1804年設立と実に200年以上もの歴史を持つ大手建設会社、清水建設株式会社。建設事業(建築、土木、海外建設)を柱に、開発事業など建築技術を活かした分野で事業を展開する同社は、約11000名の従業員の評価運用効率化に向けて「カオナビ」を導入しました。導入までの経緯と活用状況について、人事部の村田泰崇様、小野寺将一様、髙木英美子様に伺いました。
*本記事の掲載内容は全て取材時(2022年10月7日)現在の情報に基づいています
特色ある評価制度にも対応できる柔軟性が決め手に
――「カオナビ」を導入いただいたきっかけは何だったのでしょうか。
村田様:
最大の目的は、評価業務の効率化でした。
以前は評価シートをExcelで作成し、出力した紙に評価を記入して提出していましたが、建設会社という特性上、従業員の職場は多岐にわたるため、対象者1万あまりとなると回収の手間だけでも相当なものでした。そこで、5年ほど前に別の人事管理システムを活用してワークフロー化を試みたのですが、利用したシステムが本来の用途とは異なる使い方だったこともあり、操作に関する社員からの問い合わせが非常に多く発生していました。
ちょうどその頃、弊社の長期ビジョンの策定に伴い、人事制度改正のプロジェクトが走り出し、評価制度についても、新しい人事制度の趣旨に沿った内容にするため、評価の方法からプロセスまで、全面的に見直しを行うことになりました。
そこで、1万人あまりの従業員がストレスなく、新しい評価業務に注力できるシステムが必要だろうということで、システム導入についても検討に着手しました。
しかし、色々調査してみたところ、システムの多くは評価項目や仕様が固定されており、新しい評価制度を実装できそうなシステムはなかなか見つかりませんでした。また、50を超える事業部門の評価を全社に集約する仕組みや、評価者の階層の多さ等、弊社特有の運用面の課題もあるため、一般的な仕様には収めにくいだろうとある程度予測はしていたものの、新制度開始までの時間的な余裕もないような状況でした。
そのような中、弊社の制度や文化をよく理解した上で、「こうすれば実現可能です」と前向きな提案をしてくれたのがカオナビさんでした。数社のシステムと比較しましたが、設計の柔軟性が高くUIが分かりやすいというシステムの特徴に加え、人事基幹システムとのAPI連携が可能な点もあって、「カオナビ」を採用しました。
明快なUIで年齢層・ITリテラシーを問わず活用が浸透
――2021年の4月から運用されているとのことですが、実際に導入してみていかがですか?
小野寺様:
ベテランの中には「PCよりも紙の方が便利」という風潮があったのですが、「使いやすい」という声が多いですね。「カオナビ」のわかりやすさ、使いやすさに助けられています。
導入初年度は、マニュアルや説明動画を使って念入りに周知してもなお、数多くの問い合わせがあったのですが、2年目からは評価のタイミングでも問い合わせがかなり減りました。最初は戸惑っても、「クリックして編集できる箇所だけ記入すればいいのか」などとすぐに思い出すようです。
評価に使うシステムは年に数回しか触らないので、操作方法を忘れてしまう社員も少なくありません。導入当初は3人体制で2カ月ほど運営していた問い合わせ窓口も、今では2人体制で、稼働期間も1カ月程度で済むようになっています。件数で見ても、導入当初の2,500件から100件程度とすっかり落ち着きました。見ればすぐ使い方が分かる直感的なUIが、問い合わせリソースの圧縮にもつながっているように思います。
利用者はもちろん、管理者にとっても画面が分かりやすいのもいいですね。システムに詳しくない社員でも、ドラッグアンドドロップなど「見たまま」の操作ができる画面が多く、ストレスが少ないのが魅力です。
本人の成長につながる新しい人事評価制度の浸透を後押し
――「使いやすさ」はやはり重要ですよね。「カオナビ」の導入は、うまく進みましたか。
村田様:
制度立ち上げと並行して準備していたこともあり、正直、苦労しました(笑)。
まず、被評価者1名に対して、評価者が上職、部署長、部門長、人事部、さらにその間に副部署長や副部門長も評価に参加するので、誰が、どの工程で、何をするといったフローの設計だけでそれなりのボリュームになります。「カオナビ」以外の人事システムの対応にも追われ、想定していなかった検討事項も出てきたため、てんやわんやになりながらも、カオナビのサポート担当が過去事例を参考にしつつ、解決策を提案してくれたため、非常に心強く、助かりました。
おかげで、予定していた2021年の4月に、評価ワークフロー機能「スマートレビュー」での評価運用をスタートさせることができました。
今回の人事評価制度改正には、本人の成長につながる、納得感の高い評価制度にしたいという狙いがありました。そこで、成果評価に加え、課題達成に向けた行動・態度・姿勢といったプロセスも評価できるよう『行動評価』も採用したことや、それまでできていなかった評価者から被評価者に対する評価結果のフィードバックも盛り込みました。
評価手法が2つになり、フィードバック面談という行程も増えましたが、狙い通り、評価運用はスムーズに回っています。初めて評価シートを入力することになった従業員だけでなく、評価する上司たちからも「思ったほど難しくなく、簡単に入力できた」「何人の部下が目標設定を終えているのか、どこまで進んでいるのか、次は誰に回付するのか、など進捗がひと目で分かる」と好評です。
小野寺様:
異動者の対応についてもかなりの負担減になっています。
Excel時代は異動のたびに新たにシートを作り、出力した紙を異動前後の部門に回付していましたが、タイムリーに情報が引き継がれず、データとして蓄積できていなかった点も課題でした。「カオナビ」では、異動前の評価サイクルが終われば評価結果が蓄積されていくため、異動前の部署から過去情報を取り寄せるといった手間もかなり軽減されました。建設業の特性として、毎月のように多くの異動があるので、積み上げるとかなりの業務削減につながっていると思います。
さらに、異動希望などを記入する自己申告書もスマートレビューを使って収集しているので、キャリアに関する情報は、「カオナビ」に集まるようになってきています。項目ではなく社員を軸として、その人の情報を体系的に把握できるようになりました。
村田様:
評価のほか、「育キャリ面談」もスマートレビューで運用しています。育児休暇取得推進のために21年10月からスタートした面談制度です。本人か配偶者に子どもが生まれることが分かった段階で上職と産休・育休取得について面談し、その内容を部署・部門長にも共有しています。
特に男性に顕著ですが、育休取得の大きな障壁に「自分が抜けたことで周囲にしわ寄せが行く、上職に迷惑をかけるのでは」といった不安があると思います。育キャリ面談には、「産休・育休は職場だけで解決すべきイシューでなく、会社として取得推進・支援をするもの」というスタンスを見せる狙いもあります。面談記録だけでなく、部署や部門長に回覧もできるスマートレビューを活用し、手間なく実現できました。
社長が男性育休促進に前向きなこともあって、男性育休の取得も増加傾向にあり、いい流れになっていると思っています。
まずはキャリア関連の情報を一元化
――キャリア周りの情報はスマートレビューで運用、記録されているんですね。データベース機能「プロファイルブック」には、どんな情報を蓄積しているんですか。
髙木様:
異動履歴や研修履歴のほか、メンター面談や若手社員の定期異動面談など、節目ごとの面談記録も残しています。「カオナビ」には本人のキャリア形成に役立つ情報を集めているので、今後はマネージャー向けに実施した「360度フィードバック」の結果レポートを蓄積するなど、情報の集約を検討しています。
小野寺様:
一部の部門では、新しい案件の配置者検討の参考にするため、過去の案件実績と本人が今後取り組みたい業務の記録を検討しています。さらに、以前は所属先の部署に点在していた過去の案件実績や受賞歴の記録を検討している部門もあります。
当社にはオフィスビルや学校校舎等を建設する建築部門、ダムや鉄道等を建設する土木部門などがあるのですが、どのプロジェクトに誰を配置するかというのは難しい判断となっています。新しいプロジェクトが立ち上がると、部署長の記憶や、系統ごとに点在している過去の案件記録を頼りに検討されることが多く、本人の希望や実績が十分に加味されないケースがあります。
今後、各人が持つ経験・実績・スキル・受賞歴などを参照して多面的に配属検討ができる環境を整え、人事も加わって検討することで、本人の希望や、育成の観点も交えた戦略的な人員配置ができるのではないかと期待しています。まだ着手したばかりですが、うまく機能していけば、営業部門などにも広げていきたいですね。
髙木様:
そのほか、本人の家族情報や休職実績といった秘匿性の高い人事情報も蓄積しているので、現在のプロファイルブックは、原則的に人事担当者と本人以外は閲覧できないようになっています。「カオナビ」では、シートごとに閲覧権限を設定できるため、ゆくゆくは必要な項目については上職にも情報公開し、部下のスキル・経験を把握できるようにし、育成の充実化に向けた材料に役立てたいと思っています。
給与明細公開や連絡先抽出など、日常業務も効率化
――評価やキャリア以外の業務にも活用されているんですか。
村田様:
そうですね。「カオナビ」活用促進の意味もあり人事申告書の入力や、毎月の給与明細なども「カオナビ」にアップし、お知らせ機能を活用して周知しています。
特に給与明細はメールに添付して送付していたので、業務量が格段に減りました。月次で発生する絶対に誤送信が許されない種類の書類なので、誤送信リスクが0になったのもうれしいですね。
小野寺様:
各種シートの編集や変更・管理がラクになったことも非常に助かっています。入力内容の一括変更が出た場合でも、現状のデータをCSVでダウンロードし、該当箇所を修正してアップロードし直せばいいだけですからね。
頻度は少ないものの、災害発生時の安否確認の際にも役立っています。
災害が起こったとき、人事は被災地周辺に本人もしくは家族が居住する従業員に架電し、安否確認をしています。以前は別の基幹システムからデータをダウンロードし、部署ごとに情報を加工する必要があり、手間でした。今は個人単位でなく項目単位で情報を一覧できる「シートガレージ」から部門ごとの電話番号一覧が簡単に抽出できます。天災は昼夜を問わず発生するので、どんなときもすぐに架電リストを作れるのはとても心強いです。
組織図、グラフ、マトリクス……組織の現状をビジュアルに把握
――その他にも、「カオナビ」を活用されているシーンはありますか。
髙木様:
配置検討には、マトリクス表示機能「シャッフルフェイス」も活用できるのではと考えています。「この部門はスキル保有者が不足している」とか、「ここは年齢に偏りがある」といった現状が可視化できるので、育成計画等の人材育成にも使えるかもしれません。
小野寺様:
登録してある顔写真を呼び出して図形描画ができる「クリエイティブマップ」も面白そうですね。新案件のチームの仮編成は今まで手書きで進めていましたが、クリエイティブマップなら数人で共有しながら検討するにも便利だと思いますし、研修の座次表づくりなどもできそうです。
キャリアに限らず、多様な使い方で成長を促したい
――今後、「カオナビ」でどんなことを進めていきたいとお考えですか?
髙木様:
今後は、もっとコミュニケーションツールとしての「カオナビ」活用を促していきたいと思っています。現状は会社と従業員の間をつなぐシステムとして活用していますが、「評価の時期しか『カオナビ』を触らない」ではもったいない。将来的には、特定の項目については従業員相互に情報を閲覧できるようにし、「あの人はこのようなスキルを持っているのか」「一度話を聞いてみたい」などといった、従業員間のコミュニケーションを活性化させるツールとして活用できれば、自律的なキャリア形成にも役立つのではと思っています。趣味・特技など、従業員自身で入力できる項目を設けて、親しみやすいツールとして感じてもらうこともひとつですね。
小野寺様:
本社と支店、双方で人事として業務に当たった経験を踏まえつつ、配置検討等の戦略的な人事をもっと進めていきたいですね。社歴が長いメンバーの経験則や、「いま、空いているならこの人にしておこうか」というような場当たり的な判断ではなく、社員情報が見える化され、共通認識に基づいた配置に変われば、社員の働きがい向上や、育成の充実にもつながります。
私たちは建設会社なので、現場がうまくいかないと会社もうまくいかなくなります。現場の従業員が働きがいを持てる、前向きな配置を推進できればと思っています。
村田様:
導入から1年半、振り返ってみると、自身の評価がしっかりフィードバックされることで、キャリアにじっくり向き合う社員が徐々に増えているように見受けられます。改正した評価制度を運用するツールとして、「カオナビ」はいい選択だったのではないでしょうか。
今は評価運用メインのツールですが、もっと多様な用途で、より多くの社員に使ってほしいと思います。そう考えているのは私だけでなく、あちこちから「こんなことに『カオナビ』を使いたい」といった意見も出てきています。「カオナビ」を“育てる”ことで、個人と会社両方が発展できる環境をつくっていきたいですね。
- 設立:
- 1804年
- 資本:
- 743,65億円
- 社員数:
- 10,688人(連結従業員数 19,661人)(2022年3月31日時点)
- 事業内容:
- 総合建設業