ユーザー会レポート
教育のDXは、HRのDXから―立命館HRの挑戦
2021年5月20日
組織におけるDXの波は教育業界にも押し寄せています。なかでも、創立120年を迎えた学校法人立命館は、いち早くHRテクノロジーを導入した先駆け的存在。カオナビはさる3月11日、同大学人事部の前田真志氏をお招きし、「学校法人の人事をシンプルに! HRテクノロジーでDXを推進する方法とは」と銘打ったセミナーを開催しました。教育のDXはなぜ、HRからなのか? 前田氏のお話をご紹介します。
ご登壇者紹介
前田真志 氏
学校法人立命館
人事部人事課 課長
神戸大学卒業後、2004年、国立大学法人に入職。法人化による制度・組織改革の中、法務に従事。
2008年、学校法人立命館に入職。教学、キャリア支援、入試等の担当を経て、2014年より人事課にて、研修、採用、人事制度等の改革に携わるとともに、自ら研修を企画し、講師を務める。
コロナ禍は、学内コミュニケーションの危機だった
学校法人立命館は2大学、4附属中高および1小学校を擁する総合私立学園です。全校を合わせると5万人弱の学生・生徒・児童が在籍し、1,500人弱の正職員が運営に当たっています。また、2020年に創立120年を迎え、来たる2030年に向け「R2030」学園ビジョンおよびそれに基づく事業計画を策定しました。テーマは「挑戦をもっと自由に」です。この挑戦を通じて新たな価値創造やテクノロジーを活かした教育・研究の進化などを実現していこうと立命館は考えています。
その状況下で、コロナ禍というのは非常に大きなインパクトをもった事象でした。ひと言で表すと、「当たり前としていたコミュニケーションの危機」です。大学組織では、教育・研究・行政の多くの場面で対面コミュニケーションが行われていましたが、それを変えていかなければならない。学校組織全体の抜本的な変革、つまりDXの緊急性が増したと考えられます。
一方で、一般的に、学校には紙による手続きが多くあります。さらに、大規模組織特有の階層的手続きの複雑性も本学の特徴と言えます。コロナ禍で学校のDXが急がれるなか、こうした旧来の人事上の手続きを、率先して変えねばならない。やはりDXはまずHRからであろうというのが、コロナ禍に私が出した結論です。
テクノロジーは人事が本質的業務に注力するためのツール
私は採用・育成・配置といった人材開発を「人事の本質的業務」であると捉えていますが、これは本当に難しい仕事です。教育のDXで必要とされているLMS(Learning Management System)の課題にも通じる、つまり学校教育の抱える難しさに近いと考えています。
この「人事=難しい」という図式から脱却するためには、本質的業務に「いかに時間を割くことができるか」、「いかに効果的に情報を活用できるか」という2つの視点が必要です。その実現のために実施したのが、カオナビを中心とした各種業務のデジタル化やWEB化です。
HRテックはシステムの永続性に関わる「使い勝手」が重要
そもそものカオナビ導入の経緯ですが、HRテックの選定基準として特に重視したのは「使い勝手」と「拡張性」です。使い勝手については、「誰でも入力できる」というエンドユーザー視点だけでなく、「誰でも設定できる」という点も重視しました。なぜなら、システムというものは往々にして、「初めは良かったが、その後うまく引き継ぎができずに使いづらくなる」という永続性の問題を抱えがちだからです。
拡張性については、当初はスモールスタートで少しずつ課題を検証したいという希望があったため重視しました。小規模から段階的に導入していくことで、発生する問題の影響を最小限に止めることができるからです。また、信用と料金という点についてもカオナビに優位性があったため、検討から半年ほどで導入を決定しました。
カオナビには効率化やコスト削減以外にも大きな導入成果が
カオナビ導入の成果としてはまず、「業務効率化」と「コスト削減」があります。人材情報管理のWEB化によって、異動関連資料の作成時間が1/30になる、保存している紙資料をすでにダンボール60箱分処分できたなど、具体的な数字として効果が表れています。
次に「リスク軽減」です。これについてはキャリアシートの例が挙げられます。専任職員は半期に1度、キャリアシートを更新し、上司と面談を行うフローになっていますが、以前はこのシートをWordで作成していたため、古い書式で誤って作成している職員もいました。そのリスクを回避できるのが、成果の1つです。
さらに「部下への関心度向上」という成果もありました。これまでは管理職が部下のキャリアシートを確認する機会は半年に1度の面談のときだけでしたが、このフローで発生する情報を「プロファイルブック」に一元化したことで、ログインするだけでいつでも見られるように。人事情報へのアクセス頻度が高まり、「毎日必ず誰かが誰かの情報を確認している」という状態になっています。手続のWEB化で、部下のキャリアとの距離感を近づけたといえるでしょう。また、組織のDXという未来像を、人事が全職員に示せたことも、カオナビ導入の間接的な成果として挙げられるのではないかと思います。
多彩な人材が集まる未来。HRはテクノロジーの活用がさらに重要に
立命館は、2030年に向けたビジョンのもと、さらにカラフルな人材を抱える組織になっていきます。例えば高い専門性を発揮したり、制約のないスキルネットワーク形成によって個々のオリジナリティを発揮したりする人材が生まれ、組織もそれを受容する関係性です。
組織がカラフルになるということは、人事の本質的業務がますます難しくなるということ。我々HRが果たすべき役割は、テクノロジーを駆使し、そうしたカラフルな人材の最高のパフォーマンスを最大限に引き出していくことなのだと考えています。