会社経営に関する意思決定など、重要なポジションにある役員の評価項目の概要や必要性、評価項目の決め方やポイントなどについて紹介します。
1.役員の評価項目とは?
役員の評価項目とは、役員を公平に評価するための項目のこと。経営者など個人が評価するのではなく、複数の関係者の視点で評価するため客観性・透明性が高くなります。その結果を、株主総会などで公表する企業もあるのです。
役員評価のための項目
一般社員の評価は当然のように行われています。役員も同じように人事方針にもとづいた公平な評価が求められているのです。それは社内・社外問わず取締役を適切に配置し、評価する役員マネジメントの重要性が問われているためでもあります。
役員評価を報酬に反映させると会社経営への意識が高まり、事業目標への達成につながるのです。
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役員とはどんな人?
日本の会社法における株式会社の役員とは、取締役会の構成員として、経営に関する意思決定と業務執行の監督を行う取締役、そして会計参与や監査役のこと。
会社法で「役員等」という場合、取締役・会計参与・監査役に加えて、執行役・会計監査人も含まれます。執行役員は経営の意思決定権を持たないなど、会社法で定義される役員とは異なるのです。
取締役会評価とは何か?
取締役会評価とは、取締役会がその責務を十分に果たしているか否かを検証するもの。実効性のある手段で経営陣や取締役を監査し、幹部人事を適切に行うためにあります。
取締役会評価は企業の不祥事や不正会計、破綻などをきっかけに欧米各国で奨励されたとされており、欧米の上場企業の約90%が取締役会評価を行っているとされているのです。
取締役会とはどんな場?
取締役会とは、株式会社の業務執行の意思決定を行う機関のこと。株式総会で任命を受けた3名以上の取締役によって構成され、ここから最少で1名を代表取締役に任命するのです。そして代表取締役は社長として会社のトップとなります。
2006年に施行された会社法により、株式会社に取締役を設置する義務がなくなりました。
近年の役員評価のトレンドについて
近年の役員評価のトレンドでは、ESG(環境・社会・ガバナンス)と役員報酬を連動させる評価体制が広がると見られています。
企業の長期的な成長にはESGの観点が必要とされているため、ESGが企業価値に影響するとの認識も広がっているのです。そうした理由から、ESGの視点が役員報酬に組み込む傾向が広がるとされています。
ESGとは?
ESGとは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字を取ったもの。企業の中・長期的な成長にはESGが示す3つの視点が必要という考えが、世界的に広まっています。
ESGの観点が薄い企業は、大きなリスクを伴い長期的な成長ができない企業と見なされてしまうため、ESG観点は投資家の間でも浸透し始めているのです。
2.役員の評価制度が必要な理由とは?
役員の評価制度は、経営の健全化を進め経営改善に向けた取り組みを行うために必要です。具体的には、「透明性と客観性を高めて役員選任を進める」「役員の成果責任を明確化する」など。コンピテンシー評価制度を取り入れ、役員を評価する企業もあります。
コーポレートガバナンスを確立するため
コーポレートガバナンスを確立するためにも、役員の評価制度は必要とされています。
企業の不祥事を防ぐため、社外取締役や監査役などによって経営を監視するコーポレートガバナンス。経営の透明性を高め、経営の意思決定や監督機能、業務執行機能を明確に区別して意思決定の迅速化を図り、効率的な経営を目指すことが大切とされます。
コーポレートガバナンスとは?
コーポレートガバナンスとは、企業経営を監視する仕組みで「企業統治」とも呼ばれます。株主やステークホルダーの利益を最大化するため、「不祥事の防止」「長期的な企業価値の向上」を目的として、取締役や監査役を社外の管理者によって監視するのです。
金融庁と東京証券取引所がガイドラインを公表しており、上場会社にとって必要不可欠の取り組みといえます。
重層的な階層を取り除くため
役員の評価制度は、「重層的階層を取り除く」「率直な意見交換」などに必要とされています。
多くの役員がいる企業では、専務執行役員や常務執行役員、上席執行役員などの階層が生まれます。しかし上下関係や明確な権限の違いはありません。その結果、執行役員のみで意思決定できる事項が遅れる場合もあるのです。
報酬水準の適切レベルを修正するため
役員の評価制度は、報酬水準のレベル修正にも必要とされているのです。
報酬は、外部専門機関による客観的な報酬市場調査データなどを参考に、自社の経営環境も踏まえて適切な水準に設定します。また業績条件が加えられた報酬制度を導入すると、業績向上、企業価値の向上に対する役員のモチベーション継続が期待できるのです。
トップが変わるための役員評価項目である
役員の評価制度は、会社のトップが変わるための役員評価項目である点が重要です。会社を変革するには企業のトップから変わる必要があります。
そのためには「外部の第三者の視点から役員報酬が適正な水準か判断する」「目標の達成状況や業務の執行状況などを評価する」など役員評価システムの改革が必要です。
3.役員評価のポイントとは?
役員評価のポイントとは、何でしょうか。下記4点から見ていきます。
- 社員の納得感がある制度にする
- 制度を受け入れる体制作り
- 執行役員の評価基準を明確にする
- 株主との利害を共有する
①社員の納得感がある制度にする
たとえば固定報酬と変動報酬の比率の変動部分を大きくすると、ステークホルダーに対する経営責任が明確になります。このように正当な成果に対して給料が支払われていれば、社員の納得感を得られる役員の評価制度にできるのです。
②制度を受け入れる体制作り
役員評価制度では、ほかの役員や部下が評価する場合も。その結果次第では、役員報酬が下がる、役員降格となる場合もあるでしょう。
役員任命の納得感を得るため、株主総会で評価結果を公表する企業もあります。対象者がはデメリットとも感じる制度を急に導入しても、すぐには根付きません。制度を受け入れられるような体制作りが必要です。
③執行役員の評価基準を明確にする
たとえば、社長が報酬を決める執行役員部長と、給与規程によって賃金が決まる部長とが併存する場合、同じ部長という肩書きでもその違いがあいまいになります。
取締役執行役員や委任執行役員など、取締役員の位置付けを明確にして報酬制度を整備する必要があるのです。
執行役員とは?
執行役員とは企業が任意で定めるポジションのことです。法律上、執行役員は社員の位置付けとなります。
- 取締役や役員:会社法で定められており、経営方針や代表取締役の選任といった重要事項を決定する
- 執行役員:会社法上では、経営陣が決定した方針に従って事業運営を担う責任がある役職とされている
④株主との利害を共有する
株価や企業の利益と連動した役員報酬は、株主との利害を共有するために必要です。いまだ日本企業の役員報酬は、業績の善し悪しに関わらず固定報酬が多いため、近年の業績と連動した報酬制度改定が重要視されています。
役員報酬の水準や決め方が適切かなど株主にとって透明性があり、また株主の意向も汲んだ体制を作る必要があるでしょう。
改めて知っておきたい「株主」とは何か?
株主とは、企業の株を買って投資した人のこと。投資した企業の持ち主のひとりとなり、所有している株式の割合に応じて、企業の経営に参加できる権利を持つのです。
一方、株式会社の経営者は、株主から委託を受けて事業を行っていることになります。そのため社員が会社に損害を与えた場合、取締役が会社に賠償する責任を負うことになるのです。
4.役員の評価項目策定にあたり考えるべきポイントとは?
役員の評価項目策定にあたり考えるべきポイントは、下記のとおりです。各ポイントについて解説しましょう。
- 項目の選定
- ウェイトの範囲
- 客観性の高い評価手法
- 承認フローの決定
- 業績連動性
- 考課表の作成
- 自己評価の加味
- 報酬制度の設定
①項目の選定
役員の評価項目を選定するポイントは、下記のとおりです。
- 人物面:「常に冷静かつ客観的な思考判断ができる」「得意分野や特定部門に偏らず、大局的観点から業務に携われる」「コンプライアンス意識が高い」
- 能力面:「業務および業界に関わる高度な知識を持つ」「必要とされるマネジメントスキルを習得している」「バランス感覚に優れている」
②ウェイトの範囲
評価項目や要素別に評価ウェイト配分を付けて計算するのです。評価ウェイト配分は、職種や部署によって重要度を考慮し、会社が戦略的に重視する項目に大きくウェイトを振って配分を調整します。一般的な例は、下記のとおりです。
- 商品の改善案を求めたい場合は改善提案のウェイト
- サービス向上を求めたい場合はクレーム対応のウェイト
③客観性の高い評価手法
IPEシステムを用いて客観性の高い評価をします。IPEシステムは、その職務の実質的な価値を評価するためのマネジメントツールで、肩書や年功などを含めず担当する職務の実質的な価値と大きさを客観的に評価でき、世界50カ国で導入されているのです。
④承認フローの決定
承認フローの決定に使う方法は、下記のとおりです。
- 役員が経営計画書などを作成し、1年後に役員会議にて役員間同士がそれを評価する方法
- 役員の昇格・降格に、全国の責任者による投票を反映させる役員OJS(オープンジャッジシステム)を導入し評価する方法
客観的に役員自身の業務を判断されるため、多大な緊張感があります。しかしこれによって経営幹部の活性化が図れるのです。
⑤業績連動性
業績連動性は、短期・長期の企業業績と役員評価を連動させる方法で、給与には会社の業績と役員の給与額を連動させた業績連動給与があるのです。
企業の業績は、利益の状況、株式の市場価格の状況など客観的な指標によって評価されます。メリットは、「役員の企業業績への意欲が高まる」「株主の要望に応えるため長期的な視点から企業価値の向上に努められる」などです。
⑥考課表の作成
役員評価に用いる考課表の例を紹介しましょう。
態度考課
- 経営認識…経営方針、経営理念、経営政策の理解と認識
- コスト認識…常にコスト意識をもっている
- 積極性…先頭に立ち意欲的に取り組む
- 責任性…役割と責任の自覚
能力考課
- 企画力…知識と技術の習得
- 管理力…業務を遂行する能力
- 指導・育成…指導能力
- 決断力…的確な判断力
成績考課
- 業務の達成度…目標を完全に達成したか
- 創意工夫…新しい考えを取り入れて改善を図った
ビジョン共有と経営トップのコミットメント
自社の現状や課題などのビジョン共有と、コミットメントが十分になされているかが重要です。たとえば、下記のようなものが挙げられます。
- 自社が抱える問題意識について理解している取締役を選任している
- 顧客視点での価値を創出するなどのビジョンについて議論が尽くされ、明確な合意が形成されている
- 取締役会は、ビジョン実現に向けた経営陣の取り組みを監督している
⑦自己評価の加味
役員の自己評価に使う方法には、「アンケート」「インタビュー」「アンケートとインタビューの併用」などがあります。一般的には、アンケートのみで行われます。しかし自社取締役会の課題や改善点の把握がなされているかが不安要素となるのです。
またインタビューは意見を聞き出しやすい点がメリットとなります。しかしスケジュール調整や誰がインタビュアーとなるのかが留意点となるのです。
それぞれのメリットと不安要素を加味して、適切な方法を選びましょう。
⑧報酬制度の設定
役員報酬の内訳は、下記のとおりです。
- 役割、責任に対する報酬…月次報酬
- 短気業績連動…業績連動型報酬
- 長期インセンティブ…ストックオプション
- 在籍中の貢献度に対する報酬…役員退職慰労金
役員の報酬は、対外的にも納得のいく内容で、株主への説明責任を果たせるような支給水準・支給項目・報酬の決定プロセスにすることが重要です。
インセンティブとは何か?
インセンティブとは、目標達成など成果を生み出した業績に対して支給される報酬のこと。近年、役員報酬に業績と株主価値に連動したインセンティブ報酬を導入する動きが広まっており、長期と短期の2つあります。
- 長期インセンティブ:1年以上を対象期間とし、期間での業績達成度合に応じた報酬が支給される
- 短期インセンティブ:通常1年を対象期間とする
5.役員の評価項目が用いられている事例を紹介
役員の評価項目を用いた企業3社の事例を紹介します。それぞれの企業でどのような課題を背景に、どのような取り組み・改善を行ったのかを見ていきましょう。
- 王将フードサービス
- カゴメ
- トラスコ中山
①王将フードサービス
中華料理チェーン店食品「王将フードサービス」の取締役会は毎年、各取締役の自己評価などを参考にし、取締役会全体の実効性について分析・評価し、その結果の概要を開示します。
「社外機能が健全に機能していると考えられる」「外部のコンサルタントよりも内部の事情に精通している」などから、取締役評価は自己評価としています。
②カゴメ
食品や調味料などのメーカー「カゴメ」は、制度改革を行う際、役員から新たな評価制度や職務等級を導入しました。役員全員が1年に一度、個人の目標を設定し、それに対して定量評価を行うのです。
目標のベースは中期経営計画にある年度計画を社長の目標とし、そこから各役員の目標、次に部長・課長の目標が決まり、現場の目標へとつながっています。
③トラスコ中山
プロツールカンパニー「トラスコ中山」は、常勤役員の昇格・降格の決定にほかの役員からの評価内容を反映する「役員OJS制度」を導入しています。評価者は、部下となる支店長や部長、執行役員、同僚役員など100名以上です。
役員OJS導入以前から一般社員向けOJSが運用されていました。しかし全社員からの支持率が80%以上と満足度が高かったこともあり、役員向け制度導入がスムーズにできたとされています。