有給休暇取得に理由は必要なのでしょうか。「 申請が通らない場合の対処法」「有給休暇を取得しやすい理由」などから解説します。
1.有給休暇取得に理由は必要?
有給休暇取得に理由はいりません。それはなぜなのか下記3つから解説します。
- 有給休暇とは
- 原則として有給休暇取得に理由は必要ない
- 有給休暇申請を会社は拒否できる場合がある
①有給休暇とは?
有給休暇とは、一定期間勤続するなど有給休暇の要件を満たした労働者に対して付与される休暇のこと。有給休暇は、「心身の疲労を回復させる」「ゆとりある生活の保障」を目的に付与されるもの。
その名のとおり、「有給で休める」「休暇を取得しても賃金を減額されない」といった特徴があります。
有給休暇とは? 付与日数や計算方法、繰越の上限をわかりやすく
有給休暇(年休)とは、従業員が心身の疲労回復やゆとりある生活を送ることを目的に取得できる休暇で、休暇でも賃金が発生します。従業員は有給休暇を取得する義務があり、企業は有給休暇を付与・取得を承認する義務...
有給休暇は法定休暇を指す
有給休暇は法定休暇のひとつで、休暇には2種類あるのです。
- 労働基準法の定めにより、労働者に必ず与えなければならない法定休暇
- 企業の就業規則や労働協約にて定められている法定外休暇
有給休暇は労働基準法で定められている法定休暇に該当するため、使用者は要件を満たした労働者に有給休暇を必ず付与しなければなりません。
有給休暇に時季は関係ない
有給休暇を取得する時季に、決まりはありません。労働基準法では、労働者の有給休暇の取得時季について、労働者が請求する時季に与えなければならないと定められています。
ただし労働者が有給休暇の取得を請求した時季に有給休暇を与えると「事業の運営を妨げる場合、使用者はほかの時季に有給休暇を与えられます。
②原則として有給休暇取得に理由は必要ない
有給休暇を取得しようとした際、原則として理由は必要ありません。有給休暇を付与された労働者が当該有給休暇を取得する際、取得条件さえ満たしていれば、使用者に取得理由を伝える義務はないのです。
有給休暇申請の理由を聞かれる場合もある
労働者が使用者に有給休暇の申請をする際、使用者から有給休暇の取得申請理由を聞かれる場合があります。
労働者が申請した取得日程に当該労働者が有給休暇を取得すると、会社において通常業務を行えなくなるといったケースなどです。
理由によっては処分対象になることも
労働者が使用者から有給休暇の取得理由を聞かれて嘘の理由を伝えた場合、労働基準法ではそれに関して懲罰を与えるとはしていません。
また就業規則に虚偽の報告に対する懲戒処分が明記されていた場合でも、就業規則より労働基準法のルールが重視されるため、法的には処分の対象にはなりません。
しかし就業規則に記載があった場合、社内的な処分の対象になる可能性もありますし、処分までいかなくても社内的に印象が悪くなってしまうかもしれないのです。有給休暇をとるために具体的な理由は必要ないので、嘘をつくのは避けたほうがよいでしょう。
③有給休暇申請を会社は拒否できる場合がある
労働者からの有給休暇申請を会社が拒否できるケースもあります。労働基準法では、会社に対し有給休暇の時季を変更できる権利、すなわち時季変更権を認めているのです。
ただし時季変更権は、事業の正常な運営を妨げる場合のみに限定されています。使用者は、会社の繁忙期に有給休暇の取得をした労働者に対しては、有給休暇申請を拒否できます。
2.有給休暇の取得前に知っておきたい有給休暇のルール
有給休暇の取得前に知っておきたい有給休暇のルールがあります。ここでは、有給休暇に関する次の4つのルールについて解説しましょう。
- 有給休暇の付与日数
- 有給休暇の申請期限
- 有給休暇の有効期限
- 企業側には「時季変更権」が認められている
①有給休暇の付与日数
通常の労働者には、勤務期間によって「6カ月で10労働日」「1年6カ月で11労働日」といったように有給休暇が付与されます。
「週所定労働日数が4日以下」かつ「週所定労働時間が30時間未満」の労働者には、通常の労働者の有給休暇より少ない日数が比例して付与されるのです。
②有給休暇の申請期限
労働基準法では、「労働者の請求する時季に有給休暇を与える」と定められているため、事前に取得時季を指定する必要があります。
何日前なら有効かどうかはケースによるものの、当日に有給休暇の取得申請をされても代替要員を確保できない場合があるため原則、遅くとも前日までに申請しましょう。
ただし翌月のシフトのために15日前や1カ月前に申請を要求するのは認められにくい、と考えられます。
③有給休暇の有効期限
労働基準法では、有給休暇の有効期限を2年と定めており、2年を超えると残った有給休暇は消滅するのです。付与後2年以内の昨年度の有給休暇残は、新しく今年度付与された有給休暇とともに取得できます。
たとえば継続勤務年数が6年6カ月以上の場合、有給休暇なら年20日付与されるので、「昨年度繰り越し分の20日」「新年度の20日」つまり計40日の有給休暇を保持できるのです。
④企業側には「時季変更権」が認められている
労働基準法では使用者に対し、労働者から有給休暇を請求された時季に有給休暇を与えると「事業の正常な運営を妨げる」場合に限り、ほかの時季に有給休暇を変更できる「時季変更権」を認めています。
時季変更権が認められるかどうかは、「会社の規模や事業の内容」「職務内容」「職務の繁閑」「請求された年次有給休暇の日数」「ほか社員の休暇との調整」などが考慮されるのです。
3.有給休暇申請を行う方法
有給休暇の申請を行う方法は、3つです。ここでは3つの方法とトラブルになりやすいケースについて解説します。
- メールやチャット
- 申請書
- 口頭
①メールやチャット
メールやチャットで有給休暇を申請する際は、「文面で謙虚な姿勢を伝える」「取得期間を具体的に記載する」「取得理由は原則私用のためとする」「業務の引き継ぎや緊急時の対応などを記載する」といったポイントを押さえておきましょう。
②申請書
多くの企業では、「口頭での申請にまつわるトラブル回避」「管理のしやすさ」などから、申請書による申請を採用しているのです。企業によってフォーマットは異なるものの一般的には、「申請日」「取得希望日」「記入を任意とした取得理由」の欄を設けます。
③口頭
会社の就業規則など、社内規定に定められている申請方法であれば、口頭での申請も問題ありません。また、法的にも口頭での申請に関する制限は設けられていないのです。
ただし口頭での申請はベストではなく、申請書での申請方法と併用するなど工夫したほうがよいでしょう。
トラブルになるケースも
有給休暇の申請方法によっては、トラブルになるケースもあります。たとえば口頭での申請では、「言った」「聞いていない」といった水掛け論に発展する可能性があるのです。
有給休暇の申請に関するトラブルを回避するためにも、「誰に申請するかあらかじめ定めておく」「申請書などの書面で管理する」といった方法を採用しましょう。
4.有給休暇の取得理由を伝えて拒否された場合
有給休暇の取得理由を伝えたにもかかわらず、会社から取得を拒否された場合、どうしたらよいのでしょう。ここでは3つの対応について解説します。
- 変更できる時季を確認する
- 社内の労働組合に相談する
- 公的機関に相談する
①変更できる時季を確認する
有給休暇の取得を拒否されたらまず、変更できる時季を確認しましょう。会社には、労働者から請求された時季に有給休暇を与えると「事業の正常な運営を妨げる」場合にのみ、ほかの時季に有給休暇を与える時季変更権があります。
そこで拒否された有給休暇が、時季変更権の条件に該当するかどうかを確認するのです。
②社内の労働組合に相談する
有給休暇の取得を拒否された場合、社内窓口や労働組合へ相談できます。コンプライアンスに関する窓口が社内にあれば、匿名で相談するのも可能です。
また労働組合に加入すれば、「会社に対し待遇改善を求める団体交渉」「ストライキなどを起こす団体行動」ができます。1人で悩まず、これらの窓口に相談しましょう。
③公的機関に相談する
労働基準監督署など公的機関へも相談できます。労働基準監督署は、労働基準法にのっとり会社を監督・指導する行政機関です。
有給休暇の申請拒否は労働基準法違反ですので、労働基準監督署に相談すれば、「立入調査」「是正勧告といった改善命令」「経営者の逮捕」など対応してもらえる場合もあります。
5.有給休暇取得を許可しやすい申請理由
原則、有給休暇取得に理由はいりません。しかし有給休暇取得が許可されやすい理由を知っておくと便利です。下記6点から解説しましょう。
- 資格取得
- 勉強会やセミナーへの参加
- 親族関係での用事
- お見舞いや通院または検診
- 生活区域での活動
- マンションや自宅の修理や点検
①資格取得
資格取得とは、「会社の業務に生かせるという理由で推奨されている資格取得試験」「昇進・昇格のために必要となる資格取得試験」を目的とした有給休暇の取得のこと。
業務遂行上必要となる資格や、会社が推奨している資格試験に関して拒否される状況はほぼないといえます。
②勉強会やセミナーへの参加
勉強会やセミナーとは、「能力を向上するための勉強会」「個人の生産性を高めるためのセミナー」などに参加するため有給休暇を取得すること。ただし他社主催の勉強会やセミナーに参加する状況を良く思わない場合もあるため、事前に確認しましょう。
③親族関係での用事
親族関係の用事は、多岐にわたります。「子どもの学校行事」「親族の冠婚葬祭」などは、一般的な理由ですので会社から詮索される場合も少ないでしょう。また「遠方にいる両親が遊びに来た」なども、周囲に受け入れてもらいやすいと考えられます。
④お見舞いや通院または検診
「お見舞い…先方の都合に合わせる必要がある」「検診…健康管理も業務の一貫」といった理由から、平日に有給休暇を取ろうとしても不自然には映りません。
ただし通院に関しては、「周囲に心配をかけてしまう」「余計な詮索をされる」という可能性が高まります。
⑤生活区域での活動
生活区域での活動とは、「町内会議に出席する」「町内会の重職として式典に出席する」などです。活動が平日に限定される場合、会社・生活区域での活動について優先順位を比較検討しましょう。
職場の状況や個人の考え方によって、優先度に対する価値観が異なる点に注意が必要です。
⑥マンションや自宅の修理や点検
「土日は予約が取りにくい」「工事の順番によって時間が読めず、遅刻や早退で対応しきれない」などの理由から、マンションや自宅の修理工事・点検を平日に依頼するケースがあります。
水回りの修理などは生活に支障を来たすため、当日の有給休暇申請でも理解が得られやすいでしょう。