分かれ、テーブルごとに対話をするといったもので、1,000人以上でも実施できます。一定時間が過ぎれば、テーブルのメンバーを入れ替え、対話することを繰り返し行います。
少人数で対話をすることで、相手の意見を聞きやすく、自分の意見も言いやすいのが特徴です。
歴史(発祥)
ワールドカフェはいつどのようにできたのでしょう。 始まりは、1995年、知識資本とナレッジ・マネジメントの分野が揺籃期(ようらんき)であった頃で、アニータ・ブラウンとデイビッド・アイザックスによって始められました。
二人は、サンフランシスコ郊外にある自宅のリビングルームで、「知識資本のパイオニア」というテーマの会議を開催していたのですが、2日目に激しい雨が降ってきたため、中庭で行う会議を室内に変更したのです。
しかし、中庭に出られなくなったことで、その日のアジェンダの進行に合った雰囲気づくりに悩んでしまいました。
そこでアイザックスが「カフェテーブルをリビングに並べ、全員が来るまでコーヒーでも飲んでもらおう」と提案。これをきっかけにして、集まってきた人たちが、カフェを想定してテーブルクロスや花を飾り、楽しい雰囲気の中で自然とテーマに沿った話し合いが始まったのです。
話は1つのテーブルにとどまらず、他のテーブルでの話も興味が広がり、それぞれがアイデアを出し合い、さまざまな意見が出ました。これが、ワールドカフェの始まりとなったのです。
ワールドカフェの意義と効果
ワールドカフェにはどんな効果があるのでしょう。
- カフェでお茶をしているようなリラックスした雰囲気の中、テーマに沿った対話ができるため、さまざまなアイデアや意見を出しやすい
- 気持ちにゆとりを持って話し合いができる
- 相手の意見に自然と耳を傾けられる
- 自分の意見も尊重される
- 一体感を持った対話ができる
- メンバーの組み合わせを変えながら4~5人単位の小グループで話し合いを続けることで、あたかも参加者全員で話し合っているような効果を得られる
2.ワールドカフェの「カフェ的会話」とは?
ワールドカフェの発案者であるアニータ・ブラウン、デイビッド・アイザックスは、共著による『ワールド・カフェ~カフェ的会話が未来を創る~』をリリースしています。
ここから、多くの新しい洞察が生まれるワールドカフェの特徴を把握していきましょう。対話と会話の違いや、対話の必要性などについて、二人の書いた本をもとに解説します。
ワールドカフェで発見された対話(ダイアローグ)
アニータ・ブラウン、デイビッド・アイザックスは、知的資本経営に関するリーダーを自宅に招いた話し合いの場にて、ある工夫を凝らしました。それはゲストがリラックスしてオープンに話し合える空間づくりです。
テーブルクロス、花など小道具を使って演出した結果、見事カフェでくつろいでいるような雰囲気となりました。そして自然と対話が始まったのです。そこでは、さまざまなアイデアが飛び出し創造性に富んだダイアローグを行うことができました。
「対話」と「会話」の違い
「会話」は日常的に行われるコミュニケーションの一つで、
- 信頼を築く
- 仲良くなる
などにおいて大切なものです。情報交換や挨拶といった形で成されます。
一方の「対話」は会話の中で出てくる言葉や情報において、
- どのような考え方を持っているか
- どういった感情があるか
など言葉の意味や価値観を伝え合う・交換し合うことです。
「対話」と「議論」の違い
前述した通り「対話」は、会話の中で出てくる言葉や情報において、言葉の意味や価値観を伝え合う・交換し合うこと。
対して「議論」は、結論を出すことを目的に、お互いに自分の意見や価値観を言い合い、意見を戦わせることです。議論の多くは時間制限があり、その中で結論を出さなければなりません。
それを認識した上で、意見を戦わせるのです。議論の最中に新しいアイデアが生まれることもあります。
対話の必要性
- 会話 情報交換をしながら信頼性を高める
- 対話 言葉の中にある価値観を交換する
- 議論 最終的に結論を出す
3つの関係性を見ると、「議論」は「会話」と「対話」がなければ成り立たないものといえます。特に対話は重要でしょう。より深い意見交換となる議論を行うには、お互いの意見に対する価値観を確認できる「対話」が必要なのです。
3.ワールドカフェの進め方とは?(形式・手法)
ワールドカフェには「ワールドカフェのやり方」などのマニュアルがあるわけではなく、特に方法は決まっていません。しかし、効果や意義を踏まえて行わなければ、ワールドカフェをやる意味がありません。
ワールドカフェの標準となる方法や流れについて解説しましょう。
標準的なワールドカフェのやり方
ワールドカフェの標準的な流れは以下の通りです。
- 第一ラウンド(テーマについて探求)
- 第二ラウンド(アイデアをやりとり)
- 第三ラウンド(気付きや発見を統合)
- 全体セッション(集合的な発見を収穫し、共有)
①第一ラウンド(テーマについて探求)
第一ラウンドでは4~5名の少人数グループに分かれます。少人数にすることで、自分の意見を言いやすく、相手の意見を聞きやすい雰囲気づくりができるのです。
テーブルに模造紙とペンを用意し、発表された1つのテーマについて、模造紙に自由にメモをしながら話し合います。
②第二ラウンド(アイデアをやりとり)
第二ラウンドでは自由に他のテーブルに移動します。その際テーブルには、テーブルホストとなった人だけが残り、他のメンバーは第一ラウンドとかぶらないよう他のテーブルに移動するのです。
それぞれのテーブルに残ったテーブルホストは、新しいメンバーを迎えて簡単な自己紹介をした後、そのテーブルで話し合われた内容を説明し、その後同じテーマについて話し合いを続けます。
③第三ラウンド(気付きや発見を統合)
第三ラウンドでは、他のテーブルに散ったメンバーが最初のテーブルに戻り、移動先で話し合った内容や得た情報などとともに、さまざまな意見やアイデアを出し合います。
④全体セッション(集合的な発見を収穫し、共有)
第三ラウンドが終わった後の全体セッションでは参加者全体での話し合いの場をつくり、それまでに出てきたアイデアや意見を全員で共有します。くつろいだ雰囲気の中、さまざまなアイデアや意見に出会うことができます。
ラウンド数や時間、人数に決まりはない
話し合いをするテーマは1つとは限らず、2つでも3つでもいいのです。ラウンド数も4ラウンドと決まっているわけではありません。少ない場合もあれば多い場合もあります。
ラウンドの途中で参加者の感想を聞くこともありますし、終わった後にテーブルの模造紙に書かれたメモを見て回ったりする時間を設けることもあります。
時間も特に決まっているわけではありません。場の雰囲気や進行状況を見て、ファシリテーター(司会進行役)がその場で変更してよいのです。
ワールドカフェの特徴:テーブル
ユニークな特徴として、テーブルがあります。
- テーブルクロスや花で雰囲気づくり
- ドリンクやスイーツでリラックス
- 模造紙やペンでメモ
模造紙の役割
模造紙は、思いついたことをメモするものです。テーブルホストはそれを使って、次のメンバーに前メンバーとの話し合いの内容を説明できるでしょう。議事録のような役割ともいえます。
また、どういった経緯でそのようなアイデアが出たか、どういった話し合いが行われたか、などの足跡にもなります。図やイラストもあれば、より分かりやすくなるでしょう。
トーキングオブジェクトの役割
トーキングオブジェクトもワールドカフェの特徴の一つです。模造紙の上にはトーキングオブジェクトと呼ばれるものが各テーブルに1つずつ置かれているのです。
トーキングオブジェクトとは、「話をする人が手に持つアイテム」のこと。
- 棒
- 石
- ペン
- ボール
など、テーブルの上で手渡せるものを置きます。
意見を言うとき、話す人がトーキングオブジェクトを持って話を始めます。話が終わったらトーキングオブジェクトをテーブルの中央、元の場所に置きます。
話したいときに、トーキングオブジェクトを取って話を始めるという決まり事により、話し手と聞き手それぞれが自分の役割を意識できます。自分の話を周りは聞いてくれている、ことを実感できるのです。
席替えの効果
常に少人数で話し合いをするにもかかわらず、話し合いが終わった後は、参加者全員と話をしたような感覚になります。これが席替えの効果です。
席替えによって訪れる新しいメンバーは、自分の意見やアイデアとともに前テーブルの意見やアイデアをもたらします。これが繰り返されるため、何十人分の意見やアイデアを認識できるのです。
席替えの手順
各テーブルをそれぞれ「A、B、C、D」とし、そこに座る人をそれぞれ「A1、A2、A3、A4、B1、B2、B3、B4、C1、C2、C3、C4、D1、D2、D3、D4」としましょう。
1ラウンドが終わり2ラウンドになると、テーブルホストを残し、他の3人はそれぞれ別のテーブルに移動します。残ったテーブルホストのところには、新しい3人のメンバーが他のテーブルで行った話し合いの内容を持って訪れます。
たとえば、A1が交流した人は、A2、A3、A4、B1、C1、D1となりますが、間接的には、B2、B3、B4、C2、C3、C4、D2、D3、D4の情報を得ることができるのです。さらに最終ラウンドのA2、A3、A4は、A1の間接的情報であるB2、B3、B4、C2、C3、C4、D2、D3、D4と交流できます。
4.ワールドカフェの事例(企業・自治体)
函館市の例
函館市では新たな総合計画の策定に係るキックオフイベントとして、「市職員ワールドカフェ」を開催し、函館市の未来を話し合いました。
若手職員が中心となり出席者は28名。模造紙の中央には「未来の函館」と書かれ、その文字を中心にカラフルなペンでさまざまな言葉や文章が書かれています。
テーマは函館の特徴(良いところ、悪いところ)、理想の函館の未来像、将来の函館のために私たちができること、です。
参考 市職員ワールドカフェについて|新たな総合計画の策定函館市柏市の例
柏市では第五次総合計画策定の一環として、市職員が将来のまちづくりについてワールドカフェを開催しました。参加人数は407名。参加した職員からはさまざまな意見が出されました。
- こどもや子育て
- 健康や福祉
- 経済産業
- 地域
- 環境・インフラ
- 防災・防犯
- 都市経営
に関するさまざまな意見が出ています。付箋なども貼られた模造紙には、あらゆる意見やアイデアが書かれ、新たな発想が生み出されている雰囲気が伝わってきます。
参考 柏市職員ワールドカフェについて柏市横浜市「イマジン・ヨコハマ」(2009)
2009年5月9日、パシフィコ横浜にて横浜市「イマジン・ヨコハマ」が開催。地域市民を巻き込んだ大規模なワールドカフェとして注目されました。
目的は、
- 横浜市民が地域への誇りや愛着心を高める
- 地域活動への参加を促す
- 横浜の魅力を外に発信する
- 人や企業を呼び寄せ、都市の活力を維持すること
参加者は500人強でこれをきっかけとして自主的にワールドカフェを生み出す動きが活発になりました。
京都市「京都市未来まちづくり100人委員会」(2009)
京都市未来まちづくり100人委員会の創設総会は、
- 市民が主役の委員会とはどういうものであるのか
- どういう可能性があるのか
という委員会自体のあるべき姿を模索するため、ワールドカフェにて開催されたのです。学生や経営者、主婦、大学教授などメンバーは多種多様で構成され、さまざまな意見やアイデアが生み出されました。
この取り組みは、京都市未来まちづくり100人委員会への期待を高めたり、まちづくりに対する姿勢が前向きになったりといった効果も生み出しています。
パナソニック電工 IS 企画部
企業において実践されたワールドカフェの一つが、パナソニック電工IS企画部のコスト削減を推進するプロジェクトです。
コスト削減のアイデアを出すために、名古屋地区でコスト削減を担当する部門と連結会社のチーム・リーダー33名を集めてワールドカフェを開催しました。
「成果」というキーワードを入れず「楽しく」という言葉を使って発想の自由を高める工夫をしたのが特徴です。