ユーザー会レポート
“No normal時代”に変わる「働き方・組織」の本質とは? ─“個を活かす”マネジメント改革2020 レポート(1)
2020年11月11日
10/15(木)、リモートワークが広がるなかで人材マネジメントのあり方、テクノロジーによる組織開発を考えるオンラインイベントを実施しました。組織開発、DXにおける官民学それぞれのフロントランナーが登壇するということで話題を呼び4,000件以上のご応募をいただきました。その模様をお伝えします。
基調講演では、独立研究科であり、「HRアワード(書籍部門)」などの受賞歴があり著作家でもある山口周氏が登壇。コロナ渦で時代が大きく変わるなかでの働き方や組織の存在意義など、企業における組織と個について本質を語っていただきました。
「普通」がなくなる時代に、自らのバイアスを自覚せよ
コロナ後の社会を“New normal”と表現することが多いようです。しかし、これでは”新しい普通”があると勘違いする危険があります。新しい”普通”ができるわけではなく、社会の多様化に伴って正解や定石といったものが消え、”No normal=普通がなくなる”と捉えるべきでしょう。
そうした社会では、既存の知識や経験が価値を失うだけでなくむしろ不良資産化する、いわば”アセットリバース”が起こります。例えば、90年代にPCベンダーとして世界1位を誇ったコンパックは、強みだったはずの流通網がインターネットの登場によって逆に足かせとなり、凋落しました。
人間は一度勝ちパターンを覚えると、それにとらわれます。No normalの時代には、そんな定石や常識をゼロベースで考えるラディカルな思考力が必要です。常識がバイアスとなっていることを自覚し、それがひっくり返ったらどうなるか、という視点です。
変革期には「やりながら学ぶ」。New Typeが頭角を表す
時代の変革期に頭角をあらわすのは、そうした視点をもつ“New Type”の人間です。
いまをときめくGAFA創業者は皆、創業当時20歳前後で、社会人経験もありませんでした。それがために、世の中のルールや過去の実績にとらわれることなく、ひらめきを頼りに新たなビジネス領域を開拓しました。
ビジネスの世界ではよくPDCAサイクルと言いますが、時代の変革期においてはそれでは間に合いません。とにかくやってみて、うまくいったか確認する。つまりDとCのサイクルをくり返す。実践の中で学びをアップデートし続けるラーニングアジリティ(学習機敏性)をも、彼らは備えていたといえるでしょう。
問題が希少化した現代にはアニマル・スピリットが起爆剤に
企業の役割は社会的な課題解決といわれてきましたが、今は課題そのものが希少化しています。生活課題など「難易度が低く、普遍性が高い課題」はほぼ解決され、「難易度が高い」か「普遍性が低い」課題も開拓されつつある今日には、「難易度が高く、普遍性が低い」ために利益が回収できない経済限界曲線の向こう側にある課題(例えば児童虐待や地球温暖化など)が残るばかりです。
今後、新たな事業を切り拓くには、そうした大きな社会課題をどうやって解決するかを考える必要があります。そこで私が思い出すのが、経済学者であるケインズの指摘した「アニマル・スピリット」です。
ー 何日も経たなければ結果が出ないことでも積極的になそうとする、その決意のおそらく大部分は、ひとえに血気(アニマル・スピリッツ)と呼ばれる、不活動よりは活動に駆り立てる人間本来の衝動の結果として行われるのであって、数量化された利得に数量化された確率を掛けた加重平均の結果として行われるのではない。 ー
同様のことを経済学者であるシュンペーターも陶酔や創造的衝動を司るギリシア神、ディオニュソスになぞらえて語っています。まさにビジネスを動かし、求心力を持つ「衝動=喜怒哀楽」を回復できるかが、今後の大きなカギといえるでしょう。
自らワークスタイルを考え、成長機会を得られる場を選ぶ
個人レベルでは、ワークスタイルに正解がないからこそ、「どんな職業人生を送りたいか」「何に幸福を感じるか」を考え続けなくてはなりません。リモートワークの広がりにより、副業・兼業は常態化するでしょう。オフィスでの対面で人に学ぶ機会が減るために、仕事の幅を広げて学びの回転率をあげる必要も生じます。副業・兼業するなかで、報酬を金銭のみでなく経験やコネクションなどまで広くとらえ、「経験の質」を意識することが大切です。
会社もまた、達成目的や個人の役割が明確でない集団は存続できません。リモートが進むなかで求心力が弱まれば、社員は報酬だけ得て副業に注力するようになるでしょう。まさに会社が社員に搾取される時代です。大切なのは、明確なビジョン・ミッションで共感する人間を惹きつけ、成長機会を与えられる組織になることです。そうした組織による社会になれば、会社だけでなくバーチャル上のプロジェクトやNPOなどを組み合わせて、個人が自身の能力を最大発揮できる、そんな時代になると期待しています。
質疑応答
Q.新旧世代の上手な付き合い方は?
A.相手を変えようとせず、良い役割分担を考えましょう。
Q.リモート疲れへの処方箋は?
A.フィジカルな接触の機会を設け、ウェルビーイングをあげよう。
Q.不良資産化したベテランへの対応は?
A.意見を伝え、ダメなら離れる(離職する、異動する)というオピニオン&イグジットでプレッシャーを。
プロフィール
山口 周 氏
独立研究家・著作家・パブリックスピーカー。イノベーション、組織開発、人材/リーダーシップ育成を専門とし、『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?――経営における「アート」と「サイエンス」』(光文社新書)でビジネス書大賞2018準大賞、HRアワード2018最優秀賞(書籍部門)を受賞。