ユーザー会レポート

人事コンサルのエキスパートが解説! 「人的資本の情報開示」を巡る最新動向

2022年12月27日

マナベル

こんにちは!カオナビ カスタマーサクセス ユーザー会担当です。

4/22(金)、ユーザー会「プロからマナベル」を開催しました。今回は「日本企業が人的資本の情報開示に取り組む意味とは?」をテーマに、野村総合研究所の松岡 佐知様がご登壇。参加者の皆さま、ご出席いただきありがとうございました!

この記事では、今回ご参加できなかった皆さまにも松岡様のお話を共有できるよう、セミナー当日の内容をまとめましたのでぜひご一読ください!

※尚、4月時点と2022年12月現在で人的資本を取り巻く環境に変化があるため、講演内容を再編集しています。

「プロからマナベル」とは?

「プロからマナベル」はある分野の専門家をお招きし、人事業務の最新トピックやカオナビの実践例を解説していただくセミナーです。

カオナビでは、そのほかにも導入目的別の使い方を解説するセミナーや、ユーザー様同士で活用方法をディスカッションできる交流イベントも開催。今後開催予定のセミナーは、以下をチェックしてみてください!

サポートサイト『セミナー・ユーザー会』

ご登壇者紹介

松岡 佐知 氏

株式会社野村総合研究所
コンサルティング事業本部 経営DXコンサルティング部
上級コンサルタント

人的資本に関する日本の最新動向とは?

※ここからは実際に松岡様にお話しいただいた講演内容です!

2022年2月に、内閣官房は専門会議「非財務情報可視化研究会」を設置しました。目的は、人的資本情報開示項目や評価方法の具体的な検討です。

とくに次の2テーマで議論を進めています。
(1)人的資本の情報としてどのような情報を可視化するべきか
(2)経営戦略と人材戦略をどう連動させるか

国は、日本の企業が現状のままで、いきなり人的資本情報を開示すると、グローバルで不利になると考えています。そのため、ただ情報開示すればいいというわけではなく、人材戦略の中身の充実にも取り組んでもらいたいという意図から、経営戦略と人材戦略の連動についても議論を重ねているのです。

国は2022年の夏に、情報開示の指針を作成すると発表しています。(※1)ただし、この指針はチェックリストのようなものではありません。「指針に従っていれば安心」とはいかず、肝心の「経営戦略との連動」については、各社が抱える課題をもとに検討する必要があります。

注釈(※1):開催後、2022年8月に内閣官房の非財務情報可視化研究会から人的資本可視化指針が公表。2022年11月に金融庁から公表された「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案では、人的資本、多様性に関する開示を求めている。改正後の「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の規定は、令和5年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書等から適用を予定している。

世界初の国際規格として誕生した開示ガイドラインが「ISO30414」

グローバルレベルでは、基準設定団体が複数あり、開示の基準を策定しています。ただ、各団体でバラバラで、企業としては何を参考にすれば良いのかわからない状況がありました。そんななか、世界初の国際規格として公開されたガイドラインが「ISO30414」です。

そこで、今回は「ISO30414」にフォーカスして解説したいと思います。
※2022年8月末に公表された「人的資本可視化指針」に、ISO30414以外にも参考にすべき国際基準が多数掲載されているのでご参照ください。

2018年にリリースされたISO30414は、リスクマネジメント等いわゆる守りの指標(図中カテゴリG)だけではなく、企業価値向上につながる事業戦略実現に貢献できる人材をどのように確保するのか、に関連する人事施策について表現する際に使いやすい、いわゆる攻めに活用できる指標(図中カテゴリA-F)を多く含んでいるのが特徴です。そのため、ほかのガイドラインと比べると、経営戦略と人事戦略の連動を表現する上でも使い勝手が良いといえます。

ISO30414が生まれたきっかけは、機関投資家の要求です。労働力関連のスキャンダルが相次いだことを受け、2017年に米国の機関投資家のグループが、米国証券取引委員会に人的資本情報の開示を義務付けることを請願しました。

要するに「非財務情報の開示が不十分では投資リスクが大きすぎる」という訴えかけを行ったわけです。これを踏まえて、翌年2018年に国際標準化機構(ISO)が、ISO30414を公開しました。

ISO30414には、11カテゴリ58指標の定義と算定方法が記載されています。リーダーシップ、後継者育成、労働力の活かし方、人材への投資、採用のタイムスパン、エンゲージメントなどが主な指標。項目が多岐にわたるので、以下のように大きく分類してみました。

各指標に対する目標基準値などは設けられておらず、活用主体にその値の自社にとっての意味の説明を含めて対応が委ねられています。そのため各社では「出したい・出せる指標」に基づき、情報をレポートにまとめている状況です。

野村総研でコンサルティングを請け負う際は、58の指標を使って診断をします。どれくらいのデータが取れるか、信頼できるデータなのか、そのデータが外に出せるかどうかを仕分けし、データ取得以前に、該当する制度がない場合は制度設計の支援もしています。

 

日本企業が人的資本情報を開示する3つの意味

最後に、日本企業が人的資本開示を行う意味についてお話します。大きく次の3つの意味があると考えています。

(1)企業を強くする改革のビークル(手段)

日本企業全体の動向を見ますと、そこまでの成長ではありません。グローバルにおける存在感を失うかもしれないという危惧があるなかで、こうした状況を変える必要があります。そこで、人材投資→企業価値向上→人材再投資の好循環で全体としての成長を目指す上で、情報開示は企業を強くするためのきっかけになると言えるでしょう。

(2)経営者の意識改革

地球環境の持続可能性の問題は共通認識になっていますが、人的資本も同じように持続可能性の重要性に目を向けられるようになりました。例えば企業が人への投資を行わないまま即戦力人材を奪い合うと、労働市場薄くなってしまいます。一定の人材流出の可能性があっても、人材投資を行い、今いる社員の育成に力を入れるという意識改革が結果的に労働市場の持続可能性へもつながるのであり、開示を通じて経営者もそうした問題意識を持ってほしい、行動を変えて欲しいと求められているのです。

(3)よりよい労働市場の形成

時代の不透明性が高まっていて、個人だけでは乗り越えられない現実があります。そこで、国・企業・労働者が一体となり、人材投資を活性化させることで、必要なスキルを身につける環境が整う。そして、身に付けたスキルをもとに、一人ひとりが自分のキャリアを自由に選べるようになれば、自ずとより良い労働市場の形成にもつながると思います。

【Q&A】日本での事例を教えてください

Q)日本での事例を教えてください。

A)以下事例のご参考情報となります。

・「経営・人的資本・多様性等」の開示例 – 金融庁

・人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書~人材版伊藤レポート2.0~実践事例集

・GPIFの国内株式運用機関が選ぶ「優れた統合報告書」と「改善度の高い統合報告書」 

Q)個々の指標について参考値を教えてください。

A)弊社(野村総研)のサイトではございませんが、上場各社の公開情報をまとめたデータベースを提供しているサイトがあるのでご紹介します。

このサイトでは東証一部上場企業の約2,000社のデータを中心に、各企業・業界の人に関わる指標別ランキングを、無料で閲覧いただけます。

 HCプロデュース社提供:Hitoism(β版)

※弊社がお客様もご支援する場合は、こちらは利用せず個別のベンチマークデータを収集しております。

Q)「各指標との関係性の意味付け」は、どうしたらいいのでしょうか?

A)手をつけやすいところとして、まずは、現状分析・評価をして開示の材料を探し、事業戦略と人材戦略のつながりを考えるという順番で整理されると良いと思います。もしも、事業戦略と人材戦略の連携から検討を始められる場合は、最初にストーリー案を作成し、これを補強するためのデータ等を揃えることになります。

Q)ISO30414と人材版伊藤レポートとの違いは何でしょうか?

A)ISO30414は作成過程で日本企業が関わっていないので、ジョブ型前提でつくられています。普通の人事をやっているとデータが取れるのですが、日本企業だとデータが取れなかったり、取れてもいい数値がでなかったりします。かたや、人材版伊藤レポートは、日本型の人材マネジメントのどこにどう手を付ければグローバルに情報開示をしても評価されやすい状況になるかを示しています。日本企業特有の課題や変わるべきことについて書かれていると思って読んでいただけると良いのかなと思います。

【参加者の声】悩みがほとんど同じで勇気づけられました

松岡様のお話しはここまで。

ここからは、参加された皆さまからのご感想を、一部抜粋してお届けします!

  • 人的資本に係る知りたかった概要は全て知ることができました。
  • 事前に期待していた以上の濃い内容でのお話でした。
  • 講演は大変貴重な内容でした。


ー 最後はみなさまと記念撮影

ユーザー会を終えて

人的資本の情報開示は、投資家にアピールするためだけではなく、自社の事業戦略と人材戦略を考え直すきっかけになると松岡氏。国や投資家に求められるまでもなく、企業としての持続性を維持するためにも、人的資本の課題に向き合う必要があるのかもしれません。セミナーのお話にあった通り、企業価値向上のためにも、現状の分析を踏まえて、適切な人材投資を進めていきたいですね。

ユーザー会ではカオナビの使い方に限らず、今回の制度改定のように様々なテーマを取り扱っていく予定です。「他のユーザー様からこんな話を聞いてみたい!」などありましたら、ぜひお気軽にご意見をお寄せくださいませ!

また、カスタマーサクセスチームでは、Twitterも運営中。セミナー情報や便利な活用テクニックなどを定期的につぶやいていますので、チェックしていただけると嬉しいです!

それでは、今後もカオナビをどうぞよろしくお願いいたします!

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2022.12.27