「ポテトチップス のり塩」や「カラムーチョ」といったスナック菓子で知られる、日本で初めてポテトチップスの量産化に成功した総合スナックメーカー、株式会社湖池屋。2016年に和の老舗をイメージしたコーポレートロゴに刷新するリブランディングを敢行し、その直後に着手した組織改革では人事評価制度の見直しも図り、2020年にはカオナビを導入しました。人事制度改革を主導する経営管理本部 人事部で部長を務める岡野栄次郎様と、同部次長 兼 人材マネジメント課の課長 田畑健太郎様、同課の大倉奈々様に、選定や導入までの経緯から具体的な活用方法を聞きました。
*本記事の掲載内容は全て取材時(2022年6月22日)現在の情報に基づいています
紙ベース運用からExcel運用を経て、タレントマネジメントシステムの必要性を実感
――2017年に人事評価制度を刷新し、その3年後にカオナビを導入されていますね。
田畑様:
制度を刷新する前、人事評価業務は紙ベースで運用していました。非効率なのは言わずもがな、各部門で評価運用フローがどう進行しているのか把握できず、目標設定から評価までのフローや、評価シート自体も部門ごとに異なっていました。そこで、まずはシステム導入よりもハードルの低い、紙からExcelベースへの運用変更をしました。
「脱・紙ベース」により一定の効率化は達成できたものの、扱うファイルの物量や集計の手間はそこまで変わらず、評価者、被評価者、そして人事にとっても、案外煩雑さは残るな……というのが正直なところでした。加えて、評価フローの可視化はシステムなしでは実現できないことを改めて実感し、評価業務の本格的な効率化にはタレントマネジメントシステムが必要だと判断しました。複数の候補を比較検討した結果、カオナビの導入を決めました。
導入の決め手は、高いカスタマイズ性とユーザーインターフェースでした。今後も続くであろう制度改善にも対応できるカスタマイズ性に加え、普段、業務にPCを使うシーンが少ない工場勤務の社員にとっても使いやすいシステムだという点に惹かれました。
網羅性よりも「見たくなる」情報を重視。さらに、スキルマップもカオナビに移管
――たしかに、本社と工場でカオナビの使い方は多少変わるかもしれませんね。
大倉様:
ええ、そうなんです。当社の組織は大きく営業、管理、製造(工場)の3部門に分けられますが、まずはPCが一人1台支給されている営業と管理部門に先行して導入しました。
カオナビの導入周知の際は「部署の垣根を超えて互いの理解を深めるために、自己紹介、経験職種などを自由に記入し、顔写真をアップロードしてください」と呼びかけ、人材データベース機能「プロファイルブック」の入力を促しました。顔写真の登録を嫌がる人がいないかと心配したものの、2週間の期限内にほぼ登録が進み、顔写真も9割以上の人がアップロードしてくれています。
最大の導入目的は人事評価業務の運用なのですが、敢えて自己紹介から着手するよう周知しました。
田畑様:
情報を漏れなく集めたいなら、項目を細かく設定し、記入必須欄を増やしたほうがいいですよね。しかし、配属先や入社日といった客観情報は人事の基幹システムで別途、管理しています。網羅性は基幹システムに任せ、カオナビのほうは、より自分を表現できる自由記述形式を中心に組み立てることで“見たくなる情報”になるよう意識しました。今どんな業務を担当しているか、過去はどんな仕事をしていたかということはもちろん、入社前の仕事について書いてくれている社員もいます。
自由記述にした背景には、初めての人に連絡を取るのは社内とはいえ緊張するものなので、見て楽しい情報を充実させることで心理的なハードルを下げ、コミュニケーションを活発化させたいという思いもありました。
実際、プロファイルブックで「採用」と検索すると採用業務に関わる人がヒットしたり、小売店チェーンの社名で営業担当者を探したり、内線電話代わりの社用携帯電話の番号も調べられるので、業務にも役立つと好評で、目論見通りといった状況です。
営業・管理部門で2年間先行運用した後、2022年度からは工場でも活用を始めています。評価運用での活用のほか、以前はExcelで運用していたスキルマップもカオナビに移管しました。これまで、スキルマップは評価表に組み込まれていて、評価というセンシティブな情報を除いてスキル情報を把握するためには、工場長がその部分だけコピーしてファイルにつづるという時代遅れな対応をとらざるを得ませんでした。しかも、そこから分かる情報は「誰が、どんなスキルを持っているか」のみ。「このスキルを持っている人材がどれだけいるか」については、別途Excel等に入力してソートするしか手がありません。工場で働く社員の人数もかなりの数でしたし、メンテナンスを考えるとお手上げ状態だったんです。
今回、このスキルマップをカオナビに移管したことで、評価情報を除いて閲覧できる秘匿性の解消、集計の簡便さ、メンテナンス性の向上に加え、個人個人がリアルタイムで更新できるというタイムリーさも実現できました。その結果、誰がどの工場でどんな業務に携わっていて、担当できる工程はなにかということが一発で確認できるようになりました。当社では多能工化を進めているので、カオナビ上でスキル管理を実施することで、各スキルの習熟度に応じた育成計画や配属検討にも活かせそうだなと思っています。
ちなみにこのスキルマップは、一般的には「力量評価」と呼ばれるもので、工場が受ける監査にも有効だと考えています。まだ導入してから監査は受けていませんが、監査員からも高評価をいただけると自負しています。以上の面からも、他部署はもちろん、他の企業様にもこのスキルマップは有効だと考えています。スキルや工程が多く、力量評価の集計に悩んでいる企業にとっては大変便利なツールになるのではないでしょうか?
大倉様:
工場には日常の業務でPCを操作することが少ない社員が多いので、うまく浸透するか不安はありました。説明会を開いたり、操作方法を解説する動画を作って共有したりしたところ、問い合わせは想定よりかなり少なく、スムーズに導入できました。新システムを入れるとなれば、問い合わせは一定数、発生するだろうと覚悟していましたが、直感的な操作ができるシステムなので効率よく導入を進められました。
目標を期初に立て、日々意識し、期末に振り返る。“当たり前”が定着し、文化に
――評価業務では、具体的にどんな使い方をされていますか。
岡野様:
評価運用フロー機能「スマートレビュー」上で、面談や目標・評価の記入や確定といった評価フローの運用と、評価結果の入力を実施しています。評価シートについては、これまで同様Excelで作成しています。
各部門での評価確定後、各本部長が評価を精査し、評価を最終決定する「評価調整会」を実施するのですが、そこで利用する「仮確定後の評価結果」をCSVで一気にダウンロードできるようになり、とても便利になりました。対象者は約540とそれなりの人数ですから、膨大な量のExcelを集計してデータをそろえていた以前に比べると、大幅な効率化が図れました。
また、会議の際、議題に上がっている社員のカオナビの情報を出席者の手元端末で見て、必要事項を確認しながら議論ができるようになりました。社員の詳細情報にすぐアクセスできなかった頃は、こうした丁寧な議論ができないケースもありましたから、効率化だけでなく、適正かつ納得感の高い評価にも役立っていると感じています。
大倉様:
評価フローの可視化や進捗管理が実現したことで、「期初に設定した目標に向けて行動計画を立て、日々それを意識する」文化が確立されたのも意外な効果だと感じています。目標設定の締め切り時期は管理職に一任していたんですが、現在では全社一律の締め切りを設定し、未入力の社員には適宜、催促などもしています。誰が未入力なのか、どの管理者で“止まって”しまっているのかといった進捗が人事部では一目瞭然なので、適度な緊張感も生まれているようです。
岡野様:
以前所属していた営業系の部署では、数値目標を立てやすいこともあって、カオナビ導入以前から期初に目標設定を済ませていましたが、逆に数字にしか意識が向かない状態になりがちでした。それが、カオナビの導入によって定性的な目標も併せて意識するようになり、組織が活発化した気がします。目標に沿った計画策定と、その実践。当たり前のことではありますが、こうした基本的なことを一つひとつ徹底していくことが、社内の空気や経営にも良い影響を与えていくのかなと改めて感じています。
田畑様:
今年からカオナビでの評価運用を始めた製造部門についても、カオナビの導入を機に基準やフローを徐々に統一し、見える化を進めています。
細かい話ですが、現場からかなり好評なのが「評価シート(Excelファイル)の保管」です。以前は各工場の共用PCに保管していたので、格納の都度、パスワードをかけていたんですが、保管先をカオナビに変えたことで、セキュリティ管理が非常に楽になりました。カオナビにアップされたデータの閲覧権限は人事部で設定ができるのでパスワードを設定する必要がなく、原本もアップロードが終わりしだいすぐに破棄できるので、工場の社員からは「手間だけでなく、データ管理も楽になった」という声をもらいました。わずかな時間であっても、共用PCに格納する際に「パスワード、ちゃんと設定できてたかな? 自分のものではあるけど、人事情報が漏れてしまうかも……」と、心理的なストレスが生じていたようです。
面談で得られた知見をカオナビに残し、振り返りにも活用。収穫の多い1on1に
――コロナ禍で難しくなった社内コミュニケーションにも役立てているそうですね。
田畑様:
当社はもともと社内のコミュニケーションが活発で、先輩・後輩、部下・上司といった「縦横」はもちろん、部署を超えた「ナナメ」の交流も盛んでした。しかし、コロナ禍で出社の機会が減ったことでそれが希薄になっていました。特に2020年、21年の新卒入社社員は研修も含めほとんどがオンラインで、先輩社員とのコミュニケーションも不足していたんです。
そこで、2021年10月から月に1回のペースでオンボーディングも兼ねたナナメの1on1を試験的に実施してみました。対象は2020年・21年卒の若手社員で、所属部門の異なる入社3年目以降の先輩社員がメンターとなって面談します。この運用に、スマートレビューを使っています。
大倉様:
まず、若手社員がプロファイルブックの自己紹介情報を見ながら面談相手となる先輩社員を探し、指名します。若手社員は、相談したいことや聞きたいことを事前にカオナビに入力し、面談に臨みます。面談時には、先輩からアドバイスを受けるだけでなく、次回までにどんな行動をするかを具体化させるようにし、面談だけで終わらせないよう配慮しました。
1on1は目的や管理手法を明確にしないと尻すぼみになりやすいものですが、フローの管理や履歴の入力をカオナビで運用することで、形骸化することなくやり遂げることができました。面談で受けたフィードバックや次回までの“宣言”もカオナビに記録することで、過去の自分や成長度合いを振り返る材料にもなっているようです。
田畑様:
1on1の感想を募ったところ、新入社員・先輩社員ともに良い評価が多く見られました。若手からは「年の近い先輩社員と話せて日頃の疑問や不安が解消できた」、先輩社員からは「若手の考えを聞いたり、悩みに答えたりすることで、自分自身の振り返りにもつながって有益だった」という意見が非常に多く寄せられました。2022年も6月から、第2期として同様の1on1を始めています。
アンケート、組織図、性格診断――評価運用以外でも幅広く活用
――想定以上の効果があったようですね。1on1の感想はどのように集めたのですか。
田畑様:
回収や結果の閲覧が簡単なこともあり、カオナビのアンケート機能「ボイスノート」を活用しました。ボイスノートは、そのほかにも社内向けメディアの感想を募集する際にも使っています。「おかしとわたし」というテーマで毎月1人、お菓子とのエピソードを語ってもらうインタビュー企画を連載しているんですが、ボイスノートを通して、一社員が会長、社長にコメントしたりと、社内メールでは高く感じるコミュニケーションのハードルを下げる役割も担ってくれています。
今後は、社員のウェルビーイング(心身の健やかさ)向上にも役立てていきたいので、従業員満足度調査などにも活用していければと考えています。
田畑様:
組織図の作成にもカオナビを活用しています。以前は人事異動のたびにExcelで作成していましたが、組織図機能「シナプスツリー」は最新情報が反映された組織図が自動で生成されるので作成工数がゼロになり、とても助かっています。顔写真と名前だけでなく、保有資格、評価などの登録情報も並列表示させられるので、役員が各チームの全体像を把握するのに役立てているようです。
岡野様:
性格や適性の診断ができる「エニアグラム」も、任意ではありますが受検を勧めており、全社員の半分程度が受検しています。私がこの春まで所属していた営業部門は受検したメンバーが多く、分布図を見ながら「ちょっとイメージと違うんじゃない?」「岡野さんは納得の結果ですね」などとチームで盛り上がっていましたよ。診断結果は、「同じ診断結果なんですね」などと他部署の社員に話しかけるきっかけとしても気軽に活用してほしいと思っています。
社員の個性と可能性を発信する場としても活用していきたい
――カオナビのあらゆる機能をフル活用していますね。
岡野様:
まだまだ活用できる余地はあると思っています。例えば、マトリクス表示機能「シャッフルフェイス」では、縦軸に年齢層、横軸に部署を置き、現状の人材配置に年代の偏りがないかどうかを把握したりしています。
社員一人ひとりの成長と組織の成長は不可分です。ポストが急に空いたからといって、準備のできていない社員を異動させるような事態は避けたい。そう考えると、縦軸・横軸が自由に設定でき、どんなスキルの、どの年代の、誰が、どこにいるかを顔写真つきで一覧できるシャッフルフェイスは、活用できる余地が大きそうです。将来の各チームの姿を思い描きながら計画を練っていくためにも、ますます活用していきたいと思っています。
――ほかにも将来的にカオナビでやっていきたいことはありますか。
大倉様:
当社の社員はどちらかというと控えめな性格の人が多いと感じるのですが、一人ひとりが持っている特性やスキルは、自分が思うよりもはるかに価値があることに気付いてもらう機会にしていきたいです。例えば、自己紹介に趣味や特技を入力することで共通項を持つ社員のコミュニティが生まれたり、特技を生かして部署を超えた協業ができたりする可能性もあります。「私はこれができます!」と声高に訴えなくても、情報を開示しておけば、その価値に周囲が気付いてくれることもあると思うんです。自身の可能性を過小評価することなく、積極的に、気軽に発信する場として成長させていければと考えています。
岡野様:
導入当初から、コミュニケーションの活性化につなげたいという思いがあったので、大倉の言うような使い道も深めていきたいですね。活発な交流は組織のエネルギー源でもあり、コミュニケーションコストを抑制できるカオナビは、そのきっかけが簡単に作れるツールです。社員間でコミュニティが自然発生するような場になってくれたらいいですね。
田畑様:
すでに収集できている基本的な情報に加え、今後は人的資本の情報開示に向けたデータ整備を充実させていきたいですね。現状、自由記述になっている項目を選択肢に変更するなどして分析や統計処理がしやすいように改善し、データの開示・分析双方の切り口で積極活用できるようにしていきたいと考えています。
例えば、自律的な能力開発と成果の相互関係の見える化ができれば、社員のスキルやモチベーションの向上にもつなげられますよね。一人ひとりの社員が活躍し、成長できる組織づくりに向けて、今後も工夫を続けていきたいと思います。
- 設立
- 1958年1月(創業 1953年)
- 資本金
- 22億6900万円
- 社員数
- 909人(国内604名、海外305名。2022年3月31日時点)
- 事業内容
- 菓子製造業