長野県の中央部に位置する塩尻市は、市章にもあしらわれたブドウ栽培とワイン醸造が盛んで、木曽漆器の産地としても知られる都市。約6万7000人の市民への行政サービスを担う塩尻市役所は、インターネット普及初期の1996年に全国初の市営プロバイダーサービスを提供したり、最近では「塩尻市DX戦略」を打ち出していち早く自治体DXに着手するなど、ICT先進自治体として四半世紀以上、先駆的な取り組みをしています。2022年4月にはその一環として、カオナビを導入しました。総務部 総務人事課で職員係長を務める北野幸徳(ゆきのり)様に、導入の経緯や活用方針について聞きました。
*本記事は2022年6月14日開催のカオナビ主催セミナーの講演内容を基に構成しています。掲載内容は全てセミナー当日時点の情報となります
最初期の導入だったがゆえ、人事評価制度が形骸化
――近年は自治体や官公庁にもタレントマネジメントに着手する動きが見られるようになってきましたが、塩尻市はどのような課題を抱えられていたのですか。
北野様:
塩尻市は、自治体としてはかなり早い2008(平成20)年から人事評価制度を導入し、評価結果を勤勉手当や昇給に反映させるなど、職員の活躍に向けた取り組みを進めてきました。ただ、導入から15年近く経ち、目的があやふやになっている、配置・昇任に評価が反映されていない印象がある、職員の納得感が低い……などと、人事評価制度の形骸化が指摘されていました。
確かに、評価、昇任・昇給、人員配置、研修に関するデータの蓄積はしていたのですが、管理先がバラバラで、個々の職員を軸にした一元的な蓄積や分析は行えていませんでした。配置や昇任の基準があっても、蓄積したデータを最大限活用できておらず、評価を本人にフィードバックする明確な仕組みもなかったので、職員の納得感が得られにくかったのも残念ながら当然と言えます。
評価制度の改善に当たって目指したのは、周囲からがんばりを認められた職員が活躍できる環境。それには、過去の人事データを体系的に蓄積し、個々の職員に合った育成方針や配置、昇任、昇給などを検討する仕組みが必要です。こうした考えをベースに、2021(令和3)年度から人事評価制度の改革に着手しました。
採用DXで高い効果を実感し、人事全般のDXにも着手
――塩尻市は2021年度に「塩尻市デジタル・トランスフォーメーション(DX)戦略」を掲げていますね。
はい。塩尻市に関わる全ての人の生活の質(QOL)を向上させることを基本理念とし、主に職員に関わる「行政DX」と、主に住民に関わる「地域DX」の両軸による「自治体DX」を推進しています。
行政DXには人事業務のDXも含まれていて、まず着手したのは、人事の“入り口”となる採用業務でした。手書きの応募書類を原簿とした業務運用が非効率という問題への対策と、優秀な応募者を増やすためには応募環境の改善が必要だという観点から、2020(令和2)年に採用システムを導入しました。
採用システムを活用して応募受付のウェブ化や履歴書や受験票などの紙書類のやり取りを一切廃止した結果、効率化はもちろん、最大の目的であった応募者の数・質の向上に関しても100名程度から300名程度に増え、入職した職員にもポテンシャルの高さを感じるなど、大きな手応えを得ました。
この成功体験を踏まえ、採用の次に着手したのが、評価を含む人事業務全般のDXです。散在する人事関連データの一元化や分析を通じた戦略的人事マネジメントの実現を目指し、タレントマネジメントツールの導入を決めたんです。
効率化にとどまらない付加価値を期待できるタレントマネジメントシステム
――選択肢が複数ある中で、カオナビを選んだ決め手はなんだったのでしょうか。
いくつか理由はありました。
一般に制度というものは、最初から完璧に作ろうとしてもうまくいきません。運用しながら改善を重ねていくことを前提とすると、カスタマイズ性の高さは必須条件になってきます。将来的には360度評価も取り入れていきたいとも考えていたので、追加料金不要で担当者自身が簡単に設定変更できるカオナビは、非常に魅力的に映りました。
また、先述の採用システムと連携できることも必須条件であり、対応可能な唯一のタレントマネジメントシステムだったというのも理由のひとつです。さらに、政府情報システムのためのセキュリティ評価制度(ISMAP)に登録されているだけあって、検討段階でのセキュリティまわりの確認がスムーズでしたし、低廉な価格で利用できる官公庁・自治体向けプラン「カオナビ Government Cloud(ガバメントクラウド)」が用意されていたのも安心材料でした。
ただ、それ以上に大きかったのは、カオナビの営業担当者が「全国のモデルケースになるような、自治体のタレントマネジメントのかたちを一緒に構築していきましょう」と熱意を示してくれたことです。検討段階で関わる営業担当以外にも、導入、運用それぞれのフェーズで担当がつく上、ノウハウを吸収できるサポートサイトやセミナーなども豊富だと聞き、これは口だけではないなと感じました。何より、単なるベンダーという立ち位置ではなく、伴走してくれるような意欲が頼もしく、効率化にとどまらない新たな付加価値も生み出せるような期待がありました。
「マスター」構築から始め、戦略的人事の基盤を固める
――現在は2022年10月の本格導入に向け準備中とのことですが、どのような活用を考えていますか。
まずは評価、昇任、昇給、配属、研修履歴など、集めてきたデータをカオナビに統合しようと思っています。もちろん、一足先に導入した採用システムのデータも対象です。他システムとの連携やデータの入出力が容易なカオナビには、マスター(原本)データベースとしての役割を期待しています。住所変更等の身上申請を受け付けられる「ワークフロー」機能も活用し、集められる情報は全て、カオナビに蓄積していこうと思っています。
10月からは、新評価制度の運用を評価ワークフロー機能「スマートレビュー」で始める予定です。面談内容や評価の記録だけでなく、面談の実施間隔や進捗管理もできるそうなので、評価の納得感を上げるための1on1も新たに実施することも考えています。
本格運用後に蓄積されていくであろうさまざまなデータは、制度のさらなる改善にも役立てていくつもりです。例えば、現在、昇任には一定の経験を要する画一的な条件があるんですが、優秀な職員についてはこうしたルールの緩和を検討していて、具体的にどういった職員を対象とするのか、評価や配属履歴のデータを見ながら考えたいと思っています。また、2023(令和5)年度の開始を予定している複線型人事制度(昇任だけでなく専門職や地域限定の勤務など、多様な働き方や処遇の多元管理を可能にする制度)の詳細検討にも活用できるでしょう。
制度改善に当たって、対象となる人数の算定や配置バランスに起こりうる変化など、何をシミュレーションするにもデータがなければ話が始まりません。集めたデータを、職員を軸に蓄積・一覧できるデータベース機能「プロファイルブック」が、これから取り組む戦略的人事の基盤になるのだと思っています。
もちろん、そうした「未来の話」以前の配置や異動検討にも活用していくつもりです。マトリクス表示機能「シャッフルフェイス」や、組織図機能「シナプスツリー」で人材配置のシミュレーションが簡単にできるので、こうした機能をフル活用し、それぞれの職員が能力を最大限に発揮し、必要な経験を詰める配置を実現したいです。
2023(令和5)年度からは、地方公務員の定年が段階的に引き上げられます。経験豊富なシニア人材を適切に配置し、モチベーション高く働き続けてもらうための施策が必要になる上に、定員管理も難しくなることが予想されます。こうした課題に対しても、カオナビに蓄積するデータをうまく活用することで解決策を見出していけたらと思っています。
追い風が吹く今こそ、DXを進める絶好のチャンス
――タレントマネジメントに関心を寄せている、今まさに人事DXに着手しようとしているという他の自治体のご担当者に、アドバイスをお願いします。
行政にとってDXはハードルが高いと感じるかもしれませんが、行政内部のDXについては、脱・紙、脱・Excelをはじめ、大幅な効率化や簡素化が望める分、むしろ成果を生み出しやすく結果が見えやすい施策だと感じています。コロナ禍によるデジタル化の流れに加えて、政府が「デジタル田園都市国家構想」「自治体DX推進計画」を提唱するなど、予算や機運面で追い風が吹いている今こそ、DXを進める絶好のチャンスではないでしょうか。
とはいえ、自治体の意識決定には説明責任が求められますので、自治体の計画であるDX戦略などと紐づけて戦略的に進めていく工夫が必要でしょう。
われわれ塩尻市にも「市民や地域企業の皆さんと協働でDXを進めていくことが求められる中で、まずは市役所自身がトランスフォームしていこう」という使命感を庁全体で共有し、財政部門や企画部門を巻き込みながら進めてきた経緯があります。
DXはシステムを入れて終わり、というものではありません。タレントマネジメントのノウハウをはじめ、自分たちだけではカバーしきれない部分はカオナビのような民間の力も借りつつ、地域のDXのモデルになるべく引き続き取り組みを進めていくつもりです。他の自治体とも積極的に情報交換もしていきたいと思っていますので、お気軽にご連絡やお問い合わせいただけたらと思います。
- 設立
- 1959年4月
- 職員数
- 約1,400名(正規職員550名、会計年度任用職員850名)
- 人口
- 66,753人(2022年7月1日現在)